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横に薙ぎ払う魔法剣の一閃を、ナクラは何とか防ぎ回避する。
場外判定負けにならないよう、移動はかなり慎重に進めていた。ただ、それをあざ笑うよう、少女による剣劇が迫る。
イルシャという名の少女剣士による攻撃、それは人同士の戦いに慣れた容赦の無い連携になる。
方向感覚が一瞬狂う程のせめぎ合い、ただその場所に居るだけではない臨場感という奴だろうか。
ギルド協会内に存在する剣技会場もそう広い場所ではなく、剣道のルールとそう大差ない間隔になる。
嫌な経験を味わっている気分だった。そもそも、ナクラのようなゲーマーにありがちな戦闘方針はまず取れない事が多い。
魔法剣という、殺傷能力のない武器で戦うためそう危険性はないが。一撃当たればそこで体に痕がつく。
光の痕が一ポイント会得した形になり、先に二ポイント会得した側が勝利するシステムだった。
正直、この手の戦いは苦手だ。徹底的に管理されたレギュレーション、そしてルールは狭苦しく感じられる。
この勝負で得られるのはある意味、そのルールにおいて試される技量の方だろう。
だからこそ過度に難易度は高くなる。ある意味、それは肉体面にもすぐに現れるはずだがこの場合は違うようだ。
イルシャによる、視認が難しい程の速度で放たれた三段突き、それを見事に弾いて見せたとはいえ勝利にはならない。
反撃といわんばかりに攻撃するものの、イルシャはすぐに後退して回避してしまう。
むしろこちらがギリギリという感じだった。白線の外に出ないよう細心の注意を払うが、集中力が持つだろうか。
魔法、筋力以外の能力も必要になって来る。大体、こんな勝負を引き受けたのがそもそも間違いだ。
考える事が多すぎる、ただある意味彼女の方が有利であるのは確かだった。
この試合で認可されている攻撃方法は、D以下の魔法奥義と、無属性の低ランクスキルのみ。
つまり、筋力強化や縮地程度であればいくら使っても問題は無いとされる。
イルシャは確かにルールの範囲内で戦っている、だからこそその技量差で確実にナクラを仕留めるつもりだろう。
その両者によって行われる試合に白熱する人たち、ただそんな熱気すらナクラを攻撃しているかのようだった。
回転するよう、一切の淀みなく卓越した動きで移動するイルシャ。
本来ならありえない速度で移動しているようにも見える。縮地と呼ばれる技術の一つだろう。
一瞬、スライドするように迫るその高速攻撃。ただそれも、ナクラは慣れる事で対処するだけだ。
時間制限3分、半分を使い切った時点で緊張感が倍増しになってきた。
イルシャもそう手加減しているわけではない、ただナクラは慣れない戦いの中で見極めていることを自覚する。
その気になれば一流の剣士並みの実力を発揮できるだろう、『そうなる前に』倒すのが正解だろうか。
ナクラによる攻撃を二度回避し、そこで一瞬のせめぎ合いが行われる。
中央付近のフィールドで行われた3秒足らずの攻防戦、その一瞬の隙をついてイルシャによる戦技が発動する。
一閃。回転するように広範囲の魔力が空気を切断する。
戦闘であれば致命傷だったが、その範囲はあまりにも広すぎたような気がしていた。
「なっ・・!?」
「一点取ったわね。さぁ、次はどうかしら」
通常の戦闘であれば、場外判定など存在しない。むしろ逃げられる範囲だった。
徹底されたルール内で行われる厳しさという奴だろう、逆を言えばそれだけイルシャの器量が高いのだ。
「もうさっきのは当たらないぜ。いい加減いまので飽きが来たからな」
再度、中央に戻り姿勢を正す。次にイルシャから一点取られればそこで試合終了になる。
集中力を保つことの難しさの方が、ある意味では問題だった。
周りを気にするタイプであればすぐに負けるだろう、そもそも同じルールである以上イルシャにも同じストレスはあるはずだ。
