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そっちじゃねぇぇ!!(怒り)

 真っ暗だった空からゆっくりと日が昇り光が世界に溢れて行く、魔物達の時間である夜から人間の時間である朝に代わるころ、トリーアの西口で一人仲間を待っていた。


 目的は西にあるスタールイの町で距離にして二日程度、馬車での移動など含め、どうするかという話し合いの結果俺達は馬車ではなく歩いての移動を選んだ、その理由としてはお金がかかる事、今の自分達には馬車の代金を支払うだけでもそれなりにキツイ出費になる、そしてもう一つの理由は経験を積む為、幸いな事にトリーア周辺の場所であれば魔物であれ、こちらから手を出さない限り特定の魔物以外は襲ってはこない、その状況を利用し、仲間だけでの野宿を行う。


 女性陣からは多少不満の声も出たのだが自分達のこれから先の事も考えるとそういった経験は必ず必要になってくる、冒険者である以上これから先で野宿などする事も必ずあるはずだ、その時に周りが襲って来る魔物が多く徘徊するような場所であったり、危険な場所だったとしたら何も経験のない者がそんな場所で野宿をするなど自殺行為なわけで、そうならない様にと話し合った結果である。


 「早く来すぎたかな~」


 旅の待ち合わせである入り口についてどれぐらい時間がたっただろう? 日の昇って来る位置からすればそれ程時間はたっていない様に見えるが、自分の中での感覚ではひどく長く感じてしまう。


 「ふぅ~」


 ひとまず深呼吸をしてうっすらと明るくなった空を見上げて、その理由を何となく感じ取った。


 「楽しみ……にしてるんだな」


 初めて過ごす仲間だけでの遠征、日数的には大した事ではないが仲間だけで遠出をする事、その事自体にソワソワと落ち着きがなくなっていた。


 ギルドでクエストを受けて魔物を倒して報告をする、それだけでも自分は冒険者としてやっているんだという感じはするが、やはり仲間との遠征、それの方が今自分は冒険者なんだと感じさせてくれる。


 「あ~いや、駄目だ駄目だ、しっかりしろ俺、こんな事じゃ……」


 こんな事じゃぁ必ず失敗をする、後方のメンバーが少し程度失敗したところで問題はないが、壁役であるタンクが失敗すれば全滅する可能性も出てきてしまう、皆を守ると決めた以上自分のやる事は冷静に、焦らずに周りを見ることだ。


 自分自身の浮足立つ気持ちを戒める様に両手で頬をパチパチと叩き、気合を入れなおす。


 「わぁ! びっくりした、どうしたのコウ? 何かあったの? 大丈夫?」


 「え!? あ、大丈夫! 何でもないよ、おはようハミィ」


 「おはようコウ、マジェとカッチェは……まだみたいだね!」


 「うん、でもまぁもうすぐ来ると思うけどどな、準備の方は大丈夫?」


 昨日サイモンさんから教えてもらった情報で今日の予定を話しあって決めたがその際に各自必要だと思う必需品を準備しておく話をして解散をした、タンクである自分には回復材ぐらいで済む話だがヒーラなら他にも必要な物があるのかもしれない、女の子ならなおさらだろう。


