第12話 秘宝館へようこそ(第1部・全16話)
何だよ何だよ何だよ。
騎士団て何だよ?
ラノベやアニメ見過ぎじゃね?
だがしかし、自分の身に起こった様々な現象を思うに、これだけ異形や怪異や異常現象を見れば、
『騎士団』の単語ぐらい出てきたところで実際驚く場面じゃないかもしれない。
不服だ。
俺は結構不服だった。
だがしかし今は、落ち着いて車を運転している。
来た時は課長が運転していたが、今は自分が運転している。
俺が運転している横に課長が座っている。
だが何よりも不服で不満なのが、課長に相変わらず抱かれている猫が怪訝そうに、まるで品定めしているかのように、
じっと俺のことを見つめていることだ。
気になる。
気が散る。
なんだこの猫?
別に自分は犬猫は嫌いではなかった。
どちらかと言うと好きな方であった。
普通犬猫は人間の気持ちを癒すと言う。
だけどこの猫はとても癒される気分にはならない。
なんか威圧的に見つめてくる猫の目。
こいつは、この猫だけはなんか気が許せない。
気が散るので別のことを考えることにした。
そう。
そうだ。
整理しよう。
いろいろな事が起きすぎている。
ここで整理しよう。
* * * * * * * *
・俺は刑事だ。
ついこの間、刑事になったばかりの新人の如月だ。
俺が所属する課は、通称『怪異課』または『異形課』と呼ばれる。
俺は子供の頃から『魑魅魍魎』のような『怪異』を認識できる。
ここでは『怪異』たちの事を『敵種』と呼ぶ。
・俺の上司の祭主エリ先輩。
エリ先輩は今、神社で病床に付している。
注射器?を打つ事で『半魔半人』に『変身』できるようだ。
その『正体』はわからない。
そんな半魔半人となったエリ先輩が妖艶な魔少女・刹那に言い放った言葉。
「彼に、如月クンに手を出さないで!」
病床に付したエリ先輩がつぶやいた言葉。
「如月クン、如月クン……。」
俺はその言葉が非常に気になった。
まだエリ先輩とは仲直りしていない。
まだまともに会話できる関係に戻っていない。
俺はそう感じていた。
だが、事態はそれを許さなかった。
エリ先輩の状況が気になってすぐ近くにいたかったが、それができる状況ではなかった。
・今俺が運転している横の助手席に座っているのが、俺とエリ先輩の上司である課長。
何とこの課は、以上三名しか所属していない。
俺の所属する課は、世間で起きる怪異の異常現象専門の特別一風変わった課なのだ。
にも関わらず、課長は異形や怪異といった異常現象は『見えない』らしい。
なんだよ、それ?
それに相変わらず課長の腕に抱かれた猫が俺のことをじっと見ている。
・電車の中で黒いモヤモヤに襲われた末に、警察病院を経由して最終的に神社で囲われているのは、
被害者のハルミ・キョウコ。
これが、また難癖なツンデレっぽい。
人格破綻してそうな面倒な被害者だ。
だけどびっくりするような特殊能力を持っている。
『火炎属性』とも呼ばれる特殊能力である。
・そしてその被害者のハルミ・キョウコを『看護?』していたのが泉さん。
自分好みのショートボブで気が強そうな女性だけど、よくよく考えてみたらうちの課の一員ではない。
華奢で小柄な身体の割に身体能力が高い。
戦闘時には素早い判断をしている。
いったい泉さんはどこの部署から来たんだ?
たぶん、陸上自衛官であろう。きっと。
普通に当たり前のように接していたけど非常に不思議である。
・エリ先輩の実家である神社にいたのは、当然の如く、エリ先輩の母親。
なんと華奢な身体全身に『耳なし芳一』よろしく『呪文の刺青』が彫り込まれている。
和服姿がよく似合うその姿を見て、一瞬俺は『ヤクザの女組長』かと思ってしまった。
俺とエリ先輩の母親との共闘は、意外にもうまくいっている気がしていた。
・あと、神社を襲撃してきた謎の女の子。
見た目年令は、小六~中一ぐらいの謎の女の子。
妖艶な魔少女・刹那とは一体何者なんだ?
そう言えば自分の名前を『百合』と呼んでいた。
こっちの名前の方がいい。
かわいく感じる。
だけどなんか俺、その子にスカウトされったっぽい。
いや、何と言うか。
身長は145~150cmくらいの高さ。
特に自分と並んだわけではないが、その子の頭がちょうど自分の胸付近にくる感じだ。
明らかに小六~中一ぐらいの姿の女の子なのに、その存在感は異常であった。
いろいろな修羅の道を歩んできたような、悟りの境地に達し物事を一歩引いたような雰囲気を醸し出すその姿。
まさに強敵と言える風貌なのだが、見た目はまだまだ子供。
その落差が何とも言えない感覚に囚われた。
何となく、部下や配下になってもいいかな?と思う自分がいるのに気がつき自戒してみる。
・その妖艶な魔少女・刹那が引き連れていた二匹の魔犬。
あれは普通の犬なんかじゃない。
まさに魔犬、まさに獣。
絶対『変なやつら』だ。
妖艶な魔少女・刹那=百合の事は嫌な感じはしないが、この二匹の魔犬はなんか威圧的でイヤだなあ。
その他の神社防衛の際に、一緒に大勢で戦った『異教徒』の方々。
あそこは神社のはずなのに、仏教系や教会系の人々もいた。
なぜ?
