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「とはいえ、一応戦わない事は承諾してくれたよなあの神父」
噴水広場。教会での話の後、エレオノーレと一緒に休んでいた。
ベンチに一緒に座ってアイスを食べる構図になっているが、ただこの平和も一瞬ではないと思いたい。
「貴方がそれほど特殊な例だから、彼もそう軽率に手を出さないだけね」
「軽率度合いで言うなら、ユリウス本人の方が上なんだけど。やっぱり闇の力もそう使わない方がいいか?」
「正直、力を使わずにアレクサンドルを倒すのはきついわね。吸血鬼の力がそのまま魔獣として機能しているなら。
きっと、地下祭壇での戦いは激戦になる。だから、私の力が本格的に機能するまでは静かにしたほうがいい」
「ん?それって、満月になるまでだよな。昨日が新月だったから、今はどれぐらい能力が出るんだ?」
「ちょっと気分が良くなるだけね。さすがに今日じゃ、月の光が細く見えるだけだろうし。
三日月の状態でも本格的な力を出せる吸血鬼は何人か居るけれど、大半は満月にしか大きなスキルを発動できないわ」
その満月の日が来るのは一週間以上後になってから。少なくとも半月までは様子見ということだ。
半月イコール一週間程度だから、今からではアレクサンドルをまず打倒できないだろう。
「誰かに先を越されることってあるか?いくらなんでも、それは悠長過ぎる」
「そうね、でも地下祭壇の通路はかなり複雑だった。この話は他の誰にも話していないから、正体も分からないはず」
「そうか。ユリウスがアレクサンドルの転生した後の存在だなんて誰も知らない。
俺たち以外で知って居るのは、あの青髪メイドぐらいか」
「あのメイドが一体どういう経緯で彼のメイドになっているかは、これから知る必要はあるわね」
「油断はできない、面倒くさい話になったな」
「少なくとも、突然誰かに殺される心配は無い。神父が貴方を攻撃しないことを約束したでしょう?」
「教会は、な。他にもまだ組織があるだろうし。下手をすると俺の能力目当てで変な奴が来るかもしれない」
「ある意味、貴方の能力は魅力的ではあるわね。その力に期待してもいいかしら」
「俺の意思が続くかどうかだな。一週間後まではどうするんだ?」
「死徒二十七祖はまだ私たちを狙っている。だからまだ戦う必然性は残って居る。
ユリウスを私たちが守らないといけないのは心外だけれど」
「昼間に襲ってこないだけマシか。ということは、また夜中に外を出ないといけないのか?」
「えぇ。少なくとも、最悪アルデウスを一人相手しないといけないわね。
彼は王族から直接命令を受けて私を捕まえようとしている。油断は出来ない相手だから」
「そうなると、本気で俺が戦う事にならないといけないわけか。果たして満足いくか」
エレオノーレにとっては、まだ捕まって国に送還されたくはないだろう。
こうして多くの情報を整理したところで、まだ彼にとって勝率が上がって居るわけではない。
ディストブラムの使い魔も、より強力な敵を相手する可能性もある。
強力過ぎる相手、というわけでもないが。ただそう何度も死にたいわけではない。
不死はあくまで、失敗を先延ばしにしてくれる便利なスキルでしかないだろう。
死んでいる間にエレオノーレが襲われる事は避けたい。彼女はまだ、本調子ではないのだから。
「こうして居るだけだと、結構平和な場所だけど。ダキア公国も似たような場所なのか?」
「建築様式は殆ど一緒ね。元は帝国の様式が一般化してできた町だから、見た目じゃそう違いは分からないわ」
「吸血鬼の国だから、夜になったら危険ということはないのか?」
