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主人公失格  作者: 月蜜慈雨


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11/11

獅子連合組合

 





 なんとか理由をつけて、休日一人で初めて学園の外に出た。

 学園の入口までは長くて、軽く三十分くらいかかった。

 バス停のような、近くの村の乗合馬車の待ち場まではさらに小一時間。

 長閑な土の道を、乗合馬車で、ドコドコと街まで行く。

 郊外にあるというだけあって、街まで二時間くらいかかった。

 初めての馬車は、お尻がとても痛むことを私に教えてくれた。

 明日筋肉痛にもなりそうだ…。



 澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。

 穏やかな陽気が体中を包みこんだ。

 風光明媚な景色がどこまでも続く。

 遠くに山脈が連なり、森と草原の境界がはっきり分かる。

 まるで大胆に絵具で濃い緑と薄い緑を塗ったみたいだ。

 どこまでも広がる青空を眺め、頬に当たる心地よい風に目を細めた。



 初めて来た異世界の街は、どこかヨーロッパの街の雰囲気に似ていた。

 地平線まで続きそうな外壁が、敵を阻んでいる。

 とても威圧的だ。

 でも、受付の衛兵の人は、身構えていたよりもずっと親切だった。



 「ようこそ、リストの街へ。身分証はありますか?」


 私は、獅子連合組合のカードを見せた。


 「はい、確認しました。アルテ・ロードさん、このリストの街を救ってくれてありがとうございました」


 後半の言葉を突然顔を近づけて、声を潜めて言ってきたので、少しビビってしまったが、なんとかありがとうございますと言葉をひねり出した。 


 「あの獅子連合組合に行きたいんですけど、久しぶりで道順を忘れてしまって…、教えて頂けないでしょうか?」


 「もちろんです」



 その後いくつかの検問を受け、街に入る。

 一気に人の気配がした。

 衛兵の人に教えられた道順を辿ると、デカい獅子を模した看板が見えた。

 とても分かりやすい!!

 これが獅子連合組合らしい。

 赤い煉瓦の建物だ。入口の両脇には、多分シンボルである獅子の旗があって、ドアの上には、これまたデカい獅子の看板がある。

 ドアにはシンプルな文字で、ご用命聞きます~獅子連合組合~と書いてあった。



 中から漏れ聞く騒々しい喧噪に二の足を踏む。

 掌にじわっと汗がにじんできた。

 意を決して中に入る。

 ドアがギーっと鳴った。

 中に入ると、あらゆる人の声が耳に届いた。

 まるで居酒屋みたいだ。

 誰もが一瞬こちらをチラッと見るも、すぐに目を逸らす。

 受付は二列あり、どちらも列がすこし長い。

 迷ったが、左の列に並んだ。

 前の方で騒ぎがあったみたいで、ざわついている。

 なんか奥からぬっと大男が現れて、騒いでいた奴を表へ放り投げた。

 すごい勢いで誰かが地面に落ちる音がする。

 小さく悲鳴を上げてしまった。

 学園とは別世界であることが分かる。

 それ以外はすごく平和に、順番が回ってきた。

 それにしても、物騒だなぁ。

 


 「はい、獅子連合組合リスト支部です。本日のご用件は?」


 「口座の確認です」


 「それではカードを提示してください」


 「はい、お願いします」


 カードを受付の前の石(としかいいようがない何か)にかざした。

 ぼうっと青く光る。

 


 「はい、こちら残高証明書になります」


 「ありがとうございます。あの、お金も少し下ろしたいんですけど」


 「そちらは隣の列になります」


 「あ、はい。ありがとうございます」

 


 別の列で少しお金を降ろし、建物の隅で残高証明書をドキドキしながら見た。

 そこには金貨300枚と書いてあった。

 目を擦る。

 擦れども擦れども金額は変わらなかった。



 「嘘でしょ…」



 思わず転生前の口調が漏れ出す。

 ドラゴンを倒したアルテ・ロードは、金持ちだった。



 私だったらこの金額を稼ぐのに、どれくらいかかるだろう。

 これ、日本で換算するとどれくらいだろう。

 つい、下世話なことまで気になってしまう。

 少なくとも私の常識では、アルテの年で持つ金額ではない。

 ドラゴン退治って儲かるんだな。

 だからといって、私に出来るかと言われれば無理だが。



 急いで紙をびりびりに破いて、火にくべる。これはキルケから忠告されていたことだ。

 行く前の、キルケとの会話を思い出す。



 「お前、もし自分の資産を見ても、決して声を上げて驚いたりするなよ」


 「危険だから?」


 「お前が思っているより、遥かにな。そして誰かに見られる可能性もあるから、確認したらすぐ火にかけるんだぞ」


 「分かった」


 「本当か?こんな短い間だけなのに、お前が返事がいいだけなのはもう分かってるんだぞ」



 銅貨100枚で銀貨1枚なので、銅貨20枚と銀貨3枚降ろした。

 これだけあれば足りるか??

 獅子連合組合を出た。

 とりあえず、お金を使ってみないことには相場感が分からない。

 どこか屋台みたいな場所があればいいんだけど。

 店はマナーが分からなくて、怖くて入れない。

 辺りを見渡して、人通りの多い道を探す。

 しばらくさまよっていると、市場みたいな場所を発見した。

 屋台がたくさん出ている。

 よかった。これ以上さまよっていたら、人に聞かなきゃいけないところだった。

 まだ、この世界の、この国の、この土地の善性度合いが分からないため、ビビって話しかけられなかった。

 情けない限りだけど、無事辿り着けたんだから良しとしよう。

 勇気を出して屋台のおじさんに声を掛ける。



 「おじちゃん、これいくら?」


 「一本銅貨5枚だ」


 「じゃあ一つください」


 「はいよ」



 チャリン、と音を鳴らし、硬貨と串で刺されている肉が交換される。

 肉はタレがたっぷりかかって美味しそうだ。

 座る場所がなかったので、隅で立ったまま食べる。

 熱くて、甘辛いタレの味が肉に染みていて、美味しかった。

 何の肉だろう。

 謎肉を食べながら、一食銅貨5枚ほどなら、一か月の食事代は銀貨4から6枚ほどだろうと計算した。

 多めに見積もっても、銀貨10枚ほどだろう。

 その他にも色々な出費があるだろうが、食事だけで見れば、今の私でも十分一人で生きていけそうだった。

 それが知れただけでも、初めての外出は成功と言っていいのではないだろうか。




 空気はカラッと乾いていて、日差しが心地いい。

 空は快晴だった。









次回更新は、九月七日になります。

また鬱が酷くなったりして、予定通りに投稿出来なかったら、後書きと活動報告でお知らせします。

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― 新着の感想 ―
久しぶりのとうこう! 今回は細かな紙幣制度が出て、ドラゴンの報酬がいかに儲かるのかわかりましたね! こう言う設定はとっても大好きなので今後もバンバン読んでみたいなぁって思いました。 続きも気長に待…
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