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109-1 桃の節句の片付けです

昨日更新できなかった為、今日は2話更新します。



(三人称)


「一つ聞いて良いかな? 麦穂女史」


 稀代の悪魔的(マッドサイ)大賢者(エンティスト)ことアルジエル・ネレイドは、屋敷内にある大講堂と呼ばれる一際大きな建物内で、非常にちまちました作業を繰り返し、頭痛を覚え始めていた。


「何ですか?」

「私は頭脳労働者のはずなのだが、何故4000体もの雛人形の片付けに駆り出されているのだろう!?」

「準備の時にも似たやり取りをしましたね。直系女子の居る六華将の家ではごく当然の行事ですよ。まぁ、うちはまだ3回目ですが」


 雛人形。それは、その家に生まれた女子を怪我や病気から守り、厄を移す為の人形であり、幸せを願う為に親が送る物だ。


 そして、その人形を飾る雛祭りという行事は、現世であれば各家庭でこじんまりと、又はお寿司も用意してちょっと大盤振る舞いするが、やはり一家庭単位で楽しむ行事であろう。


 しかし常世の……それも六華将ともなれば、その祭りの規模が()()()()()()()屋敷の一般開放にまで至る領を挙げての大イベントに発展するのだ。その名も絢爛(ケンラン)桃奉納(モモホウノウ)


 もう少々具体的に言うと、親が約50セット━━大体750前後の雛人形をまず用意する。当然の如く7段飾りで。人形も御道具もオールスターである。


 ……この時点で大分おかしい。


 そして他の親族や分家から大体9〜12前後のセットの雛人形が起きられてくる。


 もはや嫌がらせに近い。


 だが、本当に大変なのはこの先だ。


 領内の各家庭の、今後もう家で飾らないため、処分したいと希望する家から提供される雛人形達。これらが、最後の御勤めと言わんばかりに門から庭から、一般公開される範囲であるが鞍馬邸の至る場所に飾られるのだ。


 その数、800人分……。


 つまりこのイベントは、大規模な雛人形の展覧会だ。


「毎年1600人前後の応募があるのですが、流石に全ては飾れませんからね。厳正な審査を経て通過したものを飾ります」


 通過しなかった半数には、特殊な札が家に送られる。雛人形に札を貼ると、雛壇の上の人形達が桃の花を模した砂糖菓子に変わる為、そちらが目当ての家も少なくない。だがお道具や雛壇はそのままである為、其方も処分したいなら展示会となる。


「よって、本当に本来より少ないのですよ? 文句を言う前に手を動かしなさい。この行事の時は、インテリも脳筋も関係無く人形の奴隷と成り切るのです」

「転職先を間違えた……おや?」


 ふと、自分が包み終わった1セット、そしてこれまで包んだセットを思い出して、アルジエルは首を傾げる。


「どうしました?」

「いや……簡単な計算問題だが、僕が片付けたのは全て三段飾りという奴だ。つまり人形は5体」

「ええ、審査基準項目に『三段飾りである事』が含まれてますからね」


 800人分の7段飾りなど、とても手が回らないからだ。


「ならば800人掛ける5体で、4000体。そしてこの展示会の人形の総数は4000……」

「だから少ないと言っているでしょう」

「少ないどころの話じゃ無い。七夜月君の雛人形が0という計算になる」


 麦穂の手が止まるだけでは無く、周囲も何人か、顔色が若干暗くなった。


「ちょっと……此方へ」


 人形を一体箱に仕舞うと、麦穂はアルジエルを連れて大講堂から出た。

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