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ダンジョン不動産~良い物件はありません。合う物件があるだけです。~  作者: 余白
第一章 「とある不動産と冒険者たち」
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11/21

第11話 ダンジョン物件住み替え ~見積もり編~

 冒険者ギルドの奥。


 報告窓口のカウンターで、

 トーマスは書類を捌いていた。


 そこへ、見慣れた顔が来た。


 エリックだった。


 隣にマルク。

 それから知らない顔が四人。


「久しぶりだな」


 トーマスが顔を上げた。


「ご無沙汰してます」


 エリックが頭を下げた。

 以前より少し日焼けしている。

 体つきも締まった。


「月次報告です」


 分厚い書類を差し出した。


「メンバーが増えたな」


「はい」


 エリックが後ろを振り返った。


「四人増えました」

「今は六人です」


 トーマスは書類を受け取りながら言った。


「ダンジョンの方は?」


「おかげさまで順調です」

「素材の定期売却も軌道に乗って」


 マルクが続けた。


「初心者依頼も安定してこなせるようになりました」


「そうか」


 トーマスは書類をめくった。


 数字は悪くない。

 むしろ良い。


「ただ」


 エリックが少し眉をひそめた。


「最近ちょっと手狭なんですよね」


「手狭?」


「倉庫がいっぱいで」

「寝床も六人だと足りなくて」

「訓練スペースも取れなくて」


 マルクが苦笑した。


「二人の時はちょうど良かったんですけどね」


 トーマスは書類から顔を上げた。


「お前ら、そろそろ中級ダンジョンでもやっていけるんじゃないか」


 エリックが目を丸くした。


「中級、ですか」


「実力はある」

「問題は物件だな」


 トーマスが腕を組んだ。


「中級は高いし」

「どれを選べばいいかも分からんだろ」


 エリックとマルクが顔を見合わせた。


 そのとき。


 ギルドの扉が開いた。


 月次報告書を抱えたレオンが入ってきた。


 トーマスがにやりとした。


「ちょうどいい」


 レオンは当然のように言った。


「引っ越しですね」


 エリックが首を傾げた。


「引っ越し……?」


「ダンジョンの住み替えです」

「不動産の仕事ですよ」


 マルクが隣で小声で言った。


「そういうもんなのか」


「そういうもんです」


 レオンはカウンターの端に書類を置いた。


「少し聞かせてください」


 ギルドの一角に場所を借りた。


 レオンはペンを取り、

 聞き取りを始めた。


「現在の月間収益は?」


「素材売却込みで大体二十万ゴールドです」


「パーティーの構成は?」


「剣士二人、弓使い一人、魔術師一人、回復役一人、俺がサポートです」


「将来的なパーティー規模は?」


「今の六人でいこうかと」


「倉庫に何を保管していますか」


「素材がメインです」

「あと装備の予備と」

「換金前の討伐証明書」


 レオンは黙々と書き込んでいく。


 エリックはその様子を見ながら言った。


「あの」


「はい」


「覚えてますか」

「俺たちのこと」


 レオンは手を止めた。


 エリックとマルクを見た。


「スライムダンジョンの方ですね」


「覚えてたんですか!」


「お客様は覚えています」


 レオンはさらりと言って、

 ペンを走らせた。


 エリックとマルクが顔を見合わせた。


 数日後。


 ローゼンベルク不動産。


 エリック達六人が事務所に詰めていた。

 ロギが設計図を広げたまま隅に座っている。


「見つかりました」


 レオンが地図を広げた。


 街から馬車で二十分。

 山の手前に位置するダンジョン。


「三層構造です」

「一層が鉱石採掘」

「二層が魔物狩り」

「三層がボス階」

「魔物構成はオーク系とトロール系が中心です」


「強くないですか?」


 新入りの一人が聞いた。


「今のパーティー構成なら問題ないと判断しました」


 レオンは淡々と続けた。


「立地も良い」

「街道に近く、素材の運搬コストが下がります」

「鉱石の買取業者が近くに三件」

「鍛冶屋も二件あります」

「一層の採掘素材はそのまま加工に回せます」


 少し間を置いた。


「それから」


「はい?」


「二層でごくまれに」

「ジュエリーミミックの発生が確認されています」


「ジュエリーミミック!?」


 六人がざわめいた。


 宝箱型のモンスター。

 討伐できれば高級宝石や希少素材が手に入る。

 冒険者なら誰もが憧れる一発当たりの相手だ。


「ごくまれに、ですが」


「それでもいいです!」


「あとパーティーの構成を確認しました」

「魔術系が二人いますね」


「はい」


「この物件、魔素が安定しています」

「休息時のMP回復が他の物件より早い」

「魔術師二人のパーティーには特に有利です」


 エリックがマルクを見た。

 マルクが小さく頷いた。


 エリックが地図を見つめた。


「いいな」


 マルクが頷いた。


「条件は全部揃ってる」


「ただ」


 レオンが一枚の紙を置いた。


「問題があります」


 紙には現地の見取り図があった。


 ダンジョンの入口。

 周辺の地形。


 だが。


 拠点らしきものが何もない。


「寝床は?」


 エリックが聞いた。


「ないですね」


「倉庫は?」


「ないですね」


「解体場は?」


「ないですね」


「訓練場は?」


「ないですね」


 沈黙。


 事務所の隅から声がした。


「だから作るんじゃ」


 ロギが設計図から顔を上げた。


「作れるんですか?」


「当然じゃ」

「ワシは設計士じゃ」


 ロギは筒から設計図を引き抜き、

 机いっぱいに広げた。


 共同寝室。

 倉庫。

 解体場。

 鍛錬場。

 浴場。

 食堂。

 事務室。

 来客室。

 予備部屋。


 エリックが目を丸くした。


「豪邸じゃないですか」


「冒険者拠点じゃ」

「これくらい当然じゃろ」


 レオンが一枚の紙を置いた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━

