41.粛清と真の黒幕(ジュリアン視点)
ボルトス公爵家の別邸で行われた闇オークションの摘発は、瞬く間に国中を揺るがす大事件となった。
表向きには、王太子ジュリアンの主導のもと、騎士団の極秘調査が実を結んだという形で発表されている。
しかし、王太子自らが、ましてやオレーシアの聖母と名高いアイリスまでもが身分を偽り、危険な敵陣へ直接潜入していたという事実は、一部の者しか知らない極秘事項とされた。
事件から数日後。
王宮の執務室で、ジュリアンはジャックからの事後報告を受けていた。
「こちらが、今回の摘発による処分者のリストになります」
ジャックが机に置いた分厚い書類には、これまで国政を牛耳ってきた宰相派閥の貴族たちの名がズラリと並んでいた。
人身売買の現行犯という罪に加え、彼らを追い詰める決定打となったのは、以前アイリスが令嬢たちから引き出した不正疑惑の数々だった。
一部の貴族による隣国ゴルド商会との癒着や密輸、またある者は不作を偽った脱税と横領など。
アイリスの持ち帰った情報を基にジュリアンとジャックが裏付け調査を進めた結果、それらの疑惑はすべて事実であることがすでに判明していた。
「それにしても今回の事件は、思っていたよりもずっと奥が深かったな。……まさかゴルド商会が、うちの貴族たちとここまで深く繋がっていたとは」
ギルベリア国のゴルド商会は、珍しい宝石や高級品、さらには違法な薬や武器などの禁制品を裏ルートで持ち込み、宰相派の貴族たちへ賄賂としてばら撒いていた。
対する貴族たちは、その見返りとして自国から様々なものを横流ししていたのだ。
不作を偽って領民から搾取した莫大な資金や、国の重要な機密情報などである。
他国の組織と深く結託し、自国を食い物にするこれら一連の悪行は、到底許されるものではない。
今回のオークション摘発を機に数々の余罪も一挙に暴かれ、長年にわたり国の利益を不当に貪っていた全容が白日の下に晒された。
宰相をはじめとする関係者たちは、重罪人として厳 正に処罰されることとなったのだ。
同時に、西地区の違法賭博場をはじめとする関連施設もすべて制圧されたことで、王都を蝕んでいた闇の流れはひとまず断ち切られることとなった。
ボルトス公爵家は即刻取り潰しとなり、当主であるデイモンをはじめとした血縁の者たちは極刑がほぼ確定。
それ以外の貴族は、関与の度合いに応じて全財産没収や爵位剥奪。
直接的な罪は免れた家であっても、当主の強制的な交代――親から何も知らされていなかった子供への領主替えや、莫大な罰金や領地縮小といった厳しい大粛清が下される予定だ。
「ご苦労だった、ジャック」
ジュリアンが安堵の息を吐くと、ジャックは眼鏡をスッと押し上げ、僅かに表情を険しくした。
「ええ。ですが、一つだけ、厄介な事実が判明しました。厳しい尋問の末、デイモン・ボルトスが『計画の首謀者は自分ではない』と叫んだのです」
「この期に及んでまだそんな戯言をのたまってるのか。で、デイモンが言うには、その首謀者は誰だって?」
「賭博場やオークションなど、すべての計画を立てたのは娘のロゼッタだと。彼自身は、娘の用意した甘い汁を啜っていただけにすぎない……そう言っているそうです」
報告を聞き、ジュリアンは眉間に深く皺を寄せる。
ボルトス公爵家の一人娘であり、いずれはあの家を継ぐとされていたロゼッタ・ボルトス。
王太子という立場で何度か言葉を交わした際にも、本心の読めない食えない令嬢だという印象は抱いていた。
だが、アイリスの護衛という立場で彼女に何度か接し、そして何よりあの夜、騎士団に拘束されながらも、一族の破滅を極上の娯楽のように笑い飛ばしていた異常な姿を見て、認識を改めざるを得なかった。
食えないなどという生易しいものではない。
ジュリアンは彼女をあまりにも甘く見ていたらしい。
そういえば、昔のデイモンはもっと鋭く狡猾な男だったと、陛下たちが言っていたことを思い出す。
あれでも年を食って少しは丸くなったのかと思っていたが……。
おそらくデイモンの本来持っていた狡猾さや悪辣さは、すべてあの娘に色濃く引き継がれ、そして進化していたのだろう。
その力は父親以上だ。
デイモンなど、恐ろしい怪物の顔を隠した娘の掌の上で、いいように転がされていた哀れな道化に過ぎない。
「で、当のロゼッタは取り調べで何と言っている」
ジュリアンが尋ねると、ジャックは静かに首を横に振った。
「現在、完全に黙秘を貫いています。ただ一つ『アイリス様が直接尋問に来るなら、全てを話してあげてもいい』と、そう要求しているそうです」
「それは無理な相談だ」
ジュリアンは冷ややかな声で即座に却下した。
あの日から、アイリスは極度の緊張の糸が切れた反動で完全に限界を超えてしまい、現在は自室のベッドで寝込んでいる。
慣れない悪女のふりをして頑張ってくれた彼女を、これ以上あの怪物のような令嬢と対面させて、心身に負担をかけるわけにはいかない。
「代わりに、俺が話を聞いてくる」
「しかし、喋りますかね」
「絶対に吐かせる。どんな手を使ってもな」
ジュリアンは立ち上がり、真意を確かめるため、直接ロゼッタが捕らえられている地下牢へと足を運んだ。




