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2_1

傷が治ったにしても、再度似たような目にはあいたくなかった。

あの修道女も戦い慣れているのだろうが、何でもかんでもやりたい放題されるわけにはいかない。

すぐにエレオノーレの後を追うために移動するが、すぐにその在処は見つかった。

青白い光、蝶のような光が浮遊しているのが見える。

その光を辿って移動していく、暗闇の中に浮遊する僅かな光がある意味希望のようなものだった。

修道女は結界が解かれたと言っていたが、今の所何が起きているのか分かったものじゃない。

漆黒の夜、僅かな光を辿ること以外なす術がない。

いくら不死身だからといって、自由が無さすぎるのは問題があった。

道を進む、その奥にある広場には、その青白い光を放つ本人が居た。

白い髪の少年。エレオノーレも近くに居るが、一体何が起きているのだろうか。

「ナクラ、大丈夫だったの?」

「あぁ。あっちの方はすぐに逃げて行ったよ。それで、そちらは・・?」

青白い蝶が複数少年の周囲を浮遊する。彼が放っている光なのだろう、その幻想的な光でようやく落ち着く。

「アレクサンドル・リトア。私が言っていた、元婚約者よ」

「え?」

まだ少年だ。聞いた限り、普通ならエレオノーレより年上と感じられるが。

「何だ。君の使いか?正直あまり複数の人間は必要ないのだけれど」


「一応、彼にも説明してもらいたい。貴方がどうしてそんな事をしているかを」

「そう大したことじゃないよ。ただ、結界に関してもね」

「危険は多かったはず。場合によっては、死徒二十七祖と聖堂騎士団の二つの陣営が衝突しかねない」

「一触即発だったのは認めるけど半分は僕のせいじゃないよ。

死徒二十七祖、特に急進派は僕でも抑えつけられない。命令に従っている奴らは静かなんだけどね」

「動いている死徒は何人いるの?」

「せいぜい3人程度だよ。欠番も出ているから、別に怖くないと思わないかい?」

「3人だけでも十分脅威よ。彼等がそこまで仲間意識が無いから貴方はまだ繋がって居られる」

「困ったものだね。もう少し静かにしてもらいたいのに。余計なプライドを発揮するんだから」

「彼等も王族が居る。貴方みたいに、ただ聖遺物を持ち出して・・転生する真似なんかするなんて」

転生、そうエレオノーレは確かに言った。少年、アレクサンドルはただ呆れたような顔をするだけだ。

「つまりどういうことなんだ?アレクサンドルさんはどうしたんだよ」

「アレクサンドルは、この町にある結界の機能を最大限に利用して己の魂を転生させたの。

そのおかげで聖遺物は失ったけれど、彼はそうしてある貴族の少年として生まれ変わったみたい」

「時系列的におかしいんじゃないか?エレオノーレが婚約破棄されたのって最近だろ?」

「えぇ。時間すら超越できるとは私も思っていなかった」


それはつまり、転生することで過去にさかのぼったと言っているようなものだ。

ナクラがこの世界に転移するより前に、このアレクサンドルは貴族の少年として生まれ変わって居た。

だから、エレオノーレもアレクサンドルを見つけ出せなかったことを意味する。

「でも、結界はまだ機能している。どういうことか説明してくれる?」

「簡単な話、僕の遺体が魔物になっちゃった」

「・・・・」

エレオノーレは、ただどう言ったらいいのか分からず見ているだけだった。

遺体が魔物になった、と言われてもさすがに困るだろう。

「つまり、この町の地下に存在する隠しダンジョンがあってね。地下祭壇っていう特別な場所に僕の遺体があるんだ。

転生した時、遺体の処理を完全に忘れていたことを思い出してね。僕も困って居たんだよ」

「混乱の種が分かったわ・・つまり、結界は貴方のミスってことでいいわね?」

「そう怒らないでくれる?一応僕も、それなりに苦労したんだから。

こうして僕は貴族の清く正しい少年として生まれ変わったんだ。王族なんていう陳腐な役目は受けずにすむ」

そう、彼は言った。つまり、アレクサンドルは王族という役目を割ける方法として転生を選んだことになる。

