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今日は十二月二十四日、二学期最後の日であり、クリスマスイブだ。
商店街は、クリスマス一色。飾られた町並みは、この日ならでは。
華やかな町を抜けて、自分の家に戻っていた。
団地街の一角にある僕の家にも、例外なくクリスマスツリーが飾られていた。
ハンカチで包んだカラスを持って自分の部屋に向かうところに、リビングには小さな男の子がいた。
携帯ゲームを持って、ソファーに寝そべっていた。
男の子は、僕を見かけるなり体を起こしてきた。
まるで、僕を珍しそうに見てくるその男の子の視線を僕は嫌いだ。
笑顔で、僕を見てきた男の子に嫌悪感があった。
「おかえり、扇兄ちゃん。今日はクリスマスだね」
「晃か、僕は忙しいからまた後で」
「つれないなぁ、同じ屋根の下に暮らしているはずなのに」
彼の名は『坂本 晃』、小学四年生。
僕と苗字が違うのは、両親が違うから。
今いるこの家族は、特殊で居心地がいいものではない。
「母さんは、今日仕事で夜遅くなるから。扇兄ちゃん」
「あの人は、いいよ」
「何言っているんだよ、君の本当の母さんじゃないか」
「晃は、こんなのでいいのか?」
「この家族には、この家族の形がある。僕たち子どもは、それを受け入れる責任があるけれど権利はない。
何を言っても無駄だよ、愛の前ではどんな理屈も無力なんだから」
晃は小学生とは思えないしゃべり方をするから、不愉快だ。
なんでこんなに子供っぽくないんだ、全くかわいげがない。
ムスッとした顔で、黙って台所に向かった。
システムキッチンの台所で探したのが、爪楊枝。
後は、マスキングテープを救急箱から見つけた。
それを手に、自分の部屋に戻るため廊下へ消えて行こうとした。
だけど、一部始終ゲーム機を持ったまま興味本位で見ていた晃は声をかけてきた。
「まあ今日はクリスマスだし、きっと父さんと一緒だと思うよ。
もしかしたら、僕たちの新しい弟を作るんじゃないの。大人は、そういうのが大好きだから。
そんなことより、扇兄ちゃん」
「なんだよ、晃」
「この後、まさかどこか出かけるんでしょ」『まさか』を強調して言ってきた晃。
「別に」ふてくされて言い返すと、悪そうに晃は笑っていた。
「えー、クリスマスだよ。恋人と愛を深める日だよ、高校生だったらクリスマスデートだよね。
あれれ、扇兄ちゃん。もしかして、恋人いないの?彼女いないんだ~」
「わ、わるかったな!」不満顔で言い返す僕は、学校での失敗を思い出してしまう。
「じゃあさ、じゃあさ、クリスマスパーティとか、まさか誘われているよね?」
「いいだろ、僕は!」
「ふーん、かわいそ」
「僕は忙しいんだ、やることがあるし」
「クリスマスは、誰にでも平等にやってくるからね」
晃の言葉を背に受けて、眉をひそめていた。
晃にかまってしまって、感情的になった自分を悔いていた。
だけど、もうひけない。
「早く僕みたいに、ちゃんとした彼女を見つけたほうがいいよ。
彼女いないとクリスマスや、バレンタインはみじめな思いをするから」
「性格悪いな、お前」
「そんなことないよ、扇兄ちゃん。
僕はむしろ忠告してあげているんだ、扇兄ちゃんがとても不幸そうに見えるから」
「そうかい、晃」
睨みつけるように晃を見ると、テーブルに置いてあった晃の携帯電話が鳴っていた。
「あっ、僕の彼女からだ」
白々しい口調で言いながら、携帯電話を取った。
僕は晃をこれ以上相手にすることもなく、自分の部屋に逃げていた。




