第一章幕間 それぞれの時間。
ダンジョンに規制が掛かった、その事はどうやら先日の一件が原因の様なんだがそれも仕方がないかという気持ちにもなる、後で聞いた話ではあるのだがアルスタの洞窟に出現した蠢く者、その強さや厄介さから中級冒険者でないと倒せない程の敵だった様で自分達が生きて帰って来れたのもサイモンさん達の活躍があってこそだろう、実質彼等は四人で倒したと言っても間違いではない、自分達には何もできることがなかった、本来六人で組んでいるらしいのだが今回の事件とも言える出来事に関わったのは四人、後の二人はどこかにいるらしいのだが人数のそろっていない状態では連携も変わって来るはず、にも関わらずあの人達はそれを問題にもしていない様に戦って勝って見せた、さすがは上級と呼ばれている人達だと尊敬する。
「さて、そろそろ来ると思うんだけどな」
あの事件の翌日には体を動かせる状態にまで回復していたのだがあんまりまだ動くのはよくないと皆から言われていたのもあり、その日は休む事にして今日は待ち合わせでリヴァイヴに来ている。
昼に待ち合わせとかなり大雑把に言われてどうしたものかと考えたのだが、昼飯を食いながら待てばいいかと店に赴き、適当になんか持ってきて欲しいと言った所本当に持って来てくれ、それを食べ終わった後ゆっくりとトリーア由来のお茶を飲んでくつろぐことにする。
「あ、コウ! 遅くなってごめんね、おまたせ」
不意に店の扉が開いて誰かが店に入ってきながら声をかけて来た、腰ぐらいまである漆黒の髪に日の光が当たり、輝いて見えるその姿に目を奪われそうになり「だが男だ」とそうつぶやく事で己の理性を取り戻した、以前から思っている事ではあるのだが魅了の魔法とかでも使っているのではないだろうか? それ以外に説明が付く理由が出てこない、何故こんなにも魅かれてしまうのだろう?
「どうしたの? 私何か変かな?」
「いや、大丈夫だよハミィ、ちょっとボーっとしてただけ」
テーブルを挟む様にして向かい合う椅子、もちろん片方には俺が座っているのだが、その椅子に腰かけながら身形を整えている彼女と行動を共にするようになってそれほど日にちが立っていないのだが、この町トリーアではサイモンの弟子と認識されている俺と呪いを掛けられ、男の姿になってしまっている彼女が一緒にいるところで出会ってすぐの時ほど向けられる視線は少なくなっていた、この町では俺に対する噂が変な奴だと流れてしまっている為、あまり気にする人もいなくなってしまったという事なのだろうか? なれとは恐ろしいものだ。
「それでどうしたのハミィ、呼ばれたから来はしたけど?」
「コウに渡すのを頼まれてた物があってね」
身に着けている純白の服の腰のあたりに視線を落とし、なにやらゴソゴソと探った後、手の上に銀貨五枚を乗せて差し出して来たが貸した覚えもないし、意図が理解できずにいた。
「この間の事件の報酬が昨日渡されたんだけど、コウ居なかったから渡す様にラミアスさんから頼まれていたのよ」
そう言えば広場での演説の時に報酬は出すと言ってはいたが本当にくれたのか、しかしあれだけひどい目にあってるのだからもう少しくれてもよさそうなんだがな……
「ありがとう、助かるよ! 鎧も壊れちゃったから新しいの買いに行かないとなって考えていたし、これだけあればあの店なら何とかしてくれるだろうしね」
「あの店? どこか行きつけの店でもあるの?」
「この前盾を買う話をしてた店覚えてるかな? あの店だよ、この町に来た時に声かけられてそこから何かあれば頼む様にしていてね」
「あ~あの店ね、思い出した! これから行くの?」
資金も手に入ったし今から行ってもいいんだろうけど、サイモンさんの所にも改めてお礼を言いに行った方がいいだろう、そう言えば修行の話があの騒動でうやむやになってしまっている、皆もお世話になっているし鍛錬所には全員で行く方がいいか。
