掃討 ~ビギンズエンド~
長らくお待たせいたしました。Eyes Of Half Red第一部の最終シーズンになります。物語時間ではほんの一週間程度ですが、それを書き進めるのに丸一年かかるとは、奇妙で興味深いものですね。より技量と描く速度を磨き上げたいものです。
それでは……シーズン3、お楽しみください。
「あれ、水が出ないな」
馬屋で交代する馬に水を飲ませようと思っていたのにこれだ。蛇口が壊れたのだろうか?何度もひねるうちに取っ手がもげた
途方に暮れていると、同僚が井戸で水を汲んでいるのが見えた。
御者はすぐに向こうに走っていく。
「すみません、その水もらえますか?」
「あぁ、どうぞ。ちょうどあなたにあげようと思ってたんです」
なんと好都合な事か。
御者はお礼を言ってからバケツを受け取った。
「ところでなんで水が使えないんですか?」
あぁ、と同僚は頷いた。
「なんでも下水道に魔物がいるとか」
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ぴちゃり、ぴちゃり。
水滴が落ちて跳ねる音が下水道に反響する。聞こえなくなるまでかなり間があった。明かりはほとんどないが、ここはかなり広いのだろう。古代からあった施設をそのまま利用しているという。
マギーはゆっくりと後方を振り返った。
松明が照らす薄闇の中に数人の天使たちが現れる。アルザスの”教会”に所属する者達だ。皆三十代、四十代程で実戦経験もそれなりだとアサド婆は言っていた。事実、部隊を預かっているマギーより落ち着き払っている。
マギーは作戦概要を話そうとして、一瞬ど忘れして口をぱくぱくした後、「あー」と前置きしてから語りだした。
「今回の作戦は下水道に籠もっている魔物の排除だ。敵はジェリィ。先日と今日で、強力な個体が出現したことから察するにここには雑魚しかいない。だが、魔物は雑魚であっても容易に人は殺せる。故にあたし達が今行うのは駆除だ」
ぐっ、とマギーは松明を掲げた。
「一匹残らず始末するぞ」
了解、と次々に返事が帰ってくる。
おおよその作戦準備は完了している。
マギーは隊列の指示を出しながら、脳内で反芻した。
ジェリィは湿気の高いところを好み、潜むことが多い。そんな彼らが食料としてこの上なく好むのは死体である。
栄養価が高い上に、吸収してその力を自らのものにできうる事も可能だからだ。
だから、死体の匂いを流す。原始的本能しか持ち得ないジェリィはそれでおびき出せるのだ。
「”風”の魔法陣を」
前列に展開した盾兵が隙間を開け、術師が進み出る。
術師達はそれぞれ大理石の板を抱え、魔法を発動する陣を描いた。
ぶわぁっ………っと生臭い匂いが散り、満遍なく地下水道内を循環する。
「術式やめ」
マギーの声で術士達は魔法陣の一部を削り、風を止める。
耳を凝らす。
天使たちの呼吸音に混じって、湿った重量物が地打ち付けられるような音が聞こえ始めた。
ぎり、と剣や盾を握り直す音もした。
松明の炎では奥までは見えない。気持ちの悪いバチャバチャという音が、不可視の夥しい物量の接近を示す。
未だ視界が効かない暗闇。
しかし、マギーの目は大量のジェリィの襲来をはっきり直視していた。子犬ほどの不定形物体が原理もわからぬ移動方法でこちらに突進してきている。目も、口も、なにもなく、冒涜的な無貌の大群がすべてを食らい尽くそうと迫っている。その姿はまるで湾岸をまとめて呑み込む津波のようであった。本能のままに仲間も眼中にないとばかりの剣幕は、餌だ、餌だ、と狂喜の幻聴さえも轟かせる。
だがしかし、暴食の権化たるジェリィの大群はあっけなく、塩の海に雪崩込んだ。
ビチャビチャと粘着質な音を聞きながら、マギーは教本の内容を思い出す。
ジェリィの体の構造はナメクジによく似ている。特殊な皮膜が内部の水分を保持し、核を保護しているのだ。この皮膜は極めて高い効率での物質交換を行う特徴があり、例えば人間ほどの死体であれば十秒も立たずに吸収し、体積を増やすことができる。
一体どういう仕組みだろうか。
この原理は、ジェリィの核にシワのように刻まれた魔法陣的模様で浸透圧の作用を高めていることが教会の研究によってわかっている。
では、浸透圧とは何か。
例えばここに、水などの極めて小さな分子を通す敷居で分けられた、塩水と、ただの水が入った容器があるとする。
すると敷居の両側で塩分濃度が同じになるように、水の分子は塩水の側に移動するのだ。これが浸透圧である。浸透圧は主に細胞が物質をやり取りする時によく発生する。
細胞は高浸透圧に晒されると内部の水分が体外に流出してしまう。そうすると細胞の維持に必要な無機物等も失われてしまい、活動を停止してしまうのだ。
これをジェリィは高速で行っている。動物などの死体を好んで吸収するのは体液の塩分濃度がほぼ同じだからだ。
では、吸収するのが極めて高い塩分濃度を持つものであったら?
