守護神
「逃げろ!」
声を張り上げ仲間へと指示をだし、自分も逃げようと後ろを向きかけたが、こんな者から目を離し、後ろを見せながら逃げるなんて本当にいいのだろうか? と考え慌てて視線を戻すと、拳が見えた。
とっさに顔を庇う様に腕を上げたが肩のあたりに鈍い衝撃が伝わり、殴られたのだと理解した時には吹き飛ばされ、皆の居る位置より下がってしまう、咄嗟に踏ん張ったおかげで少しの後退で済んだが、皆は現れたこの存在に対する驚きと俺が吹き飛ばされた事でさらに動きを止めてしまい、逃げるのに遅れてしまっている。
次に狙われたのはカッチェの様で拳を振り上げ今にも殴りかかろうとするのが見え、避けろと叫ぼうとしたが間に合わず、殴られた衝撃で吹き飛ばされて来る。
「カッチェ!!」
鎧を着た俺でも吹き飛ばされるほどの力で殴られ、地面にそのまま倒れているカッチェに俺は血の気が引く思いで駆け寄ろうとしたが次に狙われているのがハミィだとわかり、全力で駆け出した。
「くっそ……!」
走り込み、なんとか盾を構え間に割って入るように受け止めるがその衝撃はかなりのもので、踏ん張りを効かせていたにも関わらず三歩ほど後退させられた。
「ハミィ! カッチェを!」
短くそう伝えた後、俺は他に狙いが行かないように全力でハウルを出す。
「こっちだぁぁ!!!!」
それを期にハミィはカッチェに駆け寄り、マジェは二人の位置にまで下がり弓を構え、カバーに入り隙を探す、幸いにもハウルの効果はあったようで俺に狙いを付け殴りかかって来るが、盾で受け止め時間を稼ぐぐらいしかできそうにはない、そしてそれもそう長くはもたない……
防ぐことしかできない俺に代わりマジェは盾越しにでも容赦なく殴りかかっているこいつに弓を撃つが腕などに刺さっている矢には気にもせず殴り続ける、強さの桁が違いすぎるぞ、明らかに駆け出しが相手できる様な相手じゃない!
殴られ、盾で防ぐ度に衝撃で体に痛みが走る、腕が軋む、倒れそうになる。
「カッチェは!?」
耐えながら吹き飛ばされ倒れてしまっている彼女の状態を知りたいからと声を張り上げる、今は振り返る余裕なんてない。
「腕が折れてて気絶してる! 大丈夫生きてる!」
後ろから聞こえて来た声、内容はいい物だったが状況がまず過ぎる! どうすれば、どうすればいい!?
逃げるにしても一人抱えて逃げる時点で無理がある! でも置いて逃げるなんてできるわけがない! それに盾で防いでいる間もマジェが弓で攻撃をしてはくれているがそんなに効いている様子もない、こんなのどうすれば――
だが今の状況を何とかしようと俺が考えれたのはそこまでだった。
盾で上からの殴り付けを防ぎ続けていたが急に体の横側から来た何かに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「く、かはぁ……」
背中に痛みが走って呼吸が出来なくなり、目がチカチカする、なんだ今の……訳が分からず飛ばされた方を見ると、俺を吹っ飛ばしたであろう原因であるやつの足が振り切った後の様に見える、そこまで見た後で自分が蹴られたのだと理解し右腕を見ると持っていた剣は落とし、腕や肩に付けていた防具は外れ落ちて散らばっていた。
痛みで体が動かぜず立ち尽くす俺にその後も容赦なくその拳で殴り付けて吹き飛ばし、その攻撃で鎧は外れて辺りに散らばり、音が周囲に響き渡る事で自分自身の命が削られて行くのを肌で感じながらも止まる事のない攻撃で地面に倒れこむ。
「コウ! 逃げて!!」
誰かの声が聞こえたが体が動かない、倒れて動こうにも動けない。
「いや! やめて!! コウ逃げて!!」
うごけ……ない、どうなっているんだ……?
