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シエラからエーテルを貰い、一通り落ち着いたところで座り込む。

正直、自分でも何が起きているのか分からない。ただこの場所に居ることすら理由が分からなかった。

「外で寝込むだなんて、余程金が無かったのね」

「だから違うって」

「じゃぁ、教会から追い出されたの?そういう事はあるかもしれないけど」

「俺を一体なんだと思っているんだ、俺は完璧に潔癖だから」

「何があったのかは自分でも覚えていないんでしょう?」

「それは、そうなんだが」

むしろ、覚えていないと主張することで自己防衛をしているような感じだった。

この場所で、吸血鬼の女性にズダズダにされて殺された記憶。

それが夢なのかまるで判断がつかない。

過度に自分が疲労しているかのようで、ただ不愉快な錯覚を抱かされていた。

「本当に、何も分からないんだ。ここで何が起きたのか。ただ、明らかに死んだはずなんだけど」

「その割には傷一つないけど」

「シエラは、この町で何か異常があったとか知らないか?」

「別に何も無いわ。それと、人の名前を憶えているだなんていい度胸ね」

「ネームプレートに書いてあったんだから仕方ないだろう?そっちだって名前知ってるじゃないか?」


「・・・・」

確かにシエラ自身も彼の名前を知って居るので、名前のことでそう言い合いをすることはないのだが。

何かしら異常があれば、シエラもある程度対策を練ることは出来るかもしれない。

ただ、彼に何があったかについては推測しか出来ない状態だった。

「誰か変な魔術師に追われていたとかは無いのよね」

「そんなのが居たら一発で俺が倒すと思うが・・くそ、一体なんなんだこれは・・」

まだ気分が悪い。幻覚系の悪夢だろうか、まだ体調の悪さが戻って居ない。

「そういえば、シエラの方は何だ。今日は休みか?}

「まぁ、そんな感じだけど。貴方のせいで朝は台無しね」

「嘔吐物に関しては見なかったことにしておいてくれ」

「次やったら素通りするから」

「ある意味そっちの方がいいかもしれん」

正直、ここまで来るとナクラがただの不審者にしか見えなくなってきていた。

いくら任務で好成績出せたとはいえ、路上で吐くような真似をしては情けない。

少なくとも人に迷惑をかけないような剣士であることを目指していたが、ここですぐに頓挫してしまうとは。

「とりあえず、そろそろ戻るか。一応、道なりは見覚えあるし」

道に迷うほどこの辺りはそう複雑ではない。ただ、ユーリィが居る区画がかなり込み入って居たぐらいだ。

次は大丈夫、迷わないはずだと記憶の中身を信じることにした。


「何か危険があればすぐに報告したほうがいいわよ。いくら安全に見える場所でも危険はあるんだから」

「そのボーダーラインが分かりづらいんだが。昨日、確かに教会の部屋で寝ていたはずなんだよな」

「そうなの?居酒屋から出たんじゃなくて?」

「俺をだから何だと思ってるんだ・・じゃなくて、部屋に居たはずなんだけどいつの間にか外に出たんだよ。

ようやく思い出してきたけど、この辺りで突然女性の吸血鬼に殺されたんだ」

「殺されたって、今は生きてるじゃない?」

「そうなんだが、一体何なのかは俺にも全く分からない。不自然で理不尽すぎる出来事だった」

ナクラに触れる女性、その一連の動作だけで解体された体。

あれは恐らく悪夢か何かなのだろう。人間の体を触れただけで一方的に解体するなど危険な存在だ。

「まるで意味の分からない出来事だったが、とりあえず安全な場所は少なめだというところだな。

シエラも気を付けた方が良い、Bランクの魔獣とかもそうだけどさ」

「それは分かってる。でも勘違いしない方がいいわ。私なんてBランクの魔獣とか大したことないもの」

「そういえばお強いんでしたっけ?ユーリィから聞いたけど、実力的にはAランクなんだよな」

「余計な事言ってくれるわね、全く変わって居ないんだから」

Aランクと同等の実力を持つシエラという少女は、現在ギルド教会の受付の仕事をする。

闘う側ではなく、そのサポートをする側になった一因については不明だが、聞かない方が良いだろう。


「良し、それじゃぁ戻るか。俺にとっての異世界生活はまだ始まったばかりだからな。負けて居られない。

次からはまたギルド協会で会うだろうから、その時は俺に合う任務を遺しておいてくれ」

「そこまで気配りできるほど自由じゃないわ。あの時、ユーリィが出した任務があったのは偶然だもの」

