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迷走 ~ラビリンス~

プロット紛失とストーリーの整合性をとるための改稿により、投稿が遅れて申し訳ありません!さぁヨハン君も壁にぶち当たる!

 一方、ヨハンは通報があった所に到着するところだった、周囲にはアルザスの警官が道を封鎖しているところで、今日が祝日のためか、野次馬が多い。

 それに、聖堂の天使たちとよくすれ違った。巡回と、町の修理のためにあちこち駆け回っているのだろう。なんだか申し訳なくなる。


 ヨハンは馬をなだめすかしつつ、近くの警官に手綱を持ってもらうように頼んだ。彼は驚いた顔をしたが、ヨハンが”教会(エクレシア)”のエンブレムを身につけているのを見ると、慌てて馬の見張りを了承した。きちんと礼を言ってからヨハンは馬から降り、人込みをかきわけて現場に入る。


 「お勤めご苦労様です」


 ヨハンは中に入るなり、横から声をかけられた。警官の制服に腕章をつけている。どうやら彼がとりしきっているらしい。


 「そちらこそ。ここ数日は大変だったでしょう」

 「いえいえ、最近はヒマでしたからな。いい運動になりますわい」


 彼はアルザス警官所長のエドガー・ポールと名乗った。ヨハンも彼に名乗り返す。


 「早速ですが、鑑識に立ち会わせてもらえますか?」


 エドガーは奥のブルーシートのテントを指し示した。


 「ありがとうございます」


 周囲の建物の様子、地形、それらを見まわし、この空間の特徴を記憶しつつ、歩みを進める。

 ほんの少し、さざ波の音が聞こえる。そういえば、ここは海岸通で道なりに砂浜が見えたことを思いだす。


 野次馬にみられない向きで開かれたテントの天幕の前で一礼し、中に入る。

 そして、目前の遺体の近くに座り、十字を切って、死者への礼儀を正す。


 遺体はあおむけに倒れており、体にはいくつもの貫通孔があった。まるで機銃か何かに撃たれたようだが 傷の大きさはバラバラだ。何か、巨大な爪で突き刺されたのではないか。ヨハンはそう考えた。


 遺体の顔は布がかけられていて見えない。だが、どこもかしこも血まみれだ。


 (苦しかっただろうな…)


 ヨハンは鑑識の一人に情報を聞いた。


 「彼、ここで見つかったのか?」

 「はい。私どもが来た時にはこの状態で」


 ヨハンは少し考えるそぶりを見せた。


 「ほかに何か情報は」

 「死亡時刻はおそらく今日未明。死因は大量出血による出血死と見られています。その他抵抗傷が体に複数見受けられています。これを分析すれば有力な犯人候補の特定につながるでしょう」


 しばらく専門職の意見を聞く。おおかた終わった後、ヨハンはお礼を言って立ち上がった。

 

 あらためて遺体周辺を見回すと遺体の周りは血で染みていた。よく石畳の隙間に水をかけると黒ずむあの色だ。血が水と違うのは色があってなかなかそれが消えないというところ。


 ふと、ヨハンは血の染みの中に黒い固まった絵の具のようなものを見つけた。手で触れるとなんというか、かさぶたじみた手触りだ。なんんとなく直感に来たヨハンは目を閉じ、意識を集中させて、魔力の流れにすべての知覚を注いだ。


 そばの人間の生命の拍動、空の対流、海の膨大なる存在感から大地の奥深くの灼熱。そうした大きな流れから一点へ。

 この手の先の物質に研ぎ澄ました五感の針を突き刺す。

 

 活動を止めた生命の源が…二つ?

 それぞれの時が止まった点は大きくずれていて……


 極限に凝縮した世界がヨハンになだれ込む。


 色、音、におい、振動、すべてがもとに戻り、ヨハンは目を開けた。


 「別の人間の…血液」


 前に、血液型が違う人間同士の血を混ぜると固まってしまう、という話を聞いた。この物質はまさにそれではないのか。


 (ほかにも殺された人がいるのか、それとも別の場所で殺されてはこばれたのか…?)


 くそっ。


 ヨハンは小声で吐き捨てた。

 頭脳労働は苦手なのだ。

 こう、叩いて殴って終わる方がよっぽど楽だ。


 (マギーのほうが向いてるんだよな頭使うのは)


 だが調査を命じられたのは自分だ。向き不向きで音を上げず、精一杯挑むのみ。

 

 ヨハンは手帳を取り出し、被害者の状態と血の混じったカタマリの事をメモし、鑑識からその場で撮ってもらった遺体の写真をもらい、テントから出る。


 すると、一人の警官がこちらに走ってくるところだった。彼はヨハンを見て、怪訝な顔をしたが、教会のエンブレムを見て、ハッとして敬礼を取る。


 「失礼します。ただいま被害者の身元が判明し、その報告をしに来た次第であります。被害者はアンドリュー・ルベン、31歳男性、市内の喫茶店『Ile Sole』に勤務しているそうです」