 【建築費見積】

 1,500,000G

 ━━━━━━━━━━━━━━━


「無理です!!!」


 六人が同時に言った。


 レオンは表情を変えなかった。


「現在の月間収益は二十万ゴールドでしたね」


「はい」


「中級ダンジョンへ移転後の予想月収を試算しました」


 次の紙を置いた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━

 【収益試算】

 現在スライムダンジョン

 月間収益   :200,000G

 家賃     :▲60,000G

 食費(6人) :▲18,000G

 消耗品費   :▲15,000G

 装備維持費  :▲10,000G

 雑費     :▲7,000G

 ─────────────

 実質月収   :90,000G


 移転後(中級ダンジョン)

 予想月収   :320,000G

 経費     :▲90,000G

 ─────────────

 実質月収   :230,000G

 ━━━━━━━━━━━━━━━


「実質の月間差額は約十四万ゴールドです」


 エリックが紙を見た。


「年間だと……」


「約百六十八万ゴールドです」


 マルクが息を飲んだ。


 レオンはさらに紙を重ねた。


「利用できる支援制度があります」


 ━━━━━━━━━━━━━━━

 【適用可能な支援制度】

 新人育成助成   :100,000G

 討伐拠点整備補助 :200,000G

 素材買取契約   :300,000G相当

 ─────────────

 圧縮額合計    :600,000G

 ━━━━━━━━━━━━━━━


「結成何年目ですか?」


「一年半です」


「では助成対象です」

「月の討伐回数は?」


「平均六回です」


「補助金対象です」


 レオンは試算表を完成させた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━

 【実質負担額】

 建築費    :1,500,000G

 支援制度圧縮 :▲600,000G

 ─────────────

 実質負担   :900,000G

 ━━━━━━━━━━━━━━━


「実質負担は九十万ゴールドです」


「九十万……」


 エリックが頭を抱えた。


「無理です」


「無理ですね」


 レオンは頷いた。


「無理なんかい!」


 六人が同時に言った。


「現金では、ですが」


 レオンはもう一枚紙を置いた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━

 【冒険者拠点建築融資】

 借入額   900,000G

 返済期間   5年

 金利     年3%

 月額返済  約16,000G

 ━━━━━━━━━━━━━━━


 沈黙。


「……は?」


 エリックが固まった。


「十六万?」


「一万六千です」


「安っ!?」


 レオンは淡々と言った。


「冒険者ギルド保証付きですので」


「保証?」


 新入りの魔術師が首を傾げた。


 そのとき。


 事務所の扉が開いた。


「その話なら俺の担当だな」


 トーマスだった。


 いつの間にか来ていた。


「なんでいるんですか」


「面白そうだったからな」


 レオンは何も言わなかった。


 慣れているらしい。


 トーマスは紙を指差した。


「ギルドは討伐実績を管理してる」

「収入も分かる」

「どんな依頼を受けてるかも分かる」

「つまり」


 エリックを指差した。


「お前らが返せるかどうか判断できる」


「なるほど……?」


「だから保証人になるんだ」


 エリックが目を丸くした。


「ギルドが?」


「優良パーティ限定だがな」


 トーマスは肩をすくめた。


「一年半継続活動」

「重大違反なし」

「月次報告提出」

「素材買取契約あり」

「討伐失敗率も低い」


 少し間。


「貸す側から見れば優等生だ」


 六人が顔を見合わせた。


 なんだか照れくさい。


 レオンが続けた。


「保証がなければ金利は上がります」


「どれくらいです?」


「八%ほどですね」


「高っ!」


「高いです」


 即答だった。


「ですので皆さんにはこちらを推奨します」


 エリックは試算表を見つめた。


「でも借金ですよね」


 小さく呟いた。


 冒険者は宵越しの金を持たない。

 稼いで、使う。

 そういう生き方をしてきた。


 九十万ゴールドの借金。


 正直、怖かった。


 すると。


 ロギが鼻を鳴らした。


「馬鹿じゃな」


「なんでですか」


「金を貯めてから建てる気か?」


「そのつもりでした」


「何年かかる」


 エリックは少し考えた。


「五年……くらい?」


「じゃろうな」


 ロギは設計図を叩いた。


「その五年」

「お前らはどこで寝る」


 沈黙。


「どこで鍛える」


 沈黙。


「どこで素材を保管する」


 沈黙。


 ロギは腕を組んだ。


「借金を見るな」

「建物を見ろ」


 事務所が静かになった。


「五年待てば借金はない」

「だが五年失う」


 設計図の共同寝室を指差す。


「今建てれば借金はある」

「だが今日から使える」


 少し間。


「どっちが得じゃ?」


 誰も答えなかった。


 いや。


 答えは分かっていた。


 レオンが静かに口を開いた。


「借金は悪いものではありません」


 全員がレオンを見る。


「返せる見込みがあるなら」

「未来を前借りする手段です」


 エリックは試算表を見た。

 設計図を見た。

 仲間達を見た。


 六人になったパーティー。

 もうスライムダンジョンには収まらない。


 マルクが小さく頷いた。


「俺は賛成だ」


 新入り達も続く。


「私も」

「俺も」

「異議なしです」


 エリックはしばらく黙っていた。


 そして。


「……やります」


 レオンは静かにペンを差し出した。


 ロギは満足そうに笑った。


「よし」

「家を建てるぞ」


 ローゼンベルク不動産、設計部。

 初の建築案件が動き始めた。


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