 「いや、今は男か」


 「コウ、どこ見て言ってるの……?」


 思わず口に出してしまっていた言葉に(しまった!)と少しうつむき加減でいた視線を上げると、胸の前で両腕を交差させて隠す仕草をしているハミィが睨みをきかせていた。


 「いや、違う! 違うからぁ! そんな所見てないから! それに――」


 (そもそもそこ無いじゃん!)と言いかけた口を慌てて抑え込む。


 「それに……なに?」


 「な、何でもない、それよりほら、来たみたいだよ」


 これ以上はマズイと慌てて何か他の話題をと思った所で向かって来る二人が見え、そちらに話題を振る事でなんとかその場をごまかしてしまう。


 「あ、本当だ、おはよう二人共~」


 「あ~コウとハミィもう来てる、おはよ~」


 「おっす~やっぱ早いな二人共」


 まだ何処か眠そうな雰囲気を表情に出しながらも挨拶を交わす面々、その空気は朝の晴れた空の様に晴れ晴れとした心地いい感覚を与えてくれる。


 「おはよう、皆集まったな~っとその前にハミィ、頼んでた物も大丈夫?」


 「うん、大丈夫! ちゃんと持ってきたよ」


 「ありがとう、助かる」


 「うっし、そんじゃ行こうぜ!」


 いざ出発と言わんばかりに誰よりも先頭を歩き出すマジェに続いて、カッチェがそのすぐ後を追いかけ、俺達二人もその後に続く。


 「そう言えばこっち方面は誰か詳しい人っている?」


 出発してから聞くのも遅い気はするが、よくよく考えてみれば自分の出身は南側で村からも出たことはあまりなかった、その為他の方面の情報というのはほとんど知る事はなく、北側は山が多く、東側は荒れ果てている、そして西側は森が多いなどその程度の情報しか持ち合わせていなかったのだ、この先の事も考えるとやっぱり少し聞いておきたいと思う。


 「ん~俺達は北側から来たからな~向こう方面の事ならそれなりに解るんだけどこっち側はあんまりだな」


 「そだね~、二人でクレイの町を出て一緒にこっちに来たけど他の方向には行かなかったからね~」


 「私はこっち方面の出身だからわかるよ? このまま道なりに歩いて行けばスタールイに着くから大丈夫」


 「そっか、そういえばハミィの出身地は何処なの?」


 「ん? 私の出身地はスタールイのまだ先にあるオズリックだよ、なーんにもない村だったな~」


 何処か遠くを見る様に顔を上げて話す彼女は、その表情に懐かしさと思われる感情を表して進み歩く、そんな彼女の過去の話しを少し聞いてみたいと思うがその話しをすると自然と亡くなった仲間の話も出て来るわけで、彼女の中でどれほどの心の傷になっているのかも解らない事に触れるのはやはり躊躇してしまう。


 行き交う人が通る事で自然と出来ている道を二人組で前後に分かれ、俺の隣にいるハミィと並んで歩く、その先にはマジェとカチェが楽しそうに会話をしていてやっぱりなんかこういうのいいな~と思った時、隣にいたハミィはゆっくりと歩くのを遅めて何処かを見入る様に立ち止まった。


 「どうした? ハミィ」


 立ち止まった彼女に何かあったのかと俺の言葉を聞き先を歩いていた二人も振り返って立ち止まるが、彼女は何処かを一点に見つめて黙っている。


 どうしたんだろうと彼女の見つめる方向に目を向けると、少し離れた場所に古めかしい建物が視界に入る、その見た目や雰囲気からかなり昔に建てられたものだというのは解るんだが、ただの建物では無いような気がする。


 「ハミィ、あそこがどうかしたの?」


 「……ふぅ、ごめん! 何でもないから大丈夫! 先に行こう!」


 そう言い歩き出した彼女の姿をみて前を歩く二人も再び歩き出す、しかし先ほどの彼女の様子からして何かはあるんだろう、トリーアの西でわりかし近い、そして彼女が思わず立ち止まってしまう場所、そこまで考えた時にラミアスさんが以前話してくれた内容を思い出し、あそこかと思い至った。


 「いいのか?」


 自分の考えが正しければあの場所は彼女にとって避けられない場所になって来るだろう、その時に自分に何が出来るかは分からないがどんな事があっても一緒に居よう。


 「うん……それに今はまだ入れない……」


 そう言った彼女の右手は僅かに震えていてその震えを隠す様に左手で強く握りこむ。


 「わかった、それじゃぁ俺達も行こうか」


 あえて触れない様に会話を終わらせてゆっくりとではあるが前を進む二人を追う様に再び移動を開始するが、なにやら腰辺りの服が引っ張られている様な気がしてそっと振り向くと、すぐ後ろを歩いているハミィが指先で摘まみながら俺の後を歩いて来ている、しばらくはこのままでいいかと気づかない振りをしながら道を進んで行った。


 

 そしてその後も何も問題なく進む事になるのだが日が落ちて来たからという事で安全そうな場所を探して全員で野営の準備をし、明日に備えて寝る事になるが当然ではあるが見張りは必要なわけで、野営事態初めての事である為二人一組で見張りをすることになった、その振り分けは女子で話たいというカッチェの言葉もあり男と女で別れる事となった。


