第14話 百鬼夜行の乱舞(第1部・全16話)
閃光が走る。
妖艶な魔少女・刹那の身体全身から放たれた無数の触手を、エリ先輩の母親が二本の薙刀で素早く切り刻む。
だが、彼女の持つ薙刀の刃がすでにボロボロだ。
「もう使えんか。」
その様子を見た妖艶な魔少女・刹那が顎を突き出し、見下ろし風の表情を浮かべる。
「どこに隠した?」
エリ先輩の母親は白い服の隙間からチラチラを見え隠れする刺青を光らせる。
「なにをだ? 化け物。」
事実上全裸の妖艶な魔少女・刹那が白と黒の二色の光を身体全身から放ち、次なる攻撃の触手を刹那の身体の穴から無数に発生させる。
逆光状態にシルエットが光るウヨウヨと無数に狙いを定めて浮かぶ妖艶な魔少女・刹那の触手。
「私の下僕と眷属をどこに隠した?」
「下僕と眷属?」
そう言いながら、視線を外すことなく妖艶な魔少女・刹那を見つめるエリ先輩の母親。
ボロボロになった二本の薙刀を捨てて両手をカッと開き、十本の指を鋭いナイフ状に変化させる。
それを見て、ゾワゾワとショートボブの髪の毛を逆立ちさせる妖艶な魔少女・刹那。
「そうだ。新しく見つけた私の下僕。早くよこせ。」
身長は低いのにも関わらず、圧倒的圧力の妖艶な魔少女・刹那。
ピンク色の小さな唇から、きれいな色の舌で舐めずり回す。
美味しいものを、これから食べるように。
「そんなもの、知らんわ!」
エリ先輩の母親は両手のナイフ状の爪で妖艶な魔少女・刹那に襲いかかる。
発砲音と剣戟音が響く。
別の場所では泉と二匹の魔犬が戦っている。
他のメンバーは神社内に溢れる魑魅魍魎の群れに苦戦中である。
黒い魔犬が口が十字に裂け広がり、鋭く伸びた牙が泉を襲う。
「どりゃああーっ!」
泉が放った呪いの拳銃から発射された怨念の銃弾が叫びながら空を切る。
だが黒い魔犬は自身の身体に降り注ぐ怨念の銃弾を物ともしない。
少し怯んだ黒い魔犬の足元にポロポロと落ちる残念な怨念の銃弾。
「っきしょー!」
「全然効かねー!」
「ぐやしー!」
足元でワラワラと苦情を叫ぶ呪いの銃弾を、大きなその足で粉々に粉砕する黒い魔犬。
「恨みはらさでおくべきかー。」
「次こそはー。」
そう言って成仏していく銃弾に込められた魂たち。
次の瞬間、白い魔犬が泉に飛びかかる。
泉は右手に呪いの銃、左手に滅破の剣を駆使して必死に対応する。
呪いの銃から怨念の弾丸を打ち放し、怯んで隙ができた白い魔剣に滅波の剣を打ち込んでいく。
ガンカタのようなダブル攻撃で一瞬後退した白い魔犬に一撃を加えようとした時、すぐさま黒い魔犬が泉の背後を襲う。
「あ!」
後ろを取られた泉に、背後からものすごいスピードで襲いかかってくる黒い魔犬。
「しまった!」
黒い魔犬に気を取られた泉。
前から白い魔犬の牙、後ろから黒い魔犬の牙が襲いかかる。
だが、助けは間に合った。
* * * * * * * *
「お待たせ!」
課長が聖水弾丸入りの破魔銃剣を器用に連発し、泉に迫る左右の黒い二匹にダメージを与える。
課長のすぐ横の猫又のミケが身体全身の毛を逆立ててメンチを切る。
「こいつは私に任せるニャ!」
二本の尻尾を振り上げて、二匹の黒い魔犬を威嚇する猫又のミケ。
「俺は?」
遅れて入ってきた俺に課長とエリ先輩の母親がほぼ同じ事を口にする。
「被害者を! 被害者を守って! 早く行って!」
まあ確かに。
俺はあまり戦闘能力に長けていない。
どちらかというと、防御に長けている。
責められてもなんともない対応能力がある。
持久力があるというのか、対応能力があるというのか、身体全身を責められても問題ない。
どちらかというと、快感でもある。
俺はマゾか?