「……ジェリィは体液を急速に失い、しぼんで核だけになる」
一体何十匹いたというのか。
そこには大小様々な核がゴロゴロと並んでいた。
廃棄が決定した腐りかけの塩漬け肉に群がったジェリィは、あっという間に水分を失って動けなくなってしまったのだ。
グズグズのシャーベットのようになった塩の中からマギーは無造作に核を拾い上げる。
抵抗もない。それを地面に落とし、踵で踏み砕いた。
「終わりよ。後は各自処理に当たって」
天使達に指示を下すと、めいめい発砲音や、剣のぶつかる硬い音がし始めた。
作戦終了の旨を伝えるため、マギーは教会の無線をつなげる鈴を耳元に持っていった。
「こちらマグノリア・オードリー。地下にいるジェリィの掃討を終えたわ。核の総計は……」
隣に立って、計測していた天使の手記を見る
「137体……よ」
〈―――ずいぶん少ないですねオードリー中弐位〉
「早期に巣を駆除したからよ。砕いた核の中の輪は一本もなかったわ」
〈―――すると、先日と今日の昼に現れた個体とは別になりますね〉
「……そうね」
マギーは顎に手を当てた。
魔物というのは、大体がグループを作っている。特にジェリィのような弱小個体では尚更だ。核分裂で増える彼らのグループは、まさに全部自分達といった具合で、全部同じだ。
本来ならあの黒い奴らがぞろぞろと出てきていてもおかしくない。
「やはり、変ね。ただ魔物が街中に住み着いただけでない気がする」
その後、いくつかやり取りをして報告を終えた。
何か、意思を感じる。
その上で自分たちは踊っているだけに過ぎない。そのように思わせられてしまう。
天使達が次々と作業を続ける中、マギーは地下水道の奥に視線を向けた。
松明の光が及ばない闇の先でも彼女には見通せる。少し緑がかった視界に見えるのは漂う白い埃と、石造りの建築。
少し気になったマギーは、一番年長の天使に作業の指揮を任せ、探索をすることにした。
ちょろちょろと流れる水の音につられるように、マギーは奥へ、奥へと歩を進める。
作業の喧騒が遠のいていき、代わりにブーツの立てる反響が大きくなる。
すん、すんとにおいを嗅ぐと下水特有の生臭い悪臭の中に、何か腐乱臭が混ざっていることに気が付いた。そちらの方向に向きを変え、反響で自分の位置と空間構造を把握しつつ前進する。
敵の気配は今の所ない。
それでも警戒を怠らずに、ゆっくりとにおいの強まる場所へと進んでいく。
かつ、と何かを蹴飛ばした。
軽く移動したそれは木の棒のようだ。先端が黒ずんでいるのは、燃やされたからか、あるいは汚れか。
(木片…?)
マギーは違和感を覚えた。鼻先に近寄らせると、炭のようなにおいがした。炭化しているということは火をここで何者かが起こしたということだ。
しかし、なぜここに?火はれっきとした文明だ。使用するには間違いなく二足歩行可能なある程度知能のある生物でなければならない。
この地下水道にはジェリィしかいなかったはずだ。彼らに火など必要ない。すなわちジェリィ以外の個体か、あるいは人間がいる?
