神の誕生
「そういえばサイモンさんが何故ここに? 皆と一緒に迎えに来てくれたんですか?」
正座から片膝を地面に付けた所で静止の声がかかり、その声の主であるお方は正面に立っていたハミィと入れ替わる様にゆっくりと装備している鎧の音をカチャカチャと鳴らしながら腕を組んで仁王立ちする。
ギルドでの出来事から数日の間投獄されていた為、皆と会うのも久しぶりの気分になるのだがそれと同じように師匠であるサイモンさんに対してもなんだか凄く長い間会っていなかった様な気になり、会えた事に対する喜びはあるがそれ以上に何故此処に? という思いが湧いてくる。
仲間である三人が迎えに来てくれるのは解るが何故かサイモンさんなら投獄されていましたと話した所で「そうか」とそれだけで終わりそうな感じがするし、それどころか仲間の為によくやったとさえ言ってくれそうな気がする、しかしだからと言って皆と一緒に出迎えに来てくれたのかと考えると、今まで接して来た感覚からそれはしない人だと思えたからだ。
「いや、私は三人とは別だ、貴様が釈放される日が今日だという情報を聞いてな、話があって来たのだ」
「そうだったんですか、でも何故まだ正座をしろと? 話だけならもう立ちたいのですが……恥ずかしいし……」
「なんだかコウの基準がわからないよ、あれだけの事が出来るのに今見られるのは恥ずかしいんだ?」
いや、あの時も恥ずかしい気持ちはあったけど怒ってたし、腹を決めてやった行動だから割り切れるというだけで、今はそうじゃない、誰だって人から怒られている場面は見られたくないし知られたくはないと思うんだけどと考えながらも先ほどのやり取りもあって今はハミィに口答えは出来そうにない。
「正座の理由か、それはな、私が貴様に怒っているからだ!」
サイモンから出た思わぬ言葉に何故だ、俺は何をやらかしたと頭をフル回転させるが全く身に覚えがない、むしろ色々とひどい目にあって来たのは俺の方なんだけどと首を傾げる。
「そうか、解らんか、いいか! 貴様のせいで……き、貴様の……せいでぇぇ……」
組んでいた腕を解きそのまま今度は頭を抱え、全身をカチャカチャと鎧の音と共に震えさせる、その表情は見えないものの、苦悩を抱え込んでいる人が感情を爆発させようとしている様に見えた。
「貴様のせいで! 私には変な称号が付く事になったのだぞ!!」
「変な称号?」
「っていうかサイモンさんは……」
「元から変な呼び方されてたよ~?」
「やかましいわぁ!」
声を張り上げ自身の怒りの原因を口にしたサイモンに対し、脇で見ていた三人からは容赦のない突っ込みが入って来るがその突っ込みを一蹴し、今だ片膝を付けている俺に指を指す。
「貴様がしでかした事は聞いているし、仲間を守る為にやった事であるなら貴様に技を教えている身として誇りにも思おう、だが、だが今回は……」
突き出した手を震えさせながら最後には言葉を詰まらせる、その姿からどんな呼び名が付いたんだと考えるがカッチェの言う通り、サイモンさんに関しては元から変人呼ばわりされていたし、それ以上の呼び名などそうそうないと思うのだが。
「そういえばコウも変な称号が付いちゃったね~、確か穴肉王とか処刑人だっけ~?」
「ちなみに俺も合わせて穴肉組みだ」
「まぁそれはしかたないよね~あれをやっちゃったんだし~、でもサイモンさんの呼び方は聞いた事ない~」
「噂されてるのは主にコウと俺達だからな~、それでどんな称号が付いたんです?」
「……神だ」
「は?」
思わずつぶやいてしまった意味が解らないと言う俺の言葉だがそれも仕方がない、変人から神に昇格したなら今までより全然いいのでは?
「私についた称号は……」
「ケツ神様だ」
「「「ブフゥゥ!!」」」
変人より神と呼ばれる事になるのはそれ程悪い事ではないのでは? と思っていた俺の考えではあるが、その神の前後に別の単語が付いているとは思いもしなかった、完全に予想の斜め上だ。
「貴様ら笑うな!」
脇で話を聞いていた三人もその称号に関しては全くの予想外だった様で、思わず噴き出した後マジェはうつむきながら口に手を当てて声を押し殺し、ハミィとカッチェはお互いの肩に自分の顔を押し込めて密着しながらプルプルと体を震わせて耐えているがそれも完全ではなく、押し殺した笑い声が聞こえて来る。
「な、なんでそんな事に……」
「シーラから聞いた話だが、貴様に王という称号が付いた事により、王の上だと神しかないだろうと、技を教えている私にもこんな称号が付いたのだ」
流石にそれは酷すぎるとその理由を聞いてはみたが、その解答も予想の斜め上だった。
「そ、それは……本当にすいません……」
こんな事を聞かされては流石に謝る以外の選択肢が出てこないじゃないか。
「私の怒りが解ったか、今度からは貴様の行動は周りにも被害を出すという事を忘れるな」
「はい」
今回ばかりはもはや反論や口答えなど出来る物ではない、いったい考えて言い出した奴は誰なんだ。
「もっと言いたい所ではあるがハミィからも言われている事だ、この辺にしておいてやる、しかし今回の件はハミィが馬鹿にされた事が原因なのだろう? ならはさっさと呪いを解きに行って来い!」
ある程度吐き出した事で怒りが静まったサイモンさんが言った、原因である呪いを解き行けという言葉を聞き、笑いながらカッチェと密着していた体を離して困った顔をするハミィ、それもそのはずで、それを知っていたらすでに行動に移しているだろう。
「サイモンさん、行けと言われてもその方法が……」
「解らんか、まぁ無理もない、この町ではそういった情報など手に入らんからな、そう思ってこちらで情報を集めておいてやったぞ」
「いつの間にそんな事……」
「まぁ聞け、ハミィの呪いを解くのは簡単ではない、なんせ王から受けた呪いだからな、しかし可能性はある、詳しくは俺もわからんがトリーアから西に向かうとスタールイと言う名の村がある、距離にして二日ほどかかるぐらいだろう、そこに私の仲間であるダグラスがいるから探して話を聞くといい」
サイモンさんからもたらされたその思いもよらない情報を聞き、先ほどまでの空気は何だったのかと言いたくなるほどの静けさが俺達を包み込み、呆然と立ち尽くすハミィ。
そんな俺達の次の目的はどうやらそれで決まりそうだ。




