第21話 書類地獄
朝のローゼンベルク不動産。
ロギは今日もいた。
ただし今日は設計図ではなく、
書類を積み上げている。
扉の鈴が鳴った。
ダグラスが入ってきた。
「契約しに来た」
「お待ちしておりました」
レオンが立ち上がった。
ダグラスは机を見た。
書類の山があった。
ドサッ、とロギがさらに積み上げた。
「……なんだこれは」
「必要書類です」
「まだ半分じゃ」
ロギが言った。
ダグラスが絶望した。
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レオンが説明を始めた。
「順番にご説明します」
一枚目。
「ダンジョン売買契約書です」
「物件価格一百二十万ゴールドの支払いと」
「所有権の移転を確認します」
二枚目。
「登記変更申請書です」
「迷宮管理局への提出が必要です」
「用途変更も同時に申請します」
三枚目。
「冒険者ギルド保証申請書です」
「融資の保証をギルドに依頼します」
「審査があります」
四枚目。
「危険区域開発申請書です」
「黒龍生息ダンジョンの開発には」
「管理局の許可が必要です」
五枚目。
「新人育成施設補助申請書です」
六枚目。
「討伐拠点整備補助申請書です」
七枚目。
「危険区域開発助成申請書です」
「多くないか?」
「少ない方です」
ダグラスが頭を抱えた。
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午後。
冒険者ギルド本部。
受付を抜けた先の審査室。
融資担当の女性が待っていた。
三十代前半。
眼鏡をかけた真面目な顔。
机の上に分厚いファイルが積まれている。
「黒龍ダンジョンの融資申請ですね」
「はい」
「またですか」
ダグラスが眉をひそめた。
「また?」
「過去に七十三回、同物件への融資申請がありました」
「全件、否決または途中辞退です」
沈黙。
ダグラスがレオンを見た。
レオンは表情を変えなかった。
「承知しています」
「では」
担当官がファイルを開いた。
「今回の返済計画を説明してください」
ダグラスが口を開こうとした。
レオンが静かに割り込んだ。
「こちらをご確認ください」
一枚の資料を差し出した。
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【返済計画書】
借入額 :13,500,000G
返済期間 :10年
年利 :3%(ギルド保証付き)
月額返済 :約130,000G
【返済原資】
基本運営収益(年間):4,000,000G
維持費(年間) :▲2,000,000G
年間純利益 :2,000,000G
月間純利益 :約167,000G
月額返済130,000Gに対し
月間純利益167,000G
余裕:約37,000G/月
黒龍収益は返済原資に含めず
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「黒龍収益を返済原資に含めていない」
担当官が資料を見た。
「はい」
「黒龍は臨時収入として扱います」
「基本運営だけで返済できる計画です」
「ただ」
担当官はペンで数字を指した。
「余裕が少なくありませんか」
「月三万七千ゴールドでは」
「想定外の出費で詰まります」
「そのため黒龍収益を返済原資に含めていません」
レオンは続けた。
「黒龍収益は」
「繰上返済と修繕積立に充てます」
「余裕が少ない分を」
「臨時収入で補う設計です」
担当官が少し考えた。
「……つまり」
「通常運営で返済し」
「黒龍が出たら前倒しで終わる」
「はい」
「過去の申請は全件」
「黒龍収益を前提にした計画でした」
「存じています」
担当官がファイルをめくった。
しばらく沈黙が続いた。
「クランの実績書類はありますか」
「こちらです」
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蒼穹の牙 実績証明
継続活動期間:4年2か月
重大違反 :なし
月次報告 :全件提出済み
討伐成功率:94.3%
A級保有数 :4名
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「……準備が良いですね」
「仕事ですので」
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翌日。
迷宮管理局。
窓口の職員が書類を受け取った。
「危険区域開発助成の申請ですね」
「はい」
「黒龍確認書類は?」
「こちらです」
職員がめくる。
「第六号様式は?」
「こちらです」
「第六号様式別紙は?」
「こちらです」
「黒龍定期出現証明は?」
「こちらです」
「第七十三次討伐隊の記録との照合書類は?」
「こちらです」
職員が固まった。
「……全部揃ってる」
「仕事ですので」
ダグラスが小声でレオンに言った。
「よく知ってるな」
「過去の申請資料を取り寄せました」
「必要書類は把握しています」
「いつ?」
「視察の前日です」
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管理局の廊下。
帰り際に、見覚えのある顔があった。
グランベル不動産の担当者。
ヴァイス不動産の担当者。
二人ともこちらを見て、少し驚いた顔をした。
「本当にやるんですか」
グランベルの男が言った。
「やります」
「融資が通るとは思えませんが」
「通ります」
ヴァイスの男が続けた。
「リスクが高すぎます」
「我々は責任ある提案をしなければ」
「ありがとうございます」
レオンは静かに言った。
「ご懸念はもっともです」
少し間を置いた。
「ただ」
「蒼穹の牙は大きくなりたいクランです」
「安全な提案が合うクランではありませんでした」
二人が黙った。
ダグラスが横で腕を組んでいた。
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数日後。
冒険者ギルド本部。
審査室。
担当官が、一枚の書類を机に置いた。
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融資承認
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判子が押されていた。
「おめでとうございます」
担当官が言った。
「過去七十三回の申請で」
「初めての承認です」
ダグラスが資料を受け取った。
しばらく、黙って見ていた。
「通ったか」
「通りました」
レオンが静かに言った。
ロギがニヤリとした。
「やっとワシの出番じゃな」
「お待たせしました」
レオンはロギを見た。
「では」
「着工します」




