2
翌日、たくさんの猫たちに囲まれて笑う侑芽の姿があった。
「ふふっ、小次郎ちゃん、食べ過ぎだよ」
白いサイベリアンを撫で、食べ過ぎと言いながら侑芽はおやつをあたえている。
正直悠真は視界にすらはいっていない。
悠真は寂しくスイカという名のノルウェージャンを撫でている。
励ましてくれてるのだろうか、スイカは悠真の手に額を押し付けた。
『あきまへんな、猫に負けとるで』
ーーーうるせーよ
でも事実その通りで、悠真は心の中で泣いた。
『ここは僕の出番やな』
すっと、悠真の目が細まる。また道明に乗っ取られた。
ーーー余計なことすんな!
体の中で叫ぶが当然届かない。
「『侑芽、僕もその子、なでてええ?』」
侑芽に近づき吐息すら感じるような耳元で尋ねる。
「あ、うん…」
真っ赤になって侑芽はうなづいた。
「『ほんまかわええな、夢中になるのわかるで』」
それは猫に言ったのか、侑芽に言ったのかはわからない。
侑芽は顔を赤くして俯いた。
「…こ、小次郎ちゃんはね、食いしん坊でちょっとわがままで甘えん坊なの」
「『まるで誰かと同じやな』」
一生懸命に説明する侑芽の耳元で囁く。
びくりと侑芽の肩が揺れた。
「もう」
道明は笑う。そして心の中でつぶやいた。
『本当にかわええな、ヘタレの悠真には勿体無いくらいや』
ーーーなっ、お前何言って!
焦る悠真にまた笑う。
「『さて、そろそろ時間や、メシにしいひん?』」
「そ、そうだね、いこっか」
バイバイ小次郎ちゃんと言うと、小次郎は他の客の元へと歩いていった。
おやつくれないなら用はないと言うだけかもしれないが。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
モールのレストラン街を2人で歩く。
道明は迷うことなく侑芽の手を握った。
曰く『はぐれへんように』
悠真なら逡巡するところだが、道明は気にしない。
「『侑芽は何食べたい?』」
道明が赤い顔の侑芽に尋ねる。
「えっとね…いつもはね」
侑芽が案内する。
結局、チェーンのイタリア料理店に入り、パスタセットとドリアを注文した。
「『ここ、良くくるん?』」
「うん」
ーーー誰と?
「『誰と?』」
頭の中の悠真の声と、悠真の姿の道明の声が重なった。
「……1人で」
恥ずかしそうに侑芽。
1人で猫カフェに行き、そのあと1人で食事をし、ウィンドウショッピングを楽しみ帰る。
侑芽は1人時間をエンジョイしていた。
悠真は胸を撫で下ろし、道明は笑う。
ーーー次は俺を誘ってくれ!
「『次は僕を誘ってな?』」
再び声が重なった。
注文した品が届き、道明はパスタを口にしながら、侑芽を見つめる。
小さな口に運ばれる熱々のドリア。
熱すぎたのかはふはふ言っている。
「『本当にかわええな』」
それは手本でもなんでもなく、自然とこぼれ落ちていた。
ああ、そうか…僕は…
ーーーは?
頭の中で悠真。
『すまんな、悠真。侑芽、欲しくなってしもうた』
ーーーはあっ!?
頭の中で悠真が怒鳴る。うるさい。
ほっといてくれやと道明。
『貰うで』
それは宣戦布告だった。
そんなこと微塵も知らずに侑芽はドリアを頬張る。
「『ほんま美味そうやな、一口もらえへん?』」
フォークを置き、道明は夢を見つめ言った。
「『昔のように、な、ええやろ?』」
知らんけど…とは言わない。
道明は昔の侑芽を知らないが、悠真が知っていると言うことを知っている。
「しょうがないなー」と侑芽はドリアを掬い道明に差し出した。
ーーーやめろ!
悠真の声は届かない。
道明は大きく口を開けそれを食べた。
「『ドリアも美味いけど、侑芽に食べさせてもろたんが一番やわ』」
「もう」
侑芽は照れたように笑った。
ーーーなんとかしねえと
悠真は考える。
体は乗っ取られたまま、侑芽も気づいている様子がない。
ーーー本当に全てが乗っ取られる
恋の指南役なんてとんでもない。
まさに悪霊だ。
あ、悪霊って自己紹介してたな。
道明は笑っている。
それは楽しそうに。
釣られるように侑芽も笑っている。
悠真は無力な自分を呪っていた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
1人で侑芽が遊んでいた時と同様に食事の後、モール内を歩いた。
「『この服、侑芽に似合うんちゃう?』」
「そうかな?」
「『こうたろか?』」
「いや、買わなくていいってば!」
まるでカップルのような2人を悠真はぼんやりと見ていた。
ーーーそこは俺の場所なのに…
だけど声は届かない。
不意に侑芽はペットショップで立ち止まった。
キラキラした瞳で子犬を見つめる侑芽に「『かわええな』」と道明は呟く。
「本当可愛いよねー」
侑芽は子犬のことだと思い返してから、ふと違和感を覚えた。
「そういえばゆうちゃん、昔、犬、苦手だったよね?」
子犬相手でも逃げ回っていた頃を思いだし吹き出す。
ーーーいつの話してんだよ!!
「『いつの話しとるねん』」
思わず声が重なった。
次に彼女が足を止めたのは本屋だった。
「『なんか欲しいもんでもあるん?』」
尋ねる道明に「この本、ゆうちゃん好きだったやつだよね?」と絵本を手に取った。
ーーーよく、覚えてるんだな
「『よく、覚えてるんやな』」
また声が重なったが、感情は真逆だった。
「だって、ゆうちゃんのことだもん」
にっこりと優しく笑う侑芽に、悠真は流れぬ涙が流れるのを感じ、道明は胸が苦しくなった。
「『そか』」
もう少し続くのじゃ




