学園生活の始まり
検査が一通り終わり、面会者にも全員会えた。
異世界に来て三日目が経った。
夜更けに学園の、自分の寮の部屋に案内される。
少し広めのワンルームだ。私の一人暮らしの部屋より広いかもしれない。
寮の照明は暖色で、とても雰囲気が柔らかい。
大きなベッドに倒れこむ。
こんなに大きいのに、すっぽり身体が入ってしまった。
改めて身長の違いを感じる。
窓越しからふくろうの鳴き声がする。いや、私がふくろうと感じているだけで、ふくろうではない何かなのかもしれない。
明日はいよいよ、学校生活だ。
学生なんていつぶりだろうか。
もう大昔のような気がする。
とにかく記憶喪失のフリをするしかない。
あと笑顔だ。笑顔。
変なことも言わない。
照明を消して無理やり目を閉じた。
スマホもないから、なんだか寝つきがよくなった。
暫定ふくろうの鳴き声を聞きながら、月に照らされて、ゆるゆると眠りに落ちた。
異世界でも24時間だった。分かりやすくて助かる。
大体7時頃目覚めた。
目覚まし時計がなくて起きれるかと思ったけど、絶叫鳥というニワトリみたいな鳥が目覚まし時計の役割を果たしているらしい。
ニワトリに似た鳴き声だが、ニワトリより絶叫具合が凄い。
窓から差し込む朝の日差しに、背伸びをした。
昨日貰ったパンを朝ごはんに食べる。
冷めていても美味しい。
制服に着替える。
制服は昨日テフォンが着ていたのと同じものだ。
白いシャツに黒いネクタイ。
ベージュのジャケットには、校章が胸元にワンポイントで入っている。
学生鞄は表面はつるりとした黒で、光を受けるとやわらかく艶めいた。
革めいた硬さのある生地が、四角い形をきれいに保っている。
ふたから垂れる二本のベルトも相まって、全体的にレトロだ。
中には、見覚えのないノートや教科書などが入っている。
ドアがノックされた。
心臓が強く鼓動を打った。
「おーい、準備出来たか?」
テフォンだ。そういえば、明日迎えに来ると言っていたな。
開けると、爽やかな笑顔をしたテフォンが立っていた。
まるで朝の擬人化みたいだ。
私も見習わないといけない。
早速笑顔を作る。
上手く出来ているだろうか。
「おはよう、テフォン」
「おう」
「緊張してるか?」
「まあ、それなりに」
「大丈夫だって!みんな首を長くして待っているぜ」
「そうかな。そうだといいけど」
「なんだぁ。自信なさげだなぁ。ま、不安だよな。分かる分かる」
雑にうんうんと頷くテフォンに戸惑った。
友達とは、男友達とはこんなに粗雑なのか。
やっていけるだろうか。
やっぱり不安だ。
パルタモン学園は、王宮に古くからある離宮を改装して作られた学園らしい。
当時の側室の好みで、内装は麗しく細やか。
神話時代の壁画がそこかしこにあって華やかだ。
建物はコの字になっていて、中庭には噴水もある。
私たちは、このパルタモン学園の2年生。15歳だった。
学園は5年制だから、そんな年齢でドラゴンに立ち向かったと思うと、感嘆を禁じ得ない。
でもどうしてドラゴンに立ち向かうことになったのだろうか。
誰もその話はしなかった。話すのは、ドラゴンを倒したという栄誉の話ばかり。
まぁ、多分話しづらいってことは、なにか話したら不都合な事情があるんだろう。
教室に入ると、人々のざわめきが消えた。
じっとこちらを見つめる視線がたくさんある。
テフォンが軽く背中を叩いた。
気張れよってことか。
ふぅっと息を吐く。
「おはよう」
一拍遅れて反応が返ってきた。
「アルテだー!」
「本当に?本当に?」
「嘘…夢だわ」
テフォンが自信満々に言う。
「おいおい、みんな目玉をどこに置いてきたんだ?アルテはここにいるぞ」
その瞬間、どっとクラスメイトに囲まれた。
「おかえりなさいー!!!」
「ほんとどこに行ってたんだよ!」
「無事で…無事で」
「良かったー!!」
私は精一杯微笑んだ。
「ただいま」
みんなの熱気が伝わってくる。アルテは受け入れられたのだ。




