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第20話 最終選定

 蒼穹の牙、クラン本部。


 会議室に八人が集まっていた。


 クラン長ダグラス。

 副団長アイリス。

 A級幹部、エドガーとライラ。

 支援職責任者のサラ。

 専属鍛冶師のベルグ。

 事務長のクリス。

 そして情報担当のレン。


 テーブルの上に三冊の資料が並んでいる。


「始める」


 ダグラスが言った。


───────────────────────


「まずグランベル案から」


 クリスが資料を開いた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━

 グランベル不動産

 【安全運営案】


 物件価格 :6,500,000G

 収容人数 :最大80名

 即入居  :可能

 想定年間利益:1,500,000G


 特徴

 ・黒龍なし

 ・街道近接

 ・設備充実

 ・安定した収益基盤

 ━━━━━━━━━━━━━━━


「現在の五十八人に対して余裕のある収容数」

「黒龍リスクがなく即入居できます」

「安定した収益が見込めます」


 エドガーが頷いた。


「堅実だな」


「次、ヴァイス案」


 ━━━━━━━━━━━━━━━

 ヴァイス不動産

 【拡大型運営案】


 物件価格 :12,000,000G

 収容人数 :最大110名

 想定年間利益:2,500,000G


 特徴

 ・六層構造

 ・訓練設備充実

 ・将来の拡張に対応

 ・育成環境として最上位

 ━━━━━━━━━━━━━━━


「六層構造で将来百人超にも対応できます」

「訓練施設が充実しており」

「育成に特化した環境です」


 ライラが腕を組んだ。


「将来性がある」


「最後」


 クリスが三冊目を開いた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━

 ローゼンベルク不動産

 【黒龍運営案】


 物件価格 :1,200,000G

 建築費  :15,000,000G

 実質負担 :13,500,000G

 収容人数 :最大100名以上

 想定年間利益

  最悪:2,500,000G

  平均:5,000,000G

  最良:8,000,000G


 特徴

 ・黒龍出現(半年周期)

 ・採掘・加工・訓練・運営の複合収益

 ・黒龍を昇格試験・ブランドとして活用

 ・将来の第二拠点計画あり

 ━━━━━━━━━━━━━━━


 会議室が静まり返った。


「利益の幅が広すぎる」


 クリスが言った。


「黒龍の討伐結果次第で」

「二百五十万から八百万まで変わる」

「これは試算と呼べるのか」


「呼べる」


 レンが言った。


「リスクを正直に書いてる」

「他の二社は最良値しか書いてない」


───────────────────────


 議論が始まった。


「黒龍は危険すぎる」


 エドガーが言った。


「討伐記録を見たか?」

「第73次討伐隊は全滅だ」


「わかってる」


 ダグラスが言った。


「だが収益の試算は見たか」


「月十三万ゴールドの返済が十年続く」


 クリスが資料を叩いた。


「一つ間違えたら厳しくなる」


「素材は魅力だ」


 ベルグが言った。


「黒龍鱗・黒龍牙・黒龍角」

「鍛冶師としては夢の素材だ」

「一生に一度加工できるかどうか」


「夢の話をしてる場合か」


「夢じゃない」

「収益試算に入ってる」


 サラが資料を開いた。


「育成環境としては黒龍案が一番良い」

「第四層は上位魔物がいない」

「新人の練習場として理想的だ」


「黒龍が出たら新人が死ぬ」


「監視室がある」

「転送門で事前確認できる」


 議論が続いた。


 ダグラスは黙って聞いていた。


───────────────────────


「アイリスはどう思う」


 しばらくして、ダグラスが言った。


 全員がアイリスを見た。


 アイリスはずっと黙っていた。

 三冊の資料を、順番に見ていた。


「私は」


 静かに言った。


「黒龍案に賛成」


「なぜだ」


「一番面白いから」


 ダグラスが頭を抱えた。


「それだけか」


「……一番強くなれるから」


 アイリスが続けた。


 会議室の空気が変わった。


「黒龍と戦えるクランは多くない」

「黒龍を定期的に討伐できるクランは」

「この国に存在しない」


「できるのか」


「最初はきつい」


 アイリスはエドガーを見た。


「二度目以降は慣れる」

「三度目には手順が確立する」

「そこからは強くなる一方だ」


「お前がそう言うなら」


 ライラが言った。


「信じる」


「私もだ」


 サラが続いた。


───────────────────────


 ダグラスは三冊の資料を並べた。


 安全案。

 拡大案。

 黒龍案。


 三社とも、正しいことを言っていた。


 グランベルは安全を求めるクランに正しい。

 ヴァイスは育成を重視するクランに正しい。

 ローゼンベルクは大きくなりたいクランに正しい。


 問題は、蒼穹の牙が何になりたいか、だった。


 頭の中で声が蘇る。


 不動産屋の声。


「引っ越しだけですか?」


 あの時の問い。


「それとも」


「クランを大きくしたいのですか?」


 ダグラスは立ち上がった。


 全員が静まった。


「決めた」


 一冊の資料を手に取った。


「黒龍にする」


───────────────────────


 沈黙の後。


「クラン長」


 エドガーが言った。


「後悔しないか」


「するかもしれん」


 ダグラスは答えた。


「だが」


 少し間を置いた。


「大きくなりたいなら」

「大きなリスクを取るしかない」


「……わかった」


 エドガーが頷いた。


「俺も賛成する」


 クリスが資料を閉じた。


「融資の申請書類を準備します」


「頼む」


 ダグラスはアイリスを見た。


「お前に聞く」


「なに」


「レオンはどんな不動産屋だ」


 アイリスはしばらく考えた。


「討伐数しか覚えない」


「それだけか」


「でも」


 少し間を置いた。


「ダンジョンの先が見える」


 ダグラスは窓の外を見た。


 夕暮れが広がっていた。


「ならいい」


───────────────────────


 その夜。


 アイリスは一人、

 窓の外を見ていた。


 黒龍ダンジョンの方角。


 小さく呟いた。


「次は」

「討伐数以外で覚えてもらうから」

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