ゲームの駒のように、先手有利というわけでもない。明確な駒で配置される戦闘でなければむしろ問題は無いはずだ。
ナクラでも勝利することはできる。この場合必要なのは、イルシャそのものを認識する事だろう。
「第二試合、初め!」
高いコングの音が鳴り響く。その瞬間、先手を取るためにイルシャの下段斬りが迫ってきた。
速度で一気に勝負をつけるつもりだろう。その上方、手薄になっている前面に魔法剣を振るう。
その攻撃をギリギリのところで回避するイルシャ。一瞬のバランスが悪くなったところで再度攻撃を開始する。
イルシャの戦闘方針は大体読めてきている、相手の隙が見えて来たところで一気に速度を上げるタイプだろう。
ただ、それと同じ真似ができないわけではない。事実上、魔力そのものはイルシャと大差ないはずだ。
「あっ・・!?」
イルシャは下段斬りのあと、ナクラが後退すると思っていたのだろう。
一瞬の油断、相手の読みを間違えた事でイルシャの右腕に魔力の痕が残る。
「嘘、今のは・・」
明らかに本気で迫ったはずなのだが、その速度を明らかに読まれていた。
イルシャにとっても、その認識の食い違いはどこかおかしさを感じていた。
ランクFだと舐めてかかったからだろうか、戦い慣れしているようにはまるで見えていないようだが。
「ふぅん、やればできるじゃない。それともさっきのは手加減していたのかしら?」
「何言ってるんだ、俺はさっきからずっと本気出してるんだよ」
場外に出ないようにするというだけでも、異常な集中力が必要だった。
慣れていない行為はそもそもするものではない、いきなり本番でそれを実践させられるのだ。
過度に速度の速い攻撃をする相手だ、調子に乗って攻撃すればすぐに白線を越えてしまう。
ゲームだったら、見えない壁にぶつかる程度だ。しかし、場外判定ありの試合はまず誰もやりたくないだろう。
ゲームが難しくなりすぎると、結局誰もやりたがらなくなる。それは現実でも同じだ。
ナクラにとっては本来やるべきではない戦いが凝縮されている。
そもそも、さっきから外野がうるさすぎてまるで集中できやしない。
「成程。試合そのものが初めてなわけね。大分読めて来たわ」
「っ・・!?」
すぐにイルシャに理解されてしまうぐらいには、態度に出ていたのだろうか。
相手もそう馬鹿ではない。ピンク髪とはいえ、相手もまた少女剣士なのだ。
「次は外さない」
三試合目。イルシャの構えが変わる。左手を前に出した構え、コングによる試合開始直後にナクラは左へ避けた。
『こいつ、無駄に何か知ってる・・!』
突きの後に右への攻撃を行う体術、それを見切った行動をしている時点でイルシャにも不可解な点はあった。
荒い呼吸、集中力の無さ。その時点で彼は戦いなれていないくせに勘だけは鋭い。
いや、それとも勘ですらない行動だと。イルシャはただ苛立ちを感じさせられていた。
ただ、そこで叫び声をあげるわけにもいかない。ルール上そういう決まりになっている。
ナクラによる攻撃をステップ移動で回避する。イルシャにとってそう難しくない行為だったが。
ただ一瞬、ゆらりと動くその緩慢な隙をついて、反射的に攻撃してしまう。
攻撃が弾かれる。明らかに誘導させているような攻撃だった。
相手の攻撃を誘導させるくらいには余裕が出ているらしい、やるならさっさとやるべきだったと後悔させられるくらいには。
動きの早いイルシャを逆に攻撃させて隙を割り出させようとしている。
無駄にこちらは動かない方が安全だと思われているのだろう、イルシャにとってもやはり面白い相手だった。
貰ったと言わんばかりに、イルシャへの反撃を行う。
魔法剣の剣先が一瞬命中しそうになる。ギリギリの所でイルシャは後ろへと回避した。
あと一歩、そこで勝利判定に近づく可能性があった。角際の白線に到達してしまったからだ。
そうなればこちらの有利になったと、ナクラはそのまま大きく魔法剣を振るう。
