第13話 冒険者拠点建築 ~設計編~
翌週。
中級ダンジョン、第一層。
入口から十分ほど進んだ場所。
鉱脈の少ない、開けた空間に
八人が立っていた。
エリック、マルク。
新入りの剣士、弓使い、魔術師、回復役。
そしてロギとレオン。
天井は高い。
岩壁が四方を囲んでいる。
かすかに水が流れる音がする。
ダンジョン特有のひんやりとした空気。
「ここに建てるんですか」
新入りの一人が言った。
「そうじゃ」
ロギは設計図の筒を脇に抱えたまま、
ゆっくりと歩き始めた。
空間を横切る。
立ち止まる。
また歩く。
岩壁を触る。
天井を見上げる。
地面を踏む。
「入口付近は駄目じゃ」
ロギが言った。
「何でですか?」
「冒険者がうるさい」
「なるほど」
「鉱脈の真上も駄目じゃ」
「何でですか?」
「掘りたくなる」
「……なるほど」
エリックが苦笑した。
ロギはさらに奥へ歩いた。
立ち止まった。
「ここじゃ」
「何がですか?」
「魔素の流れが安定しとる」
ロギは地面を踏んだ。
「岩盤も硬い」
「この深さなら湧水も来ない」
「天井も高い」
周囲を見渡した。
「ここなら風呂も掘れる」
「岩盤に風呂を掘るんですか!?」
「当然じゃ」
「地上に建てるより丈夫じゃ」
ロギは満足そうに頷いた。
「魔素が安定しとるから回復も早い」
「休息拠点としては申し分ない」
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設計図を広げた。
地面に直接、大きな紙を広げる。
石で四隅を押さえた。
ロギが指でなぞりながら説明する。
「入口から入って、左が食堂」
「右が事務室」
「奥に進むと共同寝室が二部屋」
「その隣に倉庫と解体場」
「裏手に鍛錬場と浴場」
エリックが食い入るように見た。
「広いですね」
「当然じゃ」
「あの」
新入りの弓使いが手を上げた。
「鍛錬場、もっと広くできませんか?」
「できる」
「おお!」
「その代わり食堂が消える」
「困る!」
ロギは設計図から顔も上げなかった。
「空間は有限じゃ」
「広げたければ何かを削る」
「削りたくなければ諦める」
「ですよね……」
「諦めが悪いなら金を出せ」
「岩盤を削るんですか?」
「そうじゃ」
「ただし追加費用がかかる」
エリックがレオンを見た。
「その話は後で」
レオンが静かに言った。
「今は設計を進めましょう」
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「次」
ロギが設計図の別の箇所を指差した。
「寝室じゃ」
「六人用の共同部屋で設計してある」
「棚の位置はここじゃ」
「あの」
新入りの回復役が手を上げた。
「棚、ちょっと低くないですか?」
ロギが設計図を見た。
「低いな」
「ですよね?」
「ワシが低いからじゃ」
沈黙。
「設計理由それですか!?」
「毎日使うからな」
「住むの俺たちですけど!?」
「そうじゃった」
ロギが顎を撫でた。
レオンが静かに口を開いた。
「修正しましょう」
「待て」
ロギが即座に止めた。
「何ですか」
「使ってみれば案外便利かもしれん」
「なりません」
「なってくれ」
「なりません」
レオンはすでにペンを走らせていた。
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「それから」
ロギが浴場の図面を指差した。
「浴場はここじゃ」
「あの」
新入りの魔術師が首を傾げた。
「広くないですか?」
「広いな」
ロギが頷く。
「なんでです?」
「ワシが風呂好きだからじゃ」
「またですか!?」
「設計士特権じゃ」
「そんな特権ありません」
レオンが即答した。
「縮小します」
「待て」
「なんですか」
「風呂は広い方がいい」
「これは真理じゃ」
「お客様の要望ですか?」
レオンは六人を見た。
六人が顔を見合わせた。
「……まあ、広い方がいいですけど」
「ですよね?」
「ロギさん」
レオンが振り返った。
「今回は存続です」
「うむ」
ロギが満足そうに頷いた。
エリックが小声でマルクに言った。
「なんか一個認められて嬉しそうだな」
「職人だからな」
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「次」
ロギが寝室の図面を指差した。
「個室は将来増築前提にしてある」
設計図の端を指差した。
「ここを将来的な個室エリアにしておく」
「今は岩盤じゃが」
「後から掘り進める前提で構造を組んである」
回復役が目を丸くした。
「最初からそこまで考えてたんですか」
「当然じゃ」
ロギはさらりと言った。
「住む奴のことを考えるのが設計士じゃ」
さっきまでのやり取りを見ていた新入りの剣士が、
こっそりマルクに聞いた。
「……さっきの棚は?」
「忘れろ」
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打ち合わせが続いた。
要望が出るたびに何かが削れ、
削れるたびに誰かが困り、
困るたびにロギが「金を出せ」と言った。
最終的に。
浴場は存続。
鍛錬場は現状維持。
個室は将来増築前提で保留。
食堂は死守。
棚は修正。
打ち合わせが終わった。
レオンは修正版の図面を確認した。
「棚を修正」
「うむ」
「浴場を存続」
「うむ!」
「食堂を拡張」
「うむ」
「これで確定です」
ロギが不満そうな顔をした。
「ワシのこだわりが一個しか通らんかった」
「お客様の希望です」
「設計士の夢は」
「二番目です」
ロギは大きくため息を吐いた。
「不動産屋というのは夢がない」
「夢だけでは住めませんので」
エリックが苦笑した。
「ありがとうございます」
「二人とも」
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夕方になっていた。
ロギは鞄から、
太い杭と木槌を取り出した。
「何するんですか」
「地縄張りじゃ」
「じなわ?」
「建物の位置を決める」
ロギは空間の中央へ歩いた。
立ち止まる。
岩盤に杭を当てる。
カンッ。
打ち込んだ。
また歩く。
カンッ。
また打つ。
カンッ。
カンッ。
カンッ。
杭が四本、岩盤に刺さった。
「これで終わりじゃ」
「え?」
エリックが辺りを見回した。
杭が四本あるだけだ。
岩壁。
鉱脈。
何もない空間。
何も変わっていない。
「家の位置が決まった」
ロギは杭を眺めながら言った。
「ここが入口じゃ」
一本目の杭を指差す。
「ここが食堂」
二本目。
「ここが寝室」
三本目。
「ここが鍛錬場」
四本目。
エリック達は杭と杭の間を見た。
まだ何もない。
岩盤が広がっているだけだ。
マルクが静かに言った。
「楽しみですね」
ロギが振り返った。
「まだじゃ」
「?」
ニヤッと笑った。
「ここからが楽しいんじゃ」
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帰り道。
レオンはしばらく後ろを歩いていた。
杭が打たれた空間が、
遠ざかっていく。
四本の杭。
まだ何もない場所。
だがレオンには見えた。
食堂の灯り。
鍛錬場の音。
疲れて帰ってくる冒険者達。
最初に来たとき。
エリック達は、二人だった。
スライムダンジョンの前で、
「自分だけの狩り場が欲しい」と言っていた。
今は六人。
そして次は。
自分達の拠点を持とうとしている。
レオンは前を歩くエリック達を見た。
背中が、少し大きくなっていた。




