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主人公失格  作者: 月蜜慈雨


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10/11

この世の理

 





 信じられないことだが、ここまで誰にもすれ違うことなく、キルケと二人に図書室に来た。

 キルケは、人の少ない道をよく知っていた。

 授業はとっくに終わっていて、放課後だった。

 こんなに学校をサボったことはないから無意味に緊張してしまう。

 相談して、キルケに基本的なことを教えてもらえることになった。

 有難い。



 パルタモン学園の図書室はかなり広く、まるで大学の図書室みたいだ。

 一階と二階があり、どちらも棚いっぱいに本がぎっしり陳列されている。

 図書室は利用者が少ないらしく、二階の自主室にはほとんど人はいなかった。

 いたとしても、熱心に本を捲るばかりで、こちらに目もくれない。

 視線が突き刺さらない感じが懐かしくて、なんだか安心すらする。

 


 床は板張りになっていて、キルケと歩くと、靴音が重なる音がする。

 ある棚でキルケが止まった。

 地理、歴史と分類されている棚だ。

 その中から分厚い革の本を取り出す。

 図書室の長机で本を開いた。

 そこにはこの大陸の地図が、壮大に描かれていた。

 キルケは大きな大陸の地図を指さす。



 「ミル王国、酒が上手い。レミアナ王国、税金が高い。クレバ王国、この辺じゃまあまあマシ。ここは抑えておけ。この国はクレバ王国だ」



 キルケが指差しで教える。クレバ王国は、なんだかクロワッサンみたいな形をしている。見れば見るほど、ますますクロワッサンに見えてきた。



 「大体この辺の国は王政だが、クレバ国も王政だ。今の王朝は、コクーン家で、今代で27代目だ。パルタモン学園がこの辺だ。王都郊外にある」



 私は真剣に聞いた。テストを受けるときなみに集中していたかもしれない。



 「ここまでで何か質問は?」


 「僕は英雄って言われているけど、ドラゴンってそんなに珍しいの?」


 キルケが眉をしかめた。



 「ドラゴンは大体標高の高い山に生息している。人里に降りてくることは滅多にない。滅多にないことだけに、珍しいといえば、珍しい。でもお前が英雄って言われているのは、ドラゴンを倒したことだけじゃないんだ」


 「それは何?」


 「ドラゴンの巣にある財宝も持ち帰ったんだ」


 「へぇ」


 「お前なぁ、まぁ、いいか。通貨はこれな」



 キルケが麻色の巾着を取り出し、通貨を教える。

 半銅貨、銅貨、銀貨、金貨と教えてくれた。

 キルケの手の中にある、銅貨を見ながら唸る。

 日本で銅貨がいくらくらいか、さっぱり分からない。

 パン一つ買えるのかも分からない。

 なんせ買い物にも出かけたことがないので、通貨の肌感覚がいまいち掴めない。

 これは実際に経験してみないと。

 ここでも円安とか、物価高とかあるのかな。

 いやだなぁ。

 異世界にきてもこんな発想しか出来ない自分が。

 顔に出ていたのか、キルケが胡乱な眼差しでアルテを見る。



 「アルテ、本当に大丈夫か」



 キルケが私に対してなんて思っているのか、少し分かる気がする。多分、こいつ生きていけんのか、とか思われている。

 散々情けないとこ見られているし、しょうがないかもしれない。

 前世で二十五年生きても、この世界では何も知らない。

 私は肩を竦めた。



 「まぁ、頑張る」


 「なんだよ、その気の抜けた返事」


 「まぁでも…」



 キルケは遠くを見やって、どこか想い馳せるように言った。

 図書室は西日が差していて、キルケの金色の髪がキラキラ光っていた。

 それを美しいと思った。

 この世界にやってきた夜、星空を見つめて美しいと思ったように。



 「お前は面白いやつだ。凡人の魂に、英雄の身体、どこまでやれるか、お手並み拝見だな」



 どういう反応をすればいいか分からない。

 ただ、キルケは最初より私のことを嫌ってはいないようだ。

 それなら良かった。



 「自分の稼いだ資金が知りたければ、獅子連合組合に行けばいい。大抵のハンターはそこに所属している。きっとお前も所属しているだろう」


 「行ってみるよ」






次回更新は、8/1です。


鬱状態が激しく、次話書き上げられませんでした。

次回更新は未定になります。

申し訳ありません。


目途が経ちましたので、ご報告します。

次回更新は、8/22になります。



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― 新着の感想 ―
続きがきになる! もう僕はすっかりこの作品のファンです。焦らせるつもりはありません、気長に待たせていただきます。 ブックマークさせていただきますね。
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