倒れたまま目を開け、すぐ横にいる何かを見ると、それは拳を握りしめ、今にも降り降ろそうとしている所だった、もう手遅れなんだと受け入れ、目を閉じその時を待つしかない。
そして。
ガン! と重い音が響き渡り、何かがぶつかる音が聞こえて来たが自分にまだ意識があるのが理解できず、閉じていた目を開け、周りを見ると誰かが立っている、その姿はなんだか見覚えのある青いフルプレートで――
「待たせたな」
その声はよく聞く声だった。
「あなた……だれですか?」
助けられ、守られた。
体も動かず上からの叩きつけをくらう前に、自分はもう駄目だと諦めて、心が折れた身を固くしながら来るであろう死のその瞬間に恐怖し、絶望し、受け入れた、でもそうはならなかった。
片手で持つ盾で攻撃を防ぎ、俺が受けた時は後退させられる程の威力だった攻撃を目の前にいるこの人は軽く抑え込む、助けてくれた人のその後ろ姿に俺はいるはずのない人を重ねたが、どうもしっくり来ない気がしたんだ。
何故なら――
あの人がこんなにかっこいい訳が……ない。
「なにを言っている、私に決まっているだろう! サイモンだ!!」
「嘘……だ、あのひ……とがこんなに、かっこ……いいわけ………ない」
「コウ……後で覚えていろよ! とりあえず蠢く者、貴様は邪魔だ!!」
拳を受け止めていた盾でそのまま押し返して弾き、地面から振動がくるのではないかと思う程の音を立てながら一歩踏みこみ、蠢く者、そう呼ばれた者を殴り付けて後退させる。
「コウくん~生きてる~!? あ! いたいた! 生きてるっぽいね~今行くから待っててね!」
最深部の入り口、その方向から声が聞こえてきて、その声が広場で会ったサイモンさんの仲間、シーラさんみたいだが他にも声は聞こえてくる。
「おいおい……蠢く者じゃねぇか!! 何でこんな所にこいつがいるんだよ!? 」
「わからない、けどみんな生きてるみたいだね、サイモンの心配が無駄にならなかったのがなんとも言えないけど」
「とにかくサイモンをサポートするぞ! 行くぜクコ!」
「わかった、私の攻撃魔法とラグの弓でサイモンごとでもいいから仕留めるよ」
「貴様らも後で覚えておけよ!!」
二人のやり取りを聞きながら腰を落とし、盾を構えながら蠢く者を見据えていたサイモンさんは、仲間の容赦ない言葉に答えながら再び殴りかかって来た所を盾で弾き、いつの間にか抜いていた剣で腕を斬り落とした。
「グヴァァァァ!!!!」
切り落とされた腕の痛みからだろうか、蠢く者は悲鳴を上げ、大きくジャンプして後退した所で、クコさんが魔法であろう火炎の矢で追撃、同時にラグさんの弓による攻撃で足や手を串刺しにし、身動きが取れなくなった所をサイモンさんが駆け寄り攻撃する。
「シールドバッシュ!」
魔法と弓による攻撃により蠢く者の敵意は二人に向いたが、サイモンさんが技名を叫びながら盾で顔を殴り付け、再び自分へと敵意を戻す、すごいチームワークだ。
「おまたせ~コウくん! 今治すね! 『ヒール!』」
いつの間にか隣にまで来ていたシーラさんが魔法を唱えると俺の体は淡い光に包まれ、少しづつ痛みが引いて傷が癒えていく。
「カッチェは? まだならあっちを先に……」
「大丈夫だよ! 向こうは先に直したし、今はハミィちゃん? 君? がみてくれてるよ!」
シーラさんが来てからそれほど時間なんてたっていないのにもう直してくれていた様でその技量が凄まじいものだというのが魔法を使えない俺にも伝わって来るようだった。
ハミィとクエストに行った際、ヒールを使ってもらったことがあるが切り傷を治すだけでも時間がかかっていたのに、骨折を時間もかけずに治して見せた、シーラさんだけではない、サイモンさん、ラグさん、クコさん、みんなの技量が自分達とはまるで違う別格。
