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ダンジョン不動産~良い物件はありません。合う物件があるだけです。~  作者: 余白
第一章 「とある不動産と冒険者たち」
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9/21

第9話 夢の続き

 朝のローゼンベルク不動産。


 レオンが扉を開けると、すでに明かりがついていた。


 事務所の中。


 机いっぱいに紙が広がっている。

 その前に、煤まみれのドワーフが座っている。


「何してるんですか」


「仕事じゃ」


 ロギは顔も上げなかった。


 机の上にはカルロの計画書と、新しい図面が重なっている。


「許可は取りましたか」

「取ってない」


「帰ってください」

「嫌じゃ」


 レオンは上着を脱ぎ、自分の椅子に座った。

 いつもの流れだった。


 ロギの図面を、横から覗き込んだ。


 宿泊棟。

 ワイン工房。

 展望台。

 遊歩道。

 市場。


 温泉らしき何か。


「これは?」


 レオンが指差した。


「温泉じゃ」

「ダンジョンに温泉はありましたか」


「五階層の地下に熱源がある」

「掘れば出る」


「根拠は?」

「勘じゃ」


 レオンは何も言わなかった。


「これは全部」


 少し間を置いた。


「誰かに依頼されたんですか」

「されてない」


「では何故」


 ロギはペンを止めた。


「誰かが描かんと」


 静かに言った。


「消えるじゃろ」


 事務所に静寂が落ちた。


 レオンはロギを見た。

 ロギは図面を見ていた。


 レオンは何も言わずに、台帳を開いた。


 昼前にカルロが来た。

 扉を開けて、固まった。


「何ですかこれ」


 机いっぱいの図面を見て言った。


「お前の未来じゃ」


 ロギが言った。


「頼んでません」


「知っとる」


 カルロはしばらく立ったまま、図面を見ていた。

 それから、引き寄せられるように近づいた。


 一枚手に取る。


 宿泊棟の設計図。

 丁寧な線。

 細かい注釈。


 その余白に、見覚えのある字があった。


 祖父の計画書から書き写したメモ。

 祖父の構想。

 祖父の走り書き。


 全部、図面に反映されていた。


「これ……」


「爺さんが見たかった景色じゃ」


 ロギは図面を指でなぞった。


「展望台からの眺め。」

「ワインと飯。」

「泊まれる場所。」

「全部ここに書いてある」


 カルロは黙って図面を見続けた。


 レオンが紙を置いた。

 数字が並んでいる。


「試算を出しました」


 カルロが顔を上げた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━

 【ワイナリーのみ】

 年間利益 800,000G


 【ワイナリー+宿泊棟】

 年間利益 1,200,000G


 【観光地化(長期)】

 年間利益 2,000,000G

 ━━━━━━━━━━━━━━━


「段階的に進められます」


 レオンは続けた。


「最初からリゾートを目指す必要はない」

「ワイナリーで黒字にしながら」

「少しずつ拡張できます」


「本当にできるのか」


 カルロが言った。


「わかりません」


 レオンは正直に答えた。

 少し間を置いた。


「ですが」


 ロギの図面を見た。


「珍しく」


 少しだけ言いにくそうに言った。


「良い図面です」

「珍しくとは何じゃ」


「事実です」


「褒め方が歪んどる」

「褒めています」


 カルロが二人を交互に見た。

 しばらく沈黙が続いた。


 カルロは祖父の計画書を手に取った。

 それからロギの図面を見た。

 また計画書を見た。


 長い沈黙。


 そして。


「……相談に乗ってもらえますか」


 ロギが片眉を上げた。


「やってみます、じゃないのか」

「まだそこまでは」


「でも」


 カルロは計画書を胸に抱えた。


「続きが見たい、と思いました」


 レオンが静かに言った。


「もちろんです」


 ロギが鼻を鳴らした。


「最初からそう言えばよかったんじゃ」


 カルロが帰った。


 夕方の事務所。


 ロギはまだ図面を描いていた。


「帰らないんですか」

「明日も来る」


「ご自宅は?」

「宿代がもったいない」


 レオンはしばらく黙っていた。


「そうですか」


 台帳を閉じた。

 少し間を置いた。


「空いてる机があります」


 ロギが顔を上げた。


「設計部にしましょう」

「一人しかおらんぞ」


「今のところは」


 ロギはしばらくレオンを見ていた。

 それから、ニヤリとした。

 レオンは少し笑った。


 窓の外、夕暮れが広がっていた。


 街に明かりが灯り始める。


 工房街の煙。

 市場の喧騒。

 ギルドの旗。


 ローゼンベルク不動産。


 受付、レオン。

 設計部、ロギ。


 社員二人。


 だが。


 二人とも同じものを見ていた。


 まだ存在しない街。

 まだ誰も見ていない景色。


 図面の上にだけある、未来の街を。


 そして。


 その街を売る日を。

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