正直、いくらナクラもこの異常性には呆れるばかりだった。少年の方も、どうしてそう馬鹿な真似をするのか。

「転生するほど王様になるのが嫌だって言ってるのなら俺も怒るぞ」

「そのせいで酷い目にあったのなら謝るけど、もう終わったことだろう?」


「現在進行形だ!」

夜、ただ虚しくも怒ってしまった。修道女に酷いことをされたあげくこの始末だ。

自分の足のスネを切れ味のいい隠しナイフで切られた痛みなど誰も共有してくれないだろう。

「今はもう深夜だよ。君のせいで誰かが起きるじゃないか?」

「ほぼお前のせいだ、美少女に婚約破棄してまで王様になりたくなかったのか?」

「といったってあのダキア公国の王室だよ?誰かを殺して聖杯に血を満たすことすら普通だと思ってる奴らだ。

いつ殺されるか分からない場所に居るよりは安全な世界でゆっくりしたいじゃないか?」

「それは俺に言っていいセリフじゃないな。今までの俺の苦労は何だと思う?」

「ナクラ、少し落ち着いて、貴方の気持ちも分かるけど相手も王族の人よ?」

「嫌な格差社会だな、王族だから人の不満は聞けないのか?」

さすがにエレオノーレも困る状況だったが、ただアレクサンドルの方は両手を上げるだけだった。

「分かったよ。王族に関しては犬に食わせたようなものだからね。金銭的な余裕が無さそうだからそこで工面してあげるよ」

そういう関係は浅いから止めた方が良いぞ、とナクラは内心言おうとしたが。

ゆっくりと近づいてくる足音によってその気持ちは阻止された。

魔術師が居る。あの時の魔術師は、ただ不機嫌そうにアレクサンドルを注視していた。

「やぁディストブラム。久しぶりだね、元気だったかな」

「やはり、アレクサンドル様ですか。本当であれば、先ほどの言動は聊か問題になるでしょう」


「聞いていたのなら話は早い。君の主に言っておいてくれ、アレクサンドルは華麗な真価を遂げたと」

「その魂こそは、アレクサンドル様の血筋であるのは承知している。転生ごときで原罪は消えないのだから」

「うーん。何だ、君。もしかして怒ってる?」

正直、アレクサンドルとかいう奴は空気が読めないのだろうか。

ナクラも、彼が安全ではないことは十分知って居るのだ。

「本当に情けない話だ。アレクサンドル様が何を考えていたかと思えば、たかが人間の貴族に転生するとは。

全く嘆かわしい。それでよくこの場所に姿を現せたものだ」

「結界を外から解く方法は分かったけど、また再度戻る可能性はあるんだ。どうしたらいい?」

「どうも何も。私には分かりませぬ。ただ、その肉体はまだ未完全のようだ。

魔術回路の出力を本気で加速させるわけにもいかない、だからこそ隙はある」

周囲に現れる複数の猟犬。正直、またかというナクラの感情はあった。

「まさか、彼を殺すつもり・・?」

「その方が話は早い。いくら王族とてその穢れた本性は怠惰のようなものだ。

問題は新月のせいで私は力を発揮できないが、犬の方は匂いだけでも居場所は分かる。

光が無ければなにも出来ない人間は、確かに力の弱き存在だろう。特に吸血鬼でなくなった今、貴公に何ができる?」

「そうだね・・君、何とかしてくれない?」

「そこで俺に話を振る時点で何も考えてないな・・さすが元OH賊」

怒りよりも呆れの方が上回ったところで、ナクラは前に出る。ただ、向こうの方は拍子抜けのようだった。


「誰かは知らぬがそこをどけ。いくら治癒能力が高くとも、捕食されれば戻れぬぞ」

「そうなのか?」

捕食された場合は戻れないのなら、確かに一人で戦うのは危険すぎる。

ただ、今は単独でしか戦えないような状態だ。

「場合によってはそうだけど。一度同族がワームに食べられて戻ってこなくなった時はあったわね」

「聞こえてるぞ姫様。というかワームって何だよ・・」

あまり想像したくない事故?だが、今はそれどころではない。

「まず先に貴様から頂こう。そういつまでも持つと思うな下郎」

複数の猟犬が動く。漆黒の中、ただその攻撃性の塊はナクラも慣れてきていた。

移動が速いが、気配だけでも十分何とかなる。

暗闇の中、迫って来る敵の攻撃を回避し、カウンター気味に体を切断した。