上級冒険者。
その名前が伊達ではないことが垣間見えた気がする。
「コウ、いつまでそうしているつもりだ? 立て」
倒れたままでヒールを受けていた俺に、蠢く者と戦っているサイモンさんから声が聞こえた。
「サイモン、まだ無理よ! もうちょっと待ってあげて」
「シーラ、悪いがこれには口を出さないでくれ、さぁ立てコウ!」
立てって……まだまともに回復もしていないのに無理だ。
「体が動かないか? でもな、私は何度でも言おう」
「立て」
サイモンさんは蠢く者を相手にしながらも俺にそう呼びかける、その意味が俺には理解出来なかった、まともに動く事もできない怪我も治っていない、そんな俺に何を―――
「コウよ、痛いだろ? 辛いだろ? しんどいだろう? だがな、それでもと立ち上がれ! 何度殴られようと、何度倒れようと、そんな物は些細なことだ! どんなにかっこ悪くても、どんなにボロボロになろうとも! 盾に……タンクに倒れる事は許されない!!」
戦闘をしながらも語り掛けるその言葉、それはあまりにも過酷な物だ、怪我をしようともどんなにみじめな醜態を晒そうとも、それでも休む事や倒れる事を許さない、そう言われてるのだから。
「ここでそうやって倒れていて、そんな貴様に何が守れる? 何が出来る? 考えてみろ! 貴様は何ができた!?」
俺が出来たこと……?
仲間も守れず、盾としての役目も果たせず、みんなを逃がす事さえ出来なかった、みんなを残して死を受け入れてしまったのだ、俺は何も出来ては……いない、守れていない。
ただ殴られ、吹っ飛ばされて倒れる、何も出来なかった……
「盾とは、タンクとは仲間を守る為の壁だ、守る為に立ち塞がり、守るために道を切り開く! 非力な自分ではできない事を、仲間と成す為に立ち上がり、仲間の為に傷つき仲間と共に生きる、それがタンクだ! 私でも思う事はある、なぜこんなしんどい事しているのだ? と、鎧や武器には他の職より金が馬鹿みたいにかかるし、その修理やメンテナンスにも金がかかる、おまけに敵を後ろに流してしまった時は罵声を浴び、ダンジョンやラビリンスでは必ず先導して一度行った場所ならその内部の道まで覚えておかなくてはならない、いいことなんてはっきり言ってあまりない!」
俺が言うのもなんだけど、扱いが酷すぎる気がするな。
「だがな、それでも仲間を守りたいと、大切に思える人達を守る事、守り切った事を考えるとやってて良かったと本当に思う、死なせずにすんで良かったとな、いいか? 俺達タンクは自分一人だけの命ではない! 仲間の命をも背負っている事を忘れるな! 今回のお前は仲間を守れず、仲間より先に倒れた、俺達が来なければどうなっていた?」
……死んでいただろう、俺だけではなく皆死んでいた。
そうだ、俺はあの時倒れた事で自分の事だけしか考えてなかった、自分が倒れたことで仲間が……マジェやカッチェ、ハミィの身になにが起こるかも、どうなってしまうのかも考える事もせずに俺は心を折ってしまった。
「立て! サポートはしてやるからお前自身の手で仲間を守って見せろ!」
俺の手で……守る……。
「立て!」
短い一言、しかしサイモンのその言葉は不思議と俺の折れてしまった心をもう一度奮い立たせる。
「さぁ立て!!」
力強い一言、サイモンのその言葉は俺の体に不思議と熱い何かを注ぎ込む。
「貴様の中にまだ仲間を守りたいという気持ちが残っているのなら、今この場で貴様という存在を全員に示してみろ! 立てぇぇ!!!」
サイモンのその一言、その言葉は―――
「やってやりゃぁぁぁぁ!!!!!」
冷えきっていた俺の心を燃やして奮い立たせ、まだ終わってはいないと立ち上がらせた。