ちょっと人には言えない。
そんな自分だけど、あまり責められるのも好きではない。
たまにはこちらからも責めてみたいもんだ。
「わかりました!」
その場からひた走りに神社の奥へと走る俺。
俺の視線に気になる人影が飛び込んで来る。
刹那だ。
百合だ。
俺は敵種である妖艶な魔少女・刹那=百合のことが妙に気になっていた。
会いたいな。
またその姿を一目見たいな。
そう思っていた。
その願いが今叶ったが、自分で何を言ってるのか分からなかった。
刹那は敵だ。
百合は邪悪な敵種だ。
とにかく今は、被害者のハルミ・キョウコを助けなきゃ。
敵に狙われている、エリ先輩のことも気になる。
元気になったのかな?
もう会話できるのかな?
早くエリ先輩に謝って仲直りしたい。
そう思ってその場を離れる俺は、最後に一瞬だけ刹那=百合の事を目視した。
微笑んでいる。
俺を見つめて微笑んでいる。
まるで誘っているかのように。
恐怖の予感と何か別の期待感が俺の全身を走ったが、今はこの場を立ち去る他なかった。
* * * * * * * *
走り去っていく如月の姿を見て、官能と恍惚の、待ちきれない期待の表情を上げる敵種の妖艶な魔少女・刹那=百合。
ピンク色の舌を舐めずり回しながら小さく口を開く。
「見つけた。私の下僕。そこにいたのね。」
食い入るように呆然と走り去る如月の姿を見つめていた刹那の顔の近くを、課長が放った破魔銃剣の聖水入り弾丸がかすめる。
つい気を抜いていた刹那が、鋭い目でその犯人を睨みつける。
破魔銃剣を構える課長と、両手を鋭角状の爪に貶下させたエリ先輩の母親が刹那の前で対峙している。
「おい、化け物。何脇見してんのよ。」
「てめえの相手はこっちだよ!」
先ほどまで優しくも柔らかい表情を浮かべていた刹那=百合の表情が怒りの形相へと変わる。
「うるさいな。私の邪魔をすんなよ。」
そう言ってほぼ全裸の光り輝く全身から針のような鋭角状の蛇触手を無数に放つ。
襲いかかる蛇触手。
それはちょっとミミズにも似ている。
無数のそれらを鋭角状のナイフのように伸びた十本の爪で撃破するエリ先輩の母親。
「一緒に戦うの彼岸大戦以来ね。」
同じくそれらを破魔銃剣の聖水弾丸で無効化する課長。
「結界事変ね。あの時の借り、かならず返してやる。」
霊視ゴーグルを投げ捨てる課長。
戦闘を続けた結果、はだけた衣服から、ギザギザの傷が見え隠れする。
そう言って刹那=百合を睨む課長。
一瞬首を傾げて不思議そうな表情を浮かべる刹那=百合。
疑問を持って不思議がる刹那=百合の表情はコケティッシュでどこかかわいい表情を浮かべる。
「なんの事? 何言ってんの? ていうか、あんたたち誰?」
ただ単にとぼけているだけか、それとも根本的に覚えていないのか、刹那=百合は小馬鹿にした薄笑いを浮かべる。
「ちっぽけのことなんか、私憶えてないし。」
白く輝く刹那=百合の全身。
まるでそれは後光を刺すかのように燦然と輝く。
まるで刹那=百合自身が『我こそが正義である』と宣誓しているかの如く。
二匹の魔犬と泉・猫又のミケが対峙する。
銃と剣を構え、視線をそらさず泉が猫又のミケに語りかける。
「どっちをやる?」
巨大化した二本の尻尾で威嚇しながら猫又のミケが答える。
「わたしゃ白い魔犬をやるにニャ。」
「じゃあ、私は黒い魔犬ね。」
次の瞬間、黒い魔犬が猫又のミケに襲いかかる。
泉、思わず反応して呪いの銃弾を黒い魔犬に発射する。
「うりゃー!」
呪いの銃弾が黒い魔犬にヒットする。
思わずその場に伏せる黒い魔犬。
その隙をついて、反対方向から泉に襲いかかる白い魔犬。
泉、急遽振り返るが間に合いそうにない。
「うにゃ!」
反対方向にいた猫又のミケが二本の巨大な尻尾から針のような毛を無数に発し、泉を襲う白い魔犬の攻撃を無効化する。
唸りながら地面に伏せる白い魔犬。
一瞬、戦いの場が静寂に包まれる。
泉が再度武器を構え直して猫又のミケに告げる。
「ありがと。」
猫又のミケも気を引き締めて泉に告げる。
「おたがいさまニャ。」
二人の会話が続く。
「て言うか、あなたしゃべれるのね。」
猫又のミケが喉をゴロゴロさせて、
「今頃気がつくニャ。遅いし。」
「いや、ここでは普通というか、異常が普通というか。」
「ニャンだそりゃ?」
* * * * * * * *
走る。
ひた走る。
詳しくは知らないこの神社の道をひた走る。
被害者のハルミ・キョウコがいるであろう病室へと。
エリ先輩はどこだろう?
