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「うぉぉぉぉおあっ!」
相手の攻撃をギリギリのところで回避し、相手の足元を斬り割く。
思った以上に切れ味の良い剣だった、しかし相手の魔獣はというと全く何も感じていないようだった。
相手の魔獣が動き出すと共に逃げ出す、すぐに襲い掛かってきた爪が大きな木に直撃する。
表面が抉られる、かなりの攻撃力かと思われた。一撃入れば確実にナクラは死ぬだろう。
「くそ、生身の体でやる事じゃねぇ!?」
休まずに攻撃を続ける敵の攻撃、それによって一本の木が倒れてくる。
その木をギリギリの所で回避するものの、衝撃によって地面に倒れるのだった。
「ぐぁ・・!?」
激痛が走る。ただ、まだチャンスはあると感じられた。
「くそ、どうにでもなれ!」
一撃だけでもいい、相手に攻撃して死んでやる方に決めた。
魔力が一瞬、心の中で感じさせられる。自分の中にある流動というべきか。
その力が一瞬、渦になるように剣に染み渡ったような錯覚を覚えた。
魔獣へ走り出す、一瞬の隙が出来た相手に対し突き攻撃を行う。
その動作はある意味完璧だった。攻撃が綺麗に相手の腹に突き刺さり、血が勢いよく吹き上げる。
綺麗に入ったたった一撃の攻撃。
それによって、ゆっくりと魔獣は動きを停止し、地面に倒れるのだった。
「あ、あははは・・何だ、やれば、できる、じゃん、か・・・?」
ナクラも、ただ似たように地面に倒れる。何が起きたのか分からず、ただその場で彼も力尽きるのだった。
「まさか、どういうこと・・?」
困惑するユーリィ。まるで何が起きたのか分からない、ただ勝手に二人とも倒れたようにしか見えなかった。
魔獣は動かず、そのまま肺となって魔力核を遺している。
「嘘、本当に倒しちゃったの・・?こんな敵を、どうやって・・?」
ナクラに近づくと、大体彼に起きている異変は感じられていた。
「闇属性・・!?そっか、ギルド協会が彼をアテにした理由はこれか。
魔獣相手ならどんな敵だろうと確実に死に至らしめる深淵の呪い。
でも、それだけの行為を、もしかして分からず使っていたの?こいつの態度からして無知にも程があるし」
魔力の方は明らかに使い切って居る、ただユーリィも油断していたためアイテムは所領しか持っていない。
本当なら棘爆弾という武器で何とかやり過ごせると思っていたが、ナクラが勝手に突撃したせいで使うことができなかった。
最悪、ナクラが死んだ直後に使う判断もあったが・・。問題はエーテルらしい物は一本だけ。つまり『自分用』。
「正直、あまりやりたくないんだけど。サービスぐらいはしてあげる」
その自分用のエーテルを飲み干す。その後、魔力の動員を蓄積しておいた。
次に、簡易錬金術用のサークルを出現させ、その場に小さな小屋を形成させる。
錬金術師が得意とする魔術の中には、こうした簡単な建築物を即席で作るスキルが存在する。
問題は一応素材も必要なので、周りにあった木材数本は魔術により消え去って居た。
尚、ユーリィはあまりこの魔術は得意ではない。本人の性格もあるが、こうした魔術は疲れてしまう。
即席の小屋が完成した後、ナクラをその小屋の中に引きずり込む。
上半身を後ろから抱いてずるずると地面を引きずる感じだった。別に足からでもいいが、余計な怪我をしそうな気がする。
部屋の中に入れた後、持っていた薬草の一部を使ってベッドを作り上げる。
錬金術による魔法の一種だが、正直どうしてこのレベルのベッドを作れるかは謎である。
ベッドの上に何とか移動させた後、治癒魔法で体を癒す。この程度であれば問題は無いだろう。
「ここで休む、かぁ。私もさすがに精神的に疲れたけど。大丈夫かな。ここで寝て」
自分も一応寝る事にしたが、正直ここまでする自分が意外ではあった。
「捨て駒にするほどの価値はないだけか。結局、こういう歪な運命って卑怯よね」
こうして得られたものはある。闇属性の魔力は、ある意味彼女にとっても興味はあった。
ギルド協会が認める程度の力は持っている、ランクEといえど馬鹿にはできないスキルがあった。
普通なら騎士団なり貴族学校なり卒業した身分でなければ入れないのだが、彼の場合は違っている。
ギルド協会は少しでも可能性があれば人材を保有する動きがある、彼もその組織の思惑の中に居るのだろう。
ユーリィもまた魔力回復のために眠る。
錬金術師が作り上げた小さな小屋の中での休眠となった。
目を覚ます。ナクラにとっては、何処か非常に嫌な思いをしたはずだった。
「ここは、ん?」
小屋の中だろうか。というより、隣にどこか違和感があった。
横を見ると、ゆったりとユーリィが寝ているのが分かる。
「って、何で寝てるんだ!?というかここは一体・・!?」
