10-7「砂の国」
大地の楽園、ナンバル=ムウを去る際、世界を救った勇者らしからぬ光景がそこにはあった。
ロイは往生際悪く、トトの鱗の隙間に指をねじ込まんばかりの勢いで、トトカラムへと縋り付いたのだ。
「頼む、トト!次の目的地まで背中に乗せていってくれ!」
しかし、ドラゴンの返答は無慈悲だった。トトは鼻から熱い蒸気を吹き放ち、羽虫を払うような無造作な動作でロイを砂浜へと吹き飛ばす。鼻先で「却下」を突きつけられたロイは、砂まみれになりながらがっくりと項垂れた。
結局、彼を待っていたのは、己の人生において最も忌むべき揺り籠——船であった。
波のうねりに翻弄される木造船の甲板で、ロイは魂が口から溢れ出さんばかりの苦行を強いられた。ナンバル=ムウの人々との別れの余韻に浸る余裕など微塵もなく、ただひたすらに水平線の彼方にある乾いた大地、砂の都イル=シャルを目指して、彼は死人のような顔で海を越えた。
ようやく辿り着いた砂漠の入り口。
そこからは、太陽が全てを焼き尽くそうとする焦熱の地獄だった。
黄金の海のように広がる砂丘を越え、イル=シャルへと続く道をゆく。
頭上からは容赦のない陽光が降り注ぎ、地表からは逃げ場のない熱気が立ち上って、ロイの体力を容慈悲なく削り取っていく。
時折、陽炎の向こうから現れるラクダを連れた行商人から、法外な値段の水や乾燥した食料を買い叩かれながらも、ロイは一歩一歩、熱を孕んだ砂を蹴立てて進んだ。
『ロイ、少し休んで行きましょう?あそこの砂山の影なら、ほんの僅かだけれど日差しが凌げそうよ』
幻影が指し示したのは、風が作り出した巨大な砂の彫刻が落とす、深い藍色の影だった。
「そうするか……流石に堪えるな」
魔獣がこの世から消え去ったとはいえ、自然の猛威は変わらず牙を剥いている。
ロイは、火傷しそうなほど熱を帯びた砂の上に、全身に巻き付けていた防砂布を広げて敷くと、泥のようにその場へ崩れ落ちた。
「魔獣がいなくなったからか、行商の連中とすれ違うことが多くなった気がするな」
『そうね。以前は魔獣の唸り声ばかりが響いて、目が合えばそれは死闘の合図だったもの』
「平和に、なったんだなぁ……」
『あなたが救った、かけがえのない世界なのよ』
ロイは返事をする代わりに、重い瞼をゆっくりと閉じた。
乾いた風が砂を巻く微かな音。遠くでラクダが鳴く声。
疲弊しきった身体は、抗いようのない深い微睡みの底へと沈んでいった。
そんな無防備な姿を見つめる、三つの卑俗な視線があった。
砂と同化したような、薄汚れた灰色の布を纏った男たち。
彼らの目は飢えた狼のように、ロイが傍らに置いた背嚢を凝視している。
音を立てず、獲物を狙う爬虫類のような足取りで近寄ると、彼らは手慣れた手つきでロイの荷物を漁り始めた。
「なあ、この剣……凄まじい業物だぞ。高く売れそうじゃねぇか。う、重っ!」
「馬鹿、声を出すな!それより、このガキが抱え込んでいるこの本……ただならぬ気配がするぜ。値打ち物かもしれん、こいつも頂いて……」
「お前ら、早くしろ!起きちまうだろ!」
彼らはこの荒野に根を張る、食い詰め者の盗賊だった。
ロイの腕の中から、宝物を奪い去るように慎重に「本」を引き抜く。
死んだように眠り続けるロイの様子に慢心したのだろう。盗賊の一人が、好奇心に勝てずその場で本を捲った。
「あぁ?なんだこれ、何も書いてねぇぞ」
三人が不審に思い、何も記されていない白紙のページを覗き込もうと身を寄せた、その時だった。
「なあ……食料と水は持っていっていいから。その剣と本だけは、置いていってくれないか。俺にとって、命よりも大切なものなんだ」
