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魔術師には二種類ある。一つは、剣士として己の力を発揮する事だけを考える戦闘タイプ。
そしてもうひとつ目が、魔術師としての魔力を最大限に生かす砲撃タイプだ。
後者に関しては数が少なく、その魔力に到達できる程のスペックが足りていないのが主な難題だった。
エンネアという少女は明らかにそのランクに到達した、数少ない魔術師という事になる。
両翼のように、小さな魔弾が待機状態として現れる。その神々しい姿が、シエラにとってはただ鬱陶しかった。
吸血鬼としての力は見られない、純粋な魔術師としての力。
術式の方向性が違うが、その在り方はギルド協会にとって最も要求されるタイプだろう。
「死徒の妹ってどういう事なの!?」
「教える義理もない。ただシスターズという言葉を与えられただけの話」
魔弾が発射態勢になる。その時点でシエラの魔力も加速度的に上がり、魔弾による一斉砲撃から逃れた。
爆風がナクラ、及びエッカルトにも襲い掛かったが、エッカルトの場合は殆ど無視しているかのような態度だった。
「この馬鹿、もう言い逃れなんて出来ないから!」
シエラ自身が持つ大鎌の光刃が映える。その速度によって、一気にエンネアへと接近しようとしていた。
彼女もそう負けず、無数の魔弾を回避して一気にエンネアへ斬りかかる。
その攻撃を魔法杖で防いだ形になり、二人がそのまま奥の方へと移動していった形になる。
爆風に吹き飛ばされなかったとはいえ、ここまでくるとまるで戦争のようだった。
「全く、少しは相手にできると思ったが。一撃で仕留められんとは嘆かわしい」
「それはどっちに対して言ってるんだ?」
エッカルトによる奇妙な言動も、さすがに慣れて来たような気がしていた。
灰色の民といい、もう少し分かりやすい表現をしてくれると助かるが。
「我が妹に対して贈った魔術礼装もそう安くはない代物だ。本来であればここで使うつもりはなかったのだが」
「格好つけて馬鹿みたいな失敗になったか。ある意味アルデウスと大差ないんじゃないか?」
「奴は現時点で身動きできぬ雑魚も当然。その名を出して我を挑発できると思ったか小僧?」
雑種から小僧にランクアップ?出来ただけでまだマシかもしれない。
ただ、相手もまだ未知数の敵だ。そう、必要以上に相手を刺激するのも拙い。
「アレクサンドルの体に手を出してよいのは我のみだ。小僧は大人しく明日を待っているがいい」
「何だそのホモ臭い言動・・大体、あいつを排除しなかったら明日もくそもないだろうが」
「奴の血は今の我にとって丁度いい食事だと言っているだけだが。やはり人間に話は通じぬか」
つまり、アレクサンドルの血を飲み干す事が彼にとっての今の目的となるのだろうか?
吸血鬼、死徒であるゆえに今のアレクサンドルは彼にとって食事となる対象。
ただ、その対象になったからといって、ここでナクラに忠告しに来るのは考えにくい。
「いやエレオノーレに対する忠告か。ていうか、本気で国に連れて帰る気ないんだなお前!」
シエラとエンネアによる戦闘の余波のせいで、少し声が大き目になってしまった。
流れ弾が一瞬こっちまで来たが、エンネアも相当張り切って居るようだ。
「連れ帰るにも、勝手に帰国すればよいだけの話だ。この場所は明日にも我が王城を実現せねばならん」
「完全にいかれてるな、ただこっちもそう大人しくしてると思うなよ」
いちかばちかやってみるのもアリだろう。ナクラは剣を構え、エッカルトを注視する。
相手は手ぶらだが、恐らく何らかの強力な魔法攻撃はしてくるだろう。
エレオノーレのように、不可解なやり方で一方的な攻撃を行う場合もある。
ここは、真正面に突撃して相手の攻撃を誘導するのが先だ。
「ふむ、愉快な道化だ。この俺を楽しませられるに値する器か?」
嘲笑する吸血鬼。
死徒としては恐らくアルデウスよりは上だろう。
圧倒的な自信を前にして屈するわけにもいかないと、ナクラは前に走り続けた。
相手が何らかの攻撃をしてくれば、そこで予測できるはずだと。
ある意味では、そこがナクラにとっても最大の弱点でもある。
ゲームと現実を分離できていない、未だに異世界に居ることをそう考えている限り、イルシャのような女性にも負けるのだと。
屋敷の地下室。その場所に存在する棺をゆっくりと、ロゼッタは開けるのだった。
中に眠って居たエレオノーレはそこで目を覚ますが、まだ時刻に達していないことに困惑する。
「ロゼッタ、一体どうして・・?」
「ちょっと時間切れ。向こうで変な奴とナクラが戦闘したみたいだから」
「戦闘、まさか死徒二十七祖・・!!」
すぐに起き上がろうとするが、ロゼッタに静止される。
