3
――夢はいつも通り、真っ暗な闇にいた自分。
闇の中で、僕は迷っていた。右も左もわからず、光を探す。
すると見えたのが、桜の木。真っ暗の中に桜だけが浮かび上がって見えた。
そして、僕が近づくと桜の花びらが強い風で巻き上がった。
まるで桜の嵐のような幻想的な光景に、僕は立ち止まって見とれていた。
(ここは、なんなんだ?)
闇の中に浮かび上がる桜が、幻想的で美しかった。
いくつもの桜の花びらが舞い散り、石畳の地面をピンク色で照らす。
そんな桜の奥に一人の人が、背を向けていた。
それは時代劇なんかで奉行が着る、肩が出っ張った服を着た白髪交じりの男の背中が見えた。
男から嗚咽の声、震える背中が見えた。
「なぜだ、なぜこんなことに……」
ようやく見つけたその人物に近づこうとしたとき、地面が濡れていた。
それは、血。紛れもなく赤い血が、床を覆っていた。
「あの……ここは?」しかし僕の声は、届いていない。
「寂しいのだ、わしの唯一の生きがい、唯一の望み、唯一の希望。
わしを一人にしないでくれ、孤独になんかなりたくない!」
振り返った老人の腕には、一人の幼い娘が抱きかかえられていた。
その娘は、血だらけで胸に何か所もの槍で刺された跡が見えた。
それを見て、僕は思わず気持ち悪さがこみ上げた。
「わしは、諦めぬぞ。この世に不条理があるのならば、その不条理を変えてでも……」
老人が娘を持った両手を上に掲げたら、突風が吹きつけた音がした。
瞬く間に桜の木が風になびいて、桜の花びらが激しく落ちてきた。
僕の体が、風で飛ばされていく。両手で顔を覆い、必死にこらえようとしたが体が宙に浮く。
「うわっ、なんだこれ!」
見えた老人や桜は小さくなって、闇が広がっている気がした。
最後に見せた、老人の決意の顔はそれでも僕の目に焼きついていた――




