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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカン王8

 ハチドリは一番先頭で馬に乗り、皆を鼓舞しながら自身も剣を振り戦っていた。 

 今まで内向的に映っていたハチドリの勇猛な姿に、相手の兵士たちは驚いている様だ。どうも士気と言うものが感じられない。ハチドリの軍に圧倒されている。ただ傭兵どもだけが奇声を上げながら、剣を当たり構わずに振り回していた。

「ハチドリ王があんなに勇ましく戦っている。」

 戦闘の様子を伺っていたラオも、思わず感嘆の声を上げる。

「王に即位してからのハチドリ王は、本当に逞しくなられましたね。」

 横でアカホシも感心している。


 ラオたちが突撃の機会を伺いながら見守っていると、アカエイの伝令としてイナホが現れた。

「相手側の士気が弱くこのまま追い打ちをかけたいと、アカエイ様の伝言です。予定より早く突撃して欲しいのですが、準備は大丈夫ですか?」

 イナホはよほど緊張しているのか、直立不動でカチコチになっている。ラオはイナホの兜を軽く小突いた。

「伝令に来ただけでそんなに緊張するな。」

 イナホは怒られたと思ったのか、ビクッと震える。

「そんなに堅くなってると、相手に襲われても太刀打ちできないぞ。それじゃあアカエイ殿も実戦で使えない。」 

 ヒツジグモがそう言って笑う。その笑顔に少し安心したのか、「アカエイ様にも同じことを言われました。」と力の抜けた様な声でイナホも笑った。

「ちょっとは緊張がほぐれた様だな。だが、これは競技大会でも遊びでも無い。命をかけた合戦なのだ。己の身ぐらいは自分で守れよ。」

「はい!ありがとうございます。」

 ラオの激励に、イナホは元気よく敬礼をして本陣へ戻って行った。


 ラオは、ニシカゼがイナホを心配していたのを思い出した。イナホに対して少しぶっきらぼうにも見えるニシカゼだが、オオナマズを迎えに行った時からイナホの事は気になる様であった。

「お調子者で単純なんですが、ジームスカンの為に戦いたいと言う情熱は本物ですな。だからアーベまでの道中も、結構無茶な行程を組んで鍛えてやろうと思ったのです。ブツブツ文句は言ってましたが、ちゃんと最後までついて来ましたよ。結構根性もある奴なんですな。」

 ニシカゼがそう言って、イナホの事を褒めていた。

「辛かったってボヤいているのを見たぞ。」

 ラオがニヤリと笑うと、「それぐらい厳しくしないと、戦いに生き残れませんよ。」とニシカゼも笑った。

「本当に頑張っているのですが、どうにも楽観的すぎて調子に乗る事がある。その見通しの甘さが戦場では命取りになる事もあるのではないかと、少し心配になります。」

 珍しくため息をつくニシカゼに、イナホに対しての愛情が感じられた。

「ああ、あいつはお調子者だが良い奴だよな。死なせたくはない。」

 ニシカゼの思いがイナホに伝わっていると良いなと、ラオも優しい気持ちになる。


 イナホが去り再度戦場を観察してみると、なるほど相手の軍は早くも戦意を喪失している様に見えた。

「アカエイ殿の言う通り、ここで突撃して一気に合戦を終わらせよう。」

 ラオがそう言うとヒツジグモは黙って頷き、後ろに控えていた兵士にラッパを吹かせ、戦場の向こうにいるニシカゼたちに突撃の合図を送るように指示を出す。


 プオーンと甲高いラッパの音が戦場中に鳴り響く。それを合図に左右から兵士たちが飛び出した。ハチドリ軍に押され続けていたアンムの軍が一気に崩れる。それまではなんとか戦えていた傭兵たちも恐慌を来たし、我先に逃げようとする。

「傭兵たちを逃すな!全員捕えよ!投稿してくるジームスカン兵は、ちゃんと保護して後ろのアカエイのところへ案内いたせ!」

 ハチドリからの命令が響く。

「ウオォー。」

 兵士たちが雄叫びで返事する。その様子に満足したのか、ハチドリの顔に笑みが浮かんだ。

「敵軍はもうボロボロじゃないか。よし!俺たちも油断せずに行くぞ!」

「おお!」

 アーギタスの兵士たちも、ハチドリ軍に負けないような大きな声を上げた。


 ラオたちの突撃の後、30分も持たずにアンム兵たちは降伏した。

 両脇から兵士たちに羽交締めにされたノネズミが、ラオたちの前に引き摺り出された。恐怖の為か、歯をガチガチを鳴らし震え鼻水まで流している。

 ノネズミは、ハチドリの顔を見るなり泣き叫ぶように言い訳を始める。

「僕はただ親父に言われて大将をしただけなんだ。傭兵たちに絶対に大丈夫だって、責任も取らなくて良いって言われたのに。」

 それを聞いたラオは本当に腹が立った。

「無責任に軍を指揮してたってのか?みんな命懸けで戦っているんだぞ!」

「それは兵士なら当然の事だろう?僕は兵士なんかじゃ無い!」

「なんだと!」

 頭に血が上るラオを左手で制し、ハチドリがキッとノネズミを睨みつけた。

「確かに兵士は戦が本分かも知れぬ。しかしな、お前の様ないい加減な奴に指揮されて死んで行くのは、ほとんど犬死にじゃ無いか。さぞかし悔しい思いで死んでいったのだろうな。」