「あっちにも吸血鬼を統括する専門の組織が居るから。死徒二十七祖もその一つだった。
ただ、真祖の血を受け継ぐ貴族はより特殊な縛りを持つことが多い。
ユリウスにとっては、ある意味そうした吸血鬼の文化を嫌っていたのかもしれない。
私は彼の心を読み切れていなかったから、結果的に他国であるこの町に余計な災厄を起こしてしまった。
アレクサンドルの力で形成された結界、彼は一度は解いて見せたけれどまた復活する。
そんな力が発揮されている場所で、いつまで安全に人々が暮らしていけるかは私も分からない」
エレオノーレにとっても、こうした結果を招いてしまった事に後悔しているのだろう。
彼女にとって、この問題を解決する方法が限られ過ぎているのだ。
正直、ナクラも自分から大丈夫だと言う自信はなかった。
あの暗闇、ディストブラムの使い魔には病魔という形で死に至って居る。
いくら不死という特権を持っていたとしても、すぐに結果を覆す方法は殆ど無い。
力を使って、その敵を殺される前に殺すしかないだろう。
ただ、闇の力を使えばその分蓄積されていく。それによって、新しい力が芽生えることもある。
それによって、ナクラは最終的に女神教会にとっての獲物となるだろう。
それだけは避けたい。むしろ、より酷い死に方をしそうでならなかった。
「夜には、また貴方に酷い戦いを強いる事になる。それを貴方は嫌だと思わないのね」
「十分嫌だけど、ただ俺だけ逃げるわけにもいかないんじゃないか?」
「この出来事に貴方は本来関係ないもの。むしろ、教会に逃げてもいいくらい」
「逃げられるかは分からないぞ。むしろ記憶喪失になって敵として現れるかもな」
「たしかに、そうなったら奥の手を使うしないわね」
「奥の手?」
「まぁ、そうなったら確実に貴方は死ぬだろうけど」
「いや待って、不死の俺を殺す手段ってあるのか?」
「やって見ないとわからないけれど、貴方の血を全て略奪すれば魔力回路も奪えるはず。
闇の血を吸収して、私も無事かどうかは分からないけれどね」
冗談かどうかは分からないが、いくら不死であっても血を全て奪われるのは危険な気がする。
「いや、でも闇と血じゃ属性は別のカテゴリーなんだな。神威属性と、聖獣属性じゃ」
「前者が神そのものの力で、後者が神格化された獣としての力ね。
以前は神秘と称されていたけれど、神との混同を割けるために明確に分割されるようになった」
血、死、竜、星の属性。そう直感的には理解しにくいものだが、それを彼女は一つ持っている。
「血はともかく、死って何なんだ?」
「生命としての死を司る、その神聖な獣が持っていた概念。というところかしら。概念武装って聞いたことない?」
「概念って言葉は兎も角、武装するってことがどういうことかは分からないぞ」
「そうね。確かに、感情で言う嫉妬を武装したり、言葉としての意味しかない死を武装するという意味は理解できない。
ただ、イデアというその海の中に存在する概念は、そうした魔術の概念として礼装化することができるわ」
「ちょっと意味が分からないけど、その死属性の攻撃に当たったらどうなるんだ?」
「殆どの生命は確実に体力を奪われ死滅する。ただ、そうした力を持つ存在は限られているわ。
私が知って居る限り、神話上に出てくる狗頭のフェリクスはその力を使って数千人の人間を虐殺しているけど。
その力を実際に見た事がある人はまず居ないわ。エルフもまず知識でしか知らない程度に希少なのよ」
「まぁ、そう使ってほしくない力だな。当たったら一撃死する攻撃なんてそうあってほしくない」
いくらナクラも、そんなよく分からない属性攻撃で一撃死するのは好きではない。