エレオノーレにとっては、現時点で死徒とナクラが戦闘するのは危険をはらんでいる。
もしナクラにとって、闇の力の発揮に関連する事があれば、状況はより深刻化するだろう。
ただ、ロゼッタは首を振る。
「地下祭壇への道のりはユリウスから教えてもらった通りでいい。これは賭けになるけどね」
「ナクラを囮にするつもり?彼が一人で死徒に勝てるわけがない!」
「他に味方が一人居るみたいだし、問題は無いはず。あいつだって不死でしょう?」
「不死そのものが、貴方にとってはただ死なないだけでしかないのは分かって居るはず・・」
「死なないってことで未来永久に彼が苦しむのを私は止めないけど・・?」
意地の悪い言動だった。
どんな殺され方をしたとしても、ロゼッタは彼を助けることはない。
エレオノーレを、吸血鬼の姫君を優先する時点で何処か矛盾しているかのようだった。
「アレクサンドルを止める方法はある。貴方が彼に一番近い存在だから」
「・・・ロゼッタ、私は」
とにかく、今は地下祭壇へ行くしかないだろう。彼女の好意を、そう無駄にはしたくはない。
雨のように降り注ぐ魔弾、エンネアによる浮遊系統の収束魔力砲撃をシエラは回避する。
この戦い方には慣れている。騎士学園で習った限りの方法を試すしかないだろう。
エンネアの戦闘方針はロンドベルクの学園に定義されているものとそう変わらない。
魔力と魔弾の数で相手を圧倒するタイプの魔術師だ。その力は圧倒的だが、その力に集中するため命中率はかなり低い部類に入る。
「さすが、この国の魔術師というだけある。奴隷獣を断罪できるほどの小賢しさね」
エッカルトが使役していた奴隷獣、本来であればこの地に存在しない魔獣だった。
遠くから連れて来たことにそう意味があるわけではなく、ただ彼にとっての余興のようなものだった。
それがギルド協会にとっていい錯乱になっただろう。
余計な調査の手間が長続きしたことで、エッカルトやその他の死徒の存在を軽視し過ぎていた。
「まずは一撃」
魔法杖をシエラへ向ける。その先に存在する円形の魔力核が光り輝き、魔法陣を高速回転させる。
術式は成立している、エンネアは魔力を注ぎ込み魔力収束砲の一撃を放った。
その一撃は凄まじい、地面を一気に薙ぎ払う暴力を伴っていた。
しかし、シエラには当たることなく。彼女はそのまま高速の早さでエンネアに反撃する。
「っ・・!?」
彼女の回避速度もまた秀逸だった、それ以前にエンネアの移動性能が低い事を予見している。
高い魔力を集中させる分、エンネアは砲台としての能力に特化し過ぎている。
砲台である分、その場所から動く事はできない。
いくら強力とはいえ、むしろ他のサポーターが居なければそうして的になるだけだった。
「こ、のぉ!?」
ギリギリのところで魔法杖で防御するエンネア、しかしシエラによる回し蹴りによって一気に地面へ落とされて行った。
そうダメージは無いが、彼女にとっては魔力を無駄に消費する失態になっている。
「派手に攻撃できればいいというわけじゃないわね。予想通りだけど、貴方みたいな人は特に歪んでいる」
「歪み・・?」
「魔弾の最大速度は、落下する隼よりも低いそうよ?それを回避するなんて余裕なのは私は知って居る」
シエラにとっては修練済みの回避行動。
魔弾には事実上速度が遅い事が多く、その攻撃速度は下手をすれば投石よりも遅い時がある。
普通の人間にとっては砲撃系統の魔術師は恐怖対象だが、弱点を知って居る戦士からしてみればただの的でしかない。
「そうね。でも私は一人じゃない」
「・・っ!?」
突如、木々の間から迫って来る爪をシエラは回避する。
正直、回避した後には困惑する程の格好だった。
黄金の爪、後は鎧だろうか。しかし、ガントレット以外の部分はドレスだった。
奇妙な格好をした少女、彼女もエッカルトの妹・・シスターズなのだろう。
「遅いぞネロ!」
「だってぇ、メイク失敗してぇ・・」
メイク失敗・・というのは言葉通りなのだろうか。
派手な格好・・奇抜な装備をした彼女にとっては間違いではないかもしれない。
両手には大きな爪が存在する。奇抜な魔法礼装、注意する部分はそこだろう。
「あれだけ買い物させておいて失敗とか許さないから!教科書通りやればいいだけじゃない!?」
「むー、エンネアにとってはどうでもいいけど、私にとってはよくないんだからねぇ?」
温度差の酷すぎるタイプだった。
しかし、その性格と反比例して、重そうな武装を動かす。
その手のひらには、赤く丸い魔法核が存在する。そこから、燃え盛るような炎が出現した。
「私はネロ・フォン・グリューネヴァルト。666の焔。よろしくね、知らない人」
「これで2対1よ、貴方はどれくらい持つかしら・・?」
再度空中に舞うエンネア。ネロはシエラに狙いを定め、ゆっくりと前へ歩く。