背後から、大気を押し潰すような圧倒的な圧力が放たれた。
仲間の誰の声でもない。低く芯の通った声が響いた瞬間、盗賊たちの背筋を凍てつくような戦慄が駆け抜けた。
身体が足元から石に変わってしまったかのように動かない。
振り向けば終わる。本能がそう告げているのに、逃げ出すための脚は鉛のように重く、ただ耳元で自身の心臓が早鐘を打つ音だけが大きく響く。
「お、落ち着け!武器はこっちが持ってるんだぞ!」
「へっ、そうだ!こっちは三人、相手はガキ一人だ!」
「よし、お前ら……やっちまおう……ぜ」
虚勢を張って振り向いた彼らが目にしたのは、人の世の者とは思えぬほどに透き通った、底なしの「灰色の瞳」だった。
一切の光を呑み込み、彼らの罪悪と恐怖を暴き出すような、虚無の双眸。
それが、彼らの意識に残った最後の記憶となった。
しばらくの後。
すっかり打ちのめされ、洗濯物の山のように重なり合って気絶している盗賊たちの前で、ロイはパンパンと手を叩いて砂埃を払った。
奪い返した愛剣を腰に、そして大切な本を胸元に収めると、彼は背嚢を背負い直した。
盗賊たちを日陰の奥へと引き摺って安置し、彼らが持ち去ろうとした食料と水の一部を、枕元にそっと置いてやる。
『本当に、盗賊が出るなんて。驚いたわね』
「参ったな。おちおち昼寝もできないんじゃ、イル=シャルまで急いだ方が良さそうだ」
『大丈夫かしら、あの人たち』
「まあ、そのうち起きるだろ。これに懲りて、少しは全うな道を選んでくれるといいんだけどな」
『それにしては、少し脅しが足りないわ。あなたは、いつだって優しすぎるのよ』
「……次に会った時のために、もう少し怖い顔の練習でもしておくか」
砂の海を歩き続け、ようやく視界の果てにイル=シャルの都が姿を現した。
かつて訪れた際は、砂に埋もれ、死臭さえ漂う荒廃した国だと思っていたが、今のその姿は驚くほど活気に満ちていた。
絶望に伏していた国民たちの姿はなく、人々は皆、何かを成し遂げようとする熱気を帯びて忙しなく動いている。行き交うキャラバン、威勢のいい声が響く市場。砂漠の孤島だったはずの国が、再び息を吹き返していた。
「おお……。あの巫女様が心を入れ替えて、改革でもしたのかもな」
魔族という強大な力が消失したことで、魔法文明に頼り切っていたこの国は壊滅の危機に瀕しているのではないかと危惧していたが、杞憂だったようだ。
変貌した街並みに感嘆しつつ、ロイは巫女アミーラの元へと足を進めたが、高く聳える城門で兵士に槍を突き付けられた。
「正式な手続き、並びに書状がない限り、女王陛下への拝謁は叶いません」
「そんな!俺、勇者です!以前ここで、アミーラ様にはお世話になったんです!」
「いかなる事情があろうとも、陛下は現在、国政の激務の真っ只中にあります。どこの馬の骨とも知れぬ者を通すわけには……」
不覚だった。ロイは己の失策を呪った。
以前はアリアからの紹介状があったからこそ、道が開かれたのだ。今回もルーに一筆書いてもらうべきだった。
どうにかロエベだけでも呼び出せないか。彼には渡したいものがあるのだ。
ロイの脳裏に、かつての仲間の顔が浮かんだ。
「ほら、見てください。この国の第……なんだったっけか……とにかく王女のクロエからのお手紙もあるんですよ。お宅のロエベ様に直接お渡ししたくて……」
『ロイ、クロエは確か四十番台の王女よ。正確に言いなさい』
「手紙は預かりましょう。しかし、謁見については……」
「あれぇ?騒がしいと思って来てみたら、勇者くんじゃん。どしたの、一人で?」