 相手を静かに威嚇するようにハチドリは言う。


「ハチドリ王!こんな奴の相手をする必要は無い。さっさと町に踏み込むぞ!」

 ラオは嫌悪感を隠すこと無くノネズミを睨みつけながら、ハチドリを急かした。

「そうですね。町長が逃げるとも限らない。」

「それはご安心ください。もうある程度の兵士たちを町に向かわせています。この町の入り口はあそこにある一つだけ。逃げる事は叶わぬでしょう。」

 アカエイが、すでに兵士を派遣している事を報告した。

「流石にアカエイ殿、仕事が早い。ハチドリ王、ガルカットの例もある。町長を襲い出して収拾がつかなくなる前に、町民たちを安撫することにしよう。」

 ラオがそう提案する。

「町民たちの不安を取り除くことが先決ですね。分かりました。すぐに町の門を潜りましょう。」

 ハチドリはそう言って、大きく頷いた。


 門を潜ると既に町長の屋敷はハチドリ軍に抑えられているらしく、町の中は意外なほど落ち着いていた。

 町民たちが、ハチドリの姿を見るやあちらこちらから集まってくる。民衆の間から自然に「万歳」の声が上がり始めた。ハチドリはその声に答えるように、ニッコリと微笑み手を振りながら町の中央にある広場へ向かう。

 広場に着くと、ハチドリは民衆を安撫する為短い演説をする事にした。

「朕は、ジームスカン王ハチドリである。

 我が王家のいざこざにを巻き込んだ事、本当に申し訳無かった。しかも、王家の不和をクロヤノ族に付け込まれ、傭兵たちの傍若無人な行いを防ぐことが出来なかった。王として、心から謝罪する。」

 いきなり頭を下げたハチドリに、集まった町民たちはひどく驚いた様だった。ハチドリの話は続く。

「朕はジームスカンの王として、兄であるバンブーを倒し、この国を再び豊かで平和な国に立て直す事を誓う。皆も私について来てくれ!」

 ハチドリの演説の後、割れんばかりの拍手喝采が起こる。皆の祝福の声に感動したのか、ハチドリは目に涙を溜めながら、何度も何度も頷きながら手を振った。


 広場での演説が無事に終わり、一行はいよいよ町長との対面を果たす。

「この町の町長、ヒキガエルです。」

 アカエイが、兵士に抑え込まれて項垂れている中年の男を指差した。男はでっぷりとして、普段から運動などはしていなさそうな不健康な体格をしている。ヒキガエルと言う名前通りに、まん丸に膨れた赤らんだ顔に大きな目と口が印象に残った。

 ヒキガエルはハチドリの姿を認めると、あからさまな猫撫で声で「私は騙されたのです。」と訴えた。

「騙されたも何も、お前が傭兵たちと手を組んで私服を肥やしていたのは明白ではないか!」

 ハチドリは厳しい声でヒキガエルを断罪する。

「傭兵たちに逆らえば、私たちの命が危なかったんですよ。市民から巻き上げたお金は返します。どうか、ご慈悲を!」

 ヒキガエルは、顔の前で手を擦り合わせ懇願する。ラオにはその姿がとても醜悪に見える。

「お前の命令で、濡れ衣の罪を被せられ財産を没収された上に、そのまま死罪となったものが大勢いるとい調べはついているんだぞ!」

 ラオが怒鳴りつけると、ヒキガエルはきっと睨み返し「テムチカンの”元王太子”が、ジームスカンのことに口出しなされるとは。他国の貴方には関係ない事でしょう。それとも貴方もあの傭兵と同じで、我々をいい様に利用しようとしているのですかな?」と吠える様に叫んだ。

「朕の義兄弟に対して無礼な口を聞くな!殿下は、私に力を貸してくれている。自国を裏切る様な奴に、そんな事を言われる筋合いは無い!お前の様な卑怯者がジームスカンの民だと言うことが、とても恥ずかいしぞ。お前の下らぬ言い訳なんぞ聞きたくは無い!」

 ハチドリはよほど頭に来たのか、顔を真っ赤にしてヒキガエルを罵った。初めて見るハチドリのそんな姿にラオは驚いた。驚きのあまり、自分は返って冷静いなったぐらいである。


「ハチドリ王!こやつはセイムに連れて帰り、親子共々オオナマズ殿に尋問して貰うのがよろしのでは?あの人なら、しっかり尋問してくれるのではないでしょうか。」

 これ以上若い二人がヒキガエルを尋問しても埒が開かないと、ヒツジグモが提案して来た。

 ラオはヒツジグモの言う通りだと思った。

「ハチドリ王。経験が浅い俺らがこのまま尋問を続けても、確かな情報は得られ無いと思う。俺は此奴を見ていると、殴りたくなる衝動に駆られてしまう。暴力に頼る様な事は流石にしたく無い。」

 ラオがそう言うと、ハチドリも納得したようだ。

「そうですね。僕たちがこれ以上やっても、憎しみの感情しか引き出せそうにない。僕はもうこいつの顔も見たくない。さっさとセイムに連行してしまいましょう。」

 ハチドリはヒキガエルを睨みつけながら、セイムへの連行を許可した。







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