闇の加護は、十分使い魔にも効いている。ナクラにとっても、その動物的な攻撃は脅威ではない。

「成程、エレオノーレ様が配下にする事はある。その力は、ある意味捕食に値するだろう」

「捕食って、本気で喰う気かこいつ・・!?」

不気味な猟犬の唸り、ナクラを攻撃するために疾走してくる。

その攻撃は十分分かって居るとはいえ、この暗闇の中だと妙な恐怖心を感じた。

もっとも、アレクサンドルの周囲を浮遊する青白い蝶のおかげで光源は保たれていた。


「これで5匹目、そう大したことない使い魔だな」

「調子の良い奴だ。それでは数を増やそう」

「げっ・・!?」

10匹も増えている、明らかにこれではこちらも拙い。

「ナクラ・・!」

「まぁ、少し待とうよ。君が手を出すと、それはそれで拙い。

死徒二十七祖との本格的な戦闘は避けたいのなら、彼に任せるべきだ」

「私のせいで・・こんな」

「ある意味君のせいではあるけどね。全く、月が出て居ればこんな事にはならなかったけど」

ディストブラムを相手にし続けるナクラは、まだ十分に戦える様子だった。

ある意味では、彼の努力は賞賛に値するが。やはり彼の力もそれなりに凶悪なものだろうか。

一撃で消滅させられる使い魔。闇の力によってその魔獣は己の機能を保てなくなるほどに崩壊する。

アレクサンドルにとっても、その力は興味深い仕上がりだった。彼が居るのは正解なのだろう。

「しかし逃げ場は無い、か。全く、どいつもこいつも」

アレクサンドルが感じている気配。その街の屋根の上には、明らかに修道女の影があった。

こちらを観測している。その姿は、吸血鬼狩りを専門とする英雄としては十分だろう。

闇の中、複数の陣営が定まってきている。ここからがある意味本番ということになる。


広場、複数の使い魔を切断し倒す少年を見て、ただ修道女は面白くなさそうに見ていた。

不死とはいえ、ただそれだけであれば彼女にとっていい玩具になるだけの話なのに。

彼は確かに強い、だからこそ。聖堂騎士団にとっては討伐対象として見られることになる。

ただ彼を浄化させるよりも前に、アレクサンドルの話の方がまだ重要になってきた。

広範囲に展開されていた結界は、彼の本来の肉体が魔獣となって機能したからと言っている。

本来ならそちらを優先するべきだろう、ナクラに関しては、別に後でもどうにでもなる。

だからこそ、どこか彼女にとって面白くない現実がある。

「そんなにエレオノーレと会ったのが良かったの?教会に居た貴方は、もう少し大人しかったけれど」

闇の匂いはあの時はまだ微弱だった。保護対象で居続けるのであれば、いくらでも甘えて言いのに。

そうして、自ら外を出ることで本物の力を手にするのが、ある意味許せなかった。

しかも、身近に居るエレオノーレに関しても問題だ。彼を、殆ど許しているような気配がある。

「許せない・・どいつもこいつも、自分のことばかり」

自分もまた、好きで修道女をしているわけじゃない。

吸血鬼狩りなんていう役目を引き受けたのも、その貴族を殺したいからだ。

そうすれば復讐は叶うはずだが、彼もまた本来は被害者のはずだろう。

自分の立場を全く理解していないからこそ戦えるんだ、その憎しみの向け方は間違えている。

ある意味、少女にとってはその運命は呪いのようにも思えた。これはある意味、死ぬことすら許されないデスゲームだ。


「全滅完了!これでチュートリアルも殆ど終わったところだな」

完全に猟犬との闘いをチュートリアル扱いした時点では、ナクラもそろそろ本気といったところだろうか。

魔力の使い方も慣れてきている、これならそう簡単に負けないと思われていた。

しかし、ただディストブラムの方は笑っている。

「随分といい剣舞だった。どうやら、出す使い魔を間違えたらしい」

「あぁ?まだ手札持ってるのかよ。お前が出てくるんじゃないのか?」

「次は本物だ。気を引き締めろ、そして悲鳴を上げてその場で屈するといい」

そう言ったディストブラム。ただ、一瞬ナクラの耳に奇妙な声が聞こえた。

何か、本来なら聞こえるはずのない、聞いたことの無い悲鳴のような泣き声。

