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115-2 準備のお風呂です

(三人称)


「めっちゃ目ぇまわった。アレは二度としない」


 思い出した七夜月は、むくれた。


 半分くらいは彩雲の転移術で周れたのだが、転移術とは万能では無いらしく使えない場所もあったのだ。

 そういった所は、彩雲や予め控えさせられた鞍馬邸の精鋭達が七夜月を抱えて、リレーの如く交代を繰り返しながら飛び回った。

 七夜月が何故自分で飛ばないのか? やっとパタパタ浮けるレベルで、長距離飛行など出来なかったからである。


「姫様、半ばボールみたいに投げられてて、あたしゃ誰がいつキャッチするのに失敗するかヒヤヒヤしたよ!」

「ぜったいウソ、おばちゃま笑ってる!」


 一晩の弾丸ツアーは、足ならぬ翼に自信がある鞍馬家精鋭達でも中々ハードであった。

 七夜月にとって不幸だったのは、最初に抱えていた彩雲が一番最初に彼女を部下達に託す際、超音速でブン投げた事で『あ、姫様投げても良いんだ』と認識されてしまった事である。


(※当たり前ですが、普通の乳幼児はンな事したら死んでしまいます。絶対に真似しないで下さい)


 結果、時に野球ボール、バレーボール、はたまたラグビーボールと化した七夜月は、「うぴゃあああ!」とか「ぴいいいい!」とか「ほけきょおおお!」等々、叫び声のバリエーションがやたら豊富になった。お分かり頂けるだろうが、後半は結構余裕が入っている……。


 他領では無いシュールな光景に付喪神擬き達は大変ご満悦だったが、翌年から七夜月が奉納舞の練習を始めた事は言うまでも無いだろう。


「……そういえばあの時、藤君いなかったね?」


 七夜月が3歳なら、既に藤紫は鞍馬邸に就職している。妙なところでヘタレであっても、七夜月を合法的に抱っこする機会は逃さないし、彩雲以外の適当な男が抱えようものなら問答無用で血祭りを開催するだろう青年が、全く何も問題を起こさなかった事に、形の良い頭がコテンと傾いた。


「鞍馬家は違いますが、奉納舞の衣装を、花嫁衣装として使う一族も居ります」

「……ん? たしかに、ヒラヒラしてて可愛いけど……」

「そして神格が高いほど、姫様くらい霊力のある方の奉納舞は酩酊します」

「キョーカじゃなくメーテー……麦穂達、だいじょぶ?」


 不可抗力な上に知らなかったとはいえ、洒落にならない話である。

 七夜月は眉を八の字にして尋ねた。


「私達は問題ございません。が、今の藤紫では、可愛い衣装の姫様の舞で一発ケーオーでしょう。大暴走して姫様を拉致しかねませんので、()()は強制的に遠くに追いやっております」


 ━━神様扱いかと思ったら害獣扱いの藤君、かわいそ……。


「寂しくないよう生に……水沫も一緒ですよ」


 ━━生贄扱いの水沫君かわいそ……。


 優美な笑みを浮かべる麦穂には見えないよう、七夜月は静かに2人に合掌した。


 まぁ……麦穂は気付いている訳だが、チラリと隣の蛇女とアイコンタクトを取ると『良し』と頷き合う。

 今日、藤紫達がいない詳細な説明を、麦穂達は七夜月に聞かせたくなかったのだ。

 もう墨香の室の一件から時間が経っているので七夜月は普通にしているが、あの一件の直後、1週間ほど暗かった。


 気絶させたと思っていた春鳥が、実は幻影を作って逃亡しており、水沫とメイシーが確保しようとした瞬間に、消えてしまっていたからである。

 初めての魔族戦であったにも関わらず、きちんと生きて帰って来ているだけで「マジ本当に良かったですうぅぅうう!!」と、誰も責めず寧ろギャン泣きで安堵しているのだが、七夜月自身は納得出来なかった。

 全力を出して逃げられた事が悔しく、かなり重要な情報を握る下手人を逃したことの責任感で、引きこもりこそしなかったものの食欲が失せたり、「よくカンガエえたら神通力をあそこで……!」と悶えて転がった結果、頭を壁に強打するという事故がよく見受けられた。


 藤紫と水沫は今回、春鳥らしき人間の目撃情報があった為、確かめに行っている。


 よって、大事な晴れ舞台の前に七夜月の表情をまた曇らせたくない━━事情を知る者達は、嘘はついていないけれども事実を全て語らないよう、今日は注意している。


「姫様、泡を流しますね」

「よしきた!」


 目を瞑って、更に両手で目を隠し、断固としてシャンプーの被害に遭うものかという姿勢を見せる七夜月。


 ━━こんな子どもらしい姿を見られるのは私達の特権━━━━いや、そういえば夏に水沫が姫様を風呂に入れてましたね。……後で記憶が飛ぶまで潰すか。


「あ、タオルおにゅーだ! ふわふわ!」

「とびっきり今から可愛くしていくよ!」

「まかせた!」


 ふわっふわなタオルで体を拭かれる七夜月と蛇女の平和なやり取りの横で、麦穂は絶対零度の殺気を放っていた。

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