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町の貴族街にある屋敷、クライスラー家。その長男として生まれたユリウスにとっては、ただ自分にとっての踏み台でしかないつもりだった。
クライスラー家はロンドベルクの王族に繋がりがある貴族であり、娘が何人か王族に嫁ぐ事があるようだった。
曰く、クライスラー家が経営しているいくつかの企業に王族が天下りすることもあるそうだ。
何らかの理由で権限が低下した王族が特に企業の社長とやらに就くそうだが、それについてユリウスは何も言うことはなかった。
12年間、彼は家庭教師と共に高度な授業を受けて成長している。
そうした孤独な環境、教育システムの中で本来のユリウスが成長するとなると話は別かもしれない。
アレクサンドルという、元は外国の貴族がそのまま転生したことである程度魔力だけは底上げされている。
ある程度この生活が続けば、最終的にユリウスは長男として企業の後を継ぐことになるだろう。
過大に期待されているわけじゃない、そうした特殊な環境のなかで生きていることは普通であれば窒息するかもしれない。
それだけ、その屋敷、家系が持つ財産は莫大な物だからこそ、それに見合った資質がつく。
ある意味、それだけでも力にはなるのだが。ただユリウスにとって気になるのは社会の方だった。
ギルド協会、アミュスフィアは他のギルド協会と抗争する事があり、それによる悪影響が出ている。
ロンドベルクとリズゲイル、両国間の戦争。それによってクライスラー家の家計にもダメージが入って居た。
国境線上に存在するダンジョンやら、国にとって重要な存在となる文化財。
ただ、それだけが決定的な戦争の理由になるのだから、ある意味人類はいつになっても浅いままだ。
人は結局、そうやって互いに滅ぼしあうことしかできないのなら、王族など放棄したところで問題は無い。
吸血鬼の王国など尚更だ。だから、こうして転生までしたのだが、問題は肉体の方だった。
「果たして、姫君とお調子者はどう解決してくれるかな」
ただこちらは見ているだけでいい。結果を待って、そして都合のいいところで問題を回収する。
幸い、エレオノーレは命をとってまでユリウスに敵対することはなかった。
アレクサンドルの遺体を排除することが彼女の目的となった後は、ただ結果を待つしかない。
「ご主人様。お茶が入りました」
メイドの少女が、紅茶を持ってきてくれる。
こうした生活の中で望むべきものは何なのか。別に、世界のことなど気にしなくてもいいことだが。
高級の紅茶を飲む。その瞬間はある意味、公国では味わえないものだった。
吸血鬼の王族は相手にしたくない、あの空気に居れば何もかもが拙く感じられるだろう。
そうした環境の中で生きられる人間など居ないはずだ。だから、別に罪悪感も持っていない。
国を離れることに罪の意識などないし、今の方が幸せなのは事実とも言える。
「エレオノーレからしてみれば、いまの僕はただのんびりしすぎているしか見えないだろうけどね」
ただ怠惰を貪って居るわけではない。
出来る事は限られている、問題はむしろ死徒二十七祖が動いている事だろう。
奴らを相手するには、エレオノーレがまず完璧な状態であるか、相応の魔術師が必要になる。
この町では恐らく戦闘が長引くだろう。その元凶がユリウスであうのが事実だとしても、彼はその場所に居るのだ。
ハイデの町の中央区には一つ、聖王区と呼ばれる場所がある。
聖堂騎士団が持つ場所であり、その場所に居る人間は全員がランクB以上の剣士である。
ただその中でも、通路を歩く三人の少女は目立つ格好をしていた。
それぞれが特注の装備を身に着けており、そこに一切の淀みを見せない動きがあった。
