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孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
四話:カワセミの里
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夜、僕はハシブトと顔を合わせた。

ハシブトは今も僕の家で住んでいた。晃はすでに寝ていて、母親は父と仕事。

そして、夜帰ってきたハシブトはどこかご機嫌だった。


ハシブトは、本来美野里のために用意された空き部屋に住んでいた。

元々僕の部屋に住んでいたけれど、同じ年頃の男女が一緒に部屋はまずいし母親からも反対された。

それに、美野里の部屋も空いていたからハシブトは美野里の部屋で居候として暮らしていた。

そんなハシブトは毎日のように、僕の部屋に来た。

この日も、そうだった。帰ってから、真っ直ぐに僕の部屋に来ていた。


「喜久、起きているか?」

いつも通りに、ハシブトがやってきた。

ベッドの上で漫画を読んでいた僕は、漫画に目をやりながら顔を決して出さない。

よそ行きのワンピースを着たハシブトは、おしゃれをしていた。


「なんだよ、ハシブト。なんで来るんだよ」

「喜久、漫画を読んでいるのか?」

「ああ、いいだろ」

「そうか」そういいながら、僕のいるベッドに腰掛けた。


ため息をつきながらハシブトは、結わえた髪を触っていた

安志に買って貰ったピンクのシュシュを、外していた。


「この格好は、なかなか興味深い」

「どこに行っていたんだよ、安志に呼び出されたとか」

「デートというものだ」あまりにもストレートに言われて、僕は唖然としていた。


ハシブトの考えが、僕はよくわからない。

だけど、今日のハシブトを見るだけでなんだか胸が痛かった。

僕にとって、ハシブトとはどういう存在なんだ。

頭の中で自問自答すれば、苦しくなった。


「デートって、知っているんだろ」

「うむ、カラスの時にも何度も見たからな。

男と女が二人きりでお茶をしたり、映画を見たり、ホテルを見たりするものだな」

「ホテルは見たりしない」

「ほう、ではどうするのだ?」

ハシブトが、そう言いながらベッドに横たわっていた。まるで僕を魅了するかのように手招きをしていた。

その動作が妙に色っぽい。だけど僕は首を横に振った。


「デートって、好き同士が一緒に出掛けるものだよ」

「そうなのか、そういう意味があるのだな」

「全く……」

「安志という男は実はとても孤独な男だな。

わしは今日、安志といろいろ話をして、彼の孤独も癒してみたいと思ったのだ」

その言葉に、顔や胸が熱くなった僕がいた。


「それはダメだ、ハシブト!」

「なぜだ?」

「それはその……」だけど反対する言葉が、思いつかない。

反対したい自分の心と、反対する理由の理性は、相反していた。


それが、僕に言葉を発することを許さない。

安志は女性癖が激しい、それを忠告すればいいのだけど、それを言ってなんになるんだ。

ハシブトが、逆に怒ったり落ち込んだりしてしまうのではないか。


「わしは、ただ単に安志を癒したいのだ。それ以外はないぞ」

「だけど……」

「すまぬが、今日はもう寝るぞ。喜久、またな」

起き上ったハシブトは、そういいながら僕の部屋を出て行った。


僕は、何か言葉に出したかったけれどそれは許されない。

(ハシブトを縛る権利は、僕にあるのだろうか?)

そういう疑問が、湧き上がっていたからだ。


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