「そうなのか?てっきりわざとかと」

「そうね、私に余裕があればそうしたかもしれないけど。あれは本当にただの偶然。

ただ、ユーリィが錬金術師をやっていることは知って居たし。ただ、魔獣に関しては想定外だった」

ランクBの魔獣。アレがまた森林に現れる可能性は高い。

ギルド協会への報告はしたが、当人らは報告を聞いただけで終わらせてしまった。

「私からじゃ何も言えないけど、少なくとも何か手をうってくれるはずだから」

「それは期待するしかないか」

その場所を離れる。頭の中で覚えている通りの道のりを通り、教会がある場所へと移動する。

まるで何が起きたのか、本来ならベッドで起き上がるはずだったが、路地裏で起床する羽目になる。

あの赤い血を思い出す、正直あれをもう一度経験したくはない。

吸血鬼、あの少女が一体何をしていたのか。あれは本当に存在する女性なのか。

ナクラが闇属性の魔法を使った影響で生んだ幻覚なのか。

そう答えを急ぐべきじゃない、ただ自分にとってもどこか酷い気分を味わっていた。

「おや、帰って来たのですね。お帰りなさい、ナクラ君」


神父の姿をした男性。イザベルの上司でもあり、夕食で一度会ったことがある男性だ。

あまり話をしたことはないが、その見た目の若さと精神年齢があまり合って無い感じはある。

「すみません、何て言うか変な事が起きてるというか・・」

「いいえ、まさか夜に抜け出していたとは思っていませんでしたが。体の方は大丈夫ですか?」

「問題は無いですよ。俺はこう見えて体が頑丈みたいですし」

「頑丈なだけでは駄目ですよ。魔術師という生き物は、より効率的に人間を懲らしめる術を知って居る」

「はぁ・・」

「ある意味、私たちは危険から逃れるために武装しなければいけないが、その術を知らないことがある。

ナクラさんにとっても、まだ魔術の知識が少ない状態だ。そう無理はしないほうがいいでしょう」

「というか、一方的な被害者なんだけれど」

「ある程度魔術から抵抗する術を知って居れば問題は無いでしょう。それでは、私は別の所に用があるので」

そう言って、神父は別の方へ歩いて行ってしまう。

神父ヨゼフにとっても、イザベルと同じようにナクラを可哀そうな子羊だと思っているのだろうか。

「あの出来事が嘘だとしても、吸血鬼の夢なんてそう見たくはない」

次が無いことを祈りつつ、教会へと戻る。

その正面玄関を入ると、すぐにメルルと会ったのだった。


「あれ?お兄ちゃん、今日の朝どこに居たの?」

「ちょっとしたパラドックスだ」

「?」

首をかしげる少女。意味不明な言動は真似しないでほしいところだった。

自分が見た悪い夢など忘れて置くとしよう。

「俺にとって大切なのはこれからの生活だからな。メルルもそう思うだろう?」

「これからもここに居るの?」

「・・・それは後で考える」

これからも孤児院である教会に居るのは精神的にもどうかと思われる。

これ以上メルルから痛い人扱いされたくはないし、ある程度未来的な展望は持つべきだ。

「現実は厳しいな、こんな世界でメルルも生きていかないといけないとは」

「大丈夫だよ。ちゃんとお勉強していけば、ちゃんと生きていけるもの」

「ある意味いいことだが、世界は厳しいんだ。悪い奴がとくに多すぎる」

「じゃぁお兄ちゃんが守ってくれる?」

「一番いい方法かもしれないがな」

盾ぐらいにはなるだろうか。人間、出来る事は限られているだろうし。

そこで、向こう側からイザベルの姿が見える。彼女からしてみれば、ナクラは突然居なくなったように見えるだろう。


「どうやら戻ってきたんですね。何があったのかと心配しました」

「すみません、ちょっとした出来事というか。そっちは何かなかったか?」

「何かというと?」

「何て言うか、変な路地裏で酷い殺人劇があったとか」

「そういった話は聞きませんでしたね」

どうやら、そういう陰惨な出来事は聞いていないらしい。それを無かったと考えるべきだろか。

いくら情報網が発達していなくとも、何か起きればすぐに伝わることもあるはずだ。

路地裏の地面が血で真っ赤に染まるぐらいの出来事があれば尚更。

「じゃぁ、やっぱり、あれは夢なのか?」

「夢?」

「何て言うか、昨日吸血鬼の女性に殺された夢を見て・・」

「それはまた、刺激的な夢ですね。ただ、昨日はどちらに行かれたかは覚えていないのですか?」

「全く覚えていない。一体何があったのか・・やはり俺ってまだ何か問題があるのか?」

