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「それではまず、ナクラさんがどの程度知識があるか確かめましょうか」
朝。朝食が終わった後に、イザベルによる個人授業が行われていた。
しかも他の子どもと一緒に、子供(幼児)用の椅子に座っているのでかなりバランスが悪い。
何の罰ゲームなんだろうか、正直早く終わってほしいプレイになってしまっている。
「ナクラさんは何処からやってきたのか分からない子羊のようですが。この国の名前は分かるでしょうか」
「そんな知識は無いんだけど」
「つまり、何も知らない可哀そうな人というわけです。何という試練でしょうか、これでは立ち行く術もありません」
「悪かったな、こっちだって意味不明で分からないんだし」
「では、メルルさん。この国の名前を可哀そうな子羊に教えてあげてください」
わざとやっているんだろうかこの人は。
すぐに町の冒険へ旅立ちたいのだが、こんな茶番のために生きているわけでもないのだ。
「この国の名前は、ロンドベルクという名前の王国です」
「はい、よくできました」
ロンドベルク王国なのは分かったが、やはり中世ヨーロッパ的な世界なのだろうか。
剣と魔法の世界だから、別にそうすぐに死ぬわけでもなさそうだが。
「ちなみに、この町の名前はハイデという町です。女神教会の救済施設が12個存在し、
私たちのようなシスターは哀れな子羊を救うための修練を毎日かかさず行っているのです」
「シスターからしてみれば十分に哀れに見えるんだろうか俺は・・」
ただ町に教会が12個か。多いかどうかは分からないが、ただ孤児の人数も多い。
イザベル曰く、戦災孤児のそうだが、そうやって生きている子供たちにとってはどう見えるのだろうか。
「また、女神教会は聖堂騎士団という組織とも関連性があり、戦争の被害にあった人たちも救済しています。
聖堂騎士団はより政治や戦争と深い関連性を持ち、世界の救済の使命を担う重要な役割を持っていました。
この子たちも、その聖堂騎士団に救済されて遠くから来たのですよ?」
「はぁ、よくある話だけど、戦争もよく起きているのか?」
「えぇ。隣国であるリズゲイル王国とは、分裂抗争より後に起きた不和の影響で争いの長期化が起きているとか。
国境線上にある大洞窟が争いの一つとも言われているそうですが、その戦争による被害は甚大ですね」
「甚大ねぇ。イザベルさんにとっては、やっぱり助けたいとかそういう気持ちはあるのか?」
「私にとってはより多くの人を助けたいとは思っていますが、軍事的な活動に参加することは許されていません。
誰かのために戦うのは騎士のためであり、誰かを救うのは修道女の役目だということになっているようです。
ナクラさんにとっては似たようなものかもしれませんが、私のような修道女はこうして子羊を助けることのみ」
子羊とはいうが、ただナクラもそこまで別に無力だとは思っていない。
あまりにもスタートラインがしょぼすぎるだけの話だ。何も無い、服を身に着けているだけの存在などたかが知れる。
無一文と呼ぶにしてもあまりにも酷い始まりだったが、イザベルにはむしろ感謝しないといけないのだろう。
「まぁ、こうしてイザベルさんに助けられなかったらマジで死んでいたかもしれないか」
それはナクラにとっても十分なくらい重要な話だ。
あの場所で倒れて死ぬようなことがあっても、次があるとは思えない。
普通の人間のままこの世界に来てしまったのだろうか、自分に何か特別な力があればいいが。
「野垂れ死にっていうんだよねそれ」
メルルはそう言っているが、実際の所それが普通の人間の限界なのだろう。
「ある意味鬼畜な運命に俺は要るわけだが、しかしどうしてここに居るのかまるで分からない」
「まるで?」
「俺がどうしてロンドベルクっていう国に居るのか疑問なのだ」
本当にどうしてこんな場所に居るのだろうか。
もう少しまともな情報もほしいところだが、ナクラを異世界に導いた女神はここには居ない。
もしかしたら女神以外の何かかもしれないが、ただ説明無しの状況で一体何を考えろというのか。
「きっと、それもまたナクラさんにとっての使命かもしれませんね」
「野垂れ死にしそうになるような使命なんて御免なんだが。それでこれから先どうすればいいんだ?」
「これから先、ですか?」
「この教会にずっといるわけにもいかないじゃないか」
ずっとこの教会に居たとしても救いなど来ないだろう。
悲観的過ぎるかもしれないが、そんな生活をしていたところでまるで意味はない。
「仕事先が欲しいのであれば、そうですね。一度ギルド協会に行ってみるといいでしょうか」
「おぉ、ギルド協会か」
「ギルド協会アミュスフィア」