このあいだは大広間にいた。
できればハルミ・キョウコと同じ病室にいてくれれば嬉しいのだが。
早く。
早くその場所へ。
なぜだか足がおぼつかない。
まるで夢の中を走っているかのように、足が重くて前へ進みにくい。
警察病院で体験した結界の圧なのか?
だがそれとも違う感覚だ。
俺は思わず自分の足元を見る。
それもそのはず、まるで地獄の亡者たちが俺の足を掴んでいる。
上下左右から、魑魅魍魎の『腕』が数えきれないほど俺の身体にまとわりついている。
だが不思議だ。
魑魅魍魎がまとわりついているはずなのに、俺の身体に触ることができていない。
俺の身は安全だ。
なぜだ?
そう言えば、前もそうだったのか?
そう言えばこの服を着てから、魑魅魍魎や怪異に接触された記憶がない。
走りながらもよく見ると、俺の着ている服を掴もうとしてもバリア的なものがあるのか、
魑魅魍魎の先端が溶けるように朽ち果てていく。
そうか!
この服だ!
エリ先輩の『おじさん』?の服のおかげ?
エリ先輩の『お父さん』?の服のおかげ?
とにかく今はわからない。
とにかく今は、被害者ハルミ・キョウコのいる病室へ、
エリ先輩がいるかも知れない病室へ、ひた走っていくしかない。
目的地が視界に入る。
病室だ。
とにかく早く中に入ろう!
ハルミ・キョウコの事も気になる。
だが俺が一番、自分が今一番気になっているのはエリ先輩の状況だ。
エリ先輩は、どうしてるのかな?
エリ先輩は、目を覚ましているのだろうか?
エリ先輩に、俺は謝っていない。
エリ先輩と、早く仲直りした。
俺は猛スピードで病室に入った。
結構そこそこ広い病室。
ベッドはそれぞれカーテンで隠されている。
どっちだ?
右方向か?
左方向か?
まるで『金の斧、銀の斧』の選択のよう。
俺は本能に従った。
俺は自分の気持ちに素直になった。
本来の業務を後回しにして、自分の気持ちに従った。
あった!
見つけた!
ベッドが隠されたカーテンに『祭主エリ』と書かれた病状メモが吊るされていた。
いた!
ここだ!
俺の心臓がバクバクした。
やっとエリ先輩の元へ辿り着いた。
やっとエリ先輩に謝る事ができる。
エリ先輩は今どんな状況なんだろう?
『変化』が解けていなければ半魔半人のはずだ。
もし先輩が起きていて、変化が解けていなかったら、俺はこの前へ進めない。
俺はカーテンの先を開けるわけにはいかない。
だが返事はなかった。
このカーテンの向こうに、エリ先輩は寝ているはずだ。
だが返事はなかった。
気になる。
このカーテンの向こうが気になる。
俺は自分が我慢できなくなって、カーテンに手をかけようとしていた。
俺は、たとえエリ先輩にまた怒られても構わない、とにかくサキュバス先輩の様子を知りたかった。
俺は意を決して、カーテンに手をかける。
念には念を押して、慎重そうにエリ先輩に声をかける。
「先輩、開けますよ?」
その時、悲鳴が走った。
それはエリ先輩の悲鳴ではなく、同じ病室内で寝ているハルミ・キョウコの悲鳴であった。