「どうしようかな、マジェとカッチェは? あの二人どっかで見た?」
「あの二人なら町のいろんな所に行ってるよ、今日休みだし二人でぶらついてくるって言ってたかな、私が見たのは北の方に行った所までかな~そこから先はわかんない」
あの二人の関係もよくわからないよな、仲はもちろんいいんだろうけど恋人には見えない、かといって友達かと言われればそれ以上の関係にも見える、なんというかあやふやな感じだ、しかしまぁそんな事を俺が考えたりするのもあの二人に失礼か、それに今は――
「そうだな、あの二人がどこにいるかもわかんないし、今日はどうせゆっくりするつもりだからここでもうちょっとゆっくりしてから移動しよう、ハミィも今来た所だしね、この後の買い物付き合ってくれる?」
自分に言われた言葉を聞いた彼女は驚いた顔をした後少しうつむき、顔だけではなく耳まで真っ赤になっている。
「うん、大丈夫だよ、そうだね! もうすこし……二人でゆっくりしてから移動しよっか」
彼女の口から紡がれた言葉を聞き、どうやら嫌われてはいないようだなと少し安心しながらしばらく二人の時間を堪能し、店を出る事にした。
そしてリヴァイヴで食事をしながら二人での時間を堪能し、先日の事件で鎧が壊れてしまったのを買い替える為に鍛冶屋に行く事にした、ハミィから報酬である銀貨五枚を受け取っていなかったら手持ちの額で鎧を買いに行くという選択肢はなかったのだが受け取った今は買い替える余裕がある、クエストに行く事や修行の事も考えると早めに用意しておいた方がいいだろう。
「次はどんなやつを買うの? 前のは部分的な防具だったけど」
壊れてしまった防具は部分的に付けている、といった方が正解なぐらい他の部分ががら空きだった、腕や肩、胸には鉄製の物がついてはいたが他の部分はお粗末な状態だったのだ、しかしその防具でも銀貨三枚と結構な値段がしている、あの店だからこそその値段で売ってくれたと思っていいだろう、それも考えると銀貨五枚でどれほどの物が買えるかと言われれば、正直大したものは買えないだろうな。
「店に行ってから相談してみるよ、前のとあんまり変わらない物しか買えないだろうけどな」
「タンクの装備ってそんなに高いの? たしかサイモンさんもあの時言ってたけど」
そう言えばあの戦いの時にそんな事を言っていたな、高い上に修理やメンテナンスにもかなりの費用が掛かるって、そしてその言葉は自然と俺が貧乏から抜け出せることは無いと言われてるのも同じなわけで気が滅入りそうになる。
「俺が付けていた防具でも銀貨三枚、それもおまけしてもらってだよ、それでわかる?」
後衛職とはいえ、ハミィはおそらく服の中に鎖帷子ぐらいは付けているだろうしその値段から察してもらうしかないだろう、男の体になっているとはいえ服や装備に関しては女物しか装備できない、そんな呪いが無ければガッチリとした物を防備する選択肢もあったはずで、仮にもしそれが叶っていたのならばどれほどの出費になるのか。
「た、大変だね……今の私達からしたら考えるのが嫌になってくる」
しかしまぁ自分や仲間の命を背負う事になるしそこに手を抜く事は出来ない、なら受け入れるしかないだろうこの貧乏さを。
「さて、ついたな! 店の中にいるのかな」
ハミィとリヴァイヴを出て話ながら歩いて来たんだが店の近くまで来て違和感があった、今まで見かけた時は必ずと言っていい程店の前で仁王立ちしていた店主が今日はいない、やっと客捕まえる事ができたんだろうか? 会うたびに客を取れなかったと嘆いているしこの店大丈夫か? と心配になってくるのだが俺が気にしても仕方がないと、店の中を覗き込んでみる。
「あん? なんだ客か? ってお前さんらか、今日はどうしたんだ?」
「こんにちわ、カマウリさん! 鎧を買いに来たんだよ」