推測にふけていると、ハエの大量に飛び回る騒音に気づいた。この距離からでも聞こえるのだから恐らく相当数の死体があるのだろう。
マギーは連絡通路と見受けられる場所を右に曲がった。
あぁ…と嘆息が出た。
無残な死体が積み上げられていた。
著しく出血しており、かろうじて人型のシルエットは保っているがそれでも見ていられるものではない。特に目から上のない頭部…。
マギーは新しく見つかった身元不明の死体を確認するべく近づこうとした。
が、すぐに足を止める。
マギーはポケットから小さなナイフを取り出した。
それを、あろうことか、数歩ほど離れた前方の死体に向かって投げつけた。
そばに人がいればなんてバチあたりな行為だと糾弾するところだろう。だがマギーは考えた結果からこの行動をとったのだ。
放たれたナイフはくるくると回りながら、死体の横に突き刺さった。ピン、と張られた糸が切られ、手始めに閃光、わずかな間もなく噴出した爆炎が道の奥から迸った。
耳と目を覆い、壁裏に退避したマギーはすぐさま状況を確認する。
ぱちぱちと爆ぜる音があたり一面からする。肉片が燃えているのか周囲は散逸した光源で明るくなっていた。
先ほどまでは静かだった空間に小さき者共の気配が満ち始める。
小鬼たちだ。洞窟などを住処にする、人肉食の魔物で、ジェリィなどと同じ弱小種族に分類される。しかし、それは集団を考慮しなかった場合だ。
「……数ばかり多いもんだな」
ぎらついた二対の吊り上がった目がかぞえきれない程現れるのをマギーは眺めた。
小鬼は原則集団で行動する。本能でそうするのはジェリィと同じだが、最大の区別は知恵の存在である。
小鬼は人間を食すことで知恵を得るのだ。教会の解剖によって、人間を食べた個体とそうでない個体は脳の容量に差異があり、前者の方が体格まで大きいことがわかっている。
知恵を持つものは総じて統率者に向いている。人間の場合でもそれはあきらかだ。
統率者のいる魔物の集団はは下手すれば強力な一個体としての魔物よりも強力である。そうでなければ人魔大戦で人間が追いつめられる道理はない。
マギーは硬い表情で、ゆっくりと立ち上がった。
おおよそ爆風で弱った所を取り囲んで嬲り殺す算段だったのだろう。
だがその目論見は外れた。
「人間様なめんじゃないよ!」
一喝。
即座にリボルバーライフルを引き抜く。
二十ミリ口径、儀礼済み銀弾という頭の悪い弾丸を使うこの武器の破壊力は、像でも爆裂するといわれている。こんなものを子供程度の体格の魔物が食らえば跡形もなく消し飛ぶだろう。
さっと、小鬼は散開した。
まとめて撃ち抜かれないように機敏に動き回る。銃が発明されてからというもの、こういった小型の魔物は狩りやすくなったからだ。彼らにも知性というものがあれば対策はとる。
マギーは囲まれないよう、後ろに下がりながらリボルバーライフルを振り回した。奴らは自分の一挙一動に反応して撃たれまいとしているようだ。
小鬼の群れから目を離さないのはこちらも同じ。お互いの思考の読みあいが始まる。
どちらも殺すことが目的。そしてどちらも強大だ。損害を出さずに殺せるのであればそれが一番だ。
ではその方法はとはなんだろうか?
簡単な話だ。
罠を作ればいい。それも即死級の。
(詰めてこない?時間が経とうが撃ち殺されることにはかわらないのに?)
どちらも武力をちらつかせてにらみ合うだけだ。交戦にはいたらない。
いや、今はまだ戦うべきではないということか?
