獅子連合組合
なんとか理由をつけて、休日一人で初めて学園の外に出た。
学園の入口までは長くて、軽く三十分くらいかかった。
バス停のような、近くの村の乗合馬車の待ち場まではさらに小一時間。
長閑な土の道を、乗合馬車で、ドコドコと街まで行く。
郊外にあるというだけあって、街まで二時間くらいかかった。
初めての馬車は、お尻がとても痛むことを私に教えてくれた。
明日筋肉痛にもなりそうだ…。
澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。
穏やかな陽気が体中を包みこんだ。
風光明媚な景色がどこまでも続く。
遠くに山脈が連なり、森と草原の境界がはっきり分かる。
まるで大胆に絵具で濃い緑と薄い緑を塗ったみたいだ。
どこまでも広がる青空を眺め、頬に当たる心地よい風に目を細めた。
初めて来た異世界の街は、どこかヨーロッパの街の雰囲気に似ていた。
地平線まで続きそうな外壁が、敵を阻んでいる。
とても威圧的だ。
でも、受付の衛兵の人は、身構えていたよりもずっと親切だった。
「ようこそ、リストの街へ。身分証はありますか?」
私は、獅子連合組合のカードを見せた。
「はい、確認しました。アルテ・ロードさん、このリストの街を救ってくれてありがとうございました」
後半の言葉を突然顔を近づけて、声を潜めて言ってきたので、少しビビってしまったが、なんとかありがとうございますと言葉をひねり出した。
「あの獅子連合組合に行きたいんですけど、久しぶりで道順を忘れてしまって…、教えて頂けないでしょうか?」
「もちろんです」
その後いくつかの検問を受け、街に入る。
一気に人の気配がした。
衛兵の人に教えられた道順を辿ると、デカい獅子を模した看板が見えた。
とても分かりやすい!!
これが獅子連合組合らしい。
赤い煉瓦の建物だ。入口の両脇には、多分シンボルである獅子の旗があって、ドアの上には、これまたデカい獅子の看板がある。
ドアにはシンプルな文字で、ご用命聞きます~獅子連合組合~と書いてあった。
中から漏れ聞く騒々しい喧噪に二の足を踏む。
掌にじわっと汗がにじんできた。
意を決して中に入る。
ドアがギーっと鳴った。
中に入ると、あらゆる人の声が耳に届いた。
まるで居酒屋みたいだ。
誰もが一瞬こちらをチラッと見るも、すぐに目を逸らす。
受付は二列あり、どちらも列がすこし長い。
迷ったが、左の列に並んだ。
前の方で騒ぎがあったみたいで、ざわついている。
なんか奥からぬっと大男が現れて、騒いでいた奴を表へ放り投げた。
すごい勢いで誰かが地面に落ちる音がする。
小さく悲鳴を上げてしまった。
学園とは別世界であることが分かる。
それ以外はすごく平和に、順番が回ってきた。
それにしても、物騒だなぁ。
「はい、獅子連合組合リスト支部です。本日のご用件は?」
「口座の確認です」
「それではカードを提示してください」
「はい、お願いします」
カードを受付の前の石(としかいいようがない何か)にかざした。
ぼうっと青く光る。
「はい、こちら残高証明書になります」
「ありがとうございます。あの、お金も少し下ろしたいんですけど」
「そちらは隣の列になります」
「あ、はい。ありがとうございます」
別の列で少しお金を降ろし、建物の隅で残高証明書をドキドキしながら見た。
そこには金貨300枚と書いてあった。
目を擦る。
擦れども擦れども金額は変わらなかった。
「嘘でしょ…」
思わず転生前の口調が漏れ出す。
ドラゴンを倒したアルテ・ロードは、金持ちだった。
私だったらこの金額を稼ぐのに、どれくらいかかるだろう。
これ、日本で換算するとどれくらいだろう。
つい、下世話なことまで気になってしまう。
少なくとも私の常識では、アルテの年で持つ金額ではない。
ドラゴン退治って儲かるんだな。
だからといって、私に出来るかと言われれば無理だが。
急いで紙をびりびりに破いて、火にくべる。これはキルケから忠告されていたことだ。
行く前の、キルケとの会話を思い出す。
「お前、もし自分の資産を見ても、決して声を上げて驚いたりするなよ」
「危険だから?」
「お前が思っているより、遥かにな。そして誰かに見られる可能性もあるから、確認したらすぐ火にかけるんだぞ」
「分かった」
「本当か?こんな短い間だけなのに、お前が返事がいいだけなのはもう分かってるんだぞ」
銅貨100枚で銀貨1枚なので、銅貨20枚と銀貨3枚降ろした。
これだけあれば足りるか??
獅子連合組合を出た。
とりあえず、お金を使ってみないことには相場感が分からない。
どこか屋台みたいな場所があればいいんだけど。
店はマナーが分からなくて、怖くて入れない。
辺りを見渡して、人通りの多い道を探す。
しばらくさまよっていると、市場みたいな場所を発見した。
屋台がたくさん出ている。
よかった。これ以上さまよっていたら、人に聞かなきゃいけないところだった。
まだ、この世界の、この国の、この土地の善性度合いが分からないため、ビビって話しかけられなかった。
情けない限りだけど、無事辿り着けたんだから良しとしよう。
勇気を出して屋台のおじさんに声を掛ける。
「おじちゃん、これいくら?」
「一本銅貨5枚だ」
「じゃあ一つください」
「はいよ」
チャリン、と音を鳴らし、硬貨と串で刺されている肉が交換される。
肉はタレがたっぷりかかって美味しそうだ。
座る場所がなかったので、隅で立ったまま食べる。
熱くて、甘辛いタレの味が肉に染みていて、美味しかった。
何の肉だろう。
謎肉を食べながら、一食銅貨5枚ほどなら、一か月の食事代は銀貨4から6枚ほどだろうと計算した。
多めに見積もっても、銀貨10枚ほどだろう。
その他にも色々な出費があるだろうが、食事だけで見れば、今の私でも十分一人で生きていけそうだった。
それが知れただけでも、初めての外出は成功と言っていいのではないだろうか。
空気はカラッと乾いていて、日差しが心地いい。
空は快晴だった。
次回更新は、九月七日になります。
また鬱が酷くなったりして、予定通りに投稿出来なかったら、後書きと活動報告でお知らせします。




