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主人公失格  作者: 月蜜慈雨


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異世界の授業



 

 授業が始まった。

 魔法陣iという授業だ。

 魔法陣、まるで異世界みたいだ。

 うん、異世界だった。

 

 

 「魔法陣っていうのは、紋を書いて魔法を生成することだ。誰でも使えるし、誰でも扱える。ただ、戦闘向けじゃねぇな。あくまで生活用」


 「そうなんだ」



 教師が黒板に大きな丸の中に、色々な模様を描く。



 「起動開始」



 そう言うと魔法陣が青白く光って、教室中に爽やかな風が吹き抜けた。

 まるで水泡が目の前に飛び去っていくようだ。

 肌に伝わる風が涼しくて柔らかい。 



 「おぅ」



 隣でテフォンが含み笑いしている。でもそんなのが気にならないくらい、私の胸が震えた。

 これが本当に私にも出来るのか。

 


 「それでは、魔法陣を書く練習をしましょう。ノートを出してください」



 ノートを開く。魔法陣の丸を正確に書くのが難しい。

 何回書いても歪な丸になってしまう。

 試しに中身の模様だけ書いてみた。それは書けた。

 中身の模様は簡単なのに。

 教室で次々と「起動開始」の声がする。

 爽やかな風がそこかしこに吹いている。

 反面、私の心には焦りが積もる。



 「アルテ、どうした?」



 苦戦していると、テフォンがこちらを心配そうに聞いてきた。



 「丸を書くのに苦労してて…」


 「あぁ、正確な丸を書くのには練習が必要だからな。分かった。今日の所はこの部分は俺が書いといてやるよ」


 「ありがとう、テフォン」


 「任せとけって」



 テフォンの頼りがいのある笑顔に、私は安心した。

 でも自分で書けないのが、少し悔しい。

 テフォンが丸を書いてくれた。すごく均整のとれた綺麗な丸だ。

 これに至るまでどれくらい練習したんだろう。

 あとで教えてもらわなければ。

 ちゃんと練習して、習得して、自分でも出来るようにならないと。

 なんとか魔法陣を完成させる。

 ドキドキする。いや、違う。ワクワクかな。言い知れない高揚が体中を巡る。



 「起動開始」



 教室中に一際爽やかな一陣の風が吹き抜ける。心なしか、ミントの香りもする。

 みんなの楽し気な声が響く。



 「やるじゃん」



 テフォンが肩を突き出して言う。私は笑った。久しぶりに、心から。





 次の授業は剣道に近い、武器を使用した訓練の授業だった。

 ガタイのいい教師である、オリージ先生に、剣の持ち方から素振りの仕方まで教えてもらう。

 剣は木製の模造品で、刃の部分が分厚くなっている。

 これで万が一当てても打ち身ですむとのこと。

 でも痛いだろうな。

 なんてことは口に出さず、みんなに交じって素振りをした。

 初めて持った模擬剣は重かった。

 重かったのに、ずっしりと来る重さになぜか馴染みがあった。

 少し素振りをしてから気づいた。

 なんか、やけに身体が動く。

 変な方向に剣が行こうとすると、身体が勝手に軌道修正して直してくる。

 まるで自分の身体じゃないみたいだ。

 まるでじゃなくて、自分の身体ではないのだけど。

 これもアルテの力なのだろうか。

 少し怖いけど、でもそれのおかげで、周りと遜色ないくらい動けている。



 「いやぁ、記憶がなくなったと聞いたときは、どうなるかと思ったけど、この分じゃすぐ対戦に行けそうだな」


 

 オリージ先生がしみじみとした口調で言う。

 


 「対戦ですか…」


 「まぁそれは追い追いな。今日は見学だ」



 剣の打ち合いをぼうっと眺めていると、声を掛けられた。



 「あの…」


 「あ、はい。なんですか」



 茶髪の天然パーマ気味の男の子は、こちらをもじもじ見つめている。



 「俺、ミモサっていいます。前にアルテに上級生に絡まれていたところを助けてくれたことがあって」


 「うん」



 ミモサの唾を飲み込む音がする。



 「記憶なくしちゃったって聞いてどうなっちゃったんだろうって思って」


 「うん」



 男の子はニカっと笑った。



 「でもアルテは全然変わってないよ。素振りで確信した。あんなの長くやっている人にしか出来ない。綺麗な素振りだった」


 「身体が勝手に動いただけだよ」


 「そうだとしても!」



 男の子が前のめりになる。



 「それでも、アルテは凄いやつだ!!」



 なんて返せば正解か分からなくて、「ありがとう」と口に出してみた。

 それで良かったらしく、男の子は「見学の邪魔してごめん」と去っていった。

 私の対応は正しかっただろうか。

 少し心配だったが、それよりも、前のアルテがまだ残っているような気がして嬉しかった。

 彼の全てを奪ったわけではないと知って、安堵すら覚えた。

 アルテが残した軌跡を、出来るだけ受け継ごう。

 燦燦とした青空が私や他の人たちを照らす。

 アルテ、見ているかな。





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