なんで?
どして?
それに『宗教有志連合騎士団』って何?
モーターヘッドと言う名の、まさに宇宙人エイリアンサイボーグみたいな様相の人もいたし、わけわからん。
* * * * * * * *
一体何がどうなっているのか、心の整理ができないまま、俺は課長に案内されるまま無事に目的地署へ辿り着いていた。
そこは課長の家だった。
それはまるで、外見は普通の洋館風の一軒家であった。
結構広めの敷地。
結構お金持ち風。
課長って、セレブだったの?
だったら刑事の仕事しなくてもいいんじゃない。
彼女は異形怪異は『見えない・聞こえない・感じない』って言ってたし。
おしゃれな洋風の一軒家に入って驚いた。
ここは秘宝館かなんかか?
ガラクタ屋敷なのか?
家の中には有機物と無機物のオブジェみたいな物が雑然と置かれている。
ゴミ屋敷かいっ!
足の踏み場もあるようなないような。
課長の後を怪訝そうに歩く俺。
だが驚く事はこれ以外ではない。
猫がしゃべったのである。
課長の両腕に抱かれている猫がしゃべったのだ。
「お腹すいた。」
え?
今なんて?
目をまんまるにして驚いている俺をよそに、課長と猫の会話が続く。
「お腹すいたんですけど。」
「あ、待ってね。今用意するから。」
そこはまるで実験室。
実験室のような課長の一室。
トボトボと吸い込まれるように自分もその部屋についていく。
だって、課長の変異な秘宝館もどきの家を探索する勇気はない。
そこはメカやら異形の有機物が理路整然と?並べられ配置されていた。
それは錬金術のようであり、黒魔術や占星術のようでもあった。
うーん。
これ、どこかで見たことあるビジュアルだ。
そうだ。
これはあれだ。
あそこだ。
警察病院の一室。
泉さんがいた緊急特別室に似ている。
てか同じ?
てかそれを真似にした? それともこっちがオリジナル?
自分がますます混乱していくのがわかる。
目の前で起きていることを整理がつかずにいると、課長はガラス戸にしまわれていた、
これまた妖気な容器をとりだした。
妖気な容器。
いや、シャレぶっこいてる余裕はない。
コルク状の栓を勢いよくポンッと抜くと無造作に猫の目の前に与える。
二本立ちした猫が前足の両手で器用に受け取る。
見ると妖気な容器の中に、それこそ人魂のような光るゆらぎの塊がモゾモゾと蠢いている。
まるで人間のように二本立ちしている猫は口を開け、ぐびぐびとそれを飲み込んでいく。
「はあー、おいしかった。ちょっと疲れたよ、今日の現場。」
混乱している俺を無視するかのように二人の、いや、一人と一匹の会話が続く。
「そうね。私は普段、異形種を肉眼で目視する事はできないけど、今日ははっきり見えたわ。
あの刹那という妖怪。」
妖怪?
妖怪なんですか?
あの妖艶な魔少女・刹那は妖怪なんですか。
だけど本人は『百合』と呼べと言っていたけど、今それは関係ない。
整理がつかず混乱する俺の目の前でさらに混乱する事が展開された。
課長が突然服を脱ぎ始めた。
え?
俺ここにいるんですけど。
俺男なんですけど。
課長は自分の年上の上司でいくら上下関係があるからと言って、部下である男の前で服、脱がないでください。
てか、俺男。
俺、男として見られてはいない?
だが俺は今、見てはいけないものを見てしまっているのかもしれない。
ツギハギだ。
課長のその身体に、まるで手術で縫い合わされているかのような傷が無数走っている。
ブラックジャックに接合手術してもらったの?
それともフランケンシュタインの怪物?
ちょっと違うが、エリ先輩の母親の全身刺青に匹敵するインパクトだ。
課長が毎日そそくさと定時に帰り、職場でもそっけないのは身体全身に刻まれた傷を見せたくないからか?
まさかそんな事はあるまい。
課長が毎日定時に、この家に、この秘宝館で一体何をしていたのか?
