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学校で、最近は一人でいることが多くなった。
ハシブトは最近ずっと安志と行動していた。はたから見れば、美男美女のお似合いのカップルだ。
帰りも最近遅いし、登校だってハシブトとは別になっていた。
僕にとってもそれが、いいようにも思えた。だけど、頭では思っていても本音は違う。
(ハシブトにとって、それが幸せなんだ)
そんな僕は、一人で河原に来ていた。
いつも通りに部活。双眼鏡を片手に、僕が公園で野鳥の観察。
今日もムクドリが見えた、群れている鳥の一糸乱れぬ動きに僕は息をついていた。
だけど、僕の心は乱れていた。喧嘩したまま、修復もないまま時間だけが過ぎていた。
(僕は、何をしたいんだろう)
ハシブトの顔を合わせると、つらくて苦しい。
彼女のことは好きではないのに、不安だった。
だから、ハシブトと安志のいる場所にはいかないで一人きりになっていた。
(このまま、ハシブトは安志と一緒になるのだろうか?)
僕は、安志のことを詳しく知らないけれど噂はたくさん聞いていた。
安志は、黒田生徒会長に匹敵するぐらいのモテ男だということ。
しかし悪いうわさもある。安志は何人もの女子とつき合ったけれど、誰とも長続きしなかったこと。
つまりモテ男の安志は、女をゴミの様に捨てる遊び人なんだ。
モテない奴の僻みもあるけれど、それでも安志が何度も女子から告白されている姿を僕も見ていた。
そんな時に見る野鳥は、僕に空でショーを見せていた。
野鳥を見るだけで僻みの心が和む。
そんな僕が呆然と空を見上げていると、前から声が聞こえた。
「扇君?」
「生徒会長、学校は終わったんですか?」
そこには、犬を散歩させていた生徒会長が近づいてきた。
犬ではなくハイイロオオカミだけど。
「はい、私の方の仕事は終わりました」
礼儀正しい口調の生徒会長は、僕に落ち着いた顔を見せていた。
僕も双眼鏡から手を離して、生徒会長の方を見ていた。
「最近は評判いいですね、生徒会」
「ええ、これもハシブトさんや扇君のおかげです」
「そうですか?僕は、何もしていません」
「それより扇君、何かありましたか?」
生徒会長は、僕に対して心配そうな顔を見せていた。
生徒会は最近評判が良かった。
ハシブトが孤独を癒すまで生徒会長は、男子からも女子からも嫌われていた。
仕事はできるが冷酷無比とも、『独裁者』とも言われた生徒会長の印象が変わっていた。
生徒に開けた生徒会を提唱し、評判も徐々に良くなっていた。
これも、孤高であり続けなくていい生徒会長を変えた事。
さらにはイエイヌも関わっていた。
生徒会長の意外な一面をあのスキー合宿で見せたことにより生徒たちの間で親近感がわいたのだろう。
「生徒会長、なんでもありません」
「そうですか。おや、イエイヌ。どうしました、何か言いたいことでも?」
すると、生徒会長の足元にすり寄る狼がいた。
首輪をつけているが、ちゃんとしたハイイロオオカミ。だけど何か言いたそうにしていた。
しゃがみこんだ生徒会長がゆっくりとハイイロオオカミの首輪を外した。
すると、狼は煙に包まれてあっという間に男の子に変身した。
青いハッピを着ていた男の子は、無邪気な笑顔で僕の方に走って来た。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
それはイエイヌ、生徒会長の孤独を癒していた狼。
イエイヌは、男の子の姿になるなり僕の方に駆け寄ってきた。
「イエイヌか、元気していたか?」
「嵯毅は、なかなか僕を解放してくれないんだよ。ひどいよね、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんって……」
「だめよ、イエイヌ。扇君が困っているでしょ」
少し離れたところで、生徒会長がイエイヌに諭していた。
まるで母親の様に諭す生徒会長に、ふてくされた顔になったイエイヌ。
「え~、嵯毅ばっかりずるい~。イエイヌも、お兄ちゃんとお話ししたい~」
「屋敷の外で擬人化してはいけないって、あれほど言ったではありませんか?」
「え~、いいじゃん、いいじゃん~」
イエイヌも譲らない、幼い男の子となだめる生徒会長はまるで姉と弟みたいだ。
「なんだか、微笑ましいですね」
「はい。私には、イエイヌをちゃんと導く義務がありますから」
「ちゃんと導く……か。保護者みたい」
「私の家は一人っ子ですから。扇君はハシブトさんがいとこではないにしても、妹さんがいましたね」
「まあ、別々に暮らしていますから」
「ご、ごめんなさい」生徒会長は、悲しそうな顔を見せた。
こういうよわった女性の顔に、僕は苦手なんだよな。
「そんなことよりハシブトのことは、内緒ですよ」
「分かっていますよ、大丈夫です」
ハシブトがカラスであることは、学校でも僕と美野里、それから生徒会長ぐらいしか知らない。
カラスだと本人に公言しないことも言ってあるし、学校の人に言いふらされると厄介だ。
「ねえ、お兄ちゃん。カラスはどうしたんだ?」
イエイヌの言葉に、僕は固まってしまった。
「ちょっとだけ、喧嘩……かな」
「そうか。あのカラスは、あまり感情を持ち合わせないからな。喧嘩とは、ありえないよ」
「イエイヌ、どういうことだ?」
「ハシブトは、所詮『孤独を癒すカラス』でしかないという事だよ、えへへっ」
「なんだよ、それ?」
「そのままの意味だよ。ボクたちは孤独を癒すため存在している、それだけでしかない」
イエイヌの言葉は、ちょっと気になった。
「孤独を癒すための存在って……」
「ボクは、すぐに狼に戻るよ。じゃあね~お兄ちゃんバイバイ。
今度は僕が妹プレーしてお兄ちゃんの孤独、癒してあげるから」
「妹プレーって、おい……」
だけど言ってすぐにイエイヌは、狼の姿に戻っていた。
生徒会長は、すぐさま狼に首輪をつけた。
「妹プレーってなんだよ?」
「イエイヌは、女の子ですから。寂しそうな扇君を、慰めたかったのでしょう」
「そうか……イエイヌは女の子か……」
「ええ、そうですね」
生徒会長は、穏やかな顔で狼の頭を犬のように撫でていた。
狼は、犬の様に生徒会長になついていた。だけど僕は、あることを大声で聞きかえした。
「ええっ、イエイヌは女?」
「うん、イエイヌは女の子です」
「なんか、どう見ても男の子っぽいよな……」
「私に合わせて、男の子っぽい格好をしているだけですから。本当は、れっきとした雌ですよ。
大体そのことは、女性にはとても失礼ですよ」
「なんか、それもショックのような……」
「それより、扇君」生徒会長は立ち上がって、僕の方を見ていた。
畏まった様子で姿勢よく立つ生徒会長に僕も直立で迎えていた。こういう厳かな生徒会長はやはり凛としていた。
「な、なんですか?」
「好きな色ってなんですか?」
「え、いきなり……その……黒かな?」
「黒ですか」
声がうわずった生徒会長は、そのまま僕から離れていく。
そして、生徒会長はイエイヌと一緒に河原の奥へと行ってしまった。




