第9話 異種格闘の舞い(第1部・全16話)
半獣半人である。
いや、違う。
半魔半人である。
俺のピンチを助けに入ったのはエリ先輩であった。
だが、様相は違った。
と言うより、あの時と同じであった。
エリ先輩の姿は警察病院の通路で見た時と同じ姿をしている。
それを再確認できたのは、良いのか悪いのか。
俺と泉さんのピンチを救いに入った半魔半人のエリ先輩が、妖艶な魔少女・刹那とがっぷり四つで両手を掴み合い、双方押し引き回しを繰り返す。
左半身はいつものエリ先輩の姿。
双方身体を返すとエリ先輩の右半身は黒光りする鋼鉄の皮膚を持つ魔人の姿。
そうか、そう言う事か。
わかってる。
わかってはいたが、エリ先輩は自分のこの姿を見て欲しくなかったんだろう。
俺に。
だから俺を無視していたのであろう。
なぜそう思えたのか?
それは半魔半人となったエリ先輩が妖艶な魔少女・刹那に言い放った言葉で理解できた。
「彼に、如月クンに手を出さないで!」
嬉しいような、恥ずかしいような。
でも、自分から見たら仕事上の上司であり、自分の年齢から見たら十分オバサンなんですけど。
そんな失礼なことを言っている場合ではない。
その言葉を聞いた妖艶な魔少女・刹那は両手をがっぷり四つで組みながら俺の方をチラ見する。
「ほう、こいつがお前のしもべか。変わった趣味だな。面白い。」
え?
今なんておっしゃいました?
あなたは十分普通でない、変わった存在だ。
見た目は普通の小六中一くらいの女の子だが、その存在は『化け物』だろ。
俺は化け物に好かれる傾向があるのか?
確かに昔からそうだったが。
ぼーっとしている場合ではない。
今、自分の目の前で半魔半人となったエリ先輩が戦っている。
がっぷり四つとなったエリ先輩と妖艶な魔少女・刹那。
見た目年上、年増のエリ先輩の方が大人の体格をしているので一見有利に見えるが実態はそうではなかった。
「あっ!」
小柄で低身長の妖艶な魔少女・刹那は身軽に素早く反応し、組んだ手を離し攻撃を加える。
腹に、顎に物理攻撃の直撃を与え、ひるんだエリ先輩に向けてか細い指、小さな手を掲げ非接触・非物理攻撃を加える妖艶な魔少女・刹那。
「ぐっ!」
痛みと衝撃の声をかき消す勢いでエリ先輩は、壁や柱を巻き込みながらはるか数メートル先へと吹き飛ばされていく。
「先輩!」
残骸に埋もれるエリ先輩。
生きているようだが、その反応は鈍い。
俺は思わず『敵』である妖艶な魔少女・刹那を鋭い目で睨みつける。
自身が吹き飛ばしたエリ先輩を見るのをやめて、その視線を俺に向ける妖艶な魔少女・刹那。
本当か?
本当なのか?
こんなに小さく華奢な女の子がこんな事をできるのか?
だがそれは事実であった。
自分は今、その光景を、この目でしかと確認した。
俺を妖しい目と誘惑的な口がとても魅力的である。
ちょっと吸い込まれるような雰囲気に思わず囚われていた。
妖艶な魔少女・刹那が俺のことをじっと見つめて、舌を舐め回している。
なんか、嫌な気分と期待してしまう気分が混在している。
妖艶な魔少女・刹那は全裸のように見える。
いくら付近の空気を揺らがせ、白く発光してはいるが、魅力的なその姿は目に毒である。
そして、その妖艶な少女は、俺にまとわりつくような口調で話しかけてくる。
「次の相手は、お前か?」
自分も参戦しなくては。
目のまででものすごい事を見せられたが、ビビってる場合じゃない。
野獣が次の獲物をじっと目視している。
次の獲物は『俺』なのだ。
自分の両手に持つ『呪いの拳銃』を見る。
思わず二丁拳銃の呪いの拳銃を構えて妖艶な魔少女・刹那に向けて引き金を引く。
二度三度。
だが全く反応がない。
驚いて両手に持つ呪いの拳銃に視線を送る。
だが『二人』の『呪いの拳銃』はとんでもない事を『言う』。
「もー怨念の銃弾ないよ~。」
「あんた滅茶苦茶打つから残弾ないわよ。」
まじかよ!
