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ダンジョン不動産~良い物件はありません。合う物件があるだけです。~  作者: 余白
第一章 「とある不動産と冒険者たち」
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12/21

第12話 ダンジョン物件住み替え ~設計編~

 翌週。


 中級ダンジョン、第一層。


 入口から十分ほど進んだ場所。


 鉱脈の少ない、開けた空間に

 八人が立っていた。


 エリック達六人と、ロギ。そしてレオン。


 天井は高い。

 岩壁が四方を囲んでいる。

 かすかに水が流れる音がする。

 ダンジョン特有のひんやりとした空気。


「ここに建てるんですか」


 新入りの一人が言った。


「そうじゃ」


 ロギは設計図の筒を脇に抱えたまま、

 ゆっくりと歩き始めた。


 空間を横切る。

 立ち止まる。

 また歩く。

 岩壁を触る。

 天井を見上げる。

 地面を踏む。


「入口付近は駄目じゃ」


 ロギが言った。


「何でですか?」


「冒険者がうるさい」


「なるほど」


「鉱脈の真上も駄目じゃ」


「何でですか?」


「掘りたくなる」


「……なるほど」


 エリックが苦笑した。


 ロギはさらに奥へ歩いた。


 立ち止まった。


「ここじゃ」


「何がですか?」


「魔素の流れが安定しとる」


 ロギは地面を踏んだ。


「岩盤も硬い」

「この深さなら湧水も来ない」

「天井も高い」


 周囲を見渡した。


「ここなら風呂も掘れる」


「岩盤に風呂を掘るんですか!?」


「当然じゃ」

「地上に建てるより丈夫じゃ」


 ロギは満足そうに頷いた。


「魔素が安定しとるから回復も早い」

「休息拠点としては申し分ない」


---


 設計図を広げた。


 地面に直接、大きな紙を広げる。

 石で四隅を押さえた。


 ロギが指でなぞりながら説明する。


「入口から入って、左が食堂」

「右が事務室」

「奥に進むと共同寝室が二部屋」

「その隣に倉庫と解体場」

「裏手に鍛錬場と浴場」


 エリックが食い入るように見た。


「広いですね」


「当然じゃ」


「あの」


 新入りの弓使いが手を上げた。


「鍛錬場、もっと広くできませんか?」


「できる」


「おお!」


「その代わり食堂が消える」


「困る!」


 ロギは設計図から顔も上げなかった。


「空間は有限じゃ」

「広げたければ何かを削る」

「削りたくなければ諦める」


「ですよね……」


「諦めが悪いなら金を出せ」


「岩盤を削るんですか?」


「そうじゃ」

「ただし追加費用がかかる」


 エリックがレオンを見た。


「その話は後で」


 レオンが静かに言った。


「今は設計を進めましょう」


---


「次」


 ロギが設計図の別の箇所を指差した。


「寝室じゃ」

「六人用の共同部屋で設計してある」


「あの」


 今度は新入りの回復役が手を上げた。


「個室って欲しいんですよね」


「金を出せ」


「え?」


「個室にするなら岩盤を余分に削る」

「今の予算では無理じゃ」


「……いくらかかりますか」


「一部屋増やすなら二十万ゴールドじゃな」


「無理です」


「じゃあ共同部屋で我慢しろ」


 回復役がしゅんとした。


 マルクが慰めるように言った。


「今は我慢しよう」

「稼いだら増築すればいい」


「増築もできるんですか?」


 エリックがロギに聞いた。


「設計の段階で増築前提にしておく」


 ロギは設計図の端を指差した。


「ここを将来的な個室エリアにしておく」

「今は岩盤じゃが」

「後から掘り進める前提で構造を組む」


 エリックが目を丸くした。


「最初からそこまで考えてたんですか」


「当然じゃ」


 ロギはさらりと言った。


「住む奴のことを考えるのが設計士じゃ」


---


「それから」


 新入りの魔術師が恐る恐る手を上げた。


「お風呂、二つ欲しいんですけど」


「貴族か」


「男女で分けたくて」


 ロギが顔を上げた。


 少し考えた。


「それは正しい要望じゃな」


「じゃあできますか?」


「仕切りを入れれば浴槽を二つに分けられる」

「岩盤を少し深く掘ればいい」


「ありがとうございます!」


「ただし」


 ロギは設計図に何かを書き込んだ。


「その分、解体場が少し狭くなる」


 エリックが頭を抱えた。


「また何かが削れる……」


「空間は有限じゃと言った」


「言いました……」


---


 打ち合わせが一時間ほど続いた。


 要望が出るたびに何かが削れ、

 削れるたびに誰かが困り、

 困るたびにロギが「金を出せ」と言った。


 最終的に。


 浴場は仕切りで二分割。

 鍛錬場は現状維持。

 個室は将来増築前提で保留。

 食堂は死守。


 エリックが疲れた顔で言った。


「家を建てるって大変なんですね」


「当然じゃ」


 ロギは設計図を丸めた。


「建物は全員が使うものじゃ」

「全員の要望を叶えるには」

「全員が少しずつ我慢するしかない」


 新入りの魔術師が小声で言った。


「なんか人生訓みたいですね」


「建築はそういうもんじゃ」


---


 夕方になっていた。


 ロギは鞄から、

 太い杭と木槌を取り出した。


「何するんですか」


「地縄張りじゃ」


「じなわ?」


「建物の位置を決める」


 ロギは空間の中央へ歩いた。


 立ち止まる。


 岩盤に杭を当てる。


 カンッ。


 打ち込んだ。


 また歩く。


 カンッ。


 また打つ。


 カンッ。


 カンッ。


 カンッ。


 杭が四本、岩盤に刺さった。


「これで終わりじゃ」


「え?」


 エリックが辺りを見回した。


 杭が四本あるだけだ。

 岩壁。

 鉱脈。

 何もない空間。


 何も変わっていない。


「家の位置が決まった」


 ロギは杭を眺めながら言った。


「ここが入口じゃ」


 一本目の杭を指差す。


「ここが食堂」


 二本目。


「ここが寝室」


 三本目。


「ここが鍛錬場」


 四本目。


 エリック達は杭と杭の間を見た。


 まだ何もない。


 岩盤が広がっているだけだ。


 マルクが静かに言った。


「楽しみですね」


 ロギが振り返った。


「まだじゃ」


「?」


 ニヤッと笑った。


「ここからが楽しいんじゃ」


---


 帰り道。


 レオンはしばらく後ろを歩いていた。


 杭が打たれた空間が、

 遠ざかっていく。


 四本の杭。


 まだ何もない場所。


 だがレオンには見えた。


 食堂の灯り。

 鍛錬場の音。

 疲れて帰ってくる冒険者達。


 最初に来たとき。

 エリック達は、二人だった。


 スライムダンジョンの前で、

 「自分だけの狩り場が欲しい」と言っていた。


 今は六人。


 そして次は。

 自分達の拠点を持とうとしている。


 レオンは前を歩くエリック達を見た。


 背中が、少し大きくなっていた。

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