その一瞬の攻撃が、どこかスローモーションにさえ取れていた。
しかし、ナクラにとってもそのイルシャの行動は不愉快なまでに出来過ぎた事をやっと自覚する。
逆に誘導させられた。イルシャはそのまま一瞬真後ろへ飛ぶ。
足が白線の外から出ればその時点でナクラの勝利が確定するが、彼女の飛翔が謎の移動を見せた。
空中を蹴るように。そこに何も存在しないはずが、地面をけるようにしてイルシャは飛び上がった。
華麗に回転するようにしてイルシャの攻撃がナクラの肩を斬り割くように命中し、最後の一点を取ったのだった。
すた、と地面に着地するイルシャ。
戦闘終了により会場がより一層湧くが、ナクラにしてみれば意味の分からない状況だった。
「って、何なんだよ今のは!?」
明らかにあり得ない物理法則が働いていたが、ただイルシャは馬鹿にすることなく目を向ける。
「二段ジャンプよ」
「は?」
「我がデルウィーク家に伝わる魔法剣技の一つなの。無属性であるゆえに、この試合でも最高の戦力になりえるわ」
「・・・戦力っていうか逃げに使ってなかったか?」
本来なら余裕で場外判定負けになるような移動の仕方だったが、それを二段ジャンプで無理やり無効化したのだ。
「卑怯だ、ここに卑怯な奴がいるぞ!」
「正当な武芸よ。ルール内であれば問題ないわ」
「二段ジャンプなんで出来る奴お前しかいないだろうが!」
「あ、あと2、3人くらいいるでしょ!?」
「お前の家の奥義ってさっき言ったよな!?明らかにでかい声で!」
「し、しつこい男ね!?負けたからって変な事考えてるのかしら!?」
試合後とはいえ、何処かナクラにとっても呆れるような会話になってしまった。
そこで、外野側から数人の男女が彼女の所へ来る。
「はいはい、お遊びはここでおしまいにしましょうか」
「今のは完璧な試合でしたね、イルシャとここまで互角にやりあえる奴は久しぶりです」
「さすが初心者狩りというだけあって見事な腕前だったな」
今、一瞬聞き捨てられない言動を吐いていなかっただろうか。
「人聞きの悪いこと言わないでくれる!?私は正当な戦いをしたまでよ」
「ランクFからCまでの魔術師や剣士と戦って勝利するのは日常茶飯事だろうが。
いいかげんもう少し任務に真面目に出たらどうだ?最近は金が無いんだろう?」
「何人の秘密ばらしてるのよ!?貴方たちどっちの味方なわけ!?」
どういうことらしいが、イルシャの目的が初心者狩りというのも割と滑稽なものだった。
ただ、その初心者狩りの最後に二段ジャンプで無理やり回避したのはいいが。
「何だ、任務に出てないってことは、魔獣退治が苦手な奴か」
「なっ、やれるわよ!ただ調子が悪いだけの日が多いんだから!」
調子が悪い日って、別に毎日アレがあるわけでもあるまい。
「こういう奴なんだ。つい最近でも、ランクの低い剣士を狙って試合に勝ったことがあってな。
ギルド協会にとってはどうでもいいらしいが、こっちは風評被害が・・」
「分かったら、どっちにしても私の勝利でしょ!?」
「勝てばいいってもんじゃないが。この場合、試合のルールが俺向きじゃ無すぎるな・・」
「何よ、私だって本気出せばね、って何処に行く気?」
「大体今のでお前の考えてる事は分かったから。あと、初心者狩りは後が悲惨だから止めとけよ?」
二度目は無い。というより、イルシャにもルールが適用されているのだ。
二段ジャンプという分かり切った奥の手など初見以外には通用せず。
恐らく、後何回か戦えば余裕で撃退できる程度のキャラなのだろう。
暴れまわろうとするイルシャを阻止する仲間たち、ただ余計な時間をくったような気がした。
出口の前。さて、これから先夜までどうするべきか迷う。
「さっきのは良い戦いだったわね。ナクラ」
近くまで受付嬢のシエラが来た。そういえば、自分自身はそもそも何しに来たのだろうかと思い出す。
「それで、私に何か用があったんでしょう?何なの?」