よりによってこんな時に武器が使えない。
自分の拳で戦うか?
だが自分の拳であんな化け物、邪悪で悪鬼で妖艶な魔少女・刹那に対抗できるのか?
その時予想外の助けが入った。
「おどりゃー、この化け物がー!」
ものすごい形相で、まるでそれは『化け物』のような援軍が入った。
エリ先輩の母親である。
綺麗な和服を取り乱し、袖や裾の隙間から白く綺麗な素肌がチラチラと見え隠れする。
意外と大きい白い肌の胸元がとても眩しい。
その二つの大きなたわわから溢れる母乳を飲んでエリ先輩はスクスクと育ったのかもしれない。
どんな感じだったのか、自分もちょっと味わいたいとは思った。
ちょっと不謹慎ではあるが、素直にそう思ってしまった。
こんな時ではあるが。
エリ先輩の母親の、か細く、かつ鍛えられたその白い肌はとても魅力的であった。
エリ先輩の母親だから、ぶっちゃけかなり年いってる年増のおばさんのはずだけど、結構色っぽい。
不謹慎だけど、チラチラと見え隠れするエリ先輩の母親の腕や胸や太ももに、
ちょっといろいろときめいて興奮している自分に気づく。
だがもう一つ、気づいた部分があった。
そう。
刺青である。
エリ先輩の母親は、身体の至る所に『耳なし芳一』よろしく、呪文の刺青を彫っている。
その刺青が、何やら『光って』みえた。
息を荒巻くエリ先輩の母親の身体に彫られた刺青が、それ自体独自の意思を持つ生き物のように、まるで呼吸をしているように、
まるで熱を発しているかのように、あたりの空間を歪ませている。
すっと差し出す二本の薙刀。
この人も『二刀流』である。
ビシッと構えたエリ先輩の母親、とてもかっこいい。
「これを、これを使って。」
自分の背後にいるボロボロの泉さんが俺にか細く語りかける。
「……この刀は滅破の剣。魔種敵種殲滅の特別の件よ。私の代わりに、これを使って…。」
泉さんが弱々しく手に持つ二本の刀を俺に差し出す。
泉さんの二刀流の刀、そう言う由緒あるモノだったのね。
身体の傷も癒えず戦った泉さんの息は乱れ、服は乱れ、素肌が露出している。
弱々しい吐息が俺の肌にかかって伝わる。
なんか美しい。
とても綺麗だ。
今にも抱きしめいたい衝動が走ったが、今はその時ではない。
「ありがとうございます。これ、借ります!」
エリ先輩の母親の二本の薙刀といい、ここの界隈、なんか二刀流が基本なのか?
泉さんから預かった二本の刀が突然しゃべりだす。
二刀流の二本の刀が饒舌に喋り出した。
「ぎゃー! 男よ男!」
「泉が男に貸すなんて初めてね。と言うより人に貸したの初めてかしら。」
俺は驚いた。
え? こいつらもしゃべるの?
刀なのに意識・人格があるの?
やっぱり。
呪いの拳銃が喋るんだから、何を今更感炸裂である。
二本の刀は喋り続ける。
「でも、まー、それだけ泉が信頼して許したって事かしらね。」
「まあそうね。泉が許した初めてのオトコ、かしらね。」
何言ってんだ、こいつら! この異形の刀め!
