3
最後です
はるか昔、九条道明の女性関係はそれはそれは華やかだった。
美しい顔立ち、甘い声、内裏の女性を悉く虜にした彼は光るの君が現れたのかと言われた。
だが、それは長く続かなかった。
ある日、女に刺された。
一夜限りの遊びで契った女のひとり。
『ああ、これで終わるのか』
そう思ったその時、
神は言った。
お前が真に愛を知るまで眠ること罷りならん
と。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
悠真のいつもの日常が戻ってきた。
仕事に行き、帰って寝る。
ただ、変わったこともあった。
【今日も一日お疲れ様。】
【侑芽こそ、お疲れ様】
以前の様に侑芽メッセージの交換ができる様になったこと
【今度の休み、時間あるか?】
【あるある!映画行きたい!】
2人で出かけるようになったことだ。
悠真は毎日が楽しくなった。
『あーぁ、良いご身分ですなぁ』と道明の拗ねる声。
『そろそろお役御免か?』
道明は考えて即否定する。
『嫌や!』
あの子を諦められへん!
たとえ侑芽が悠真しか見ていなかったとしても。
こんなこと、今までなかった。
初めての感覚だった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
約束の映画の日、ウキウキと悠真が待ち合わせ場所に行こうとすると、道明の声がした。
『悠真、頼みがある』
ーーーなんだよ?
急に真面目な雰囲気の道明に悠真は警戒した。
待ち合わせまで時間もない。
『今日…体貸してくれへんか?』
今まで勝手に入ってきたくせに、何故か改めて聞いてくる。
ーーーなんでだよ?
と尋ねても『それは言えへん』の一点張りだ。
ーーーじゃあ嫌だ
悠真は拒否した。
せっかく良いムードなのだ。邪魔はされたくない。
しかし、道明は『悠真、大事なこと忘れてへんか?』と言ってにやりと笑った。
『僕は悪霊や』
それは今までの道明では考えられないくらい低い声だった。
『嫌やゆうても借りるで』
ーーーなっ!!
『堪忍な、悠真』
道明の謝罪を最後に悠真の意識は闇に沈んでいった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「ゆうちゃんお待たせ!」と、侑芽は時間通りにやってきた。
「『待ってへんし、気にせんといて』」
悠真の体の道明は笑顔で片手を振る。
そして『ほないこか』と手を差し出した。
侑芽の小さな手が悠真の…道明の手に自然に触れる。
その温かさが心地よかった。
2人は並んで歩き出す。
見にきた映画は今話題のSF映画だった。
「ゆうちゃん、このシリーズ大好きだったよね?」と言われるが道明にはわからなかった。
「『そうやったな』」とポツリつぶやく。
きっとここにいるのが、悠真の体を借りた悪霊だとは夢にも思っていないのだろう。
「変なゆうちゃん」と侑芽は笑った。
椅子に座りスクリーンを見る。
話題だけあってたしかにおもしろい。
侑芽はスクリーンに見入っていた。
そんな彼女の手を道明はそっと握る。
侑芽は赤くなりながら、しっかりと握り返した。
そして、映画が終わった後、
「ゆうちゃんの怖がり、相変わらずだね」と笑った。
暗闇が怖かったわけでも迫力に驚いたわけでもない。
ただ自分を見て欲しかったのに…
彼女が見ていたのは悠真の面影だった。
「この後どうする? ご飯食べて帰る?」
屈託無く笑いながら尋ねる侑芽に、道明の足が止まった。
「『侑芽は、悠真とおるときも、こないして笑うんやろな』」
「え?」
道明の口から、ぽつりと言葉がこぼれた。
「『昔からずっと一緒なんやもんな。ゆうちゃん、ゆうちゃんて……』」
その声には、いつもの軽さがなかった。
「『ホンマ、かないまへんな…悠真には』」
ポツリと道明は呟いた。
「『ゆうちゃんゆうちゃんやのうて、僕のことも見なっ!』」
「ゆうちゃん?」
「『好きなんや…、侑芽のこと好きなんや』」
それは自然に溢れてきた。
初めは恋愛指南と言って悠真を揶揄う為だった。だが次第に惹かれていた。そう道明は告白した。
その瞬間、侑芽は見た。
悠真の姿をしているが、全く別の誰か。
和服姿の男性が泣いている。
不思議と怖くはなかった。
「あなたは、…….…だれ?」
侑芽はなぞる様に彼の頬に触れ尋ねた。
「『今更かいな』」と道明は悠真の体で笑う。
泣きながら笑う。
「『僕は道明いいます。よろしゅう、愛しい人』」
そしてそっと頬に触れる侑芽の手に自らの手を重ねた。
瞬間悟ってしまう。
ああ、消える時が来たんだと。
これが与えた己への罰だったのだと。
隣に立つことは許されないのだと。
『悠真、あとは頼んだで』
心の中でつぶやく。
でも、最後にひとつだけ、わがままええか?
「『最後に呼んで、その唇で』」
それだけで満足やと道明は侑芽の瞳をみつめた。
「…道明」
「『もう一度』」
「道明」
「『もう一度や』」
「道明、ありがとう」
最後にそう言った時、侑芽の瞳から涙が流れていた。
何故だかわからない。ただただ涙が溢れた。
「『ああ、ありがとう』」
涙をキスで拭い、道明は微笑む。
「『侑芽のおかげで、今度はしっかり眠れそうや…』」
悠真と重なって見えていた男がだんだん薄くなって消える。
そして、くたりと、悠真の体が膝をついた。
悠真の意識が浮上する。
何があったのかわからない。
ただ道明が体のどこにももういないとなんとなく察した。
瞳を上げると心配そうな侑芽の姿。
「…侑芽?」名前を呼ぶ。
「ゆうちゃん!」
侑芽が抱き起こすと、悠真は笑っていた。
「ただいま、侑芽」
そして
「今まで伝えられなくてごめん、愛してる」
ずっとずっと、と侑芽を抱きしめ悠真は想いを伝えた。
「私も、ゆうちゃん、大好きだよ」
『ほれみい、僕の恋愛指南もなかなかのもんやろ?』
2人の耳にそんな声が聞こえた気がした。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
悠真と侑芽は結ばれてから数年後
侑芽は可愛らしい男の子を出産した。
「ありがとう!ありがとう!」と悠真は侑芽の手を握り涙を流して繰り返す。
大袈裟ね、と侑芽は笑った。そして、
「ねぇ、ゆうちゃん、この子の名前なんだけどね?」
道明ってどうかな?
「は?」
悠真の涙が引っ込んだ。
耳を疑った。
思い出すのは少し憎いでもどこか憎めない悪霊。
「侑芽?」
「だってこの子ね」
笑うとそっくりなの
「え?」
子供の顔を見る。
一瞬その顔がニヤリと笑った気がした。
「うそだろーーーーっ!!」
道明は今日も笑う。
対戦ありがとうございました!




