027
アルフレッドの常識を逸脱した感覚は、一人の老婆の気配を感じ取ったが、気に留めなかった。
危険な道だが、アルフレッドが気にする必要がないと思った。
ラプラスと入れ違いの形で、円環の書
足を速くする類の魔法か、常人をはるかに俊敏だ。
十三人、全員が揃っているのをはじめて見たが、奇妙な集団だった。
全員が白いローブを身に纏い、まるで魔法使いのようななりをしているが、ローブの内に剣や短剣を携えている者がちらほらいる。
魔法使いと前衛職が混在しているようで、全員が魔法を使用していた。
まず口を開いたのは、アルフレッドも認識があるバゼルだった。
「なぜ、貴君がここにいる?」
「このタイミングでここにいる理由なんて、決まってるだろう?」
「……貴君は知らないかもしれないが、彼女は罪を犯している。二年前、我々『円環の書』から魔法書を二冊も強奪している。罪人を身内に居れるのは貴君にとってもかなりマイナスになるのではないかな」
「初めて聞いたな、おまえらが濡れ衣を着せているだけじゃねえのか。なにより、興味ねえや」
「短絡的な発言は控えたまえ。」
「はっ、何か勘違いしてねえか」
「俺は、あいつを助けに来たわけじゃない」
「ならば何のために、ここに来たんだ?」
最初こそ動揺があったが徐々に冷静さを見せていたバゼルが、始めて口調に苛立ちを浮かべた。
「決まってんだろ。奪いに来たんだ。誰が何と言おうと、連れて帰るさ。元から、邪魔する奴がいるなら殺して奪うつもりだよ」
呆れた様子で
「助けるって、俺がそんな行儀いい奴に見えたか?」
アルフレッドの煽りを皮切りに、『円環の書』が動く。
(何人かはラプラスを追うかと思っていたが、目撃者は片っ端から消すつもりらしいな)
先陣を切って動いたのは、短剣を抜いた細身の女だった。
身のこなしは、模倣使いよりも斥候のようだ。
剣術において先手を取る方法は、先に動くことではない。剣を先に当てることだ。
相手の速度に合わせて、抜刀から横なぎに振る動作を一切のよどみなくこなす。
女は短剣の刃を立てて、剣を受け止めようとする。
全身をめぐる「闘気」を腕力と剣先に集中させ、抵抗をものともせず短剣ごと体を横一文字にぶった切る。
次いで迫るもう一人の斥候の短剣を流し、返す刀で首を断とうとするが、間髪入れず剣士が剣を差し込んでくる。
後退しながら、危なげなく数度切り結ぶ。
女を切り裂いた時のように、「闘気」を腕力と剣先に集中させるも相手も同様に「闘気」を用いて応戦してくる。
「はっ、少しは丈夫な奴もいるみてえだな」
そこに、錆色の髪をした剣士――ラルゴも加わる。
二対一にも関わらず、アルフレッドが優位に見えた。
彼の剣技が卓越していることもあるが、ラルゴが剣一等辺では無いことも関係している。
「薫陶の洞より、第三の小指へ」
近接戦を好むものの多くは、アルフレッドのように魔法に適性がないものが多い。
もちろん、魔法に適性がある者が近接戦を嗜むこともある。
ラルゴは詠唱を続けながら、剣戟を繰り広げる。
「永劫を経糸に、排他を緯糸に。機織れ」
詠唱を終えながら前に突っ込み、鍔迫り合いに持ち込もうとする。
今さっき、人を短剣事叩き切ってみせたアルフレッドに、それは自殺行為に見えた。
「無謬のラッパ」
魔法が完成するよりも一歩先にアルフレッドは、ラルゴの勢いを利用して後ろに飛んだ。
「なっ」
開いた両者の間を魔法が横向きに素撮りしていく。
無謬のラッパは、運動エネルギーに変換した魔力を指方向に放つ単純な魔法だ。単純が故に威力が出しやすく、かつ他の魔法に比べて圧倒的に隠密性に長けている。
剣で相手を抑え、威力に秀でるこの魔法を当てる。ラルゴが得意とする戦法だった。
剣技や身体能力には目を見張るものがあるが、ただの剣士でしかないアルフレッドに魔法を察知するすべはないはずだった。
後ろに飛んだアルフレッドは、深く腰を落として着地していた。
ラルゴももう一人の剣士も生き残った短剣使いも皆一様に、反応が遅れていた。
魔法が避けられたことに気が削がれただけではなく、アルフレッドの動作があまりにも静かだったからだ。
闘争のさなかでありながら、水面を思わせる清廉さで、そよ風のような静けさで体を沈ませて見せる。
地面に付きそうなほど膝は倒され、両手に握る剣は腰の後ろまで引かれている。
遅れて前衛が身構えるが、アルフレッドの狙いは彼らの後ろにあった。
横から回ってきていた短剣使いを置いて、前衛たちに反応させず、足に貯めた力を開放する。
一歩で十メートル以上はあった距離をゼロへと縮める。
アルフレッドの狙いは、リーダー格であるバゼル――の隣に立つ丸顔の男だった。
「ッ!」
アルフレッドが彼を狙った理由は、二つある。
一つは間に障害物がなかったから――
横に居たバゼルが咄嗟に襟首を引いて男を逃がすも、それは失策だった。
間一髪、下から切り上げられた剣の軌道から逃がしたはずだった。
現に剣は丸顔の男、ヤシウの鼻先を通り過ぎた。
「斬撃の道標」
剣先から奔った闘気が、斬撃となってヤシウの体を通り過ぎる。
抵抗を一切許さず、股下から頭の先まで左右に分かたれた。
視界が開けたことによって、襟首をつかんでいたバゼルの手も同様に切り飛ばされているのも見えた。
仲間の惨劇を目にして、誰一人悲鳴を零さなかったことは、褒められるべきだろう。
「アスカロンッ」
ヤシウの反対に立っていたレイネが、光閃の魔法を放った。
後ろに飛び避けてみせる。
追撃はなかった。
全員がアルフレッドをジリジリと取り囲む。右手を手首から先を失ったバゼルもまだ闘志を失っていなかった。
周囲を漂う血の匂いが一層強まる。
――二つの目は、囲まれる位置をとりたかったからだ。
逃げ場は無くなるが、広範囲の攻撃が打ちづらい状況でもある。
なにより、アルフレッドにとっても、全員に剣を届かせることが出来た。
所用があるので、次の更新は10/12にさせてください。