 先にどちらが見張りをするのかという話し合いではこれも女性陣の意見で俺とマジェの二人が先に見張りとして起きていた、パチパチという音を鳴らしながら揺れる様に燃える焚火の傍で眠る彼女達を見守る様にして男だけの時間が過ぎて行く。


 「そういえばよ、来る途中で立ち止まった場所ってやっぱりそうなのか?」


 彼女達が寝静まった後で始まった会話はまずあの時に立ち止まった事についてのようだ、俺ある程度しってはいるがマジェはそこまでの話は聞いていないようだな。


 「それとなく確認したけど間違いないみたいだ」


 「やっぱそうか、様子が変だったからそうなんじゃないかと思ったんだよな、それで? 肩でも抱いてやったのか?」


 「ブッフゥ!!」


 前振りもなくいきなり突っ込んだ話をしてくるマジェの言葉に思わずその絵ずらを想像し、噴き出してしまう。


 「出来るわけないだろ! なんて事言い出すんだ!」


 「おお? そうか? まぁ外見が今はあれだから仕方ないよな」


 「はぁ~、それよりそっちは大丈夫か? ちゃんと見張っててくれよ?」


 「あったりまえだろ、言われなくても……ってなんだありゃ?」


 疑問をこっちに投げかけて来る様にいうマジェの言葉でなにかあったのか? とマジェの見る方向に目を向けると、俺達が野営をしている場所から少しだけ離れた場所で淡く紫色に光る物体がユラユラと揺れている。


 「ほんとだ、なんだあれ?」

 

 「いや! ちょっと待て! あの光は確か……そうか! コウ二人を起こしてくれ! あの光、多分キュウだ! 前に追っかけられた時にみたけど間違いないと思うぜ」

 

 「いやでもキュウって……この数はかなりいるぞ!」


 マジェの言葉で見つけたキュウと思える紫色の光は徐々増えて行き、今では20匹ほどにまでなっている、光っている正体がキュウだと解ったからいいものの、何もわからなければかなりの恐怖体験になっていたところだ。


 「ハミィ、カッチェ! 起きてくれ! 敵だ!」


 焚火の近くて静かに眠りに着く二人に駆け寄りその肩を揺すりながら起こす、その間にも揺れながら光続ける紫色の光は徐々に数を増やしていく。


 「え、何!? 何があったの!?」


 「ん~? もう交代~?」


 「いや敵だ、キュウがこっちに来てるんだけど数がかなりいるしまだ増えてる、すぐに戦う準備だ!」


 今だ増え続けるキュウの不気味な光、その対応に向けてすぐさまマジェの隣に戻るとすでに弓矢を撃ち込んでその数を減らしている、しかし倒れたと思われる個体は息絶えた後も発光を続けて遠くからだと動いているのかどうかが分かりにくく、その結果距離がある事で紫色の光としか分からなかったキュウの姿が徐々に近づいて来る事で視界に捉えられるまでになる。


 「うっわぁ……あれ本当にキュウか!? 夜にあんな姿見せられたら悪夢見るぞ!」


 マジェとカッチェにギルドで初めて話しかけられた時にキュウの夜の姿を聞いていたが、今視界に見える様になったその姿は体から腕の様に生えているものが左右に数本あり、胴体の腹部辺りには横長に開かれた口、そしてその口からは何本ものウネウネとし、太さもある触手を出していてあの時に聞いたままの姿だ。


 かなり怖い見た目である為出来る事なら近づきたくはないが、遠距離攻撃がない自分には仕方がないと腹を括り、腰に下げていた鞘から文字の刻まれている剣を抜いて近づいて来る個体を斬り倒す。


 「うりゃぁ!」


 振り下ろした剣の一撃はキュウの頭部から地面へと線を描き、その体を真っ二つにするが、口から出ている触手はまるで絡みつく様に体に纏わりつく、遠くからでは分からなかったがその触手はツルツルとした滑りがいいだけの物の様で、纏わりつく以外には攻撃性は無いようだ。