(罠か)
マギーはその結論に至った。自分は移動させられている。小鬼達の思惑通りにだ。
マギーは一瞬、両目を閉じた。瞼が閉じることで闇が訪れる。だが、マギーにとってそれは闇ではない。
すうっ、と先ほどよりも鮮明な世界がマギーの脳に飛び込んできた。
銃を構えた自分が見える。それに向かってじりじりと距離を詰める小鬼の群れが見えた。
マグノリア・オードリーの能力は《精霊の眼》とも呼ばれる。一般の人間には見えない幽霊や、妖精などの生物に始まり、敵を撃ち抜くための正確な入射角まで見ることができるのだ。
しかもそれだけではない。
《精霊の眼》は文字通り精霊の眼でもある。
マギーは視点を、さながら空を飛び回る精霊のように操作できるのだ。
浮遊した視点はマギーの後方、行き止まりに移動した。素早く動き回り、上下左右の壁面を確認すると、先ほどと同様に糸の罠が仕掛けられているのがわかった。
天井に吊り下げられた先端をとがらせた丸太と連動しているらしい。爆薬を使ったことからして高度なものかと思えばそうでもないようだ。だが、あれだけの質量を食らえば無事ではすむまい。
眼を使うのをやめ、瞼を開く。
小鬼達の次の手は読めた。ならばその作戦を利用させてもらおう。
マギーは小鬼に背を向け、勢いよく走り出した。突然の動きに彼らも慌てたように追走してくる。
罠の仕掛けられた場所までは一本道だ。避けられないように考えたのだろう。だが、それも無駄な話だ。
罠までのわずかな距離を走りながらマギーは自身に三角形の魔方陣を刻んだ。結界と呼ばれる記号魔法で、”教会”に記録されている簡易なものだ。身体を保護し、身体能力を底上げする便利な代物である。まさに”教会”に所属する天使にとって生命線ともいえる技術である。
プツ、と足が糸を切る感触がした。
何が起きるかはもうわかっている。
マギーは床を蹴り、陸上競技の高跳びの要領で体を捩じりながら飛んだ。
強化された身体能力は理想の動きを実現し、あおむけの背中を丸太が擦過していく。
そのまま後方宙返りに移行したマギーから小鬼達が見えた。
まさか躱されると思ってもいなかった彼らはまともに、丸太の殴打を食らい、痛々しい音を立てて吹き飛んでいった。
「大成功ね」
マギーが躱した時にはかなり勢いがついていた。恐らく数体は致命傷を負ったのではないか。それにこの狭い通路だ。あわよくば全滅も狙えるのではないか。
欲張った考えが頭をよぎった時、マギーは敵の指揮にあたる存在の欠如に気が付いた。
人間であれば指揮官が前線に出ないことは当たり前だ。だが、小鬼共は?
バシャ、と水音、振り返ったマギーの顔面に拳が炸裂。目に星が散り、肩が壁に激突したと痛みを叫ぶ。動作のおかげで起きた風を知覚し、倒れこむようにして次の攻撃を避ける。
汚水が余すことなく体中を濡らすが、気にしている余裕はなかった。続く攻撃が床板を砕いた衝撃が伝わったからだ。
ごろごろと転がりながら、立ち上がる。頭を揺らされた影響と、雑な回避の反動でふらつく。
(なんだこのそびえたつクソは)
小鬼にとは思えない盛り上がった上腕二頭筋。荷運びの馬よりも高い身長。上半身に対してやたら細い足だが、しっかりと上半身を支える裸足。
人間を食った小鬼だ。天使ならだれが見てもそう答えるだろう。
両者はしばしにらみ合った。マギーの呼気と、距離を測りあう二者の足音が際立つ。
(こいつはさしずめ小鬼拳闘士ってとこね)
攻撃の機会をうかがいながらマギーはそんな風に名前をつけた。
さぁ、どう動く。
まだ自分にかけた保護の魔方陣は生きている。先ほどの一発をまともに食らっても破壊はされなかった。まだ一撃被弾してもいいだろう。
(まだ見極めるには足りない)
威力はわかっている。だが、わからないのは早さだ。その拳が音よりも早いのか、あるいはそうでないのか。どちらにしろ魔物と接近戦をするのは不利である。特に強力な魔物とほぼ生身の天使がやりあう際は一瞬の判断ミスが死を招くこともあるからだ。
だから、できるかぎりの情報をさぐる、手に入れられだけ手に入れるのだ。一挙一動に至るまでだ。
だが、それは相手も同じだ。
小鬼拳闘士が動いた。右腕だ。ぷくんと血管がふくれあがり、力が込められた。
左足が床を擦り、水滴を散らす。その一粒一粒が煌めき、踏み込んだ勢いで体を捩じる。
上体が前に倒れ、体重を上乗せした強力な拳が顔面目掛けて飛来した!
