116-2 おめかしタイムです
(三人称)
無自覚な規格外シゴデキ後輩の笑顔は、それはそれはもう輝いていた。
一方で、己の仕事速度は勿論だが、教育期間等について常識的な計算が出来る水沫は、とうとう地面に膝と両手を突いた。
「俺の……コーヒーブレイクが……優雅な定時上がりが……!」
「先輩、僕よりインテリな資格持ってるのに書類仕事遅いの何で??」
「よし分かった。お前に作った対霊力用の酔い止め全部破棄な。今年も姫様の奉納舞見れずに終わっちまえ!」
「生意気申しました!! すんません!! 先輩マジ天才! めっちゃリスペクト!」
仲の良い2人は春鳥の目撃情報があった場所に辿り着くが、人違いだった為、無駄足で終わる事になった。
だがそれよりも、実は2人とも気付いていない事がある。
『侍女長補佐近侍』。これまで、彩雲直属の部下であった為、無茶振りの仕事を振られる事はあっても、それ以外の小さなミス等は「わっはっは、次頑張んな」で許されていた。
だが、次の上司は侍女長。つまり、報連相は当たり前だが、礼儀作法や思考に至るまで……どんな小さなミスでも最低半殺しにしてくる完璧理不尽の鉄の女━━麦穂である事に。
***
基本的に、日本の神社の奉納舞は白衣、緋袴、千早が一般的だろう。
けれども、雛人形の付喪神擬き達は中々ファッションに拘りがある。
白と緋色だけで無く、もっと色を使って、派手で綺麗で可愛い衣装にしなければ滅茶苦茶抗議してくるのだ。
そう言う訳で、自室に戻った私は、淡い紫色と淡い黄色の唐服みたいなのに袴と千早を合わせたような衣装を着せられている。袖が熱帯魚の鰭みたいにヒラヒラしてて可愛い。布もほんのり透けててグラデーションでお洒落。
「感……無量ッ!!」
想像出来てたけど、私を見たメイシーが鼻血出して死んじゃった。(※生きてます)
「麦穂」
「死体処理班に連絡済みです」
メイシーが黒い袋に詰められて運ばれていくと、防護服を着た数名が部屋の一角を消毒し始める。なんて無駄の無い働き。
罷り間違っても私の衣装に鼻血が付かない為の処置なんだけれど、本格的過ぎだ。
死体袋に詰められたメイシーが、ウッカリ埋められたり沈められたりしないか気になる。
「姫様〜、アクセサリー付けるよ」
おばちゃまに呼ばれて、大人しく鏡の前の椅子に座る。
ヘアアクセを付けるからだ。今年はカチューシャだった。
頭の側面に沿うよう両サイドに透明なお花や枝が付いてて、更に下へと伸びるチェーンに小さな真珠や蝶々が連なっている。
「かわいい!」
天冠とか普通の花簪じゃ無いから、自分が今から舞うのって何だっけ? って、ちょっと大事な事忘れそうになる。
「あと数年したら耳飾りと首飾りも付けるからね」
アクセサリー多くなるのか……耳飾りって、イヤリングかな? 舞ってる途中で落とさないか今から心配だなぁ。
━━コトン。
部屋の隅から音がしたのでそちらを見る。
墨香の室で顕現した━━三節棍という武器が倒れていた。
とことこ歩み寄って、いつも通り壁に立てかける。
「お前はきょう、おるすばんよ?」
3本の棍の部分は象牙のようにツルリとした白。鎖部分は金。棍のところにも控えめだけれど金で花の意匠が凝らされてる。
私専用の武器らしく、私の許可が無ければ誰も持つ事すら出来ないから、こうして剥き出しのまま部屋に放置している。
ジィジに聞いた話だと、天狗は大体7歳までに、自分専用の物(※ほぼ刀か日用品)を顕現するそうで、その現象を『羽化』と呼ぶらしい。
ジィジは扇で、兄ちゃんは二振りの刀がそうだったんだって。何で漫画でその設定の事出て来なかったんだろう? とはなるべく考えない方向でいる。だって疲れる。
因みに『そろそろ羽化する頃合いだろうから、いつ教えようか検討してる最中だったのさ』って、帰って来てから教えてくれた。
「いい子にしててね」
人撫ですると、ほんのり光ったように見えた。多分私の感覚の話で、本当には光ってないと思うけど。
「姫様、仕上げするよ」
「うん!」




