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平穏 ~ショートブレイク~

三ヶ月近くの休養の後復活!!お待ちいただいた方にまず申し訳ございませんと、そしてお待たせしました!をお伝えします!


週一投稿も再開します!


それでは楽しんでいってください!

 ドアが閉じるなり、モモはぷはっ、と息を吐いた。あまりの恥ずかしさに息まで苦しかったらしい。

 顔が火照ってなんだか頭が回らない。だがどこかすっきりした感じもする。体の節々や、脚は相も変わらず痛みはあるが、明らかに軽やかな感じであった。いままで溜め込んでいたものをほとんど吐き出したからだろうか。気持ち、明るく見える。


 (私は誰かに必要とされたい……か)


 形のない悩みは、今や名前を与えられた光の珠だ。結局はアバウトなままな事に変わりはない。しかし、自分のある種の欲求の方向性はわかった。


 (アサド婆は自信を持てと言っていたけど、やっぱり私が誇れることなんて……)


 ふと、過去の光景が頭をよぎった。閃光とともに舞う鮮血。モモはぎゅっと目を瞑って思考を中断した。


 ドアのノック。

 アサド婆が片手にマグカップ、それとモモがいつも全財産を詰め込んでいる大きなトランクを持って入ってきた。


 「あっ……どうして?」

 「あれ、言ってなかったっけこの聖堂は”教会”(エクレシア)に所属してるんだよ」


 ”教会”(エクレシア)

 その組織の存在と意義はモモはよく知っていた。


 「モモちゃんは魔物に襲われ、それを中央教会の力天使が保護した。つまり、こっちの抱えてるヤマに巻き込まれたわけさ。だから、アタシ達”教会”(エクレシア)はまたモモちゃんが襲われないように守る義務がある」


 アサド婆は白湯をモモに手渡した。両手で受け取って一口すする。


 「気分が良くなったばっかりのところ申し訳ないんだけど、この後力天使が事情聴取に来る事になってるんだ」

 「えっと…力天使?」

 「堅苦しい肩書だけど、見た目は普通の人間さね。気構えしなくていい」


 モモは頷いた。


 「というわけで身だしなみさ。病人服じゃ人様に合うのは気まずいだろう。まずは包帯換えてやるから脚出しな」


 ごもっともな意見だと思い、モモは素直に従って、体にかけられた布を取り払った。

 アサド婆は腿の付け根近くの止め金を外し、モモに片足を上げるように指示してするすると包帯を取り払っていく。

 傷穴だらけのグロテスクな患部が見えるかと思い、モモは目をそらした。それを見てアサド婆が大丈夫だよ、と声をかける。恐る恐る怪我の様子を見たモモは案外きれいな様子の脚に驚いた。


 血はこびりついているが、あれだけ刺されて、穴だらけのはずの脚が僅かなかさぶたや、痣程度になっている。何針か縫った跡も見えるが軽傷に思える。


 「一日で……こんなに?」

 「普通はそうはならないよ。この包帯は”教会”(エクレシア)専用の医療技術が施されていて傷の治りが早まるんだ。本当は前線の兵隊さんに使うもんだけど、今回だけ特別さね」


 モモはまじまじと包帯にまかれた模様を見つめた。うねうねと線と点が刻まれているように見えない。だがなんとなく神聖な空気を感じた。


 「それにしても怪我の治りがいいなぁ。若いからかねぇ?いや、やっぱりアタシの腕がいいに決まってるか!」

 

 ギャハハ、と高笑いするアサド婆にモモは苦笑を浮かべる。

 両脚の包帯を取り払ったアサド婆は湿らせた清潔な布でやさしく体を拭いた。しっかり血の汚れが取れるとアサド婆はまだ治りきっていない部分に軟膏を塗ろうとして、手を止めた。


 「モモちゃん、立てるかい?」

 「えっ?」

 「いやさ、お風呂に入れてあげようと思ってさ。今のところきれいだけど…さっぱりしておきたくはないかい?」

 

 モモはちょっと困惑した。あまりに唐突で脈絡もない。モモはアサド婆の顔をしばし見つめていたが、まぁ自分は思ったより重症ではないし、従うことにした。


 「ありがとうございます。えっと、転ぶかもしれないので支えてもらえると…」

 「あいよ」


 アサド婆がモモの左脇の下に手を差し出し、右肩を掴む。モモはお腹が痛まないようにそろそろと腰を上げた。体重が脚にかかり始めると様々な場所が太い針に刺されたような痛みを発してモモは苦鳴を上げた。だが歩けないほどではない。

 支えてもらったまま少しずつ、少しずつ進んでみる。


 「大丈夫みたいです」

 「そっか!よし、善は急げだ!」


 アサド婆はモモをもう一度座らせ、ベッドに木の台を置く。腕の包帯をほどき、ギプスに包まれた腕を台に載せ、おそらく防水を兼ねている丈夫そうな袋で包み、紐で両方の口を縛る。最後にアサド婆はモモの眼帯に手をかけた。


