ハミィ>オーガ
「兄ちゃん、それはえげつねぇぜ……」
肌寒い牢屋の中で当時何があったのかと警備隊の見張り役である人に尋ねられ、思い出しながらも説明したその内容を聞いて言われた一言がそれだった、さすがにやりすぎたのかと思う所もあるが、あの時はしかたがないと割り切っておきたい、あそこまで馬鹿にされて抑えられる人なんてそうそういないだろうしな。
「まぁそこまでやったんだ、こうなってもしかたないだろう? 後数日おとなしく頭でもひやしてな」
そう言い残しながらコツコツと音を立てながら牢屋となっているこの部屋から出て行く後ろ姿を横目にして、色々ろ考えていた事が飛んでしまい、ただ一人、膝を抱えたままの姿でため息を漏らした。
それから二日後ようやく釈放される事となり、何日か滞在した牢屋を出て警備隊の詰め所を出る、薄暗い部屋の中で何日もいた為か日の指す光に目が眩みそうになりながらも解放された事による解放感をめいいっぱい息を吸い込み堪能していく、そして細く長く息を吐きながら戻って来れたんだという感動が包み込んだ。
「もう戻って来るなよ」
詰め所の前で感動に浸る自分に後ろからここ数日の間に聞きなれた声へとなっていた警備隊の看守の声が聞こえて来た事で、ここ数日の時間を思わず思い起こしながら振り返り、精一杯の感謝を込めて頭を下げ、二度と此処には来ないと誓いを立てる。
「お世話になりました」
「達者でな」
深々と下げた頭を起こし、別れの挨拶を告げた後、今度は振り返ることはせずに前を向き歩き出す、動いていなかった事で固まっていた体を少しずつ動かして行きながら感覚を戻して背伸びをした。
「はぁ……」
意識せずに出たため息は今まで牢屋の中で出していた物とは違い、なぜか晴れ晴れとした気分を沸々と湧き起こさせ今なら何でも出来そうな気がするとそう錯覚させてくれるようだ。
「やっと来た~、待ちくたびれたよ~」
「お勤めご苦労さん!」
解放感からたそがれる様に観賞に浸っていた自分に掛けられたと思われる声は、ここ数日聞くことが出来なかった何故が懐かしく思えてしまう聞きなれた声で、なんとなくではあるが来ているだろうなという予感がしていた自分の感覚は間違ってはいなかったんだなと、どこか安心したように視線を向けて仲間である彼等へと向き合って行く。
「ごめん、数日ぶりだからかなり待たせることになっちゃったよな」
「いや、実はそうでもねぇよ、釈放される日は聞いてたからそれまでの間はクエスト受けて狩りに行ったりしてたし、待ってたのも今日の数時間だけでそこまでは待ってないぜ」
「そうなの? まぁでも待たせた事には変わりはないし、ごめんな、それから迎えに来てくれてありがとう」
少し気恥しい気持ちを抑えながら迎えに来てくれた仲間に手を出し、何かを確かめるかの様に握手を交わすが視界の端で見えている人物の姿にどうしても気を取られてしまいそうになる、だが今はそれよりもと、今回の件で傷付けてしまったであろう彼女へと向かい合い、無言で目を逸らさずに見つめて来る視線を受け止める。
「ハミィ、俺は……」
「……ざ……して」
数日ぶりに会えた彼女にどう声を掛けたらいいかと少し悩みながらも出した声は、彼女の何やら聞き取れなかった声によって塞き止められてしまう。
「コウ、せ……して」
「え? ごめんハミィ、聞き取れない、もう一回言って」
実はなんとなく聞こえていたし、その意味も理解は出来た、だがどうにかそれを回避できないかと考えた淡い思いは――。
「コウ、今すぐそこで正座して」
どうやら無駄に終わる事で決まったようだ。
「え、ちょっと待って、ここで? けっこう人がいるんですけど」
