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116-1 おめかしタイムです

(三人称)


「キャアアアアアア!!」

「わっ、先輩いきなり何?」


 現世にある神社の石段を登っていた時、突如叫んだ水沫に藤紫はドン引きした。


「何か麦姐さんに命を狙われてる予感がするぅううう!! 命だけはお助けを!!」

「麦姐さん居ないのに急に命乞い初めた。マジどしたんすか先輩?」

「この姐さんの殺気を感じないとか、お前がどんだけ鈍感ちゃんになってんだよ!?」

「自分が殺気向けられたからって、僕まで向けられると思わないで下さーい」


 石段で這いつくばり土下座する水沫に、呆れた視線を向けざるを得ない藤紫。

 実は、錬金薬の調合間違えて覚醒剤でも作って発狂したのかな? とか、姫様に有らぬ疑いが掛かる前に殺っといた方が良いかな? とか、かなり酷い事を考えていた。


「お前と俺はまだセットで色々扱われてんだからもっと危機感持てよ!」


 立ち上がった水沫に剣幕は中々キツめだが、藤紫はものともしていない。


「ここ最近あんまセット扱いされてないけどね、……ん? 『まだ』とか言いました?」

「今更? 俺今度から若様付きになるから、お前とはコンビ解消じゃん」

「……」


 お互い、石段を登り切った。

 つまり時間が流れるだけで無反応だった藤紫に、水沫は不審に思う。


 ━━あれ? なんか変な事言ったか?


 また少し間を置いてから「あー」と静かに、少し目を泳がせながら、何かに納得したらしい声を藤紫が零した。


「そっかぁ、言ってなかったか。俺ね、先輩が若様味見してる期間中━━」

「盛大に誤解しか招かねェ誤った発言止めエェェエエイ!!」

「あ、すんません。先輩は味見される側っすね(笑)」

「されてたまるか! ブッ殺すぞ!!」


 不穏な発言を連発する藤紫に噛み付く水沫は、着々と「ノンケ受け」フラグを建てている事に気付いていない。


「まぁ、姫様が期待してるから、そっち方面への先輩の誘導は追々やってくとして……」

「何すんの? 何する気なの!?」

「先輩、僕も先輩が若様の側近候補行くタイミングで姫様の専属護衛候補になりました!」

「……はぁ?」


 藤紫が余りにも不穏な内容ばかり口走る為、半泣きになっていた水沫は間抜けな声を上げた。


「療養所で色々ありまして……こう、姫様への気持ちを改めて自覚しまして……」

「俺は何を聞かされてるんだろう?」


 恋する乙女のような顔の藤紫。


「あと姫様の側に野郎の部下が1人増えると聞いて直にお館様に移動申請しました」


 だが急に一変、そう一息で言い切った彼の顔は、サイコパス一歩手前のソレだった。


「マッドな。人事部通さずお館様に直とかお前恐れ多過ぎだろ。後いきなり目のハイライト無くなるの怖ぇわ。情緒ジェットコースターかよ」


 水沫はツッコミを入れながらも、後輩の成長を感じた。尚、若干(?)の狂気には目を瞑っている。


 ━━姫様に近付くのも恐れ多いって緊張してたヘタレムッツリ野郎だったのに……。


 だがそこで、現実的な問題に気が付く。


「あれ? じゃあ俺が引き継ぎしてた意味は?」

「そしたらお館様がぁ━━」


 藤紫は、聞いていない。水沫の疑問など華麗に聞き流し、彩雲の台詞がリピートされる。


『お前さん等2人、次から『侍女長補佐近侍』って肩書きな。夜凪達の面倒も見てもらうが、今まで通り、定期で前線行くのと屋敷の(荒事混み)仕事(の雑用)もシッカリな』


「━━って、言ってたっす。つまりもう暫く、引き続きバディのままって事」


 フッ……と。水沫は口元に笑みを浮かべた。正直、格好つけたように見せたが、実は失神して真後ろに倒れる寸前だったりする。


「そっかそっか。引き継ぎは?」


 そっと……。水沫はすぐ側の鳥居に手を付いて、己の体を支える。


「僕達の後任は眉さんと、……もう1人はまだ決まってないって」

「そっかー、決まってないのかー。……引き継ぎ、いつすりゃ良いんだ?」

「移動のギリ前じゃね? 大丈夫、大丈夫! 僕でもすぐ(30分)で覚えられたんだから、誰でも余裕っしょ」

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