↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/3

3

最後です


はるか昔、九条道明の女性関係はそれはそれは華やかだった。

美しい顔立ち、甘い声、内裏の女性を悉く虜にした彼は光るの君が現れたのかと言われた。

だが、それは長く続かなかった。

ある日、女に刺された。

一夜限りの遊びで契った女のひとり。


『ああ、これで終わるのか』

そう思ったその時、

神は言った。

お前が真に愛を知るまで眠ること罷りならん

と。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


悠真のいつもの日常が戻ってきた。

仕事に行き、帰って寝る。

ただ、変わったこともあった。

【今日も一日お疲れ様。】

【侑芽こそ、お疲れ様】

以前の様に侑芽メッセージの交換ができる様になったこと

【今度の休み、時間あるか?】

【あるある!映画行きたい!】

2人で出かけるようになったことだ。

悠真は毎日が楽しくなった。

『あーぁ、良いご身分ですなぁ』と道明の拗ねる声。


『そろそろお役御免か?』

道明は考えて即否定する。

『嫌や!』

あの子を諦められへん!

たとえ侑芽が悠真しか見ていなかったとしても。

こんなこと、今までなかった。

初めての感覚だった。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


約束の映画の日、ウキウキと悠真が待ち合わせ場所に行こうとすると、道明の声がした。

『悠真、頼みがある』

ーーーなんだよ?

急に真面目な雰囲気の道明に悠真は警戒した。

待ち合わせまで時間もない。

『今日…体貸してくれへんか?』

今まで勝手に入ってきたくせに、何故か改めて聞いてくる。

ーーーなんでだよ?

と尋ねても『それは言えへん』の一点張りだ。

ーーーじゃあ嫌だ

悠真は拒否した。

せっかく良いムードなのだ。邪魔はされたくない。

しかし、道明は『悠真、大事なこと忘れてへんか?』と言ってにやりと笑った。

『僕は悪霊や』

それは今までの道明では考えられないくらい低い声だった。

『嫌やゆうても借りるで』

ーーーなっ!!

『堪忍な、悠真』

道明の謝罪を最後に悠真の意識は闇に沈んでいった。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


「ゆうちゃんお待たせ!」と、侑芽は時間通りにやってきた。

「『待ってへんし、気にせんといて』」

悠真の体の道明は笑顔で片手を振る。

そして『ほないこか』と手を差し出した。

侑芽の小さな手が悠真の…道明の手に自然に触れる。

その温かさが心地よかった。


2人は並んで歩き出す。

見にきた映画は今話題のSF映画だった。

「ゆうちゃん、このシリーズ大好きだったよね?」と言われるが道明にはわからなかった。

「『そうやったな』」とポツリつぶやく。

きっとここにいるのが、悠真の体を借りた悪霊だとは夢にも思っていないのだろう。

「変なゆうちゃん」と侑芽は笑った。


椅子に座りスクリーンを見る。

話題だけあってたしかにおもしろい。

侑芽はスクリーンに見入っていた。

そんな彼女の手を道明はそっと握る。

侑芽は赤くなりながら、しっかりと握り返した。

そして、映画が終わった後、

「ゆうちゃんの怖がり、相変わらずだね」と笑った。

暗闇が怖かったわけでも迫力に驚いたわけでもない。

ただ自分を見て欲しかったのに…

彼女が見ていたのは悠真の面影だった。


「この後どうする? ご飯食べて帰る?」

屈託無く笑いながら尋ねる侑芽に、道明の足が止まった。

「『侑芽は、悠真とおるときも、こないして笑うんやろな』」

「え?」

道明の口から、ぽつりと言葉がこぼれた。

「『昔からずっと一緒なんやもんな。ゆうちゃん、ゆうちゃんて……』」

その声には、いつもの軽さがなかった。

「『ホンマ、かないまへんな…悠真には』」

ポツリと道明は呟いた。

「『ゆうちゃんゆうちゃんやのうて、僕のことも見なっ!』」

「ゆうちゃん?」

「『好きなんや…、侑芽のこと好きなんや』」

それは自然に溢れてきた。

初めは恋愛指南と言って悠真を揶揄う為だった。だが次第に惹かれていた。そう道明は告白した。

その瞬間、侑芽は見た。

悠真の姿をしているが、全く別の誰か。

和服姿の男性が泣いている。

不思議と怖くはなかった。

「あなたは、…….…だれ?」

侑芽はなぞる様に彼の頬に触れ尋ねた。

「『今更かいな』」と道明は悠真の体で笑う。

泣きながら笑う。

「『僕は道明いいます。よろしゅう、愛しい人』」

そしてそっと頬に触れる侑芽の手に自らの手を重ねた。

瞬間悟ってしまう。

ああ、消える時が来たんだと。

これが与えた己への罰だったのだと。

隣に立つことは許されないのだと。


『悠真、あとは頼んだで』

心の中でつぶやく。

でも、最後にひとつだけ、わがままええか?


「『最後に呼んで、その唇で』」

それだけで満足やと道明は侑芽の瞳をみつめた。

「…道明」

「『もう一度』」

「道明」

「『もう一度や』」

「道明、ありがとう」

最後にそう言った時、侑芽の瞳から涙が流れていた。

何故だかわからない。ただただ涙が溢れた。

「『ああ、ありがとう』」

涙をキスで拭い、道明は微笑む。

「『侑芽のおかげで、今度はしっかり眠れそうや…』」

悠真と重なって見えていた男がだんだん薄くなって消える。

そして、くたりと、悠真の体が膝をついた。

悠真の意識が浮上する。

何があったのかわからない。

ただ道明が体のどこにももういないとなんとなく察した。

瞳を上げると心配そうな侑芽の姿。

「…侑芽?」名前を呼ぶ。

「ゆうちゃん!」

侑芽が抱き起こすと、悠真は笑っていた。

「ただいま、侑芽」

そして

「今まで伝えられなくてごめん、愛してる」

ずっとずっと、と侑芽を抱きしめ悠真は想いを伝えた。

「私も、ゆうちゃん、大好きだよ」


『ほれみい、僕の恋愛指南もなかなかのもんやろ?』

2人の耳にそんな声が聞こえた気がした。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


悠真と侑芽は結ばれてから数年後

侑芽は可愛らしい男の子を出産した。

「ありがとう!ありがとう!」と悠真は侑芽の手を握り涙を流して繰り返す。

大袈裟ね、と侑芽は笑った。そして、

「ねぇ、ゆうちゃん、この子の名前なんだけどね?」


道明ってどうかな?


「は?」

悠真の涙が引っ込んだ。

耳を疑った。

思い出すのは少し憎いでもどこか憎めない悪霊。

「侑芽?」

「だってこの子ね」

笑うとそっくりなの

「え?」


子供の顔を見る。

一瞬その顔がニヤリと笑った気がした。


「うそだろーーーーっ!!」


道明は今日も笑う。

対戦ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。