城門の奥から、聞き覚えのある軽薄な声が響いた。
現れたのは、クロエに酷似した容姿を持つ少年——いや、青年の入り口に差し掛かったロエベだった。
耳元で翡翠のピアスをチャリと鳴らし、彼は食えない笑みを浮かべてロイを見下ろした。
「ロエベ!良かった、ちょうどいいところに!アミーラ様に挨拶したくてさ」
「えー?僕、前に勇者くんに凄まじい剣幕で罵倒された記憶があるんだけどなぁ」
ロイは過去の自分の短気を思い出し、額に嫌な汗を浮かべた。
「な、あれはほら、誤解だっただろ。仲直りもしたし、俺も悪気はなかったんだよ。ほら、クロエからお前に預かっている手紙もあるからさ!」
「姉ちゃんから?もっと早く言ってよ。わかったわかった、ついてきて」
ロエベが門番に「僕の客人だ」と告げると、あれほど頑なだった門はあっさりと開かれた。
王城の内部は相変わらず、眩いばかりに豪華絢爛だ。
廊下ですれ違う侍女たちは、皆一様に美しく着飾っている。
その光景を見て、なぜかナナミの幻影が、ロイを射抜くような鋭い視線で睨みつけていた。
やがて重厚な扉が開かれ、ロイは女王アミーラの前に通された。
彼女は以前と変わらず、退屈を絵に描いたような態度で玉座にふんぞり返り、傲慢なまでに美しい瞳でロイを見据えた。
「して、貴様。また妾の貴重な時間を奪いに来たか。救いようのない暇人め」
「お久しぶりです、アミーラ様。その節は大変お世話になりました。こうして旅に出られたのも、お力添えいただいたおかげです。本当にありがとうございました」
まずは礼を尽くす。ありきたりな定型分でしかないが。
ロイ自身もすごく驚いたが、実は彼女も自分が命の危機に瀕している時に助けに駆けつけてくれたのだ。
クロエはロイが頭が下げている様子を無感動に見つめていた。
「クロエからの手紙は、妾にはないのか?」
目の前で、ロエベが嬉々として姉からの手紙を読み耽っている様子を見て、アミーラが不機嫌そうに言い放った。
ロイは冷や汗を拭った。正直なところ、あの意地っ張りのクロエが、アミーラに宛てて素直な手紙を書く勇気はまだなかったのだろう。
「近いうちに直接この国に来て、話をしたいと言っていました!」
ロイは精一杯の愛想笑いを浮かべて嘘をついた。
『まあ。ロイったら、いつの間にか随分と嘘が上手くなったのね』
アミーラは見透かしたように鼻で笑う。
「ロエベ、その文面にはなんと記されている?」
「えーっと、ルミーナ王国の第二兵団団長になったとか、早く会いたいとか、近いうちに旅行に行こう、とか」
「我が妹ながら、実に情けない。国の要職にある者が、他国の王族に不用意に情報を流すなど。戦争になったらどうするつもりなのか」
「え?戦争を起こすつもりなんて、ないですよね?」
命を懸けて世界に平和をもたらした男は、真顔で問い返した。
アミーラは挑戦的な笑みを浮かべ、長い指先を顎に添えた。
「ああ、今のところはな。妾にその気はないが、他国の野心までは保証できぬ」
この女王ならば、退屈凌ぎに戦を始めかねない。
ロイは背筋に冷たいものを感じながら、慌てて話題を本題へと引き戻した。
「そ、それは頼もしいです。ところでアミーラ様、この本に見覚えはありませんか?」
「……随分と見窄らしい古本だな。あの小娘が持っていたものか?」
「はい。ナナミが遺していったものなんです。中身には何も書かれていなくて……。彼女がなぜこれを大切にしていたのか、理由を知りたくて」
「……ふむ。伝説に語られる魔女も、同様の本を所持していたという記録があるが。それ以上の情報は、妾の手元にはないな」
「伝説の魔女も……。そうですか」