 「Ile sole…」


 ヨハンは振替り、向こうの看板にその文字の組み合わせを見つけた。


 「なるほど、これは怨恨の線もありうるな。本部に被害者の交友関係を洗えと伝えてくれ」


 了解、と警官はすぐに走っていった。


 「やれやれ、人間同士のいざこざでよかった」


 警部はリラックスしたように言った。


 「どうでしょうね…」


 警察は魔物との交戦による混乱に乗じた犯行だと考えているようだった。

 

 ヨハンには一つ考えがあった。

 それはあのかさぶたのようなものから着想を得た考えだ。


 昨日はとある少女が襲われた。危うく殺されかけるところを自分が助け、どうにか事なきを得た。そして魔物は倒され、平和になったかと思いきや、またも死体がでた。


 ところがその死体にはまた別の死体の血液が付着していて、死んだ時間はバラバラだ。

 手帳を取り出し、マギーがマーキングした自分たちがここに来る前に発見された二つの死体遺棄の場所を確認する。

 いずれも人通りがそこそこ多いところで、それこそ発見前は死体の影すら見えなかったらしい。


 確か…あの二つも死亡時刻は発見時から大きくずれていたはずだ。


 ということは。


 あらかじめこの死体は殺された人たちのものがどこか一か所に集められ、何かに必要になったから、わざわざ目立つところに置かれたのではないだろうか。


 「ああっくそ!わかんねぇ!」


 だからなんだというのだ。これは所詮、ただの妄想に過ぎない。なんの確証もない空言だ。そもそも…敵である魔物が一体何を目的に動いているのかもすらわからないのだから。


 ただ……


 確実に人を殺したいというために動いているのではないことは、わかる。


 何者かの恣意が垣間見れるのだ。

 

 懐で鈴がなる。

 ヨハンは無線を取り出し、耳に当てた。


 「どうしたマギー」

 〈―――事情聴取終わり。そっちは?〉

 「ごめん、マギー。なんの進歩も。でも、現場からとある考えができて…」


 ヨハンは先ほどの自分の思考をマギーに伝えた。


 〈―――ありえなくはないんじゃないかしら〉

 

 マギーがいつものまじめなトーンで言う。


 〈―――私も魔物が本能に従って動いているとは考えられないもの。なにかの指揮に従っている気がする。でも、やはりその指揮者の目的はわからないわね〉

 「うーん…」

 〈―――もしかしたらだけど、ライン川での決戦の陽動なんじゃないかしら〉

 「陽動?」

 〈ええ。アルザスで異変を起こし、戦力を削ぐ。でも、二人しか力天使を釣れていないし、大失敗のようなものね〉

 「だなぁ…。他に何か、思惑があるのか…?」


 しばらく両者は沈黙する。アルザスの異変はまだ終わっていない。なのに、敵の目的がわからず、先手が打てない。現状は夜間外出禁止令を出して、天使が街を巡回するしかない。


 「なぁ、予言は、外れないんだよな」


 ヨハンはつい、思ったことを口にした。


 「少なくとも、外れたことはないって聞いてるけど」


 マギーの声も心なしか自信がなさそうだった。

 もうちょっとわかりやすい予言をくれよ、とヨハンは思う。

 

 アルザスの街の俯瞰図、モモの肖像画、そして戦車の絵。


 抽象的すぎる。一体、賢者の記憶は何をさせようというのか。


 それじゃ失礼するわ、とマギーが通信を切る。

 ヨハンは息を吐き、もう一度調査を再開しようとした。


 すると、野次馬の集まったあたりで誰かが騒いでいるのが見えた。

 警察が誰かを必死に抑えようとしている。

 それはあえなく突破され、一人の女性が現場に突っ込んできた。


 彼女は遺体のおいてあるテントに駆け込み、置かれたそれを見て、泣き崩れる。


 恐らく遺体、アンドリューの親族なのだろう。若い警官が彼女を引きずり出そうとしたが、ヨハンは手で制した。


 しばらく彼女は嗚咽と号泣を繰り返し、亡き者の名前を呼んでいたが、突然彼女は立ち上がり、ヨハンにつかみかかった。

 

 「どうしてなのよ!!魔物は倒したんじゃないの?もう誰も死なないんじゃないの!もう終わりじゃないの!!どうしてわたしの夫が死ななくちゃいけないのよ!!」


 悲痛すぎる叫びに、ヨハンは息を吞む。


 「また、出ても、俺が倒します。だから」

 「また?また街を壊すの?こうしてまた人が死んだのにさらに街を壊すの?ふざけないでよ!」


 あの夜。

 戦い終わった後に見た瓦礫の山が脳裏をよぎる。


 「っ…」


 とうとう、女性はいよいよまずいと判断した警官たちによって再度取り押さえられた。

 お怪我はありませんか、と警部が聞いてくるが頭に入ってこない。


 (やっぱり俺は……壊すことしかできないのか?)


 幼少期の、力を制御できずなにをしても物を壊し続けた、過去の記憶がよみがえる。

 自分はあの時と、なにもかわっちゃいないのではないか。

 

 ヨハンはかぶりをふった。


 「…今は、動揺してる場合じゃない。早く、解決の糸口を見つけなきゃ」


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