彼女たちは、建物内にある一室へ入る。その場所も広く、部屋というよりは一つの空間だ。
その中央にはより派手な教会騎士用の服を着た男性が居る。
「バジリスク騎士団、ただいま到着いたしました」
「ごくろうだったな。エイミール・アレオン。竜討伐はまさに貴公らに相応しい功績であった」
聖堂騎士団の一つであるバジリスク騎士団は、王の命令によって竜討伐に向かう事がある。
ただ、その竜も特別な存在だ。他の魔物とは違い、王の認可が必要となる。
特に、レッドウォーリアと呼ばれるタイプのドラゴンと戦ったため、村一個分が消える惨事が起きていた。
それでも、ほぼ無傷の状態で勝利し、彼女たちはこの場所に戻ることになった。
「本当であれば祝杯を上げたいところだが、再度王から伝達が下った。
バジリスク騎士団に、吸血鬼討伐の命令が下って居る」
「吸血鬼、ですか?」
「うむ。一つは、死徒二十七祖と思われる術者だ。奴らは、何度かこの町で戦闘行為を起こしている。
魔術師同士の私闘は重罪だ、決してその暴走を許してはいけないだろう。
そしてもうひとつ目だが、こちらの方が重要とも言える」
「それは、一体・・?」
この町に死徒二十七祖が居ることも彼女たちは予想外ではあった。
本来、その魔術師はダキア公国で動く吸血鬼たちであり、外国まで遠出する余裕はない。
いくら太陽を克服しているようなタイプでも、そこまで広範囲には活動できないはずだった。
「地下祭壇。ハイデ町の地下に存在する古代遺跡に、よからぬ気配が存在するようだ。
そう活発ではないが、放置すれば町に被害が出る恐れがある。その気配を確認し、できれば排除せよ」
「地下祭壇・・それって、旧王朝の時代に作られた祈祷用の祭壇よね。そんな昔の祭壇がどうして・・」
片方の、青い髪の少女騎士が困惑の表情を見せる。
事実上あるはずのない祭壇の機能、それが活発化しているのは不自然だった。
「しかし、誰かが動かしたとみられる。私たちにとってはそう無視できない危険があるようだ」
「でも、死徒二十七祖が居るんだよね。私たちは、どっちを先に処理すればいいの?」
オレンジ色の髪の少女騎士は、ただ明らかに尋常ではない相手の優先順位に戸惑う。
地下祭壇か、もしくは暴徒か。
どちらを先に相手したとしても、長引く可能性がある。
「そうね。まず死徒二十七祖が先だと思うわ。地下祭壇は迷宮になっているから、そう簡単には入れない」
リーダー格の少女騎士が決断することで、先に戦うのが二十七祖と決まった。
ただ、本心としては、そっちを先に処理する方が楽そうだからという感じはあった。
実際の所、迷宮を迷っていては話にならない。敵よりも、その内部構造の方が問題なのだ。
「エイミールよ、貴公の武勇に期待する」
「教区長の命令に従い、より正しい未来を切り開きたいと思います」
そうして、三人の騎士はその場から離れる。
遠くの山から帰って来たにも関わらず、体力の方は魔法薬だけすませるだけだった。
精神的には明らかに戦闘続きだた、それでもやる気があるのは聖堂騎士団ゆえにだろうか。
ただ、死徒二十七祖にしても、どうしてこんな場所で戦っているのか。彼女たちには想像がつかない。
「一体何があったのかしらね。普通なら、他の人がすぐに排除するはずだけど」
「別に、聖堂騎士団も女神教会も人員が多いわけじゃないから。私たちは、ただ私たちだけで戦うだけ」
エイミールにとっては、ただ目の前の敵を倒す事が重要になる。
ただ他に言う事もなく、ただエイミールは目的のために動くだけだ。
「少なくとも、今日の夜は街の中で歩くことになる」
「貴方はいいんだろうけど、本気で立て続けに戦う気?」
「ついさっきも、村に入って来た亜人を倒したけれど。エイミールのやる気が高すぎるのが気になるなぁ」
「問題は無いわ。二人がやりたくないのなら、私一人でもやるけれど」
