113-1 エンカウントです
(三人称)
是是の言い分には、嗣聖も思うところがあった。
「…………それは、私にも言える事ね。私はあの子に何もしなかった。一番信頼できる侍女に託して、時折共有される写真を眺めてただけよ。夜凪にも可哀想な事しかしてない。授業参観も運動会も、小学校の卒業式だって家の子達に任せきりだった」
最善だと思った行動だった。
是是はただ死ぬのは嫌だと思っただけ。一番強かった気持ちは、魔族の好き勝手にさせたく無かったという事。
そのままの状態を受け入れれば、是是だけで無く、彩雲や夜凪、とにかく誰かが、不幸な死を迎える。
そんな話が絡んだせいで、全体を見るあまり、一つ一つの行動に伴う愚かな行為を許容した。
結果は、子ども達が振り回されただけだ。
それでも、
「それでも、私達は親なのよ」
星が瞬くような光が見えた気がした。
鋭利なもので、胸を深く刺された感覚。だが、決して悪いものでは無い。
「今更、普通の家族になんてなれないかもしれない。あの子達は━━特に下の子は、なりたくないでしょうね。でも、なろうと思わなきゃ、何も始まらないのよ。
だから、せめて一回は、話をしましょう。謝って済む話じゃ無いけれども謝るの。そして私達の気持ちを伝えて、もう一度、親として振る舞う資格が私達にあるかどうか……あの子達に決めてもらうの」
諦めるのは、再起不能だと断定するのは、その後だというのが、彼女の言い分だ。
「つーちゃん」
━━パチンッ!
再び走った頬の痛みに、是是は何をされたのか理解が遅れた。
ただ頬を叩かれただけなのだが。
「……とまあ、綺麗事を言った訳だけれど、私はまだ怒っているわよ」
「ふえ?」
「貴方を殺さなかった理由だけど、それよりも先に……貴方起きてすぐ死にたいって思ったでしょう?」
「……っ」
元々死ぬ予定だった。
でも死ななかった。
本当はこんな奇跡を心待ちにしていた事を、頭の隅では分かっている。
なのに、何処かの紛争地帯で爆弾に当たってやろうかと思ってしまった。
確かに事実だ。
嗣聖は分かっていた事だが、それでも燃えて続ける怒りを抑えられなかった。
「やっぱりね……。この臆病者」
地を這うような声の直後、何も言えない是是の胸倉を掴んだのは、必然と言えよう。
「死んで逃げる? 貴方1人だけ? そんな事は赦されない。私が許さない。貴方は無様に生きて、生き恥を晒しなさい」
晒された嗣聖の本心は、正論であると同時に、冷徹無慈悲だった。
そんな彼女の凄まじい希薄に、普通の人間なら怯えていただろうが、
━━ほ、……惚れ直してまう!
是是は俄かに、頬を赤らめていた。
この男、実はマゾの気が強い。
***
「おーいおいおい! おーいおいおい!」
私、七ちゃん。今、廊下でとっても困ってるの。
またしても……、新種の蝉みたいに鳴いてる眉ちゃんと遭遇してしまったが故に。
こんなデカくて可愛げ無い蝉嫌だ。
「駆除しちゃいましょう♡」
「メイシー、殺虫剤ダメ。しまって」
ナチュラルに殺虫剤を取り出したメイシーを制して、私はため息を吐いた。
改めて状況を少し説明すると、私はメイシーに呼ばれて居間にオヤツを食べに行く途中だった。けれど、良い歳こいた大人が丸まって泣いて道を塞いでいる。とても邪魔。以上!
……この後━━━━の準備しなくちゃ行けないから、そんなにモタモタ出来ないんだよね。
……避けて行こう。
そう思ってたら、足首を掴まれた。嘘でしょ。
「姫ざまみ捨でないで〜」
「面倒な かまってちゃん に つかまっちゃった」
「処しますかぁ?」
「だから殺虫剤はダメだって」
とりあえず、新種の蝉……では無く、七三眼鏡を引きずって、私は居間へと向かい苺大福を頬張る事になった。
「出て行った嫁が、帰る気無いって言ってるんでござるぅ……」
「眉先輩の奥様ってぇ、超エロ可愛いと噂の?」
「ござるぅ……」
絶対『ござる』の使い方間違ってる気がする。