そう思いながら泉さんから預かった二本の刀、滅破の剣を手にして、鮮烈に参加した。
距離を取り睨み合うエリ先輩の母親の左側に駆け込んだ。
「自分も戦います。」
エリ先輩の母親は俺に目もくれず、じっと妖艶な魔少女・刹那と間合いをとっている。
すぐ近くの隣に立つだけで、エリ先輩の母親の身体全身から湧き出ている威圧感が流れ込んでくる。
その圧力と匂いは、なぜか心地よく、懐かしいものを感じる。
エリ先輩の母親から発するオーラの波が、俺の身体を飲み込み、体内に入り込んでくるような感覚を覚えた。
「無理しなくていいのに。」
エリ先輩の母親が目の前の妖艶な魔少女・刹那を見つめてそう話す。
「いえいえ、俺、エリ先輩の部下ですから。」
俺も自分自身のはるか背後で倒れているエリ先輩を見ることもなく、目の前の妖艶な魔少女・刹那を見つめる。
二人の目の前に強力な存在感のオーラを放って立つ、邪悪で悪鬼で妖艶な魔少女・刹那。
刀が震えている。
刀が怯えている。
泉さんから渡された二本の滅破の剣が、妖艶な魔少女・刹那を恐れている。
そうなのか?
自分の目の前に立つ、この少女が本当に怖い存在なのか?
信じ難くも小娘同然の、妖艶な魔少女・刹那の冷めた鋭い視線が、
エリ先輩の母親を、そして俺の事を突き刺す。
妖艶な魔少女・刹那はしばし俺を見定めて、その視線をエリ先輩の母親に戻して、口を開く。
「この新人のオスは、お前らのところに来た新しいしもべか何かなの?」
そう言って面白いものを見るように、新しいおもちゃに期待するかのように、
妖艶な魔少女・刹那が首を傾げ、俺を見て笑みを浮かべる。
何を言っている?
妖艶な魔少女・刹那は、俺たちに何の事を話しているんだ?
て言うか『オス』ってなんだよ、失礼な!
しかも『新しいしもべ』って何の事だ?
妖艶な魔少女・刹那の身長は百四十センチぐらいの小さい身体。
顎を引き、精一杯『見下ろす感』を作り出すもなく、ふっと笑みを浮かべ、首を傾げ、
その邪悪な存在感で俺たちを凌駕する。
「彼は別にしもべなんかじゃない。私たちの仲間だ。なんだ、お前? 気になるのか?」
エリ先輩の母親のその返しに、どちらとも言えない、小馬鹿にしたような表情を浮かべる妖艶な魔少女・刹那。
「ふうん。新しいオモチャとしては最適解かな?。」
何だ?
何言ってんだ、こいつ?
何だか自分のことを馬鹿にされた気持ちでいっぱいになる。
だが、妖艶な魔少女・刹那が次に言った言葉が理解不能で頭が混乱し始める。
刹那の妖艶な目が、俺の身体を見定めるように細部までをサーチしているのがわかる。
「ふっ。面白い。奪ってやる。」
何言ってる?
何言ってるんだ?
小六か中一ぐらいで、第二次性徴期付近の妖艶な魔少女・刹那が言っていることがわからない。
その言葉に反応し、エリ先輩の母親がするどく言い返す。
「だめだよ、如月クンは私たちの仲間よ。奪えるものなら奪ってみな!」
奪えるものなら奪ってみな。
もちろん定番の言葉である。
だけど何でそんなこと言うの?
俺の意見は?
俺の意思は関係ないの?
それを追い討ちをかけるように妖艶な魔少女・刹那が俺に言葉を返してくる。
「如月と言うのだな、そのオスの名は。」
おいおいおい。なんなんだよ? みんなして!
俺の意見も聞かずに話を進めるな!
理解不能で混乱する俺を無視して物事が進んでいく。
高圧的で恍惚的で不気味で魅力的な表情を浮かべた妖艶な魔少女・刹那が俺に話しかける。
「私の楽園に参加しろ。如月。待ってるぞ。」
そう言って刹那は『消えて』いった。
ボロボロで瀕死の重傷を追った二匹の魔犬もそれに合わせて虚空に消えていった。