「相手は吸血鬼よ。それなりに対策ぐらいはたてないと」
「でも、どうして死徒二十七祖がこの国に居るの?」
シャルリーヌにとっては、彼等の国はより遠くにあるため近づくことも困難だと思っていた。
しかし、奴らはこの場所に居るのは分かって居る以上、戦うしかない。
エイミールにとってはそう難しくない葛藤だったが、シャルリーヌにとっては疑問だらけだった。
居る方がおかしいようなタイプだ。それくらいは、別に分かる範囲内だが。
「誰かが情報を隠蔽しているとか。実際、情報伝達の不整合で何もできないことがあるくらいだし」
「セシルにとっては、そこが気になるだろうけど。相手を倒すだけでいいと思う」
「見た目と正反対に脳筋なんだから。竜殺しのアレオンなんて、普通は嫌がる名前でしょうに」
「女とかはそういうのは関係ないから。少なくとも、生きている内は戦うつもり」
「それが生きがいだっていうの?」
「生きがい、というのは少し違うと思う」
宿命と言ったほうがいいだろうか。神からの使命、それがエイミールにとっての戦いの本質だと。
「まずは死徒二十七祖ね。夜に行動すればすぐに会うだろうし。休憩場所は何処に・・ん?」
ふと、セシルは向こう側を歩いているユーリィ・アストレアを見かけた。
どうやら、何かアイテムを誰かに受け渡しに行っているようだった。
遠すぎてすぐに話しかけられなかったが、どうやら今日も働いているようだ。
「ふむ。しかしどうして彼女と違ってエイミールは可愛げが無いのか」
外見はむしろ美少女だが、それと相反して人格が機械的に感じられた。
戦いだけが自分の姿というには、いくらなんでも中身と食い違い過ぎている。
もう少しユーリィ並みに打ち解けてくれてもいいのだが、やはりそうはいかないのだろうか。
「どうしたのセシル?おなかすいた?」
「貴方ほどはらぺこじゃないわ。ただ、リーダーが内面クール過ぎるのがいけないのよ」
「外見はキュートなんだけどねぇ」
「どうしたらいいかしら。いっそ、別の装備を身に着けるのも・・」
「以前防具屋にハート型の装備があるから、それ着るのも悪くないんじゃない?」
「以前って、一体どこの武器屋の話をしてるのよ・・?」
シャルリーヌしか知らない謎の店、そこに行ってみるのもいいが。やはり止めておこう。
変な防具には必ずくせがある、そこはセシルでも強制しようがない。
外へ出る。聖王区の広場はより華美な建築様式となっている。
その場所に居るだけでも、ただ少女らは際立っているようにも見えた。
騎士としての姿、竜殺しを行える程度の実力。
ただそれだけでも十分ではあるが、ただセシルにとってはまだ足りないものがあった。
それが何かは分からないが、仕事が終わったら色々確かめるつもりだった。
エイミールが少女騎士として愛でられるかどうか。個人的に研究していくしかない。
「私たちは私たちに勝負をつけるだけでいいかもしれないけど。
相手って死徒二十七祖でしょう?外交関係に問題が出るんじゃない?」
「シャルリーヌ。私たちはそこまで考えなくていいと思う」
エイミールの言う通り、あくまでバジリスク騎士団は聖堂騎士団傘下のグループだ。
命令は絶対、報酬は莫大。自分たちはその世界の中で、崇められる存在になる。
「ダキア公国って、吸血鬼の国だから。別にそこまで気にすることもないわ。
彼等も、周囲の国には何か影響を及ぼさない方がないくらいだし」
「血生臭い噂しかない。死徒二十七祖も、この国で何をしているのかは分からないけれど。
悪はこの手で断ち切る。どんな理由であろうと、問答無用で排除するのは変わりない」
「理由はあっても?」
「結果がもう出ている。この場所に奇妙な気配がするのは、あいつらのせいね」
「結界の気配は私も察知しているけど。実際何が目的なのかしらね」