ベッドから起き上がって離れる、一瞬別の場所へ来てしまったかと思ったが。ただ暗すぎて何も見えない。
その部屋の中、ドアらしきものを動かすと外へ出れた。
「夜・・?嘘、どういうことだ?」
「・・あれ、ナクラ。一応回復したんだ」
ユーリィも起きてしまったようだ。
「これはどういうことなんだ?さっきの魔獣は?」
「貴方が倒したのよ。まぁ、さすがにあの状態で貴方一人面倒は見れないから。こうしてね」
「こうしてってどういうことだ」
「だから、即席で家を作って貴方を匿っていたの。
いくら魔獣倒せたからって、あのまま放置したらスライムに食べられかねないし」
「スライムって人間食べるのか?じゃなくても意味が分からないが」
「私だってそうよ。でも、貴方の魔力量は致死レベルで枯渇していたし、本気で死にそうだったのは事実よ」
どうやらそうらしいが。助けてもらったと言うべきだろうか。
「貴方、闇属性の力使えるんでしょう?」
「え?あぁ、そうみたいだけど」
「じゃぁ、これから先本気を出して魔法を使うのは避けるべきね。
人の体じゃすぐに限界を迎えるぐらい危険な力なの。できれば、上級クラスの魔術師になれるまでは止めなさい」
「何だそれ、使うと死ぬのか?あの力・・」
体の中から出て来た力を思い出す。
あの力を使い過ぎれば、術者の死は確実だとユーリィは言っている。
彼女の言っていることは本当なのだろう、ただそれはそれでショックなことだ。
「貴方の力がそれだけ強すぎるってこと。闇属性に関しては、後で誰かに教えてもらうことね」
「それはいいけど、これからどうするんだ?」
「どうって、ここで夜を過ごすしかないでしょう?夜道どうする気よ」
「おいおい、アトリエにはメルルがずっと待ってるんだぞ」
「あれ?そうだっけ?」
「お前が忘れてどうする」
「まぁ、冷蔵庫には食べ物あるから大丈夫だろうし」
「メルルはまだ9歳の女の子なんですけど?お前ってそういうタイプ?」
「悪かったわね。魔術の修行で大して家族みたいな生活なんてしてこなかったもの。あの年頃なら何とかやれるわよ」
「ある意味すげぇなこいつは・・下手をすると俺じゃなくてメルルがバッドエンド迎えるぞ」
錬金術師としては合格、人としては明らかに駄目ときたか。
ただこの夜の中、方向感覚を失った状態での移動はまずい。
「ただこっちはというと何もできないんだが。本当に大丈夫か?」
「錬金術で食事ぐらい用意できるし。問題ないんじゃない?」
「その錬金術師様の生活は自由で羨ましいが、俺は即席で家を作ることも出来ない奴なんだぞ」
そもそも普通の人間は魔法で家を作れない。
分かって居ることだが、こうして無茶苦茶なプロットを組まされる側にもなってほしい。
「普通ならバッドエンドね。まぁ、貴方の言っていることは間違いじゃないわ。
ただ、その魔術師の数だって別に多くはないもの」
「ほう。じゃぁ何人くらいなんだ?何千万?」
「そんなに居ないわよ。アミュスフィアで管理されている魔術師の総数は40万人ぐらいって聞いたけど」
「40万って、一つのクラスあたり7万も居ないってことか。でも割と多い方・・?」
「あのね。26の地方に別れたら更に少なくなるわよ。場所によっては千人以下の少数が暮らしているけど」
「そうか。ハイデ町に居る魔術師は千人くらが打倒だから、別にそんなに多いわけないか。ん?超少数派じゃないかそれって」
「さっきからそう言ってるんだけど。感覚的には多く見えるものも仕方ないわね。
ただ、そうした少数だからこそ問題が出てくる。ある意味、庶民にとっては存在しないくらいにはね」
「まぁ、人材の分布状況はどうでもいいとしてだ。昼間の件についてだが」
魔術師の総人口よりもそっちの方が重要だろう。
森の中に突然現れた、そのフィールドの中ではランクが違い過ぎるケダモノ。
ユーリィははっきりランクBと言っていたが、そんな魔獣をそう何度も相手にはできない。
「私もうかつだったわ。後、次からは勝手に単独行動取らないで私と一緒に逃げなさい」
「え?」
「え?じゃなくて。こっちは特性爆弾があるから、それでうまく逃げられるってこと。
即死はまず無理だとしても、相手にダメージを与えることはできるもの」
「何だ、じゃぁ俺の努力は無駄だったってことか?」
「無駄ってわけじゃないけど。貴方、明らかに魔法の力の使い方分かって居なかったでしょう?」
「・・・・」
「自分が自滅するような魔術行使をするだなんて二流のすることだもの、そういう意味じゃ貴方は素人当然。
だから、誰かのサポート無しで魔術を使うことはまず止めるべきね。でなきゃ、さすがに次は死ぬんじゃない?」
「いや待ってくれ、あの時絶体絶命だっただろ」
「貴方ごと爆弾で吹き飛ばすならその限りじゃないけどね」