相棒であるハミィや仲間であるマジェとカッチェそれに視界の隅に見えているお方以外にも今のこの場所、トリーアの北側で通りに面しているこの場所には行き交う人達がそれなりにいるわけで、そんな場所で地面に正座をしろと言われるとどうしても信じたくなくなるのが人としての心理だろう。
しかし彼女の目や表情は真剣なもので少し怒っている様な気配も感じさせ、以前戦ったオーガ以上の威圧感までもを身に纏っていることからどうやら本気で言ってるんだという事が解る、先ほどまでの晴れ晴れとした気分はどこに行ってしまったのか、天国から地獄に叩き落されるとはこの事かと考えながら背中や額、そして手にまで現れる冷や汗を感じ取り、せめて他の人がいない所じゃ駄目ですか? とそれとなく聞いてみるが。
「他の人なんてどうでもいい、早くして」
これも無駄だった。
これ以上怒らせるわけにはいかないと、見られる事に対する恥ずかしさを押し殺してゆっくりと両膝を曲げて地面に付け、背筋を伸ばしながら太ももに両手を置き、屈服の姿勢を取る。
「私怒ってるんだよ、大丈夫だって言ったのにあんなことをして、その挙句捕まるなんてどれだけ心配したか考えて欲しい」
「はい、すいません」
道端で正座をさせられてる男に対する視線が行き交う人達から飛んでくるが、ハミィにはそれは本当にどうでもいい事の様で気にすることもなくお説教は始まりを告げた、しかし俺自身はそうでもなく、さすがに恥ずかしいからと少し顔を下げてしまう。
「どこを見てるの? ちゃんとこっちを見て、もしかして恥ずかしいの? ギルドの中であんな事までしたのに今更見られるのが恥ずかしいの? そんなわけないよね?」
いえ、恥ずかしいです。
などと今は口が裂けても言えはしない、そんな口答えをしてしまえば更に怒らせる事になりかねない、今は耐えるしかないだろう、しかし顔を上げるのは何とかなりませんか? せめて顔は見られたくない。
「まぁいいや、コウ、私はね、あの時コウが私の為にしてくれたのも解ってるし、あれだけ怒ってくれるぐらい私自身の事を考えてくれてたことは凄くうれしいよ、でも私はコウが晒しものになる様なことはしてほしくなかった、これから先ずっとコウまで色々言われる事になるなんて、私は嫌だったの……今のこんな私と一緒に居てくれてるだけでも色々言われるだろうし、もし仮に私が元の姿に戻れたとしてもコウだけはあれをしたせいでずっと言われ続けるんだよ、それで傷つく事になるなんて私は嫌だよ……」
そういいながら僅かに詰まらせ震えているハミィの声で顔を上げ、こんな状態でありながらも今まで彼女にこれほどの感情を表してもらったことはなかったなと思い、その事に対して嬉しい気持ちと共に申し訳ないという気持ちがあふれ出る。
自分自身では彼女の為にとした行動ではあるが、結果的にその行動は彼女を傷つけてしまっていた行動で、結局はハミィの気持ちを俺は理解できてはいなかった。
「ごめん……」
「分かってくれたらそれでいいよ、でももう、あまりむちゃはしないでね」
軽く目頭に指を当てて零れ落ちそうになっていた涙を拭いとり、自分の言いたい事はそれだけだからと、なんとなく終わりを迎えた雰囲気を感じ取れた事から、正座の状態から立ち上がる為に片膝を付ける様にして動き出す。
「何をしている、まだ終わりではないぞ」
しかしそんな行動も今まで視界の隅にとらえ、なるべく見ない様にとしてきたお方の静止する声が聞こえた事で止まる事になる。
「まず何か言う事はあるか?」
「お……お久しぶりです、サイモンさん」
何故か戦闘に行く時の様に鎧に身を包んだ師匠との話もどうやら逃げられそうになさそうだ。