地面に足が一瞬沈んでいる所を見ると、かなりの重量なのだろう。
「さっきの口ぶりだとかなり焦って居るみたいね。私を標的にしなくちゃいけない事なんてあるの?」
「計画の中であんたが一番邪魔なんだよ魔術師。さぁ、行くわよ!!」
エンネアによる無数の魔弾。それが周囲へと円形に場所を封鎖する。
逃がさないつもりなのだろうか、その直後にネロによる攻撃が襲い掛かってきた。
「どっかーんミ☆」
少女の頭よりも遥かに大きい手と爪。
その一撃がシエラに当たることなく、地面を陥没させる攻撃を保っていた。
更に、いくつかの魔弾がシエラに襲い掛かる。何とかそれを回避したが、まだネロによる暴力が続く。
「逃げないでー」
間抜けな声でシエラを追従しようとするネロ。どちらにしてもかなり迷惑な相手だった。
ただ、さすがにエンネアもネロごとシエラを倒すような真似はしないだろう。
シスターズ、その在り方は不詳だが。死徒二十七祖の近くに居る程のことはある。
「とりゃミ☆」
単純かつ間抜けな声と共に、地面を破壊するほどの力を発した。
ただそれも回避し、シエラは彼女を無視して周囲の魔弾を一気に薙ぎ払った。
大鎌から延びる光の刃、二人にとってもある一種の理不尽を感じる攻撃を感じさせた。
「嘘、防壁結界を突破した・・!?」
「逃げてエンネア!}
困惑していたエンネアに対し、一気にシエラは突撃する。
その攻撃を何とかエンネアは回避しやり過ごそうとしたが、シエラの行動は一瞬の緩みを見せていた。
ぐるん、と回転した直後、一気にシエラは大鎌を横に空振りさせる。
その直後に発生した紫色の光刃が、エンネアに対し唸りを上げて直撃していったのだった。
大きな爆発。ただ、ギリギリの所で魔法障壁を這ったところで多少ダメージはなかった。
「これがフレイヤの力・・?こっちだってわざわざ外国から来たんだ、そう負けられるか!」
大きな声を上げるエンネア。その彼女に、念話のコネクトが感じられた。
「エッカルト兄さま・・?」
「地下祭壇にエレオノーレが入った可能性がある。我は先に地下へ行くことにした」
「ちっ、先を越されたか・・!兄さま、私も・・!」
「彼女に関しては私が抑える。その魔術師を抑えておけ」
ということは、ナクラは既に処理されたのだろうか?しかし、それだけで安堵するわけにもいかなかった。
「ネロ、全力を出す事だけを考えて。彼女を地下祭壇には行かせない!」
「エンネア、でも彼女、殆ど傷一つついていないよ?」
攻撃には当たることなく、ネロとエンネアの連携攻撃から逃れていた魔術師。
彼女の戦闘能力はそう伊達ではない。魔術師として最高位の戦闘能力を持っているのは事実だ。
だからこそ、エンネアにとっても負けられない感情はあった。
「何、こっちだって魔術礼装があるんだから!最大威力の魔弾一つ当たればあいつだって・・!」
全力の魔力を引き出すエンネア。
そんな彼女を見たシエラは、ただ表情に笑みが見えていた。
「そう、本気で行くのなら私も容赦しない。私も、今日ぐらいは本気を出さないとね」
今日、というその言葉の意味をネロは一瞬分かりかねていた。
一瞬感じた寒気。ネロは一瞬、エンネアによる攻撃を止めるかどうかを考えていた。
それも遅く、エンネアは己の最大魔力を以て、魔力収束砲撃を射出させる。
強力な一閃、その力は魔術師としては十分な破壊力を保った魔法だった。
ふと、目を開ける。かなり酷い死に方をしたような気はするが、何とか覚えている。
正直、あのエッカルトという男を少し舐めていた気がした。
吸血鬼としての能力というよりは、剣士としての能力だろうか。
奴が持っていた黒い魔剣に一撃で殺されるとは思わなかったが、即死に関してはむしろ慣れている。
体は蘇生済み。ただ、少しばかり周囲が瓦礫だらけになっているのはどういうことだろうか。
「う、ぐ・・・!?」
起き上がった直後、その場所で吐いてしまった。肉体的なストレスだけはまだ未熟なようだ。
その場所に、ゆっくりと降り立つ一人の魔術師。どうやら、シエラの方は戻ってきた。
「大丈夫?貴方・・正直、普通なら死んでるはずだと思ったんだけど」
「あぁ、平気平気。でも、なぁ・・もう二度と吐かないって決めたんだが、この異世界生活は厳しい」
「吐かない?」
どうも、吸血鬼に殺される事に関しては悪運が強いらしい。
あの魔剣に関しては要注意ということは分かったが、それも初見殺しだ。
前から突撃した俺が悪いとしか言いようがない。あんなものを防ぐぐらいなら回避を・・。
「ってあぁ!?」
「どうしたの?!」
「剣・・折れてる」
教会で貰った剣が、奴の理不尽攻撃で粉砕してしまっているようだった。
折れた直剣と言い直したところで格好つけられるわけでもなく、廃棄処分レベルだった。