アドレナリンで加速した世界の中、迫る正拳を前にマギーは上体を反らす。空ぶった拳が胸のマントの留め金に当たり、金属がバナナの皮をむくように捻じ曲がる。
背中を留め具が外れたマントが擦る。反らした勢いに乗り、マントはマギーの後ろから前に身を乗り出した。
たっぷりとしみ込んだ細かい水滴が空を舞う。それを小鬼拳闘士の連撃がさらに細かく砕く。
右、
左、
右、
左、
右右、
左、
次は右。
こない。
一瞬のタイミングがずれる。
回避を読まれていた。動きを操られていた。
かがんだ小鬼拳闘士が身体をひねる。大きく回転、片足を軸に天を穿つ龍が如くきアッパー。
よけきれない、バックステップを踏んだ。姿勢が揺らぐ、目は拳をとらえている。狙う場所は顎。すかさず手をかざし、骨がきしむ衝撃、顎に命中、足が地面から離れ、遅れて転倒。
冷たい水が揺れる脳を覚ます。追撃が迫る。羽虫を叩き潰す無慈悲。反射で突き出す脚。脇に当たり、軌道がずれて耳が裂ける。
脇をさぐる。あれはどこだ。
敵がたたらを踏む。猶予が生まれる。右手が金属をつかんでほくそえむ。
小鬼拳闘士が持ち直す。弧を描く大振り、石の欠片と水しぶき、突き出される銃口、決着のビート。
記者達のカメラフラッシュのような閃光。体揺らす子気味良い振動。食らう敵の咆哮。
幕切れは唐突に、銃弾は撃ちきられる。
小鬼拳闘士はうめき声をあげ、よろよろと壁にもたれるようにして後ずさった。
「人間、なめんじゃないわよ」
マギーは拳銃下部から伸びる長い弾倉を引き抜いた。
フルオート発射機能を備えた自動拳銃だ。近年、強力な魔物がいなくなったことにより、小型の魔物と遭遇戦を行うことが多くなりつつあった。
そのため状況の変化に対応できるように開発されたものだ。至近距離ですばしっこく動き回る魔物に対して長い銃身のライフルは迎撃に適さない。かといって、むやみに近接戦を行えば負傷や、死の危険性が強まる。
そこで、至近距離で対象を速やかに鎮圧できる携行銃の存在が必須となったのだ。その試作品の第一段階として、追加弾倉を装備し、発射機構を改良した自動拳銃が試験製作された。
結果、こうして余すことなく威力を発揮したわけだ。
今度は標準サイズの七発だけ銃弾の入る弾倉を叩き込んだ。ハンマーを引き、重傷を負った小鬼拳闘士に向けて止めを刺すべく照準を向ける。
「ちっ、どっか反動でねじ曲がったか?」
引き金が途中で噛んだ。弾詰まりが起きたようだ。
ならばと銀製のナイフを抜き放ち、じりじりと後ずさる敵の心臓に突き刺そうと振り上げる。
どん、と体の芯がきしむ感覚。背中の一部が石と化したように動かなくなる。
後方からの殴打だ。遮断した通路の隙間からどうにか小鬼達が侵入してきたのだろう。
つまり、小鬼が次々にこっちに入ってくる!
先ほど襲い掛かってきた一体の適当な部位を蹴り、振り向きざま絵に小鬼の頭を掴んで壁に叩きつける。
抵抗を試みようと腕をつかんでくるがお構いなしに何度も打ち付ける。木の実を砕くように容赦なく。
再三に渡って打撃を受けた小鬼の頭蓋はしおれたトマトのように歪み、動かなくなった。
何度もびたっ、という足音がする。このままでは小鬼に取り囲まれる。
(なるべく狭い道に…)
マギーは走り出そうとしたその先に小さな目の燦めきを見た。
どこから回り込んできたのだろうか。既に反対側にも相当数の小鬼が集まっていた。
(まずい、本当にまずい)
リボルバー・ライフルを何度も挟まれた両端に振り、時間を稼ぐ。
もう一度保護魔法をかけて強引に突っ切るか?
いや、大勢に群がられて止められるに違いない。
ではこの得物で撃ち殺す?たった3発しかないのに?
ここまでか、という諦めの言葉が胸を突く。
だが、簡単にくたばってやるものかという決意がすぐに覆す。
その時、マギーは塞がれた通路の奥に、人の気配を感じた。
すかさずリボルバーライフルを向け、トリガー。大容量の火薬はあまりにも大きな音を立て、一瞬耳鳴りが起こる。
過剰な威力は丸太を粉々に砕いた。開いた通路から、怒号を上げて天使たちが突撃してきた。
事態を察して駆けつけて来てくれたのだろう。
マギーは彼らの指揮をすぐさま取り始め、反撃を開始した。




