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俺には好きな女性がいた。
子供だった俺は、晴れた花畑にいた。
そこで、ずっと花を摘んでいた。積んだ花で、花束を作って大好きな女性にプレゼントをした。
「ありがとう」と笑顔を見せた女性。
花束にしゃがみこむ女性は、長い髪、たれ目の俺より大きなお姉さん。
優しそうな笑顔に、俺は照れていた。
お姉さんは、俺に満面の笑みを浮かべてきた。
そんな顔を見ると、俺も笑顔になっていた。
だけど俺の取り巻く状況は辛いものがある。
貧しく、辛く、厳しい、俺の世界。
だけど、そのお姉さんは支えになってくれた。
俺の生きる希望に、なってくれた。
しかし、希望の光は突如暗くなっていた。
ある日を境に、お姉さんはいなくなっていた。
だから俺は、求めていた。お姉さんの代わりになるものを。
スキー合宿から帰ったこの日は、二月最初の日曜日だ。
どうしても僕は、街に繰り出さざるを得ない。
私服でジャンパーの僕が、ファーストフード店で奥の席に座っていた。
茂みに隠れて、双眼鏡を持ってファーストフード店の中でバードウォッチング部。
双眼鏡から見えるのは、ハシブトだ。そしてその前にいたのが、イケメンの男子。
冬なのに、半そでのシャツを着た男。
腕がたくましいその男は、僕がよく知っていた。
(安志、なんで?)
僕は、ファーストフードでハンバーガーをかじりながらバードウォッチングをしていた。
ハシブトに笑顔で、話してくる安志。何を話しているかは分からない。
安志がハシブトと仲良くなったきっかけは、僕が遭難したほぼ丸一日。
その間に、安志とハシブトは距離を詰めたというのか。
いや、違う。今までもそうだった。
安志はハシブトにずっと気があった。そもそも、僕はハシブトの恋人なんかじゃない。
だからこそ、ハシブトが誰を好きになるかなんて気にする必要もない。
(ならば、なぜここにいる?)
僕は、どうしても割り切れなかった。
僕が居ない間に、安志は告白したのが『なぜか』許せなかった。
「ハシブトさんの事、どう思っているの?」
ゲレンデで美野里に言われた言葉が、思い出されていた。
安志とハシブトは、デートしていた。
僕が遭難していたあの日から、ハシブトに安志は告白していた。
おそらく軽い気持ちなのだろう、だけどハシブトは了承していた。
安志は、見た目はイケメンで女子にも人気だからそれは僕も知っていた。
でも、女子とつき合ってもすぐに別れた。別れた女性は二、三十人ほど。
それが学校一のモテ男、安志の特徴だ。
そんな二人を、店の反対側の席から隠れて変装して双眼鏡を持つ僕がいた。
すると、トイレに行く安志が近づいてきた。
僕の席のそばには、うかつなことにトイレがあった。
変装した僕は、身構えて双眼鏡を隠した。眼鏡をかけて、帽子をかぶって目を見えないようにジュースを飲む。
だけど、安志は僕のそばで立ち止まった。
「バレバレだ、喜久」
「な、なんだよ、気づいていたのか?」
ポケットに手を突っ込んでいた安志は、落ち着いた顔を見せていた。
「ああ、もちろんだとも。気になるのか、ハシブトさんの事?」
「そ、そんなことはないよ。偶然、たまたま立ち寄ったから……」
「その割には、用意周到だな。双眼鏡も持ってきて」
「バードウォッチングの帰りだからだ」
「部活もない、日曜日なのにか?」
「ああ、僕にとって鳥は大事な……」
「喜久、俺はハシブトさんに決めたんだ。告白もしたし」
その顔は、やっぱりイケメンでかっこいい。
だけど、僕は安志に一つだけ懸念していた。
(安志はモテる、だけど安志は多くの女を捨ててきた)
「なあ、安志。ハシブトを好きになって捨てるのか?」
「俺は、女を捨てた覚えはない!女が俺を勝手に捨てたんだ!」
不機嫌な顔で僕にはっきり言い放って、トイレへと消えて行った。
僕は、うつむいたままその店を後にするしかなかった。




