第13話 地獄のフリーウエイ(第1部・全16話)
ズゴーン! ドンガラガッシャーン!
俺の運転する車は、課長の秘宝館もどきの洋館の金属製扉をぶっ飛ばし、神社へと夜道を突っ走った。
「すみません! ドア、壊っしゃいました!」
「いいわよ、そのくらい。ガタついてたから、ちょうど変えようと思ってたのよ。」
ウソだろ、それ?
いやマジか?
マジかもな?
俺がそう思って『冗談でしょ?』と口にするまもなく後部座席の課長が問いてくる。
「バケモン、異形、来ているの?」
俺が運転する揺れる車の中で猫又のミケが口を噛みそうに答える。
「来てるにゃ。」
課長が猫又のミケが指差す方向を肉眼で見ている。
猫又のミケの肉球がかわいい。
いない。
何もいない。
何も見えない。
走馬灯のように走り抜ける背後の道路しか見えない。
ただちょっと、空気が揺らいでいるようだ。
課長が俺に問う。
「如月クンには見えるの?」
えー、俺今、車運転してんですけど。
しかも猛スピードで。
脇見運転したらお巡りに切符切られちゃうじゃん。
なんて事はない。
俺は刑事だ。
今緊急事態だ。
運転しながらバックミラーで自車の背後をチラ見する。
げげーっ!
いるわ!
おるわ!
バケモンが!
「います! 異形が、猛スピードで追いかけてきます。」
その言葉を聞いて、今通ってきた夜道を凝視する課長。
「見えん。何も見えないわ。」
その横で猫のミケが不満そうに指示する。
「霊観ゴーグルつけるにゃ。」
えー、やだなー。
これつけなきゃいけないのか。
気持ち悪いの、見たくないんだけどなー。
そう思いながら、課長は口をへの字に曲げて、頭に霊観ゴーグルをセットする。
課長の全身の毛が逆立つ感覚に襲われ発狂する。
「いやあああーっ! 見える、見えるわ! バケモンが!」
カマキリイカゲソ女が追いかけてくる。
不気味で不愉快な高笑いの声を上げて追いかけてくる。
まるで気が狂った女の高笑いのような。
そりゃそうだ。
まともじゃない。
狂ってる。
4本のカマキリ状の腕。
身体からニョキニョキと伸びている職種のようなイカゲソ状の腕。
それが無数にも。
なのに、頭が小さい。
まるで魚を真正面から見たような感じの小ささ。
ボウリングのピントップのようなか細い頭。
どちらかと言うと、ちょっと人魚にも似ている。
そう。
アレ。
通常のイメージと上下逆さまのあの人魚。
てか陸の上でも走れるんかい。
水の中じゃなくても生きてるんかい。
人間じゃねえ。
人じゃねえ。
まさにこれぞ、怪異・異形の人でなし。
おまけに身体の真ん中に、口?のような、あそこのような、縦割り口が下を伸ばして笑ってる。
ご丁寧にも『口』のまわりに淫毛のような毛が伸びてる。
「ぎゃあああーっ! キモい! 気持ち悪い!」
霊観ゴーグルをセットした事で化け物が見えるようになった課長が騒ぎ慄く。
「うっせーわ。早よ、これ使いーな。」
そう言って後部座席の課長の横に座る猫又のミケが武器を与える。
メカだったり奇妙な形の骨だったりが融合し接着され融合して合体した異形の武器を手渡す。
「見えるんだったら、聖水弾丸入りの破魔銃剣でぶっ殺してニャ。」
聖水弾丸入りの破魔銃剣。
なんだそれ?
課長は興奮しながら聖水弾丸入りの破魔銃剣のトリガーを引く。
重苦しい銃声音が響く。
発砲とともに叫び声が聞こえないと言う事は、怨念の銃弾とはまた違う物なのね。
ドギュ!
バシュ!
破魔銃剣の聖水入り弾丸を撃ち尽くす課長。
「弾を!」
課長のすぐ横で、もそもそと荷物から新しい聖水入り弾丸を渡す猫又のミケ。
「ほれ。新しい弾丸。」
課長はターゲットのカマキリイカゲソ女から視線を外すことなく、弾丸を受け取り装填して構える。
ナイスなコンビネーション。
二人、いや、一人と一匹は流れるリズムのように、発砲・手渡し・装填を繰り返す。
ほら、あれだ。
お互い見ることなく、延々と続けられる息の合った餅つきのように。
激しく揺れる車の中で、俺の耳元まで響いてくる発砲音とカマキリイカゲソ女の身体を引き裂く鈍い音。
その二重奏が運転席に座る俺の耳元まで聞こえてくる。
やだなー。
なんかやだなー。
その音を嫌がる自分の耳元に、信じがたい声が、叫びが聞こえてきた。
「百合様ー! いたわ! 見つけたわー!」
カマキリイカゲソ女の口が叫んでる。
身体の真ん中、縦割れのあそこのような口が叫んでる。
いや、嫌なビジュアル。
だけど。
え?