混乱する俺を見て、課長が声をかけてくる。
「ああ、この傷?」
ま、そうだけど。
全身スレンダーの課長。
意外と大きな胸。
そして純白の白いブラ。
本来ならその純白のブラを見てちょっと興奮するべきなのだろうが、
至る所に垣間見えるツギハギ状の傷がその気を失せさせる。
「これはな、まあ、戦争の古傷だ。」
え?
戦争?
戦争の古傷?
この国で、国内で、近年、戦争とかありましたっけ?
みたいな顔を俺はしていたのかもしれない。
そりゃ、そうだろう。
淡々と課長が続ける。
「その昔、結界事変と言うか、彼岸大戦とよばれる事があった。知らんだろ?」
いや、知らんし。
結界事変?
彼岸大戦?
何それ、まったく知らんし。
「まあ、秘密の特殊作戦だ。公式には記録は残っていない。
警察と自衛隊、宗教界を巻き込んだ出来事があったんだ。」
そう言いながら課長は何やら服を着替え始めている。
「祭主の母親と共に一緒に戦った。今では懐かしい思い出に変わり始めている。」
え?
エリ先輩の母親と、あの全身刺青の女組長と一緒に戦った?
なんで?
どこで?
どうして?
そんな疑問よりも、全身ツギハギの課長と、エリ先輩の母親がなんか同じ雰囲気なのが妙に合点がいった。
「プファー、美味しかった。」
呆然と愕然とする俺の横で、人間の言葉を喋る猫が、妖気な容器の人魂?を食べて?満腹になっている。
「おい、お前。準備しなくていいの?」
人間の言葉を喋る猫が俺にそう話しかける。
結構上から目線で命令口調だ。
課長は俺の上司だけど、お前の部下ではない。
不服そうな俺の表情を見たか見ないか、課長が口をひらく。
「ミケ、彼はもう準備できてる。彼がきている服は『対応服』だ。」
え?
この服?
ま、たしかにエリ先輩の『おじさん』?『お父さん』?の服だけど、対応服って?
確かにこれまでの異常な出来事に、この服は対応できているけど。
まあ、パンツは、女物。
エリ先輩のパンツなんだが。
だから基本的に自分が守られていたのか。
結構圧あったけど。
それに自分の元能力もあったから、今こうして無事だったのか。
結構痛かったけど。
だからか。この生意気そうな猫がじっと俺を見ていたのか。
て言うか俺の『能力』? 見定めていたと言うわけね。
スレンダーで、ツギハギ傷だらけで、艶かしい半ヌードの課長が、身体にいっぱい装備している。
メカめかしい物もあれば、骨?みたいな有機物もある。
ちょっと変なチンドン屋みたいだ。
チンドン屋って何だ?
大昔にいたらしいが自分はそれを見た事ない。
「それはそうと、課長はさっきの現場で、敵襲があった神社で何してたんですか?」
俺はちょっと気になったので聞いてみる。
課長は長い髪をまとめている。
なんか特殊な特攻服を着終わった感じだ。
うなじに見え隠れする後毛がちょっとセクシーだ。
「データ集めてたの。私魑魅魍魎とか見えないし。」
俺は素朴な疑問を聞いて見た。
「見えないのに、何で、どうやってデータ集めてたんすか?」
「ミケよ。その子は敵種が見えるし、いろいろ教えてもらう大事なパートナーなの。」
その言葉に失礼で態度のでかい猫のミケがドヤ顔をしている。
猫のドヤ顔。
普通ならカワイイと思うのだが、俺には妙に不愉快に見えた。
課長がゴーグルと一体化した大きめのヘッドセットを手に取る。
なんか既視感あるな。
あ、そうだ。
神社で見かけた、宇宙人でサイボーグでエイリアンみたいなモーターヘッドに少し似ている。
「これ、使わなきゃいけないのかなー。」
いぶかる課長に猫のミケが突っ込む。
「霊観ゴーグル付けてニャ。そうすれば作戦行動のシンクロ率が上がるぞなもし。」
霊観ゴーグル、って言うのか。
確かに課長は『見えない・聞こえない・感じない』って言ってたし、
敵種が見えなきゃ対応できないし。
不満そうな顔をして霊観ゴーグルのヘッドセットを脇に抱える課長。
「神社に戻るわよ。あの刹那とか言う敵種が、また襲ってくるかもしれないし。」
刹那。
本名『百合』。
俺はちょっと気になった。
俺はもう一度、妖艶な魔少女・刹那に、百合に会いたい気持ちになった。
だがそれは皮肉にも、不謹慎にも実現することとなった。
猫のミケの身体全身の毛が逆立つ。
「おい!」
特殊な特攻服の課長が猫のミケの言葉に反応する。
あたりにラップ現象と、地震のような揺れ、空気中の発光現象が起きる。
物理現象が起きたので、さすがに霊感のない課長でも察する事ができた。
「来たのか?」
俺も感じた。
自分も異様な空気と雰囲気を身体全身で感じ取った。