「え?」
「国ごとにギルド協会は違う組織になるので、ロンドベルクの場合はアミュスフィアという名前となります。
アミュスフィアの低ランク帯であれば、ナクラさんでも登録できるかもしれませんね。
ただ、こちらの教会指定の書類を持っていないと、いくら魔力があっても無理ですが」
「なんだ、もしかして用意しておいてくれたのか」
「えぇ。朝に、孤児名簿にしっかりと書類に記入しておきましたから。
もし何か希望があれば言ってください、年齢その他の情報はまだ記載していませんので」
「孤児名簿って、俺を孤児扱いしてるのか・・」
「少なくとも、ご両親は近くには居ないのですから」
それはそうだが、一方的に死んだ扱いにするのもどうかと思う。
ただ、そうしたイザベルによる書類整理がすまされることで、ギルド協会へ打診することは難しくなかった。
その教室での会話の後、昼間にさっそくギルド協会への施設へ移動することにした。
靴屋、服屋、喫茶店等の店舗の前を通りつつ、角に曲がってただひたすら移動すると施設を発見した。
ギルド協会アミュスフィアの本部、そこには色々な人が集まっている感じだった。
その賑やかな場所を通り、登録可能な受付へ行く。そのカウンターに居る受付嬢はかなり可愛い女の子だった。
「いらっしゃいませ、ご登録希望の方ですね」
「あぁ。早速ギルド協会の剣士になりたいんだけど」
「こちらに書類があるので、まずお名前とご住所をお願いいたします」
一瞬かなり微妙に思ったが、住所に関しては孤児登録が済まされているので何とかなるのだ。
教会に拾われた事を幸運と受け取るべきかどうかは悩むところだが。
書類を書き終え、受付嬢、名前をシエラという女性に渡すのだった。
「では、次に魔力測定器で審査を行います」
「魔力測定・・」
別に能力的なものは自分でも分からないが。
その測定のための器具が目の前に出てくる、その台の上に手を乗せろという事らしい。
その台の上に手を乗せると、魔法石が光り出し輪が回転して何かを算出する。
器具による測定はすぐに終了、何か文字らしきものが浮かび上がるのだった。
ランクE。文字通り最下位のランク帯のようだった。
「一応魔力らしい魔力はあるってことか」
「何で今さらそれを・・あ、とりあえず登録可能な魔力保有量を確認いたしました。
ここで手続きを行いますので、もう少しお待ちください」
「良し、とりあえず一段階目クリアだ」
シエラという受付嬢は何か、測定器を使って作業をしているようだが。
「異世界にもPCってあるのか・・?」
等と自分でも意味不明な事を言ってしまったが、その答えを言うのは、真後ろから突然来た男性だった。
「魔法演算機、それも知らないでギルド協会に来るとは中々の田舎者だな」
「あぁ?」
「いや、別に喧嘩を売るつもりじゃない。むしろ初心者大歓迎の世界観だ。
こうした環境じゃ、いつ誰かがヘマをして死ぬのか分からないからな」
「騎士ウェルナー様、彼はまだ登録を完了していませんので、必要異常な干渉はマナー違反になります」
「おぉっと、受付嬢に怒られてしまった。シエラ殿にはいつも感謝しているのだが」
シエラの方は、まだ演算機に集中しているようだった。
かたかたかた、とキーボードを打つと、中にある歯車が回転し続け、浮遊ディスプレイに何かが入力されている。
「いや、だから何なんだアレ」
「魔法演算機が発明されたのは100年くらい前だよ、それより時代は紙で大変だったらしいが。
ただ高価な魔法芸術品だから、俺たちみたいな脳筋野郎には扱えない代物だそうだ」
「はぁ、便利な割には外はかなり古臭いぞ。バランス悪くないか?技術力の発展レベル」
「バランスというのが一体なんなのかは分からないが、少なくともこのギルド協会は最先端の技術が集約されている。
俺たちを監視管理できる最高レベルの組織がアミュスフィアなのだ。分かったか新人君?」
「あまりお前の技量と関係なさそうだな。ランクはどれくらいなんだ?」
「Cだ」
「・・・・・・」
「おい、そっちは花瓶だぞ」
せめてランクBと言ってほしかったが、中途半端に低いランクのせいかすぐに退場しそうなキャラだった。
「えっとベルナーさんでしたっけ」
「ウェルナーだ」
失礼噛みました、というのは冗談として一応言っておくことはある。
「一応言って俺は・・」
「ご登録が終わりましたお客様。お友達との会話は後で行ってください」
「友達じゃないし!?今会ったばかりだからな!?」
「そのようですね。こちらに、会員証がありますので大事に扱ってください」
どうやらすぐに作ってくれたようだ。
その会員証を受け取ったととで、ナクラはギルドマイスターランクEとなるのだった。
