↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/29

026

ラプラスは、森の中を駆けていた。木の根や悪路に何度も転びそうになるも、一度も立ち止まらず走り続けれていた。

耳を澄まさずとも、自らの苦し気な吐息が聞こえていた。

腕の中には、異形と化したフィルが眠っていた。

筋肉が膨れていたと言っても、背丈は元のままだった。だから辛うじて、貧弱なラプラスでも抱きかかえて走ることが出来た。


焦りは募っていくばかりだった。

数分前に「円環」達を先頭不能にした『堕落』は、時間と共に効果が薄れていくことを理解しているからだ。

特に魔法使いであれば、持続時間は短い。もしかしたら、既に付記しているかもしれない。

そして、『堕落』が切れた彼らは間違いなくラプラスを追いかけてくるだろう。


ヨハンの魔法書『第三十九章:堕落の章』。

彼女が『堕落の魔女』と呼ばれる所以(ゆえん)でもある魔法。


フィルが契約に失敗した魔法書のように、体に変化を生じさせるものではなく、変化をもたらすのは肉体ではなく心。

「堕落の章」で会得できる魔法は、感情を強制させること。

ラプラスは、フィルやラルゴたちに対して倦怠感や脱力感を強制させた。

だが、その強制力も一時的なものでしかない。永続的に他者の感情を変えようとするなら、準備に時間を要する。


心への干渉なんて芸当は、特異たる魔法書の魔法でなければできないことだ。

それはつまり、『堕落』の行使は自らの正体を明らかにするに等しい。


この逃走劇は彼らからフィルを守る以外にも、ラプラス自身の身を守ることにも繋がっていた。

すでに、奴らもラプラスが契約者だと気付いたことだろう。

もしかしたら、奴らの目標がフィルからラプラスに移っているかもしれない。


フィルもいつ「堕落」が解けて、暴れだすか分からない状況。

これが異形化する前のいたって普通の子供であれば、半月は『堕落』したままだっただろう。

魔法書の影響を受けている今のフィルは、「円環」たち同様にそのうち『堕落』が切れてしまうだろう。


できるだけ遠くに、逃げなくてはいけない。『円環』に正体がバレた以上、それは必要なことだ。

走りづめで酸素の回っていない頭に、ふと悪い考えがよぎった。


逃げることは必要だ。

だが、フィルを連れる必要は?

このお荷物を抱えた状態で逃げ切れるだろうか?

どうせ追いつかれて二人とも殺されるぐらいなら、フィルをここに捨てて、自分だけ助かるほうがずっと建設的ではないだろうか?


フィルを助ける理由は無い。

動機はあった。

巻き込まれたのが可愛そうだと思ったのだ。

自分の場合は魔法書の契約は半ば強制されたもので、避けようがなかったというのは同じなのかもしれない。彼との大きな違いは、才の有無。

才能がなかっただけで死ぬのは、哀れだと思った。


それだけだった。

魔法書が欲しい訳でも、弱者救済などといった高潔な精神がある訳でもない。

単なる同情。ありふれた、ちっぽけな感情だけしかなかった。




気が付けば、足が止まっていた。

自分に「堕落」をかけてしまった、なんて間抜けな話ではない。

自分の意志でフィルを抱えていた腕すら下ろそうとした、その時。


「なんだ、もう逃げないのか?」


「えっ?」


木の陰からアルフレッドが


「あんたがなんで、ここに」


「……あんだけ騒がしかったら気づくだろ。まあ、ミカは気づかず寝てたけどよ」


彼の目線は、ラプラスの腕の中に向けられていた。


「その腕に抱きかかえているのは、魔法具店のガキか?」


頷く。


「で、もう諦めるのか?」


変事は返せなかった。


「ま、いいさ。お前らを助けに来たわけじゃない、俺はただ欲しいものを手に入れに来ただけだよ」


砂のこすれる音がした。無意識のうちに、後ずさりしていた。


「私を殺す気?」


「ん?ああ、馬鹿言え、魔法書に興味ねえよ。剣士が魔法書を手に入れたってしょうがないだろう?俺が欲しいのはお前自身だよ」


「私にそんな価値ないよ。今もこのガキを見捨てるつもりだったのよ」


「別に、いいぞ?俺はそのガキに興味ないし。欲しているのもお前の魔力だしな」


「えっ」


「ほら、そいつを捨ててさっさとここを離れとけ」


「……いやだ」


なぜだか、分からなかった。

自分の嫌なところを付きつけられているような気がして、反発している。


「どっちだよ」


「助ける」


「あっそ。なら、とっとと行け」


「あんたは助けてくれないの?」


「そんな情けない声出すなよ。追っ手を片付けたら、追いついてやるからよ」




次の更新は、9/28の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。