第11話 被害者は無慈悲な女王(第1部・全16話)
エリ先輩の母親は不満そうな表情を残し、モーターヘッドともに出て行った。
俺だけが大広間に残った。
『火炎の魔法』ごとくの能力を持った被害者のハルミ・キョウコを残して。
「ねえ、そこのキミ、ちょっとこっちに来て。」
え?
え?
今、何とおっしゃいました?
「ねえ、ちょっと、そこのキミ、聞こえないの? 私被害者なんですけど。」
俺は被害者の彼女の態度を疑った。
だがもちろん彼女は被害者だ。
俺が知っている範囲内では、被害者の彼女は、ほとんど寝ていたか、怯えていたか、覚醒していたかぐらいの三択だ。
『そこのキミ』呼ばわりはちょっと不安あるが、ここはお仕事、彼女は被害者。
仕方ない。
「ええ、私、なんでここにいるの? ここはどこ? キミは何者?」
まあ確かに、問いかけとしてはそうだろう。
電車の中で黒いモヤモヤに追われて以降、彼女にとって異常とも言える展開だから、いろいろわからないのは当然だ。
たぶん。
「ここは、ここは神社です。で、俺は刑事です。」
おかしい。
自分で言ってておかしい。
ここは神社で俺刑事。
なんで? なんでやねん。
すると被害者のハルミ・キョウコは予想外の反応を見せた。
「声ちっさいから聞こえないじゃん。近くに来てはなしなさいよ。」
まあ、そうですけどね。
でもそんな言い方ないんじゃない? と思いつつ、被害者のハルミ・キョウコが眠るベッドに近づいていった。
「ストップ! そこで止まって。あんまり私に近づかないで!」
うわ。
面倒な性格な奴だ。
きっと嫌な性格なんだろう。
何で黒いモヤモヤは、敵種の妖艶な魔少女・刹那はこんな性格悪いやつをリクルートした?
まあ、あの時見た『火炎属性』の能力は必要なのかな、と思う。
妖艶な魔少女・刹那の目的は一体何なんだろう?
そう疑問に思っているところに、傲慢なハルミ・キョウコが俺に言い放つ。
「ねえキミ。」
「あ、はい。」
「私、何があったの? これから私どうなるの?」
急に高圧的で傲慢なハルミ・キョウコが天井を見つめながら呟いた。
「い、いや、自分も詳細をよく聞かされていないので、何ともコメントできないんですけど。」
真実だ。
これは俺の真実だ。
あれ以降、整理がつかないほど予想外の展開が続いている。
被害者の彼女よりも、自分自身が今後どうなるかわからない。
「あ、そ。じゃあキミ、私を守ってよ。キミは私の専属SP。でもだからって、私に指一つ触れたら死刑だからね。」
「え? は? え?」
「嫌なの? 私被害者よ。不幸な事件に巻き込まれた被害者なのよ。」
「はあ。」
「それに私、女なんですけど。あんた男でしょ。だったら男は女を助けなさいよ。」
え?
は?
わけわからん。
そして、今の時代に、それかよ。
まあ彼女は今の時代の流れをどう思っているか、知る由もないが。
俺が答えに困っていると、ハルミ・キョウコが言葉を続ける。
「キミ、私を守ってよ。私の騎士になってよ。」
なぜにして、突然にして、そのような事を言う。
それに騎士?
そう言えばつい今し方『騎士』って言葉を聞いたばっかりだっつーの。
だが、次の彼女の言葉を聞いて、俺は口を開くことはできなかった。
「私、怖いの。いつも変なモノが見える。小さい頃から、いつも変なモノが私に話しかけてくるの。」
同じだ。
俺と同じだ。
ただ俺との違いは、俺が大人になった頃から『変なモノ』が見えなくなってはいるけれど。
「変なモノが私にまとわりつき、追いかけてきて。夜寝ている時なんか、勝手に変な黒いモノが私のベッドの中に入ってきて、
私の身体を弄んでいたずらを繰り返すの。もう、怖くて。」
そう言って天井を見ていた被害者のハルミ・キョウコは頭を俺の方を見つめて訴えてくる。
たぶん、本当に怖かったんだろう。
だから今みたいに変な強気の態度でいるのかも知れない。
怖さ。
恐怖。
人に伝えられぬ恐怖。
自分自身しかわからない境遇。
俺自身も同じだったからよくわかる。
彼女は、ハルミ・キョウコは俺と同種。
同族、または能力者と呼ぶのには抵抗がある。
彼女はきっと、俺と同じ体験、俺と同じ恐怖を味わってきたのだろう。
「ねえキミ。こっちに来て。私を守って。絶対よ。」
俺はゆっくりと彼女が横たわるベッドの横に行き、近くに椅子に腰掛けた。
「私を守って。私を一人にしないで。約束よ。」
純粋に澄んだ目で訴えてくる『病弱な』被害者の彼女。
俺は彼女の言うその言葉、その命令ひとつひとつに素直に従っていった。
まるで洗脳されているかのように。
* * * *
やっとの思いで、被害者のハルミ・キョウコが落ち着いて寝てくれたので、無事に解放された。
信じられないほどワガママで自己中の彼女であったが、きっと俺以上にこれまで嫌な思いをしてきて
性格というか人格が破綻してしまったのだろう。
俺にはどうすることもできないが。きっと捻くれてしまったのだろう。
敵種にしてみれば『能力』が重要なのであって、本人の性格など問題ない。
まして洗脳して自分のしもべにするのであればなおさらであろう。
しかし、あの敵種、妖艶な魔少女・刹那は一体何者なんだ。
この短い間にいろんなことが起きて整理できない。
頭は混乱したままだ。
聞こう。
本当はエリ先輩にいろいろ聞いてみたかったが、彼女は今そんな状況ではない。
ならばエリ先輩の母親に聞いてみよう。
母親である彼女がどこまで説明してくれるかは謎だが、俺自身こんな状況ではずっと頭が混乱したままだ。
よくない。
エリ先輩の母親はまるでヤクザの女組長のような感じだが、そんな事言ってる場合じゃない。
その時、大広間に課長がやってきた。
両手に抱えられている猫もいっしょである。
と言うか課長、あんたこの修羅場で何をしていたの?
何でこんな修羅場に、猫連れてきてるの?
「如月クン、荷物取りに行くわよ。ちょっと一緒に来て。」
え?
は?
まあ自分は刑事であなたの部下ですけどね?
どこに何を取りに行くの?
被害者のハルミ・キョウコの事が気になる。
泉さんの事も気になる。
それにエリ先輩の状態も気になる。
て言うか課長、エリ先輩はあんたの部下じゃないのか?
少しは彼女の事を心配してよ。
だが課長はそんな『些細な事』を気にはしていない様子で、早く行くように俺を促している。
俺はわけがわからないまま、課長の後を追い、修羅場の神社を後にした。