 「あの……」


 アサド婆がモモの眼帯に手をかけたとき、モモは嫌がる素振りを見せた。アサド婆はどうした?と声をかけたがモモはなんでもないようにかぶりを振った。

 アサド婆は注意深く眼帯を解いて、ベッドの横に置く。


 「目、開くかい?」


 モモは痛くならないように緩慢にまぶたを開けた。しこりのような感覚がある。左側の視界はうっすら白濁していて違和感がある。瞬きをすると筋肉痛のような痛みがしてモモは左眼を抑えた。


 「んー痛いか。まだ腫れてるしね。でもそんなに目立ってないよ。大丈夫さ」


 アサド婆は目の周りを新しいふきんで拭いて、新しい眼帯をつけてあげた。


 「さて、次は着替えの服さね。包帯を変えやすくしたいからスカートでお願いしたいんだけど…」

 「はい…ええっと…」


 とりあえずトランクを開けてもらう。色とりどりの服が溢れそうなぐらい詰め込まれていて、我ながらよくここまで集めたな…と感心するぐらいの量だ。

 さて、何を着ようか。この後風呂にも入るらしいし、なるべく脱ぎ着しやすいものがいいだろう。スカートとトップスの組み合わせは片腕が骨折している状態では手間がかかりそうだ。

 それにこの後人と会う予定もあるし、少しフォーマルな感じの格好がいいだろう。

 となると……ワンピースあたりが適しているだろうか。今日はちょっと暑い感じる程の快晴だ。多少涼しくしないと汗をかいてしまうだろう。


 「あの、アサド婆さん、トランクの、右下の隅っこの一番奥の黒いやつ取ってくれませんか?」

 「あいよ。このワンピースであってるかい」

 「はい。ありがとうございます」


 モモは差し出されたそれを受け取って頭から被って身につけた。種類はオールインワンという、ひとつなぎのタイプ。腰のあたりで少し引き締まっており、黒い生地に赤の薔薇と茨の刺繍が施されている。

 

 「ワァオ……随分な物を選ぶね。パーティにも参加できそうだよ」

 「あはは、ありがとうございます。それなりに値は張りましたから」

 「だろうね。大人っぽいよ、モモちゃん!」

 「この後脱いじゃいますけどね」


 アサド婆はモモの返しにケタケタと笑った。

 

 モモはオーラルケア用品やタオル、それと下着の替えを麻袋に詰め、さらに化粧品を持った。アサド婆に支えてもらって部屋を出る。


 外に出ると、修道服の女性とすれ違った。モモは軽く会釈をした。彼女は面食らったような挨拶を返した。


 「礼儀正しいんだ?」

 「そうですかね」


 アサド婆はまた人にすれ違って挨拶をするモモを眺める。

 

 「ちゃんと飯食ってるかい?」

 「えっ?」

 「いや、細すぎやしないかって思ってさ」


 アサド婆は支えている方の華奢な腕をちらり、と見た。


 「あはは……貧乏なもので」

 「服はたくさんあるじゃないか」

 「ほとんど古市でかき集めたものですよ。このワンピースだってそうです」

 「じゃあ、お金はどこに行っちまったんだい。まさか……男?」

 「そんなわけないじゃないですか。……困ってる人に上げてるんです」

 「それで食うに困るほどになってるわけか」

 「いえ、大丈夫ですよ。私、3日ぐらい食べなくても働けますので」

 「ばっかじゃないの!」


 耳元で怒鳴られて、モモはビクッと驚いた。


 「いいかい。人助けってのは自分の事を何とかしてからするもんだ。自分が満たされて、それで余裕があって初めて人を助けるんだよ。自分の事を大事にできなきゃ人の事も大事にできないさね」


 モモはうつむきながら頷いた。


 「それは……そうですけど、でも、……それでも、助けてあげたいんですよ。私より酷い生活をしている人はとても……多いから」

 「ああ……とんだお人好しだ。じゃあこうしよう。生活費と助けてあげるお金を区切ろう。おせっかいだとは思うけど今のままじゃモモちゃん長続きしないからさ」


 そんな事は知ってる。

 ……知っている。なんで生きているのかわからなかったからモモは自分の身を削るぐらい人助けに固執した。

 苛立ちのような感情が隆起してくるが、モモは長めに息を吐いて抑えた。

 アドバイスは聞くべきだ。今は……何もわからないわけじゃない。自分の欲求というか、そういう物の手がかりが得られている。四年前から止まったままの時間はそろそろ動いていいはずだ。