百合様?
百合?
って事は刹那?
あの妖艶な魔少女・刹那が、まさか俺を探してたって事?
え?
あー。
じゃあこのカマキリイカゲソ女は刹那の、百合の眷属って事?
俺はこんな化け物は好きではないが、
あの子の、百合の眷属って響きに、ちょっと期待した。
こんな状況になのに、刹那の、百合の眷属になる、と言う事にちょっと妄想し期待してしまった。
正直、素直に正直に言って、百合にまた会いたい。
なんて不謹慎なことを悶々と頭の中で想像する姿を張り巡らせていたら、俺のスマホが着信を告げた。
運転中にスマホを見る脇見運転。
そんなことしたらお巡りさんに違反切符切られる、なんて思ってる場合じゃない。
俺は刑事だ。以下省略。
運転しながらスマホを見る。
見ると、発信先がエリ先輩の名前が表示されている。
え?
エリ先輩が元気になった?
エリ先輩が元通りになった?
これで仲直りできる。
これで謝る事ができる。
そう思うと、ちょっとだけ心が躍る自分を感じていた。
「先輩! 先輩ですか?」
少し上擦った声で反応してしまった。
心配と喜びが交差する感情であったが、相手は冷静であった。
だがスマホから聞こえてきたのはエリ先輩ではなかった。
「私よ。娘じゃなくて残念ね。」
エリ先輩の母親であった。
冷静でクールなエリ先輩の母親であったが、少し焦っている雰囲気も伝わった。
なぜなら、エリ先輩の母親の声の背後で騒がしい音、叫ぶ声が響いて聞こえてくる。
「そっち、どう?」
俺はちょっと悲しくなったがそれどころではない。
「いや、襲われて、今そっちに向かっています。」
「そう。わかったわ。こっちに戻る時に気をつけてね。また、あいつがやって来てるわ。あなたたちは、」
そう言って通話が切れた。
あいつ。
あいつとは。
自分の気持ちの中に高ぶる感情と心配な感情が複雑に交差する。
だが今はそんなことを考えている場合ではない。
早く神社に戻らなくては。
早く迫り来るカマキリイカゲソ女を排除しなくは。
見事なコンビネーションで追ってくるカマキリイカゲソ女を聖水弾丸入りの破魔銃剣で打ちまくり距離を取る課長と猫又のミケ。
猫又のミケが聖水入り弾丸のカートリッジを取り出す。
「これがラスワンにゃ!」
「承知!」
課長は一拍置いてターゲットを絞り込む。
課長が放った最後のカートリッジであともう少しの距離で見事にカマキリイカゲソ女を粉砕する。
空中に飛び散ったカマキリイカゲソ女の破片は一瞬にして霧散する。
「やったにゃ!」
「ったりめーよ!」
課長と猫又のミケが手でハイタッチする。
もうすぐ。
もうすぐだ。
あとちょっとで神社に辿り着く。
だが世の中はそんなに甘くない。
現実はとても厳しい。
帰るべき神社には結果が張られ、魑魅魍魎たちの百鬼夜行が周りを取り囲んでいる。
神社の入り口には一際強い結界が貼られ、そこを剥がそうと猛者の怪異・異形が苦戦している。
え!
「入り口に、神社の入り口に化け物がいっぱい? どうしよう?」
呆然としてアクセルを緩めた俺の後ろから課長が叫ぶ。
「いいから! 早く突っ込んで!」
「でも!」
「でもじゃない! 結界は大丈夫! 通行証、あんた持ってるでしょ?」
通行証?
結界の?
なんだそれ?
見るとこの車のフロントガラスに『交通安全』と書かれた、帰るべき神社のお守りが貼ってある。
「え? これ?」
思わず俺は後ろを振り返りそうになった。
「そう! それだけじゃないし、あんたも、あんたが着てる服も、結界を通り抜けられるわ! さっきもそうだったでしょ!」
課長の言葉に耳を疑った。
自分と、
自分が着てる、この服?
この服は俺の服じゃない。
この服は先輩の『おじさん』?『お父さん』?の服のはずだ。
だが、考えて悩む時間もなく、俺が運転する車は神社入り口にたむろする怪異異形めがけ猛スピードで突っ込んだ。
「ただいま戻りましたー!」
その声を掻き消すようなものすごい衝突音にあたりは包まれた。