同じ血筋を持つ者にしか見えない文字が記されているのか。あるいは何かの鍵なのか。
知恵の巫女と呼ばれる彼女ならばと期待したが、情報は思いのほか乏しかった。
「して、貴様。情報を一つ授けたのだ。対価に何をする? 今や貴様は世界の英雄。妾の夫にしてやってもよいぞ?」
「えっ」
思わず、ロイはブンブンと首を振って拒絶した。
夫になる。あまりにも重すぎる代償に、思考が真っ白になる。
傍らで不機嫌な顔をしていたナナミの表情が、一瞬だけ和らいだように見えた。
「妾の求婚を袖にするとは。後悔しても知らぬぞ?」
「滅相もない!俺がアミーラ様に見合う器じゃないだけです!」
「……まあよい。貴様、身体はもう平気なのであろうな?」
「はい、おかげさまでピンピンしています」
「ならばよい。ロエベ、労働者が一人増えたぞ」
「わ〜、助かる!あそこ、人手が全然足りなくて、猫の手どころか勇者の手でも借りたいくらいだったんだよね」
「え、ちょっと……どういうことだ?」
有無を言わさず引き摺られて連れて来られたのは、王城の最果てにある、巨大な採掘現場のような場所だった。
「実はさ、魔法石に代わる、新しいエネルギー源が見つかったんだよね」
魔族が去り、魔法の恩恵を失ったイル=シャルは、存亡の危機に立たされていた。
魔法石は枯渇し、魔導エネルギーに依存していた文明は崩壊寸前。しかし、その窮地を救ったのは、アミーラの「知恵」だった。彼女は地層の奥深くに眠る、太古の生命が変質した新たな燃料を発見したのだ。
「まだ正式な名前はないけど……化石燃料、って呼んでるらしいよ」
「アミーラ様の高笑いが聞こえてくるようだ……」
さすがは女神に愛された巫女。国家存亡の危機に際し、必ずや突破口を見つけ出す。
ロイは感心しながらも、渡されたツルハシの重さに、己の運命を悟った。
「そんなわけで、大急ぎで発掘を進めてるんだけど、とにかく人手が足りないんだよ。勇者くんの屈強な身体が頼りなんだ」
「それは分かったけど……ロエベも手伝ってくれよ!」
「いやぁ、僕って肉体労働タイプじゃないし、こう見えても王族だしね」
「俺だって、世界を救った勇者なんだけど……!」
ロイはツルハシを力任せに振り下ろした。
それから数日間。ロイは太陽の下、泥と汗にまみれて働き続けた。
ロエベが監督……もはや見張りとして傍らで事情を話す。
「あの人もさ、不器用なりに心配してたんだよ。じゃなきゃ、わざわざハナレアまで回復の奇跡を使いに出向いたりしないって。本当に君が元気になったのか、身体を使って確かめたかったんじゃないかな」
「……もっと別の、平和な確認方法はなかったのかよ」
『ロイ、気をつけて。足元が少し脆くなっているわ』
「おっと……サンキュ」
数日間の猛労働を終え、ようやく解放されたロイは、国を離れる前に再びアミーラの前に立った。
「なんだ、もう行くのか?永久に働いていけばよいものを」
「次の国へも行かなければならないので、勘弁してください」
「労働者ならいくらいても困らぬ。もし使えそうな者がいれば紹介するがよい。貴様の紹介ならば、即座に受け入れてやろう」
「……はは、働き口に困っている人がいれば、そう伝えておきます。イル=シャルの未来は明るいと、ルミーナに帰ったらクロエにも伝えておきますよ」
「明るければよいが。ロゼム教団の残党どもが、再び魔族の復活を掲げて不穏な動きを見せている。道中、せいぜい気をつけるのだな」
「ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫です。それでは、お世話になりました」