 「マジェ! 大丈夫か?」


 「おう! でもよ、この触手かなり纏わりつくみたいだな、女がこんなものに纏わりつかれたら……すげーもの見れそうだな……」


 襲われている今の状況でこんな事を考えるのは不謹慎ではあるが、最後の一言辺りでぼそぼそと聞こえにくく言ったマジェの言葉はわりかし近くにいる俺には聞こえてしまい、少し想像を掻き立てる、こんなものがカッチェに絡みついては大変だ! しかしもしかしてという思いから女性陣がいる後方をチラチラと見てしまう男二人の視線を感じ取り、何だ? とその顔を曇らせる二人がいた。


 「なに~? どうしたの??」


 「いや、何でもない!」


 駄目だ、何を考えているんだ俺は! と頭を振って雑念を消しにかかるがその行動がまずかった、わりかし近くにいたキュウがその触手を勢いよく女性陣に向けて飛ばしてしまったのだ。


 「あ、しま――」


 た、と言う頃にはすでに遅く、飛ばされた触手はツルツルとした表面とうねりを併せ持ちながら一直線に女性陣へと向かって行き。


 「きゃぁぁ!!」


 何故かカッチェを避けてハミィにその触手を絡ませた。


 

 「「そっちじゃねぇぇ!!!」」


 思わずそう突っ込みをいれてしまった男二人ではあるが誰が攻める事が出来るだろう、何せまさか女であるカッチェを避けてまで男の姿であるハミィの方に行くなど誰も思っていなかったのだから。


 「ん……あぁ、いや……」


 「「「うわぁぁ……」」」


 触手に絡まれる事により頬を赤く染めながら身悶えるハミィは振り払う様に抵抗をしてはいるが、そのうねりやツルツルとした表面から上手く抜け出す事が出来ないどころか、更に激しく触手を纏わりつかせ、ハミィの事情を知っている俺達ですらかなりひどい絵ずらに見えた事により鳥肌を立たせながら動きを止めてしまう、彼女には申し訳ないのだが傍から見れば女装をした男が紐で体を縛りながら身悶えている様にしか見えないのだ。


 「いや!……駄目、入って来ちゃ駄目! あ……来た! 入って来た!! 服の中に入って来たぁぁ! 助けてぇぇ!!」


 「「「は!?」」」


 目の前に広がるあまりにも酷い絵ずらで思考が停止していた俺達は、助けを求める泣き声により目を覚まし、すぐさま触手を伸ばすキュウの元に駆け寄り口から吐き出している触手を根本から断ち切りそのまま本体を一刀両断で切り捨てる。


 「うぅぅ……グスン……嫌ぁ……」


 根本から絶たれたことにより体に巻きついていた触手が力を失ったかのように垂れ下がるのを近づいたカッチェが取り除いて行き、安堵からかその場で泣き続けるハミィ、その姿を見るとわざとではないにしろ罪悪感が胸を苦しめる。


 「く……マジェさっさとかたずけるぞ!」


 「そ、そうだな、あれ以上は見たくねぇ……」


 その後見た目の割には強くはないキュウをマジェと二人で狩り尽くし、周囲の安全を確認するが現れた時のような淡い紫色の光な無くなり、焚火の光が届かない先は暗闇がこの時間を支配している様だった。


 「大丈夫かハミィ?」


 「災難だったな、まぁ犬に噛まれたと思って忘れるしかねぇよ」


 「う…………うぅぅ……」


 触手に絡まれた恐怖からか今だ泣き続けるハミィを体に付着している粘液と思われる液体を拭き取りながら寄り添う様に体をさすって慰めるカッチェ、周りのすべてをかたずけて彼女達の元へと近づき声を掛けるが自分のしでかした失態でこの状況を作ってしまったのだという罪悪感がこの胸を締め付けた。


 「ねぇ……コウ」


 「な、なんだ? どうしたハミィ?」


 鳴き声を抑えながらか細く俺の名前を呼ぶ彼女に出来るだけ優しく慰めるつもりで聞き返すが。


 「……そっちじゃねぇって……どういう事……?」


 「「うえぇ!?」」


 その思わぬ質問が来た事で慰めるつもりでいた男二人は冷や汗を流しながらその後に待ち受けるお説教を想像し、体を震えさせていた。

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