 モモはわかりました、とはっきりした声で言った。


 次の曲がり角に差し掛かったとき、遠くの方でこちらに向かって走ってくる修道女が見えた。

 アサド婆は「どうした?」と聞いた。


 「すみません……イスマイール司教。浴場ののれんを洗っていたらカラスに盗まれてしまって」

 「ありゃ、カラスも流行には敏感さね」


 一人でゲタゲタ笑うアサド婆。モモと修道女は顔を見合わせた。


 「で、どこに行ったかわかるかい?」

 「いえ、……追いかけたんですけど見失って」


 しょんぼりする修道女の肩をアサド婆はぽんぽんと叩いた。


 「心配しなさんな。もうじきマギーが帰ってくる。それにヨハンだっているし、力天使の感覚にかかればすぐ見つかるだろうさ」


 言いながらアサド婆はモモをさも当たり前のように修道女にしがみつかせた。えっ、と彼女はアサド婆の顔を凝視する。


 「それじゃあ、あたしゃマギーを出迎えてくるよ。アンタはモモちゃんを浴場につれてってやって」

 「ちょ、ちょっとイスマイール司教!」


 修道女はアサド婆を追いかけようとして走りかけたがモモが転びそうになって慌てて支えた。


 「あっ、すみません!ちょっと急すぎたので動転してしまって」

 「いえ、仕方ないですよ。支えてくれてありがとうございます」


 修道女は苦笑いを浮かべた。


 「すみません…うちの司教は身勝手で」

 「そうですね。でも私にはああいう勝手さがちょうどいいですよ」

 「なら良かったです。イスマイール司教が迷惑をかけていないならそれで…」


 散々振り回されているのだろう。この修道女の苦笑いは堂に入っていた。

 

 「ええっと浴場に行くんでしたっけ。でしたらこの角を曲がるとすぐですよ」


 二人でえっちらおっちらと進んでいく。

 修道女の言った通りに曲がると浴場への入り口が見えた。2つ左右にある。そういえばさっきのれんを洗っていたとのことでどちらかが男湯か女湯かわからない。


 「左ですよ」

 「ありがとうございます」


 段差を手伝ってもらって乗り越え、脱衣場に入る。

 曇りガラスの向こうが浴場らしい。水の音が聞こえる。


 「わたしはここで待っていますので、何かお手伝いできる事があればお申し付けください」

 「わかりました」


 といったもののなんだか脱ぐのが気恥ずかしい。同性だから気にする必要はないのだが、モモは修道女に背を向けてワンピースを脱いだ。

 下着を取り払う前に大きなバスタオルを身体に巻き、そこから器用にパンティとブラを外す。


 脱いだ服をバスケットに入れようとしたとき、モモは棚に乱雑に服が突っ込まれているのが見えた。丈がとても大きく、女性用とは思えない。


 浴場の曇りガラスの向こうからびしゃびしゃと水が撒き散らされる音がする。





■■■■■




 アサド婆が礼拝の間、一般人のための設備のある広い空間まで来るとマギーが長椅子に座って作業をしていた。装備のメンテナンスを行っているらしい。二丁の銃が解体され、マギーが小さな部品に油を指している。


 「マギー。この後時間あるかい?」

 「………………あるわよ」


 集中しているのか返事が遅い。

 ぱちん、かちん、とパーツを組み立て、一丁を完成させる。


 「うちの者が浴場ののれんをカラスに取られちゃってさ。何とかしてマギーの感覚で探せないかな」


 頼むよ、とアサド婆。

 マギーは片手で銃身の半分を合わせながら、もう片方の手で赤と青の布を掲げた。


 「あ、それだ。マギー。どこで見つけたんだ?」

 「帰ってくる時に落ちてるのを見つけた」


 マギーは銃身と銃床を合体させ、どこかかけていないか様々な角度から観察する。


 「とにかく助かったよマギー。そういえばヨハンは?」

 「あいつ、昨日の戦闘で汗かいたのにそのまま寝て臭かったから風呂は入れって言っといた」


 なんとなく嫌な予感がした。


 「……ついさっきの話?」

 「そうよ。どうかした?」


 アサド婆は無言で来た道を引き返した。

 マギーはきょとん、とした顔でアサド婆の後ろ姿を見つめる。




■■■■■




 ガチャ…っと曇りガラスのドアがゆっくり開き、筋肉質な脚がぬっ、とカーペットを踏みしめる。

 程よく日焼けした小麦色に肌に水滴が付着し、光を反射して輝く。それは鍛え上げられた身体をよりいっそう美しく見せた。

 男は頭をタオルでわしゃわしゃちかき混ぜ、周りを見ずにぶらぶらと歩く。

 そして気づいた。

 呆然とこちらを見つめる女性二人に。


 「う、うおっ!?」


 ヨハンは慌ててタオルを腰に巻いた。少女は声に驚いてへたっ…と座り込む。


 「は…ひ…えっ…?」


 少女は、混乱の極地にあるのか、今にも爆発しそうなぐらい顔を赤らめて口をパクパクさせている。


 「あっ、ちょ…だ、大丈夫!だから!?」


 ヨハンは動転してわけの分からない言葉を発する。なぜかしゃがんで、立ち上がってを繰り返し、あたふた。

 そして野太い声を聞いて駆けつけてきたアサド婆が見たのは

はだけた少女に必死に手を伸す大男。


 「こ、このド変態!」


 直後、ヨハンはモップを顔面に叩きつけられ、腰のバスタオルを取り落とす痴態を披露した。




 


 

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