町に広まって居る淀み。
感じられる結界の気配は、どこか血のような匂いがする。
エイミールにとっては、ただ余計な奴らが変なことをしているだけでしかないが。
エレオノーレの屋敷。その一室で、ロゼッタと一緒に居るのだった。
夜になるまでは、そこまで活動できないのが惜しいところだが。
「Bランク」
「え?」
「貴方、森の方でBランクの魔獣と戦ったことあるでしょう?」
「あぁ、忘れてたけど。あれと会った事あるのか?」
「女神教会に伝令が来たのよ。Bランクの魔獣を使役している謎の魔術師が居るって」
「何だ。もしかしてそいつ・・」
「死徒かどうかはまだ確証が持てないわね。ディストブラムが使役している獣はそこまで強くないもの。
大体、彼の大半はもう既に貴方が殺してるじゃない?」
「え?あぁ。じゃぁ、あいつはもう使い魔持ってないのか?」
「そうなるわね。エレオノーレをすぐに捕まえたくてすぐに手札を使い切ったみたいだし。
色々とつっこみ所はあるけど、神父に言われた以上は命令は守るつもりだから。
ただ、一人で森の方には行かないことね。いくら貴方でも、恐らく前以上に嫌な死に方するだろうから」
「まだ上のランクがあるのか・・?ロゼッタにも一回やられたのに」
「死んではいないじゃない。血生臭い死にざまを晒すのは勝手かもしれないけど、今は止めてって話。
まず、地下祭壇の敵に関しては貴方では知識不足で退散しかねないし。
エレオノーレの盾として、ギリギリの所まで戦うしかない。それは承知しているわね?」
「分かってるって。俺はお前と違って短気じゃないから一人で突っ込んだりしないぞ」
「一人、ねぇ。でも、貴方みたいな術者がここに居るのも不自然だけど。
不自然じゃないほうがかえって不自然ぐらいには、かなり歪っていうか」
「いきなり何てこと言いやがる。俺がここに居るのがそんなにおかしいか?」
「闇属性だってかなりレアだし。一つランクが上がると自動的に聖堂騎士団が消しにかかるもの。
今日の夜は、恐らく絶対にそいつらと会うだろうから注意して。奴らは本気で強いから」
「どれぐらい強いんだ?というか、そいつらが死徒二十七祖を相手すればいいんじゃ」
「貴方が不死のせいで気が付かないけど、普通の人間なら生きていけない境地に居るって理解できない?」
呆れたように言うロゼッタ。
確かに、もう既に自分は複数回死んでいるのだった。ロゼッタ相手に関しては機能不全の重症。
「我ながら恐ろしい、慣れっていうのかこれ?」
「不感症になってるだけよ。感じなくなっただけだからそれこそ注意したほうがいいわね。
正直、私があんたに忠告するのはどうかと思うけど、そこは言っておいてあげる。
貴方は気持ち的には強くなったつもりでいるけれど、明らかにそこら辺にいるゴロツキとそう大差ないわ」
「酷い言い方だな、でも俺だってあの犬と蝙蝠は倒したぞ」
「魔獣は動物並みの判断力しか持っていないもの。貴方、人間を相手に殺し合いしたことないでしょう?
そういうせめぎ合いになると、正直運も入って来る。相手の力をいつまでも見極めて居られるほど精神力は無いはずだし。
あまり調子にのっていると虐殺されるから気をつけることね。不死だからって、余計なオーバーキルする人割と多いから」
「その割と多い方の中にお前が入ってるって自覚ある?」
「私は適当よ」
どうやら、ロゼッタは自分はまともだと思っているらしい。十分なくらい酷い奴だという自覚はあまりないようだった。
味方がほぼ全員やばい奴であることはどうにか解消できないだろうか。
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左_セシル・バシュラール 中_エイミール・アレオン 右_シャルリーヌ・ラスペード