だそうだが、さすがにそれだとナクラはそこで死んでしまう。
ユーリィの言う通り、突然の行動、単独行動は止めるべきなのだろう。
「貴方は素質はあるけど、使い方が悪いタイプね。そうやって暴走している限りは命を無駄にすり減らすだけだから覚えておきなさい」
「別に無駄にすり減らしてなんかいないし。そっちだって吹き飛ばされていたじゃないか」
「相手が土属性だったから、相性が悪いのよ。あの魔獣、ラッドベアっていう怪物なんだけど。
ロンドベルクの遥か北に居る魔物で、普段は洞窟の中に居る大人しいタイプなんだけど。何でここに居るかは私も分からない」
「他にもまた一匹出てくる可能性はあるのか?」
「一匹居れば二匹目も十分あり得るわね。正直、使い魔くらい連れてくるべきだったか。
でも、何か問題があれば、ギルド協会も反応はあるはずなんだけど」
「生きているからセーフ・・って認識なんじゃないか?相手がドラゴンでもない限り助けてくれないとか」
「・・・・・」
「今のは冗談なんだが」
「そうね。いくらあのエルフだって、そこまで冷酷じゃないはず」
「とりあえず、飯でも食べようか。何か食材はあるんだろう?」
「私が作った物だけなら。キノコシチューならすぐにできるけど」
「キノコ?さっき歩いていた奴か?」
「そうだけど?」
「・・・・」
「おいしいから大丈夫よ」
「味の問題じゃないし、あれ魔物じゃないか?」
「魔物じゃないわ。自律性の植物よ」
「何だよ自律性の植物って、普通植物が自分で歩き出すか?」
「歩くわよ?」
剣と魔法の世界ならあり得ることかもしれないが、あれは魔物ではないらしい。
とりあえず、その後にユーリィが錬金術による即席で生まれたキノコシチューを食べる。
しかし、問題はシチューの方のレシピだが、それは聞かない方がいいだろう。
普通ならあり得ないレシピで製造された食べ物アイテムを完食した後、また小屋の中で休む。
「っ・・」
ぐらり、と。まだ疲れがあるのか眩暈がした。
闇属性の魔力、その力を使うことを禁じられているが。しかしこれはどうなのだろうか。
どうやって自分で使えていたのか分からない、その力がむしろ呪いでしかないように。
「大丈夫?貴方、酷く疲れているみたいだし。ベッドに横になったほうがいいわ」
「そうだけど。あまり融通の利かない力だな。もう少しチートになってくれないものか」
「・・今は休んだ方が良いわ」
恐らくだが、現在のナクラの力であればランクAの魔獣を倒せる可能性はある。
ただ、力よりも先に体の方が死に至らしめるだろう。魔力量ではなく、質の問題なのだ。
どうして彼がこんな力を持っているのか、下手に力を持つよりは適当な魔法の方が幸せだっただろうに。
ユーリィにとっても、彼の力の在り方は不憫に感じられていた。
過度に強い力を持っている魔術師は破滅する傾向がある。
いくら強い魔法の力といっても、元は人間でしかない。それこそ、天聖の地位へ魂が昇華しない限りは。
「私は貴方のやったことを無駄なことだとは思っていない。でも、貴方の力は酷く歪なのよ」
術者が扱い方を間違えれば、その力で自己消滅する可能性はある。
例えそうでなかったとしても、その人間をもっと悪い方向へ導く呪いでしかなくなる。
闇属性は特にそういう傾向の強い力だった。魔獣に対しては強力な崩壊因子となるが、それは術者に対しても同じだ。
「貴方の力は神威属性って区分される魔法の力で、本来は人に付加しない属性なのよね」
「ん?じゃぁ俺は人間じゃないのか?」
「本来は、よ。恐らく、貴方の何世代前かの人間がそういう力に汚染されていたんじゃない?
突発的な変異で、本来持つことのない術者が生まれたりするけど。貴方は特にそのタイプね」
「・・・・・」
そうユーリィは解説しているが、実際にはナクラが一度死んだ事があるからだとは言えなかった。
闇属性という意味不明な力にしても、そうした破滅の力には必ず理由はる。
ナクラの場合、直接的な死が起因している。しかし、それを言うには憚れるものだった。
またどこか気分が悪くなる。暗闇の中、ゆっくりと眩暈がナクラを浸食していた。
ベッド。そういえば一つしかないのだが、ユーリィはどうするのだろうか。そう考えていた時、ユーリィが隣に座る。
「でも、やりようはあるわ。私が強いエーテルは用意してあげるから、それで死なないようにすることはできる」
「どうしてそんな事をするんだ?」
「貴方の力ぐらい、それだけの価値はあるってこと。ナクラ」
隣に居たユーリィが近づく。そして、彼女はキスをした。その時点で、何処か魔力が穏やかになっていくような気はする。
「自分で魔力を安定させられないなら私が何とかしてあげる。それくらいはできるつもりだもの」




