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声が聞こえる

 もう一度と立ち上がるが不思議と力が体の奥底から溢れ出してくる、何か解らないものが体の中を駆け巡り、今まで味わったことがない程の力強さを発揮して自分自身でさえも抑えきれない程の感覚が体を支配して行く様だ。


「いくぞおぉぉぉ!!!」


 揺さぶられ、気づかされ、燃え上がらせられた俺の体と心は今さっきの諦めていた自分の体とは思えない程脈動していて、体にあった痛みと苦しみや辛さ、そういったものすべてを置き去りにし、ただ前へと突き動かす。


「ここで死んでたまるか!」


 雄たけびに近い程の声を上げて走り出し、今もなお蠢く者の攻撃を一人で受け切って戦い続けているサイモンさんの元へと走り出し、隣に並び立つが蠢く者はすぐさま殴りかかって来た、ボロボロの体に装備もバラバラ、俺の体をそんな状態にしたその拳は、先ほどとは違って何故かひどくゆっくりに見えて、左手で持つ盾で容易に受け止めることが出来ると感じ取り、拳と盾がぶつかる瞬間に体の外側へと盾を振り抜いて、迫って来ていたその拳事、腕を外へと弾き飛ばした。


「はあぁぁぁ!!!!」


 攻撃を弾き飛ばしながら自然と発せられたその声は地面を伝わり、大気を揺らし自分はここにいるとそう主張しているかのようで、今の自分自身には抑えることが出来ない物だ。



「おいおい……なんだよあれ!! おいサイモン! 弟子がなんかすげーことになってるけどあれなんだよ!?」


「あれは……オーバーチャージだ……」


「はぁ!? なんだそれ!?」


「オーバーチャージとはタンク、それもナイトの職にのみ伝えられる技で、一時的に自分の限界をも超える力を発揮することが出来るものだ、しかしこの技は狙って出来るものではない、自分自身の高ぶりによってその引き金は引かれて発動する、それゆえに一度も使えたことがないというタンクがほとんどだろう、ラグも俺があんなものを使っている所なんてみたことはないだろう?」


「ねぇよ!! あれ大丈夫なのか!?」


「一時的な物だ、しかしあんな状態がそう長くは続くはずがない! 急いでけりを付けるぞ! ラグはこのまま援護! クコは魔力を出来るだけかき集めて蠢く者を消し飛ばせ! シーラ、ハミィはクコが準備出来次第魔力を流し、威力の底上げをしろ! コウは私がカバーする、急げ!!!」




 すぐ近くで話声が聞こえた気がしたがでも今はどうでもいい、ただ……こいつを倒して、皆を守る………!



「はああああぁぁぁぁぁ!!!!」


 弾き飛ばした腕で攻撃をしてくる蠢く者、そのすべてを盾で防いで叩き落し、声を荒げながらも今度は自分の番だと殴りかかる。


 倒れているときに見えていたあの姿に自分を重ねる様に、まず盾で攻撃を受け流してがら空きになった腹へと腰を捻り、肩から腕に力が伝わるようにこの拳を叩きこんでそのまま振り抜く。


 グボォと音を立てながら振り抜かれた俺の拳は蠢く者を後退させる程の威力があったようで、くらった痕を抑えながらグラリと数歩後退し、さらに追撃をしようとするが、蠢く者は腹部に当てていた手を地面へと叩きつけ、体の重心を横にずらすように動かし、支えを作った後その足で蹴りを繰り出す。


 不思議なことに倒れる前と今では感覚が全くことなり、本来の自分の実力では到底避ける事も、防ぎきる事も出来なかったであろうその攻撃は、止まっているかの様に見えていた、蹴りの動作から振り抜き、そして接触する前までは速いのだが接触する寸前、そこで止まってしまっている様に見えていた、目の前で止まっている蹴りに対処擦ることは簡単で、体感では考える暇さえあるように感じれる。


 しかしいつまでもそのまま止まっていてくれるわけがない、あくまで今の自分が感じる感覚で実際には止まってなどいないのだ。


 左手に持つ盾を体の前に出すようにて腰を落とし、耐える姿勢を取りそれをまた盾で防ごうとした時に間に割って入る様に人影が立ち塞がり、俺の代わりに盾で蹴りを受け切っていた。


「コウ! 出来るだけ今の高ぶりを維持しろ! このまま終わらせるぞ!」


 俺の代わりに蹴りを防ぎ切ったサイモンさんは、自分の後ろで盾を構えていた俺に言葉だけで意思を伝えてくる。


「貴様のその状態は一時的なものだ! それにもうそんなに続かないはずだ! クコの魔法で一気にけりをつける! 俺とお前で隙を作り、ラグがさらに足止めしてから魔法だ! 気合を入れろ!! いくぞぉ!!」


 盾で受けていた蹴りを押し返し、剣でさらに斬り一気に間合いを詰め込むサイモンさんに遅れない様に横を走るつもりで攻める、しかし蠢く者は重心にしていた腕を地面から離し、サイモンさんを横なぎに殴りかるがその攻撃を彼は無視をしてそのまま突っ込む、横からの攻撃、それは俺が受け切るからだ。


 振り抜きから接触の寸前で止まって見えてしまっていた今の俺は盾で迫りくる拳を救い上げる様に自分の体の上へと軌道をずらし、その間にもサイモンさんは距離を詰め切っていた。