ロイにとって、もはや魔王との再戦も、未知の敵も、恐怖の対象ではなかった。
ナナミを失うという、あの胸を抉られるような絶望に比べれば、この世のあらゆる難事など、些細なことに過ぎないのだから。
イル=シャルを後にし、夜の砂漠を歩く。
天空に輝く星の瞬きで方角を測り、一歩一歩、砂を踏み締める。
昼間の焦熱が嘘のように、夜の空気は肺を凍てつかせるほど冷たい。
ロイは顔に巻いた布を鼻先まで引き上げた。
「お、おい!お前、身ぐるみ全部置いて立ち去れ!」
静寂に包まれた砂漠に、無粋な怒声が響いた。
ロイが持つランプの橙色の灯りが、周囲の砂をぼんやりと照らし出している。
夜闇の中でこれほど明るい灯を掲げていれば、盗賊にとっては恰好の標的だ。
一体どのような命知らずが自分に牙を剥いたのかと声の方角を見ると、そこには数日前にロイが「お仕置き」をした、あの三人組が立っていた。
「なんだ、お前らか」
「えっ……?お、お前、あの時の……!」
冷たい砂の上、まだ頭に大きな瘤を作ったままの男たちは、瞬く間にロイの威圧感に屈し、その場で正座させられた。
柄にもなく、ロイは彼らに説教を始めた。
「あのなあ、せっかく世界が平和になったんだ。いつまでも人の物を盗んで生きていくなんて、虚しいと思わないのか?せっかくの五体満足な身体だ、自立して生きろよ」
「けっ……苦労も知らねぇ若造が。俺たちみたいな得体の知れない奴を、誰が雇うってんだよ」
「……人の物を盗む理由にはならない。せっかくなら、誰かのためになることをしてみろよ」
「俺たちは、自分のことで精一杯なんだよ!」
その言葉に、ロイはアミーラの言葉を思い出した。
『労働者ならいくらいても困らぬ。貴様の紹介ならば、即座に受け入れてやろう。』
「……なあ、この先にイル=シャル国の都がある。そこは今、新しい資源の発掘で人手が全く足りないらしいんだ。仕事はきついかもしれないけど、少なくとも食べ物と住む場所に困ることはないと思う。やってみる気はないか?」
「俺たち……みたいな奴でもか?」
「ああ。俺の名前を出して構わない。すぐに雇ってくれるはずだ」
「あんた……名前は?」
「ロイ。勇者、ロイ・シリルだ。……あんたたちに、女神の加護があるよう祈っておくよ」
月明かりを反射したロイの灰色の瞳が、盗賊たちの脳裏に強烈に焼き付いた。
どのような無法者であろうとも、魔王を討ち倒した英雄の名を知らぬ者などいない。
立ち去るロイの背中を、三人は呆然と見送った。
「俺たち……変われるかな」
「……行ってみるか、イル=シャルへ」
後に、この時ロイが紹介した三人の男たちが、イル=シャル国のエネルギー開発において歴史に名を残す大発明を成し遂げることになるのだが、それはまた、別の物語である。
『やっぱり、ロイは変わらないわね』
「ん? 何がだ?」
背後から届く声に、ロイは振り返らずに答えた。
砂を踏み締める乾いた音だけが、静寂の砂漠に響き渡る。
『あなたは、人を救わずにはいられない。たとえそれが自分に害をなそうとした相手であっても。……そういう人なのよ』
「ははっ、そうかもしれないな」
冷たい夜風が吹き抜ける中、ロイは顔に巻いていた布を解いた。
肌に直接触れる夜の冷気が、心地よく熱を奪っていく。
「でも、これは俺の生まれ持った性格じゃないんだ。教えられたんだよ」
ロイは風と共に、ゆっくりと振り返った。
「……お前に」
視線の先、月光に照らされた広大な砂漠が広がっている。
「ナナミ……」
そこには、砂を巻き上げる夜風だけが、音もなく揺れていた。