「それは忘れた」
「はい?」
「ある意味そう深い意味はないんだけど、今日の夜は外出しないほうがいいかもしれない」
「どういうことよ」
「ようするに、良い子は早めに寝て置けってことだな」
ただ、ここで無駄に何か危険な事を増やすつもりもナクラにはない。
「あのね、私だって一応ギルド協会の人間なのよ。この町で変な結界が起動していることぐら分かるわ」
「あぁ、まぁそうだよな」
「貴方が以前から任務に来なくなったのも、一応何かあると思っていたけど。
何か酷い目にあったのなら私たちに相談する方がいいわ」
「それは山々なんだが、黙秘権を行使したい」
「そうやって何かに首をつっこんでいるのは分かった。別に止めないけど、酷い死に方になるかもしれないわ」
「別にそういうのは慣れているつもりだし。俺だって別に英雄気取りのわけじゃない」
棺桶に眠って居るお姫様のためには、一応努力したいつもりのだけだった。
ただ、それをシエラには殆ど見抜かれているだけかもしれない。
「そうだな。とりあえず、シエラに聞くことは・・そうだ。この町の地下施設のことは知ってるか?」
「大昔に王族が作った洗礼用の施設は聞いたことあるけれど。
今では、その地下も下水道とネズミのせいで誰も入りたがらない場所になっているし」
「ネズミ程度だろ?」
「犬並みに大きいわよ。貴方だってそんなの相手にしたくないでしょう?」
犬って子犬とかじゃないのだろうか。
確かに、いくら魔術師でもそんな奴を相手したい奴はいないだろう。
「ギルド協会は、結界について何か知らないのか?実際、問題になっていることだろうし」
「ギルド協会は魔法に関連する出来事を管理する組織だから。そこは女神教会と王庁に委ねるしかないわね。
だから、ロンドベルク王庁は何か知って居るはずだろうし。本当ならすぐに誰かが地下を封鎖するはずなんだけど」
「封鎖?」
「地下水道からの直通ルートがあるの知ってる?あの場所から直接下へ降りるリフトがあるんだけど。
あの場所は王庁が管理しているはずなのに誰も封鎖していないのよ。どうしてかは分からないけれど」
その、地下祭壇へ直接降りられるリフトの話を聞いた後、ナクラは直接その場所へ向かうことにした。
時刻はまだ昼間だが、むしろその時間帯の中で調べられることもあるだろう。
地下水道への道のり。その大きな入り口は橋の下に存在していたが、そこを潜り抜けるのは用意だった。
近くの子供が侵入しない理由としては一つ、その場所は別の物によって確かに邪魔になっていたからだ。
「犬並みのでかいネズミか・・」
ネズミが数匹ほどその場所を邪魔している。
近隣住民が近づかないとはいえ、その生き物は魔獣ではなく動物扱いなのは謎だった。
曰く、そのネズミがネズミ以外のものになって初めて魔獣になるのだとか。
異世界の意味の分からない倫理観を呪いつつ、そのネズミをさっさと排除するのだった。
幸い、その犬ネズミはさほどつよくはなく。剣による攻撃によってあっさりと倒すことができた。
そのまま奥に行ったところで、リフトを発見することができた。
その機能は作動可能な状態になっており、その場所に入って下へ移動する。
先に存在した場所は広く、そして何かが蠢ているような場所だった。
スライム、だろうか。泥のような姿の生物があったが。問題はそれだけではない。
その泥の中からゆっくりと動いている人の影。明らかにグールだろう。
感じられる感覚は、明らかに結界が機能していることを意味する。
つまり、この場所は昼間の状態であってもグールを生み出せる状況になっているのだ。
悪夢のような神殿から、とりあえず外へ戻ることにした。正直、あまりその場所に居て気持ちの良いものじゃない。
「アレクサンドルは別ルートを辿ったらしいけど。こっちのほうが早いのか・・?」
意味不明な構造になっているようだが、そこら辺は後でゆっくり考えることにしよう。