そういう事が起きて言いのはゲームの中の世界だけだ。理不尽死は、ゲームの中だけにしてほしい。
「そうね。いくら貴方も、そう何度も陰惨な死に方は嫌ね」
「その最初の理不尽を思い知らされた本人に言われたくないんだが」
「私はちゃんと反省したけれど。まだ根に持っているの?」
「根に持っているわけじゃないけれど、またやるかもしれないだろう?」
「私をあまり信用していないようね。どうしたら信用に値できるようになれるか聞いてもいい?」
「どうっていわれても。俺にはよく分からないんだが」
「私は、少なくとも貴方とは血で血を洗うような関係にはなりたくない。だから、一応は要望を聞いてあげてもいい」
「なんでもいいってことか?」
「変なお願いは駄目ね」
駄目らしいが、しかしそう言われてもすぐには答えが出ない。
ただ自分が何をするべきか迷っていた時だ。目の前、誰かがゆっくりと歩いてくるのが見える。
白い貴族の服を着た男性。その隣には、ディストブラムも居た。
「お前は・・!?」
すぐに立ち上がるナクラ。ただ、男性の方は両手を広げるようなポーズを取った。
闘わないというメッセージだろうか。武器らしいものは持っていないように見える。
「ご機嫌麗しゅう、我が公国の姫君。お迎えに上がりました」
「・・・・私は帰らないと言ったはずだけど。やはりここで戦う気?アルデウス」
アルデウス、つまり彼が死徒二十七祖の一人ということになる。
「お父上が大変ご心配しておいでです。姫君はドラクレシュティ家の数少ない跡取り。
もし何かあれば公国の歴史にとって多大な傷を負うことになりかねません」
「断ります。大体、アレクサンドルを私の婚約者にしなければこのような事にならなかった。
彼は王族に相応しくない、精神的にも彼は不十分な能力だった。それで十分のはず」
「えぇ、確かにそのようで。ただ、現時点で彼はもう死んだようなものです」
「・・・」
「正直、貴族の息子に転生した事については私は気にしてなどいません。
ただ、体の方は地下祭壇の方に居るときた。つまり、そちらの方が本物ということになる」
「どういうことですか?」
「一つ、私からの提案があるのですが。ここはまず私たちに地下祭壇の探索を任せてはどうでしょうか?」
本来なら受けた方が良いような提案だったが、エレオノーレは首を振る。
「成程、ですが貴方にできることはそう多くない。できれば今日中にも公国に帰還していただきたいのですが」
「断ると言ったはず。婚約者無き今、約束事など無いに等しいのだから」
「そう、アレクサンドルなどもうこの世には居ない。転生などという儀式など、そもそも問題外だ。
あの男は結果的に、聖遺物を自分の触媒として無駄に使い果たした愚か者だった。それでも尚彼を擁護するか」
「ユリウスはまだ利用価値はあると考えただけよ。彼は、魔術師としては才能があるだろうし。
この町の貴族なら、相応の力と経済力を保障できる。そう何も問題は無いわ」
「ある、多い、に存在する、彼はこの国の人間になった売国奴だ!だというのに貴殿は、姫君はあの男を擁護する!
何て嘆かわしい事だ!あの薄汚い裏切者のためにどうして間違った道に進むのだ!そうか、貴様のせいだなナクラ!」
「いきなりキレてんじゃねぇよ!俺はまじでただの被害者だからな!?」
突然ナクラに矛先を変えたアルデウス、その言動と態度の豹変はともかくとしても話がおかしくなる。
「被害者だと!?被害者意識だけあって貴様はただの加害者だこの下郎が!俺を一体なんだと思っている!
そもそも馬鹿弟子があの時点で貴様を食い散らかしておかなければならかなったものを!