「ここから俺の冒険が始まるんだな。何だか割と都合が良すぎる気はするがまぁいい。
さて、まず仕事を始めさせてもらおうか」
「まだ説明が終わって居ません。後、魔力測定の際に貴方の魔力属性が判明したので一応付け加えておきます」
「え?」
「現在、ナクラさんの能力は闇属性となっておりますが、それに対応する任務を受注させていただきます。
魔法属性の相性によって危険なトラブルを回避するための対処なのでご了承ください」
「じゃぁ、受けられない仕事とかあるのか?」
「特に、闇属性の魔力を持つ魔術師は相対する属性に対し危険な状況に陥りやすいんです。
闇属性は光に弱く、そして同じ属性である闇に弱い。そのため、墓所近くで起きた事件に関して担当することはできません」
「ようするにお化け退治はできないってことか?でも同じ闇なら・・」
「本当に初心者なのね・・ごほん。相手が幽霊やマテリアル体の場合、精神への直接的な影響が出やすいんです。
むしろ、精霊種である炎属性がより霊体への攻撃力が加算されやすいため、優先的に配置されるようになっていますね」
「まさに業火で死体を焼く感じか。じゃぁ、俺みたいな奴は何をすればいいんだ?}
「まだランクEなので、遠出するような任務は受けられません。
なので、町の中で一般市民から提出される簡単なクエストを受注してもらいます」
「初期クエストなら別に問題無いか。まぁ、数は多そうだからいいけどさ。魔物退治とかは無いか?」
「いいえ。原則ランクE、特に入会して一か月を経過していない魔術師には討伐任務は出されませんのでご了承ください」
「何か厳しくない!?」
「規則は規則ですので。安全を優先的に考慮した任務受注システムが考案されたからこそ、ギルド剣士の死亡率は各段に低い数値となっています」
「文明の利器ってわけだな少年」
「だれが少年だ!?」
ウェルナーにとっては十分な経験はあるかもしれないが、しかしそこまでして安全性優先で仕事をする状態なのか。
「まぁ、本当に魔物退治がしたいなら勝手に外に出るのもありか」
「個人的な魔物の討伐は規則で犯罪扱いになっていますが?」
「え?」
「おやおや、猪相手でも勝手に殺さないでくれよ。魔物もあぁ見えて純真なんだ」
「え?」
「もし魔物を勝手に狩猟するなどの行為をした場合、最大数十万ルビーの罰金、もしくは拘禁刑の可能性があります」
いや、厳し過ぎない!?
内心そろそろ倦怠感とストレスのピークが出て来てしまった。こんな世界に来てまでそういう話はしたくないのに。
「まぁ、正当防衛レベルならある程度の殺生は許されるが。それも暴走状態の魔物だけだ。
君にとって大切なのは、やはり社会の規範を守って正しい技術を知るべきだな」
「だからさっきから何なんだよお前!?説明はいいから仕事させろ!?」
「鬱陶しい無知っぷりね・・聞いていて吐き気がしてきたわ」
かなり酷い扱いになってきた。これが新人教育?なのだろうか。
「はぁ・・もういい。それで、俺みたいな超ルーキーが出来る仕事ってなんだ?猫探し?馬小屋の掃除?」
「さすがにそんなのな・・・ございませんから」
流石にシエラも一応承知はしているようで、すぐに魔法演算機で任務探しをするのだった。
「ありました。商業地区に住んでいる錬金術師からの個人任務ですね」
一応任務はあったようだが、個人的な任務とは一体何なのだろうか。
「ユーリィ・アストラエル。見習い錬金術師として数年前から商業地区に住んでいる女性です。
彼女は、自分の護衛を探しているようですが、森林地区での採取活動なので特に危険は無いようですね。
ただ、見習い錬金術師である以上、もしものことはあるとかなり危険です。護衛は、必ず必要になるでしょう」
「成程。見習いってころはレベル1か。でも、そういう子ってギルド協会に入会してるんじゃないか?」
「魔術師が全員ギルド協会に入会しているわけではないですから。特に商業系は」
「あぁ、つまり個人営業か・・?」
「そうですね。個人で営業している限りだとそう高い社会システムの中には入れませんが。
自由度に関してはギルド協会より遥かに高いでしょうか」
「でもさっき私的な討伐はできないって言ってなかったか?」
「はい。だから彼女には、狩猟免許と呼ばれる別の資格が与えられています。
この場合、高額な資格運用になるので、ナクラさんの立場では少し難しい範疇の物になります。
もっとも、ギルド協会に既に入会されているので、その辺りは関係ないですね」
「その狩猟免許はある意味気になるが、ギルド協会と違うのか・・。
何というか、ここまでスムーズにいかないのがある意味受付って感じだが・・とりあえず任務は受け取ったよ」
疲れがかなり高まって来る。まさか異世界に来てまでこんな気持ちになるのだろうか。




