第18話 事故物件視察
黒龍ダンジョンは、街道から馬車で一時間の場所にあった。
山の裾野。
開けた平地に、ぽつりと入口が口を開けている。
馬車を降りたダグラスが、
入口を見上げた。
「……普通に立派だな」
石造りの門。
整備された参道。
管理状態は悪くない。
「はい」
レオンが静かに答えた。
「立地も良い」
「街道への接続も問題ありません」
「なんで売れ残るんだ」
「続きをご覧ください」
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第一層。
広い採掘区画が広がっていた。
鉱脈が壁面に走っている。
質は高い。
採掘設備の跡も残っている。
「鉱脈の質はどうだ」
「王都近郊では上位に入ります」
「鉄・銅・銀が安定して採れます」
ダグラスが壁を触った。
「悪くない」
第二層。
素材系の魔物が生息している。
スライム系・植物系が中心で、
危険度は低い。
「素材の質は?」
「薬師ギルドと素材商人、両方に需要があります」
「定期売却ルートも組めます」
第三層。
広い空間が続いている。
天井が高い。
通路が複数に分かれている。
「訓練向きですね」
レオンが言った。
「敵の難易度が手頃です」
「C級からB級の育成に最適です」
ダグラスが周囲を見渡した。
「第四層は?」
「居住区として使えます」
「魔素が安定していて」
「換気も良い」
ダグラスが腕を組んだ。
「なんで売れ残るんだ」
もう一度言った。
「本当に普通に良い物件じゃないか」
レオンは資料を取り出した。
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【黒龍討伐記録】
第71次討伐隊
参加:A級2名・B級8名
結果:死者11名
第72次討伐隊
参加:A級3名・B級10名
結果:死者8名
第73次討伐隊
参加:A級5名・B級15名
結果:全滅
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沈黙が落ちた。
ダグラスが記録を見つめた。
全滅。
A級五名を含む討伐隊が、全滅している。
「……そういうことか」
「はい」
レオンは静かに言った。
「だから安いのです」
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第五層入口の手前に、
小さな扉があった。
【立入禁止区域・監視室】
レオンが鍵を取り出した。
「こちらです」
中に入ると、
石造りの小部屋だった。
壁面に魔導モニターが埋め込まれている。
古びているが、まだ動いている。
映像が映し出された。
第五層の内部。
黒龍がいた。
ドンッ。
地面が揺れた。
「近いな」
ダグラスが思わず後退した。
「転送門経由です」
レオンが静かに言った。
「映像は離れた場所から撮影しています」
「そんな設備があるのか」
「前所有者が設置しました」
「何のために」
「黒龍を監視するためです」
「なるほど」
「なお」
レオンは続けた。
「設置した討伐隊は全滅しました」
「なるほどじゃねぇ」
ダグラスが頭を抱えた。
アイリスはモニターから目を離さなかった。
じっと、黒龍を見ている。
動き方を見ている。
体の大きさを測っている。
尻尾の軌跡を追っている。
二人はじっと、
モニター越しに黒龍を見ていた。
奥から、低い唸り声。
地面が微かに揺れている。
「うちのメンバーで討伐できるか?」
アイリスはしばらく黙っていた。
「今は?」
「ああ」
「総動員で、なんとか」
「なんとか、か」
「動き方がわからない」
「初見は消耗が大きい」
ダグラスが頷いた。
「二度目以降は?」
「変わる」
アイリスは視線を外さなかった。
「攻撃パターンがわかれば」
「習性が読めれば」
少し間を置いた。
「八割のメンバーで攻略できる」
「それ以降は?」
「もっと楽になる」
「慣れれば六割でいい」
ダグラスが唸った。
「つまり最初だけきつい」
「最初だけ、きつい」
黒龍が動いた。
二人は素早く身を引いた。
唸り声が通路に響く。
地面が揺れる。
それが収まってから、
ダグラスが言った。
「レオンはこれを見越してるのか」
アイリスは少し笑った。
「見越してる」
「不動産屋なのに?」
「不動産屋だから」
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地上へ戻ったところで、
人影があった。
スーツ姿の男が二人。
どちらも書類を抱えている。
男の一人がダグラスを見て、
丁寧に頭を下げた。
「蒼穹の牙のクラン長殿ですね」
「グランベル不動産の者です」
もう一人も続いた。
「ヴァイス不動産です」
「本日はこちらの視察に?」
「ああ」
ダグラスが頷いた。
「失礼ですが」
グランベルの男が言った。
「この物件はおすすめしません」
「理由は?」
「事故物件です」
男は資料を広げた。
「先ほどご覧になったかと思いますが」
「討伐記録が示す通り」
「この物件では死人が出ます」
「正論ですね」
ダグラスが腕を組んだ。
ヴァイスの男も続いた。
「我々は責任ある提案をしなければなりません」
「クランの皆さんの命に関わります」
「別の物件をご案内できます」
二人とも、まともなことを言っていた。
正しい判断だった。
その時。
「出るね」
アイリスが言った。
男たちが振り返った。
「死人が、ですか?」
「黒龍が」
「……だからです」
「でも黒龍も出る」
「だから事故物件なのです」
「黒龍が出るから良い物件じゃないですか」
男たちが黙った。
会話が成立していなかった。
ダグラスが小声でアイリスに言った。
「お前、それ普通じゃないからな」
「そうか?」
「そうだ」
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競合二社がレオンに向き直った。
「ローゼンベルク不動産さん」
「はい」
「本気でこの物件を勧めるつもりですか?」
「はい」
男の一人が言った。
「蒼穹の牙を危険に晒す気ですか?」
「いいえ」
レオンは資料を閉じた。
「大きくする気です」
二人が顔を見合わせた。
レオンはそれ以上何も言わなかった。
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競合二社が帰った後。
レオンがダグラスを見た。
「いかがでしたか」
ダグラスはしばらく黙っていた。
それから言った。
「話を聞かせてくれ」
「黒龍をどうするつもりか」
「事務所でお茶を出しながらの方が」
「丁寧にご説明できます」
ダグラスが苦笑した。
「お前も大概だな」
「仕事ですので」