いくら不死とはいえ、胃袋に収めればそれでよいことなのだ!」
「何怖いこと言ってるんだこいつ!?」
胃袋、つまり捕食と言っているのだろうか。
突然醜態をみせたアルデウスだが、そこでようやく深呼吸して落ち着くのだった。
「ともかくだ、私にとっては紳士的に今の状況を解決したいと考えている、ただこの場所に残るのは現実的ではないのだ」
「帰るならあなた達二人で仲良く帰ってくれる?仲良く、ね」
「・・・・・」
「何煽ってるんだお姫さん、あいつを煽る必然性あるか?」
「面白そうじゃない?」
外道だった。そういえばナクラをぶち殺した時もこんなだった気がする。
「いいでしょう、まずはそのナクラという生意気な少年を始末する」
「少年って言われるほどの年齢じゃないんだが、って・・」
突然、ディストブラムの体が豹変する。彼の体が大きくなり、狼に姿へ変えていったのだ。
あまりにも突発的な出来ごと、異変に気付いた住民たちが一斉に声を上げて逃げるのだった。
「嘘、月も出ていないのにどうして・・!?」
驚くエレオノーレ。ただ向こうに居る元魔術師はもう正気を失っているようだ。
「月を見なくとも、彼にその月を見たという幻覚を与えるだけでいい。
まずその少年を彼の胃袋におさめるとしよう」
「そのセリフ冗談じゃなくて本気で言ってたのかよタチ悪いな!?」
「私がいつ冗談を吐いたと言っているのだ愚か者!!」
本気で怒って居る辺り、その理不尽かつ馬鹿っぽさが致命的にも感じられた。
話がまず通じない。ただ狼となったディストブラムは、すぐに前進する。
「下がれ、ここは俺がなんとかする!」
「ここで戦う気・・!?」
予想外、ある意味予想内でもあるが。ただここで逃げるわけにはいかない。
いっその事、ここで倒してやると。ナクラは狼男の方へ走り出した。
「正面から来るとは生意気だな。弟子よ、食事を楽しむがいい」
「だから喰う前提で言ってんじゃねぇ!」
剣を抜く。闇の力の加護が集中する。
敵であるディストブラムの攻撃が、今日はむしろ遅く感じられた。
闇の中でよりも、やはり昼間の方がよく見えるのだろう。
爪による攻撃を回避し、その体を剣で斬り割く。攻撃は成功し、一気に血は流れていった。
しかし、狼男は咆哮し暴れ出す。まるで攻撃が効いていないようだった。
「何だ・・!?」
「治癒魔法は効いている。闇の力とてたかがエンチャント如きに屈することなどない」
「お前が戦えよ!」
「何故私が直接貴様如きに手を下さねばならぬ!愚か者にも程があろう!」
つまりそいう事なのだろう。やはりプライドが高いのかもしれない。
狼男となったディストブラム、理性は殆ど消えているのだろうか眼光は赤く染まって居た。
その大きな両腕の爪による連続攻撃、その攻撃を回避し続けていった。
体は軽い、その攻撃の合間の隙をついて攻撃するが、ただすぐに彼を倒す事ができない。
「何だ、こいつ・・!」
魔術師による治癒が間に合わない程度の攻撃をしないと打倒できないのだろう。
ただ、この時点でこちらよりも相手の方が体力が上かと思われた時だ。
その一瞬の隙、突然真上から降ってきた大量の剣が彼の体に突き刺さる。
それによって身体中から血が流出し、狼男はそのまま身動きが取れなくなった。
「こんな場所で戦いだすだなんて、思った以上に愚か者なのね貴族は」
街灯。その上に立つ一人の修道女。
ロングソードを持った少女は、昨日の夜に戦った彼女だった。
「何だと、一体どういうつもりだ!?」
「それはこちらの台詞です。昼間に戦うなど規約違反にも程がある。
いくら聖堂騎士団も見逃すことはない愚行、恥を知りなさい」
「くっ、退避する!」
「待ちなさい!}
アルデウスが突然発動させた魔法、それによってすぐにその場から消え去った。
転移魔法だろうか。逃げる準備もしてたとは思っていなかった。
「逃げられた・・逃げ足だけは一流ね」
「そうみたいだけど。君は、一体どうして・・」
「神父から連絡があったから来てあげただけよ。勘違いしないでよね、別に貴方なんて興味ないんだから」
「はぁ・・じゃぁ何だったらいいんだ」
「聖堂騎士団は条件付きで監視してあげるっていったの。これ以上、貴方が馬鹿をしないようにしてあげるわ」
そう、修道女の少女は言った。
攻撃はしないが監視はするという事になったらしい。
「名前は?一応聞いておかないと始まらない」
「・・ロゼッタ。ただのロゼッタよ」
彼女のおかげで、町の真ん中で突然暴走したディストブラムを倒すことはできた。
彼等はすぐに逃げてしまったが、夜にはまた戻って来るだろう。それまでは、対策を考えないといけない。