「せっかくだ、特別に見せてやる! コウよく見ておけ! これが俺だけの技、『ヘイトップ』だ!」


盾を前方にしていた構えを解き、右手に持つ剣で一気に切り裂く。


足を剣で斬り、盾で腹部を打撃、さらに剣で切り裂く、盾と剣、両方を使っての攻撃は回転を加え速さは上がっていく、斬れば斬るほど、殴れば殴るほどその威力は上がり、一切の反撃などさせないと相手を切り殺して殴り殺す、そうゆう技に見えた。


「イギュアァァァ!!」


サイモンさんの技に耐えかねて悲鳴を上げ、蠢く者は、その場に膝をつき丸まる用に体を守りに入る。


「今だ! ぶっ倒せ!!!」


『ヘイトップ』を繰り出していたサイモンさんは俺に伝える様に叫び声を上げ、蠢く者の足を救い上げる様に足払いを繰り出す、それに合わせる様に頭を守る用に片手で覆っていた腕に俺は腕を絡め、後ろへ倒す様に地面に叩きつけた。


「やれ! クコ!!」


後方で準備に入っていたクコさんへサイモンさんは合図を出し、俺達はすぐに離脱をする。


「さて、それじゃぁ行くね二人とも」


 クコさんが両隣に立つハミィ、シーラさんへと合図を出す、その前方には炎球がふわふわと浮かんでいて、その炎からは離れている場所でさえも熱を感じ取れるほどの火力が備わってくる。


「今だよ、魔力を炎球に!」



「「いいですとも!!」」



 その合図を受けて手を炎球へと伸ばし、、三人の全身からあふれ出る魔力を更に注ぎ込みその魔力を受て炎球は大きさを増していく、はじめは拳ほどだった物が徐々にその質量を増やして人の頭程の大きさを超え、最終的には両手を広げたぐらいの大きさにまでなった。


「おっと! てめぇはそこでじっとしてな!!!」


 炎球の熱とその威力からだろうか、蠢く者は倒れていた体を起こして何か行動を起こそうとした所をラグさんが弓で打ち抜き、更に動きを止める事でその場に縫い付ける。


「塵も残さず消えてね、『イフリートキャレス』!」


 発動されたその魔法は炎から爆炎へとなり、一直線に蠢く者へと飛んで行き触れた瞬間、爆音と共にとてつもない熱量が辺りに吹き荒た。


「ギヴアァァ!!!」


 叫び声を上げながら逃げる事も出来ずに自身のすべてを焼き尽くされて行った蠢く者、その黒くなった全身はその爆炎の中で崩れて行き、塵となって消えて行った。


 この場にいるすべてを消し炭にするのではないかと思ってしまう程の熱量は、普通であれば中にいる俺達もただではすまないはずだったのだが、最深部の入り口方向、このダンジョンの入り口の方からなぜか風が流れ込んで中にいた俺達を包み込むように守ってくれていたようで、魔法が発動し、その爆炎が吹き荒れた後でも俺達は魔法の余波による被害や息苦しさは全くない。


 蠢く者がいた場所の地面は熱によって赤く爛れた様にドロドロとなっていて先ほどの魔法の威力がとてつもないものだった事を表していて、そんなものをぶっ放して被害が出なかったことがある意味信じれないほどだ。


「よくやった」


 爆炎地点の様子を窺っていた俺の肩に後ろから手を置き、ねぎらいの言葉をかけてくれたがまず俺は言わなければならないことがある、振り返ってサイモンさん、シーラさん、クコさん、ラグさんと順番に見た後、仲間のマジェ、カッチェ、ハミィの無事を再度確認して伝える。


「助けてくださってありがとうございます、皆さんが来てくれていなかったら俺達は皆死んでいました、本当に、ありがとうございます!」


 頭を下げて自分自身のありったけの思いを込めてのお礼、こんな事しか今の俺には出来る事がない。


「顔を上げろ! 気にするな、と言っても無駄だろう、なら今回の事も踏まえて貴様の修行はもっと厳しくしていく、その上で成長し、いつか必ず俺達が困っていたら助けに来い! それでいいさ」


「はい、約束します! 必ずどんなことがあっても行きます!」


 今はどう頑張っても無理だけど、いつか必ず、絶対に……


「さて、帰って報告するぞ! 今回のダンジョンから人が戻って来ない原因は間違いなくこいつだろう、なぜこんなところに蠢く者なんて化け物が表れたのかわからんが今は帰ろう、シーラはカッチェスを、ラグはマジェ、クコはハミィを支えてやれ! コウは俺が支えよう」


 帰れる、生きて帰れる! やっと帰れるんだ……


 仲間が無事だった事に加えて帰れる、その言葉を意識したとたん体から力が抜けて行くのが分かった、足は震えだし体が前のめりになり膝が曲がり、体を支えることが出来ずにそのまま地面へと倒れてしまった。


 なんだこれ? 駄目だ……意識が………目を開けていられない………


「コウ! 大丈夫!?」


「どうした!? しっかりしろ!」


 声が聞こえる……。


「おそらくオーバーチャージの反動が来たのだろう、まぁいい、そのまま寝ていろ、運んでやろう」


 声が……。


「本当に、よくやった」


その言葉を最後に俺は意識を手放してしまった。

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