「ナクラ、上!」

「え・・!?」

エレオノーレの声、それと同時に突然、頭上から何かが降って攻撃してくる。

回避できたが、それによって地面が抉られることとなった。

「何だ、今の・・!?」

上空。暗闇で一瞬見えないが、コウモリのような姿が飛んでくる。

「・・・・」

吐きそう、というのがナクラの正直な気持ちだった。明らかに自分と同じ大きさのコウモリだった気がする。

「ゲテモノを使い魔にしているだなんて、良い趣味しているよね。それで変な病気広めないでよね」

「あれは私の傑作のひとつです」

傑作だと思うのなら相当美意識が狂っているんだろう。アレクサンドルにとっても、苦笑いの種になるだけだった。

その大型のコウモリの姿をした魔獣は、一気に降下してナクラを狙う。

瞬間的に回避し、その体に攻撃したが、頑丈なのか一撃では倒せなかった。

「違う・・?」


幻覚、だろうか。その姿があまり掴めない。

「この暗闇じゃまともに視認できないね。まぁ、昼間にあまり見たくないタイプだけど」

「このままじゃ拙い、私が・・」

「だから駄目だよ、君は大人しくしていて」

「でも・・!?」

「彼は十分戦っている。ある意味そこが鬱陶しいくらいだけど、使える程度の雑兵だ」

雑兵扱いされたナクラは、ただその魔獣への攻撃を続ける。

そう回避できない攻撃、ただその姿が不気味すぎるのが難点だった。

異常な声、ただその姿を深く恐怖せずに戦うしかない。

「これは・・!?」

攻撃する度に魔獣は一度魔法を使っている、一瞬の幻覚で回避運動を取って居るんだろう。

その動きよりもさきに、ナクラは一気に正面から魔獣へ突っ込む。

その剣が深く、魔獣の胸に突き刺さる。心臓を抉ることで、その魔獣の動きを止めるのだった。

更に、その体を切断する。魔獣は砂となって消え去り、奴の手札を完全に封じるのだった。

「っ・・!?」

気分が悪くなる、ただ何が奇妙な気分の悪さで体がおかしくなっていた。

「ぐ、これ、は・・!?」

「だから言ったはずだがね。魔獣とはいえ蝙蝠だ。そう簡単に触れて言いものではないぞ少年」

「てめ、ぇ・・!?」

その場で倒れる。魔獣が放つ猛毒・・あるいはウィルスによってその場で倒れるのだった。

「ナクラ・・!?」

「致死性の魔術か。君、相当悪趣味だね・・。それを使うあたり最初から本気だったんだ」

「生憎、彼に打ち取られましたがね。ここで失礼するとしましょう。

ただ、貴公は既に我ら二十七死徒の敵だということを理解していただきたい」

そう言って、ディストブラムはその場から撤退する。

ナクラはそのまま地面に気絶する、ただその猛毒を受けた彼に近づくことすらできない状態のはずだった。

「そんな、じゃぁ彼が受けた魔術って・・」

「犬に噛まれて死ぬのと一緒だね。しかも効率よく致死率が高くなってる」

「即死ってこと・・?」


いくら吸血鬼でも、狂犬病に殺されるのは少しばかり忌避するだろう。

地面に倒れてしまったナクラを見たエレオノーレにとっては、ある一種の恐怖を覚えていた。

「っ、はぁ・・・・っ!?今、何が起きたんだ・・!?」

ただ突然、不死能力によって復活したナクラは目覚める。

明らかに酷い目にあったはずだが、あまりのショックで覚えち得ないかのような感じだった。

「だ、大丈夫、なの?貴方?」

「え?あぁ、何だか覚えてないけど。あいつはどうした?」

「逃げたわ。とりあえず、今は屋敷に戻りましょう。ナクラ、ここに居るのは危険だから」

「あぁ。というか、アレクサンドルさんの方は・・?」

というより、エレオノーレの基本的な目的は既に解決しているかのようだった。

「僕も自分の屋敷に戻るよ。明日、とりあえず別の場所で話をしよう」

「そうか。その場所は何処なんだ?」

「そうだね、何処がいい?」

何処がいいと言われても困る。ただ、基本的に自由に場所は決められないのだった。

とりあえず、アレクサンドル本人がエレオノーレの屋敷に向かうことを了承してもらうことにした。


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