店の中にいた店主カマウリさんは暇だったのだろうか? 中にある品物の手入れをしているようだ、まぁ商売を生業とする人からすれば当然のことなのかもしれないな。
「ちょっと待て!! 鎧を買いに来たって前に売ったやつはどうした! そんなに簡単に壊れるもんじゃなかったはずだぞ?」
確かに普通に使う分には問題はなかったんだろうが今回は相手が悪すぎた、しかし町の人達がみんな知っているわけでもないんだな、世話になってるし安く売ってくれた物とはいえ記念に持っていたのを売ってもらったんだ説明はしておかないとな。
「実はちょっと色々あってね、盾を買った後からの話をするよ」
ギルド前の広場での話、そこからアルスタの洞窟での出来事、その戦いで鎧が壊れ、店に来るまでのこと、その話を黙って聞いているカマウリさんに聞かせる。
「なるほどな、蠢く者、あんなのが相手じゃぁあの防具じゃ壊れるだろうな、あの怪物の強さは中級冒険者でも全滅するパーティもいるぐらいだ、お前さんに渡した防具で行けるのはせいぜい中級になる前ぐらいの敵なら耐える事ができるはずの物だったんだ、それ以上の相手とやりあって壊れたならしかたなねぇだろう」
「ごめん、記念に取ってた物を譲ってもらったのに壊してしまった」
「フン! 気にするな! お前さんが生きていた、それはあの防具がちゃんと役にたってくれたってことだ、俺としちゃ~それで満足だ! 事情は理解した、それで? 予算はどれぐらいなんだ?」
「それがギルドから報酬として貰った銀貨五枚ぐらいしかないんだよ、それでなんとかならないかな?」
「ギルドもケチなことしやがるな、蠢く者の討伐なんて本来報酬は金貨はあるはずなのに銀貨五枚とはな、まぁ待ってな! ちょっと店の奥みてくるからよ!」
本来の報酬だと金貨はもらえると言うなら流石に俺達の報酬は少なすぎませんかねぇ? まぁ確かに役にはほとんどたってないよ? 俺なんて殴られただけだと言ってもいいぐらいだよ? でもさぁ、死にそうになってるんだからもうちょっと下さいと思う事は間違ってはないだろう?
「他の人達ってどれぐらい貰ったんだろう? ハミィなんか聞いてる?」
「聞いてないよ、あんまりそういうの聞くのもなんかやだし、それ以前に人に話かけるの苦手だし」
「そ、そっか、まぁ~気にしても仕方ないか」
今では普通に話しているから忘れていたが、ハミィはこの格好があって周りからも自分からも壁を作っているんだった、これ以上は聞かない方がいいだろう、俺自身の為にも……
「待たせたな! これなんてどうだ? 壊れた経緯も聞いたしこれなら銀貨四枚でいいぞ?」
そう言いながら出された物は軽鎧の様で、兜以外の部位が揃っている状態だ、見た感じ傷んでいるわけでもなさそうで銀貨四枚にしては安すぎる気がする。
「ほんとにいいの? これそんなもんじゃ本当は買えないぐらいの物なんじゃ?」
「あぁ、気にするな! 確かに前回売った物よりいいもんだからそれなりに値段がするが、前のは壊れた理由があれのせいだとしても壊れるのが速すぎた、そのお詫びも込めてってこった!」
「ありがとう、それじゃぁ買わせてもらうよ!」
甘えてばかりにはなるが今の自分にはすごく助かる、素直に今はこの思いやりに甘えておこう。
「どうする? すぐに着て行くか? 持って帰るには荷物になると思うぞ? それなりに重さもあるしな」
「そうだね、着て行くことにするよ! 持つより身に着けている方が楽だしね」
「わかった、それじゃちょっと待ってな! 軽く磨いてからわたしてやるよ!」
剣を買った時もそうだったのだが渡す前にメンテナンスをしてくれるこのサービス精神、ほんとにすごいと思う、そして磨かれる間の時間、店の中の品物に興味があります! と色々見て回っているハミィを見守りながらこの後の予定を俺は考えていた。