「問題らしい問題はまだ分かりませんね。魔術による発狂状態もありません。

ナクラさんはまだ健全な人間であるのですから、そこは間違いないでしょう」

「町の中で誰か酷い死に方をしたとか、そういう話はまだ聞いてない?」

「えぇ。今日のところはまだ平穏な方です」

やはり夢だと思っておいていいのだろう。あの陰惨な出来事は、ナクラの起こした幻覚だろう。


「そうですね、もし暇でしたら買い物でもしてきてください。メルルと一緒に」

「はぁ。買い出しですか。いいけど、あまり信用できないかもしれないぞ」

「えぇ。間違いがあれば、それはナクラさんの借金としておきますね」

とりあえずあまり余計な物を買ったりしない方が良いだろう。そのお手伝いを承諾し、メルルと一緒に町へ出るのだった。

町の商店街へ、メルルと一緒に歩くだけなら十分な時間になる。

教会に必要な買い出し、イザベルから渡されたメモの通りアイテムを買っていく。

「ナクラの好きな食べ物は?」

「そういえば考えたことないな」

「そうなんだ・・」

余計な事を言ってメルルが変になるではないか。正しくは異世界の食べ物など知らないというセリフになるはずだ。

適当なことを言ってはぐらかし続けるのも限界になってきた感じはある。

最初の方は勢いだけだったが、やはり異世界で生きていくには知識量も必要かと思われていた。

その時だ。向こう側の路地から誰かが走って来るのが見える。

蛇人だ。またあの亜人は盗みをやって誰かに追いかけられている。

「じゃまだどけぇぇぇ!」

「えい」

足を引っかける。勢いよく転倒した蛇人は、そのまま追いかけて来た人間に捕まるのだった。

「畜生、てめぇ!?一体なんのつもりだ!?」

「いや、盗人はいけないぞ。いくら蛇でも頭を使うことだな」

「くそ、覚えていやがれ!?」

男性に捕まり、縄で縛られる蛇人。とりあえず人の助けにはなったようだ。


「いやぁ、よくやったよ君。ところで何処かで会ったっけ?」

「別に会ってないんじゃないか?後、何を盗られていたんだ?」

「あの蛇人はよく店のアイテムを盗むんだ。その盗品で他の場所で売るつもりだったらしい」

「転売かよ。異世界でも嫌なことするもんだな」

「それだけならいいが、場合によってはかなりの罪になるからね。あの蛇人もどうなることやら」

「何だ、君って衛兵とかじゃないのか?」

「俺は商人。ただ衛兵に通報するよりも追いかける方が早かった。

生憎泥棒は刃物を持って居なかったからね、危険を承知で追いかけてきたんだ」

そういう事らしいが。しかしやる事はかなりアレな商売だった。

「亜人にしてももう少しいい仕事とかしないのか?」

「そういう事をするわけがないだろう?亜人はそういう奴らだ。

体力だけは無駄にあって頭が悪い、全くいつの時代もそうだ」

呆れる商人。それなりに情報を交換したところで、彼は向こうへ行ってしまう。

犯罪者になるしかない亜人、ただそんな奴らのことで考えるつもりはないのだが。

「私、以前は猫耳の人が追いかけられていたのをみたけど。亜人の窃盗グループ多いんだって」

「亜人ね。異世界ってそういうもんかな」

ただ、悪事に関しては夜の吸血鬼には及ばない。


あれが真実かどうかを確かめるには、夜に同じ場所を行くしかないだろう。

「メルル、夜に俺はまた別のところに用事があるけど。イザベルには内緒にしておいてくれ」

「夜って、何処に行くの?」

「悪い奴を懲らしめにいく」

夜に存在する悪い吸血鬼。その存在を確かめた方がいいという結論に至った。

買い出しが終わったあと、教会の中で暇を潰し夜を待つ。

やるべきことは十分分かって居る、対処法が無いわけではないと祈るだけだった。

「お兄ちゃん、やっぱり外に出る気?」

「まぁ、そういうところだ。子供はもう寝ている時間だな」

「私もう9歳なんだけど」

「それで喜べるほど俺は危険な奴じゃないからな」

「ナクラお兄ちゃんは、ギルド協会に入ったんだよね。町の中のお仕事は、衛兵がやるってイザベルが言ってた」

「ギルド協会は魔術に関連するダンジョンの管理が基本だからな。町の中はお門違いだ。

そういう意味だと、俺は明らかに変な事をしてるかもしれない」

「誰かと、喧嘩してるのなら駄目だよ?」

「分かって居る。むしろ俺は止める側なんだよ」

そう、止める側のヒーローだと自分の中で言い聞かせることにした。間違っても、夜を徘徊する変人ではないのだと。



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